63 / 63
【本編】
猫[※R18]
しおりを挟む
家に帰ると、コウヤがずぶ濡れの私を見て、驚きの声を上げた。
「どうしたんだ、ずぶ濡れじゃないか!」
コウヤが慌てた様子で浴室からタオルを持って来て、私の頭を拭いてくれる。
「……大丈夫か? 寒いだろう。
早くお風呂に……ごめん。
俺が早く気付いて、迎えに行けば良かったな……」
申し訳なさそうな顔で項垂れるコウヤを見て、私は、思わず可愛いと思ってしまう。
「コウヤが謝ることないわ。私なら大丈夫。
すぐお風呂に入るから。
この子も……濡れて寒いみたいだから、一緒にお風呂へ入れてくるわね」
「……ん? なに、そいつ……」
「え、何って……猫。
私がどこか踏んづけちゃったみたいで、
雨に濡れて動けなくなってたから、連れて来ちゃった……」
私が猫を掲げてコウヤからよく見えるようにすると、何故かコウヤは慌てた様子で後ろへ飛び退いた。
「え、どうかした?」
「いや…………その………苦手、なんだ…………ネコ」
大きな身体で、シドロモドロに答えるコウヤが可笑しくて、私は、思わず声出して笑ってしまった。
「えー嘘でしょ。
こんなに小さくて可愛いのに♡」
ちゅっ、と私が猫の頬にキスをすると、コウヤが抗議するような声を上げた。
「あっ、ファム……!」
「なぁーに、猫に焼き餅なんか妬かないでよ。
さあさ、お風呂に入りましょうね~♡」
猫から一定の距離を保ったまま動けないでいるコウヤを素通りし、私は、脱衣所へ向かった。
濡れた服を脱いで裸になり、猫を抱えたまま浴室へ入る。
温めのシャワーで猫の身体を洗ってやると、猫は、暴れることなく気持ちよさそうに目を閉じてじっとしている。
「お風呂が好きなの?
変わった猫ちゃんね~。
……あら、あなた灰色かと思ったら、白猫なのね。
ほーら、これで汚れがとれて綺麗に…………」
その時、ぱちっと目を開けた猫と私の視線が合った。
猫の瞳は、エメラルドブルーの宝石みたいにキラキラと輝いている。
「あなた……綺麗な目をしてるのね。
ふふ、宝石みたい」
吸い込まれそうなほど綺麗な瞳にじっと見惚れていると、突然、抱えていた猫が重量を増し、見知らぬイケメンに姿を変えた。
「え」
雪のように白い髪が濡れて、剥き出しの逞しい肩にへばり付いている。
美麗な顔は、雪の国の王子様のように凛々しく、水に濡れて色気を放つ薄桃色の唇がゆっくりと開かれるのを見た。
「……見つけた。
俺の〈運命の女〉」
そのまま流れるような所作で、唇を奪われそうになり、私は、腹の底に力を入れて叫んだ。
「……き、きゃあ~~~!!!」
ドタドタと廊下を走る音が聞こえ、浴室の扉が勢い良く開かれると、慌てた様子のコウヤが顔を出した。
「どうした?! ファム、だいじょう…………」
コウヤは、私が見知らぬ男に組み伏せられている姿を目にし、最後まで言葉を紡ぐことが出来ずに、口を開けたまま目を白黒させた。
「……な、なんだお前は?!
どこから入って来た??
俺のファムから今すぐ離れろっ!!」
「何って……俺は、彼女と番になる〈運命の男〉だ。
お前こそ、彼女の何だ?」
切れ長の美麗な瞳でコウヤを睨みつける謎の男は、テノールの美しい声に凛々しい表情で、女なら誰でも一目で恋に落ちてしまいそうだが、
その彼の白い右手は、私の右の乳房を掴み、左手は私のお尻をまさぐっている。
「俺がファムの〈運命の男〉だ!
