14 / 80
本編
はじめて笑ったその顔に[sideフィーネ]
しおりを挟むその瞬間、ハッと思い出した。
エルフは基本的に森の里に住んでいて、それぞれの地方によって違う言葉を話す。つまり王都の人からしたら訛っている。
エルフ同士なら訛っていて当たり前やから何にもないねんけど、昔初めて王都に来た時に他種族に言われた事が頭に巡った。
『そんなに綺麗なお顔のエルフなのに訛ってるんだ?なんかショック』
『もう少し上品に話したら?顔に似合ってない』
その時はほっといてや、としか思わんかったけど、もしかしたら勇者様も、上品なエルフを求めてるかもしらん。
勇者様の世界にエルフがいたかはわからんけど、勇者様の中のイメージを壊したらあかんかもしらん。
何より、勇者様にそうやって言われちゃったら、何となく傷ついちゃうかも……。
よし、隠そう。頑張って上品に話そう!
こちらを見下ろしてくる勇者様の返事を待ってる間に、そう決意した。
しかし返事はずっと返ってこない。
「……あ、あの、勇者様?」
少し前に出て勇者様を覗き込む。
勇者様の目が更に見開かれた。
「……エルフ」
「あ、は、はい。エルフのフィーネです」
「……ほんとにいるんだ」
「……ん?」
勇者様が右手を差し出してきたので、握手かな?と思って握ってみた。
「……」
「……?」
勇者様は手を握り返してはくれたけど、やっぱり何にも言わん。
見つめられすぎて恥ずかしくなってきてんけど……!
「……ハヤト、お主一体何なのだ」
「はっ?!」
「フィーネが困っておる」
ミーグがそう声を掛けてくれて、勇者様は我に返った様な反応をした。
「ご、ごめん!俺はハヤトと言います、旅に同行して下さるとお聞き致しました、右も左もわからないのでご迷惑をおかけしてしまいますが、これからよろしくお願いします」
「あ、こちらこそです……」
「かたい!かたいぞ、ハヤト!!」
「ふふふ、楽に話してくださいね?」
「……笑った!」
「なんなのだお主!我やゴウシュと挨拶した時と全然違うのだ!」
ミーグは何故かプリプリと怒っていたけど、ぼくらの初めましてはこんな感じやった。
――
ミーグとゴウシュ、勇者様が戦闘訓練をしている訓練所。
ぼくは今日は3人を見てあとからアドバイスする係。
勇者様は戦ったことが無い、魔法がない世界からきた、なんて嘘みたいにミーグとゴウシュの指導でめきめき伸びていく。
休憩に入るみたいで、勇者様は地面にへたりこんだ。ミーグもゴウシュも言えば言うだけ吸収する勇者様に教えるのが楽しいのか、結構ハードに訓練している。
「勇者様」
「……」
へたりこんだ勇者様にタオルを差し出しながら声を掛けると、じっと何も言わずこちらを見ている。
「……?勇者様?」
「フィーネさん」
「は、はい」
「俺の名前はハヤトです。長い旅になるんだし、ハヤトって呼んで下さい」
「は、……はやと……さ、ま」
「様も無し」
「ハヤト……」
勇気を出して勇者様……ハヤトの名前を呼んでみると、ハヤトは穏やかに笑った。
(う、わぁ……笑った……)
「あとついでに言うと、敬語もなしにしてください。俺の方が年下だし、教えてもらってる立場だし」
「や、で、でも……」
正直に言うと、敬語の方が訛りを誤魔化しやすかったりするねんけど、ハヤトがそう言うてるしどうしよ……!とわたわたしていると、ハヤトはすっと立ち上がった。
「ミーグとゴウシュとは気楽に話してるのに、何だか俺だけ壁を感じるし。三人は昔なじみらしいから仕方ないんだけど……ね、フィーネさん」
少し眉毛を下げたハヤトは何か寂しそうに見えて、これはあかん!と気合いを入れた。
ハヤトに寂しい思いをさせたらあかん!異世界にきてハヤトが頼れるのはぼくらだけなんやから!!
訛りなんか頑張って直せばいいんやし!
「わ、わかった!じゃあハヤトも気軽に話してね?」
「うん」
太陽が眩しかったのか、ハヤトの笑顔が眩しかったのか、ちょっとクラクラした。
32
あなたにおすすめの小説
男子高校に入学したらハーレムでした!
はやしかわともえ
BL
閲覧ありがとうございます。
ゆっくり書いていきます。
毎日19時更新です。
よろしくお願い致します。
2022.04.28
お気に入り、栞ありがとうございます。
とても励みになります。
引き続き宜しくお願いします。
2022.05.01
近々番外編SSをあげます。
よければ覗いてみてください。
2022.05.10
お気に入りしてくれてる方、閲覧くださってる方、ありがとうございます。
精一杯書いていきます。
2022.05.15
閲覧、お気に入り、ありがとうございます。
読んでいただけてとても嬉しいです。
近々番外編をあげます。
良ければ覗いてみてください。
2022.05.28
今日で完結です。閲覧、お気に入り本当にありがとうございました。
次作も頑張って書きます。
よろしくおねがいします。
怒られるのが怖くて体調不良を言えない大人
こじらせた処女
BL
幼少期、風邪を引いて学校を休むと母親に怒られていた経験から、体調不良を誰かに伝えることが苦手になってしまった佐倉憂(さくらうい)。
しんどいことを訴えると仕事に行けないとヒステリックを起こされ怒られていたため、次第に我慢して学校に行くようになった。
「風邪をひくことは悪いこと」
社会人になって1人暮らしを始めてもその認識は治らないまま。多少の熱や頭痛があっても怒られることを危惧して出勤している。
とある日、いつものように会社に行って業務をこなしていた時。午前では無視できていただるけが無視できないものになっていた。
それでも、自己管理がなっていない、日頃ちゃんと体調管理が出来てない、そう怒られるのが怖くて、言えずにいると…?
性悪なお嬢様に命令されて泣く泣く恋敵を殺りにいったらヤられました
まりも13
BL
フワフワとした酩酊状態が薄れ、僕は気がつくとパンパンパン、ズチュッと卑猥な音をたてて激しく誰かと交わっていた。
性悪なお嬢様の命令で恋敵を泣く泣く殺りに行ったら逆にヤラれちゃった、ちょっとアホな子の話です。
(ムーンライトノベルにも掲載しています)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる