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【本編】

猫[※R18]

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家に帰ると、コウヤがずぶ濡れの私を見て、驚きの声を上げた。

「どうしたんだ、ずぶ濡れじゃないか!」

コウヤが慌てた様子で浴室からタオルを持って来て、私の頭を拭いてくれる。

「……大丈夫か? 寒いだろう。
 早くお風呂に……ごめん。
 俺が早く気付いて、迎えに行けば良かったな……」

申し訳なさそうな顔で項垂れるコウヤを見て、私は、思わず可愛いと思ってしまう。

「コウヤが謝ることないわ。私なら大丈夫。
 すぐお風呂に入るから。
 この子も……濡れて寒いみたいだから、一緒にお風呂へ入れてくるわね」

「……ん? なに、そいつ……」

「え、何って……猫。
 私がどこか踏んづけちゃったみたいで、
 雨に濡れて動けなくなってたから、連れて来ちゃった……」

私が猫を掲げてコウヤからよく見えるようにすると、何故かコウヤは慌てた様子で後ろへ飛び退いた。

「え、どうかした?」

「いや…………その………苦手、なんだ…………ネコ」

大きな身体で、シドロモドロに答えるコウヤが可笑しくて、私は、思わず声出して笑ってしまった。

「えー嘘でしょ。
 こんなに小さくて可愛いのに♡」

ちゅっ、と私が猫の頬にキスをすると、コウヤが抗議するような声を上げた。

「あっ、ファム……!」
「なぁーに、猫に焼き餅なんか妬かないでよ。
 さあさ、お風呂に入りましょうね~♡」

猫から一定の距離を保ったまま動けないでいるコウヤを素通りし、私は、脱衣所へ向かった。
濡れた服を脱いで裸になり、猫を抱えたまま浴室へ入る。
温めのシャワーで猫の身体を洗ってやると、猫は、暴れることなく気持ちよさそうに目を閉じてじっとしている。

「お風呂が好きなの?
 変わった猫ちゃんね~。
 ……あら、あなた灰色かと思ったら、白猫なのね。
 ほーら、これで汚れがとれて綺麗に…………」

その時、ぱちっと目を開けた猫と私の視線が合った。
猫の瞳は、エメラルドブルーの宝石みたいにキラキラと輝いている。

「あなた……綺麗な目をしてるのね。
 ふふ、宝石みたい」

吸い込まれそうなほど綺麗な瞳にじっと見惚れていると、突然、抱えていた猫が重量を増し、見知らぬイケメンに姿を変えた。

「え」

雪のように白い髪が濡れて、剥き出しの逞しい肩にへばり付いている。
美麗な顔は、雪の国の王子様のように凛々しく、水に濡れて色気を放つ薄桃色の唇がゆっくりと開かれるのを見た。

「……見つけた。
 俺の〈運命の女ファムファタル〉」

そのまま流れるような所作で、唇を奪われそうになり、私は、腹の底に力を入れて叫んだ。

「……き、きゃあ~~~!!!」

ドタドタと廊下を走る音が聞こえ、浴室の扉が勢い良く開かれると、慌てた様子のコウヤが顔を出した。

「どうした?! ファム、だいじょう…………」

コウヤは、私が見知らぬ男に組み伏せられている姿を目にし、最後まで言葉を紡ぐことが出来ずに、口を開けたまま目を白黒させた。

「……な、なんだお前は?!
 どこから入って来た??
 俺のファムから今すぐ離れろっ!!」

「何って……俺は、彼女と番になる〈運命の男ファムファタン〉だ。
 お前こそ、彼女の何だ?」

切れ長の美麗な瞳でコウヤを睨みつける謎の男は、テノールの美しい声に凛々しい表情で、女なら誰でも一目で恋に落ちてしまいそうだが、
その彼の白い右手は、私の右の乳房を掴み、左手は私のお尻をまさぐっている。

「俺がファムの〈運命の男ファムファタン〉だ!
 勝手に人の女に手を出すなっ!!」

状況さえ違えば、思わずきゅんとなる台詞なのだが、今の私の状況では、それどころではない。

「ちょ、ちょっと……私の胸を揉みながら話を進めないで!」

コウヤが乱暴に男の腕を掴み、私の乳房から引き剥がす。

「俺のおっパイだぞ!!」
「今から俺のおっパイだ」
「私のおっパイよ!!」

このままでは埒が明かない。
私は、何とか男の下から抜け出すと、コウヤの腕の中に逃げ込んだ。
コウヤがすかさず、傍に置いてあったタオルで私の身体を包んでくれる。

「お前は、一体、何者だ?」

コウヤに問われて、謎の男は、裸体であるにも関わらず、堂々と正面を向く。
その姿はまるで、どこかの美術館に飾られているダビデ像を彷彿とさせた。

「俺か……俺は、〈獣人ベスティアン〉。
 名は、カイ。
 ……お前と同じさ」

カイと名乗った裸体の男は、私たちに向かって不敵な笑みを浮かべた。

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