勝手に人の女に手を出すなっ!!」
状況さえ違えば、思わずきゅんとなる台詞なのだが、今の私の状況では、それどころではない。
「ちょ、ちょっと……私の胸を揉みながら話を進めないで!」
コウヤが乱暴に男の腕を掴み、私の乳房から引き剥がす。
「俺のおっパイだぞ!!」
「今から俺のおっパイだ」
「私のおっパイよ!!」
このままでは埒が明かない。
私は、何とか男の下から抜け出すと、コウヤの腕の中に逃げ込んだ。
コウヤがすかさず、傍に置いてあったタオルで私の身体を包んでくれる。
「お前は、一体、何者だ?」
コウヤに問われて、謎の男は、裸体であるにも関わらず、堂々と正面を向く。
その姿はまるで、どこかの美術館に飾られているダビデ像を彷彿とさせた。
「俺か……俺は、〈獣人〉。
名は、カイ。
……お前と同じさ」
カイと名乗った裸体の男は、私たちに向かって不敵な笑みを浮かべた。
「どうしたんだ、ずぶ濡れじゃないか!」
コウヤが慌てた様子で浴室からタオルを持って来て、私の頭を拭いてくれる。
「……大丈夫か? 寒いだろう。
早くお風呂に……ごめん。
俺が早く気付いて、迎えに行けば良かったな……」
申し訳なさそうな顔で項垂れるコウヤを見て、私は、思わず可愛いと思ってしまう。
「コウヤが謝ることないわ。私なら大丈夫。
すぐお風呂に入るから。
この子も……濡れて寒いみたいだから、一緒にお風呂へ入れてくるわね」
「……ん? なに、そいつ……」
「え、何って……猫。
私がどこか踏んづけちゃったみたいで、
雨に濡れて動けなくなってたから、連れて来ちゃった……」
私が猫を掲げてコウヤからよく見えるようにすると、何故かコウヤは慌てた様子で後ろへ飛び退いた。
「え、どうかした?」
「いや…………その………苦手、なんだ…………ネコ」
大きな身体で、シドロモドロに答えるコウヤが可笑しくて、私は、思わず声出して笑ってしまった。
「えー嘘でしょ。
こんなに小さくて可愛いのに♡」
ちゅっ、と私が猫の頬にキスをすると、コウヤが抗議するような声を上げた。
「あっ、ファム……!」
「なぁーに、猫に焼き餅なんか妬かないでよ。
さあさ、お風呂に入りましょうね~♡」
猫から一定の距離を保ったまま動けないでいるコウヤを素通りし、私は、脱衣所へ向かった。
濡れた服を脱いで裸になり、猫を抱えたまま浴室へ入る。
温めのシャワーで猫の身体を洗ってやると、猫は、暴れることなく気持ちよさそうに目を閉じてじっとしている。
「お風呂が好きなの?
変わった猫ちゃんね~。
……あら、あなた灰色かと思ったら、白猫なのね。
ほーら、これで汚れがとれて綺麗に…………」
その時、ぱちっと目を開けた猫と私の視線が合った。
猫の瞳は、エメラルドブルーの宝石みたいにキラキラと輝いている。
「あなた……綺麗な目をしてるのね。
ふふ、宝石みたい」
吸い込まれそうなほど綺麗な瞳にじっと見惚れていると、突然、抱えていた猫が重量を増し、見知らぬイケメンに姿を変えた。
「え」
雪のように白い髪が濡れて、剥き出しの逞しい肩にへばり付いている。
美麗な顔は、雪の国の王子様のように凛々しく、水に濡れて色気を放つ薄桃色の唇がゆっくりと開かれるのを見た。
「……見つけた。
俺の〈運命の女〉」
そのまま流れるような所作で、唇を奪われそうになり、私は、腹の底に力を入れて叫んだ。
「……き、きゃあ~~~!!!」
ドタドタと廊下を走る音が聞こえ、浴室の扉が勢い良く開かれると、慌てた様子のコウヤが顔を出した。
「どうした?! ファム、だいじょう…………」
コウヤは、私が見知らぬ男に組み伏せられている姿を目にし、最後まで言葉を紡ぐことが出来ずに、口を開けたまま目を白黒させた。
「……な、なんだお前は?!
どこから入って来た??
俺のファムから今すぐ離れろっ!!」
「何って……俺は、彼女と番になる〈運命の男〉だ。
お前こそ、彼女の何だ?」
切れ長の美麗な瞳でコウヤを睨みつける謎の男は、テノールの美しい声に凛々しい表情で、女なら誰でも一目で恋に落ちてしまいそうだが、
その彼の白い右手は、私の右の乳房を掴み、左手は私のお尻をまさぐっている。
「俺がファムの〈運命の男〉だ!
勝手に人の女に手を出すなっ!!」
状況さえ違えば、思わずきゅんとなる台詞なのだが、今の私の状況では、それどころではない。
「ちょ、ちょっと……私の胸を揉みながら話を進めないで!」
コウヤが乱暴に男の腕を掴み、私の乳房から引き剥がす。
「俺のおっパイだぞ!!」
「今から俺のおっパイだ」
「私のおっパイよ!!」
このままでは埒が明かない。
私は、何とか男の下から抜け出すと、コウヤの腕の中に逃げ込んだ。
コウヤがすかさず、傍に置いてあったタオルで私の身体を包んでくれる。
「お前は、一体、何者だ?」
コウヤに問われて、謎の男は、裸体であるにも関わらず、堂々と正面を向く。
その姿はまるで、どこかの美術館に飾られているダビデ像を彷彿とさせた。
「俺か……俺は、〈獣人〉。
名は、カイ。
……お前と同じさ」
カイと名乗った裸体の男は、私たちに向かって不敵な笑みを浮かべた。
10
この作品の感想を投稿する
あなたにおすすめの小説
甘い匂いの人間は、極上獰猛な獣たちに奪われる 〜居場所を求めた少女の転移譚〜
具なっしー
恋愛
「誰かを、全力で愛してみたい」
居場所のない、17歳の少女・鳴宮 桃(なるみや もも)。
幼い頃に両親を亡くし、叔父の家で家政婦のような日々を送る彼女は、誰にも言えない孤独を抱えていた。そんな桃が、願いをかけた神社の光に包まれ目覚めたのは、獣人たちが支配する異世界。
そこは、男女比50:1という極端な世界。女性は複数の夫に囲われて贅沢を享受するのが常識だった。
しかし、桃は異世界の女性が持つ傲慢さとは無縁で、控えめなまま。
そして彼女の身体から放たれる**"甘いフェロモン"は、野生の獣人たちにとって極上の獲物**でしかない。
盗賊に囚われかけたところを、美形で無口なホワイトタイガー獣人・ベンに救われた桃。孤独だった少女は、その純粋さゆえに、強く、一途で、そして獰猛な獣人たちに囲われていく――。
※表紙はAIです
【完結】異世界に転移しましたら、四人の夫に溺愛されることになりました(笑)
かのん
恋愛
気が付けば、喧騒など全く聞こえない、鳥のさえずりが穏やかに聞こえる森にいました。
わぁ、こんな静かなところ初めて~なんて、のんびりしていたら、目の前に麗しの美形達が現れて・・・
これは、女性が少ない世界に転移した二十九歳独身女性が、あれよあれよという間に精霊の愛し子として囲われ、いつのまにか四人の男性と結婚し、あれよあれよという間に溺愛される物語。
あっさりめのお話です。それでもよろしければどうぞ!
本日だけ、二話更新。毎日朝10時に更新します。
完結しておりますので、安心してお読みください。
異世界は『一妻多夫制』!?溺愛にすら免疫がない私にたくさんの夫は無理です!?
すずなり。
恋愛
ひょんなことから異世界で赤ちゃんに生まれ変わった私。
一人の男の人に拾われて育ててもらうけど・・・成人するくらいから回りがなんだかおかしなことに・・・。
「俺とデートしない?」
「僕と一緒にいようよ。」
「俺だけがお前を守れる。」
(なんでそんなことを私にばっかり言うの!?)
そんなことを思ってる時、父親である『シャガ』が口を開いた。
「何言ってんだ?この世界は男が多くて女が少ない。たくさん子供を産んでもらうために、何人とでも結婚していいんだぞ?」
「・・・・へ!?」
『一妻多夫制』の世界で私はどうなるの!?
※お話は全て想像の世界になります。現実世界とはなんの関係もありません。
※誤字脱字・表現不足は重々承知しております。日々精進いたしますのでご容赦ください。
ただただ暇つぶしに楽しんでいただけると幸いです。すずなり。
極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です
朝陽七彩
恋愛
私は。
「夕鶴、こっちにおいで」
現役の高校生だけど。
「ずっと夕鶴とこうしていたい」
担任の先生と。
「夕鶴を誰にも渡したくない」
付き合っています。
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
神城夕鶴(かみしろ ゆづる)
軽音楽部の絶対的エース
飛鷹隼理(ひだか しゅんり)
アイドル的存在の超イケメン先生
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
彼の名前は飛鷹隼理くん。
隼理くんは。
「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」
そう言って……。
「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」
そして隼理くんは……。
……‼
しゅっ……隼理くん……っ。
そんなことをされたら……。
隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。
……だけど……。
え……。
誰……?
誰なの……?
その人はいったい誰なの、隼理くん。
ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。
その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。
でも。
でも訊けない。
隼理くんに直接訊くことなんて。
私にはできない。
私は。
私は、これから先、一体どうすればいいの……?
敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています
藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。
結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。
聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。
侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。
※全11話 2万字程度の話です。
この世界、イケメンが迫害されてるってマジ!?〜アホの子による無自覚救済物語〜
具なっしー
恋愛
※この表紙は前世基準。本編では美醜逆転してます。AIです
転生先は──美醜逆転、男女比20:1の世界!?
肌は真っ白、顔のパーツは小さければ小さいほど美しい!?
その結果、地球基準の超絶イケメンたちは “醜男(キメオ)” と呼ばれ、迫害されていた。
そんな世界に爆誕したのは、脳みそふわふわアホの子・ミーミ。
前世で「喋らなければ可愛い」と言われ続けた彼女に同情した神様は、
「この子は救済が必要だ…!」と世界一の美少女に転生させてしまった。
「ひきわり納豆顔じゃん!これが美しいの??」
己の欲望のために押せ押せ行動するアホの子が、
結果的にイケメン達を救い、世界を変えていく──!
「すきーー♡結婚してください!私が幸せにしますぅ〜♡♡♡」
でも、気づけば彼らが全方向から迫ってくる逆ハーレム状態に……!
アホの子が無自覚に世界を救う、
価値観バグりまくりご都合主義100%ファンタジーラブコメ!
男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件
美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…?
最新章の第五章も夕方18時に更新予定です!
☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。
※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます!
※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。
※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる