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貴方の犬にしてください
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しおりを挟む上から下までリシュアンに整えられたレヴィは、鏡の中のキラキラしい自分に感心していた。
スタイリングからヘアセットまで完璧過ぎて流石リシュアン様過ぎる。
「リシュアン様は何でも出来ちゃうんですね!流石……」
「まあ、遠征だのなんだので自分で何でもしなきゃならなかったから多少はね」
「多少……」
これで多少だと言うなら、メイドの仕事が無くなってしまうんじゃ……とレヴィは思ったが、口には出さなかった。
レヴィも一応伯爵家の次男なので、身の回りの事はメイドがしてくれていたし、騎士団に入ってからは何でも自分でしなければならなかった。
でも、騎士団の下っ端の期間が長いレヴィがここまで着飾る事は滅多にないし、そういう機会にはやはり、メイドの世話になっていた。
そんな会話をしている間にも、首輪は輝いて見えて、レヴィはふふん、と上機嫌だし、何度も鏡で首輪を見ている。
リシュアンはレヴィを微笑ましい気持ちで横目で見ながら、自身もさっさと用意をしていた。
執事が部屋に迎えにきて、食堂へ向かう。
中へ入ると、皇帝陛下を始めとしたリシュアンの家族が勢揃いしていた。
「おお、リシュアン!やっと来たか!早く紹介しておくれ」
リシュアンがもう少し歳をとったらこんな感じなんだろうな、という程リシュアンに似ている人物は、何を隠そうこのサザンドラ帝国の帝王、エドワード・エイヴァリー皇帝陛下だった。
皇帝陛下の横にはアビゲール皇后陛下、その隣に第二皇子のルーファス、第一皇女エミリーン、そしてまだ幼いデルバート第三皇子。
錚々たる面子に、レヴィは目を白黒させた。
陛下に紹介すると言っていたが、たかが護衛が決まっただけで、こんなに勢揃いすることがあるのだろうか。
「この度私の犬になった、レヴィ・ダルトンです。レヴィ、向かって左から私の両親、そして弟と妹だ」
「レヴィ・ダルトンです!リシュアン皇子殿下の剣となり盾となり御身をお守りしていく所存です!よろしくお願いいたします!」
さらっと紹介されて慌てたレヴィは、ビシッと敬礼と挨拶をした。
そんなレヴィを見て、最初に会った時から何だかへろへろしていたので、自分が関わっていなければちゃんと出来るんだなーとリシュアンは感心していた。
「え、アビィ……ワシ……なんか聞き間違えちゃったかも、めちゃくちゃ適当にしか紹介してくれなかったし……」
「あらぁ、聞き間違えではないですわ、エド様」
「はい、父上、母上。兄上は確かに、そこのレヴィ・ダルトンを『俺の犬』とおっしゃいました」
「リシュアンお兄様は色々完璧なのに動物にはあまり好かれないから、人間を犬として飼うことになさったのかしら……?」
「えぇ、なにそれ、こわいよ、ワシそんな息子に育てた覚えないよ!」
「えぇ、家庭教師は皆様優秀だものねぇ、あら、リシュアン、レヴィちゃんをお席にエスコートしてあげなさいな」
「はい」
皇帝が話し始めたのを皮切りに、それぞれ話出した。レヴィは皇帝の家族とはいえ、想像していたより仲良しなんだなーとニコニコしていた。
「失礼いたします、きょ、今日はお招きいただきありがとうございます」
「あらぁ、あらあらまぁまぁ!リシュアン!」
「はい、母上」
「レヴィちゃんは猫ちゃんじゃないかしら!」
「えぇ……?」
「いえ、レヴィは犬です。私の」
「そうなの?猫ちゃんみたいな目がとっても可愛いのに?」
「はい、確かに見た目は猫のようにしなやかで可愛いですが、猫の様な気まぐれさはなく、真っ直ぐ忠実に私に懐いてくれています。甘えん坊で、私の事が大好きだと全身で伝えてくれるのでとても可愛いですよ、なのでやはり犬の方がピッタリだと」
「あら、そうなのね!羨ましいわぁ……私も……」
「え、だめだよアビィ!飼わないよ!人間の犬は飼わないからね!!」
「ではお父様、人間の雌猫ならどうかしら?」
「どうかしら?じゃないよ!エミィ!なんなの?ワシの身内ヤベェやつしかいないの……?」
「あ、母上、レヴィは私の犬ですが、ネコでもありました」
「あらぁ……!」
「にゃーにゃーと甘えて、アメジストが溶け出すのではないかと思うほど、ボロボロと泣いてしまうのが愛おしくて……」
「ちょっと誰か!デルバートの耳塞いで!!」
始めはニコニコしていたレヴィだが、会話の内容にひたすら顔を赤くし俯いていた。
主にリシュアンの言葉が恥ずかしくて。
そんなに分かりやすかったのだろうか、そして甘えてしまっている自覚も少しだけあった。だって撫ぜられるとふにゃふにゃになってしまうのだ。でもにゃーにゃーは言ってない。言ってない……はずだ。
「あー……ダルトン」
そんな中、第二皇子のルーファスから少し気まずそうに声が掛けられた。
「は、はい!」
「うちの家族がすまない、悪気はないのだが……多分……」
「そんな!とんでもございません!」
「あー、兄上はああ言っているが、無理やり……とか、ではないん、だよな……?」
「え!!違います!ちゃんと自分で志願させていただいて……!」
「志願……あー、そ、そうか。まあ、愛の形とか性癖と言うのは様々なものがあるのだしな……」
「……?はい……?」
――あ、まともな人いた。と少しだけ思ってしまった。
言ってることはちょっと分からなかったけど。
第二皇子殿下はいつもキリッとした眉を八の字に下げて、レヴィを気遣ってくれた。
第三皇子はメイドに耳を塞がれているが、楽しそうにしていた。
そんな感じで賑やかに食事の時間は過ぎていく。思っていたより、堅苦しくなく、レヴィもとても楽しかった。
部屋に帰る前に、皇后陛下と第一皇女に「今度お茶会しましょうね!」とギュッと手を握られて誘われた。終ぞ『護衛騎士』だと言われなかったので、少しだけ不安になった。
え?俺、護衛騎士なんだよね……?
誰に問えばいいのか分からなかった。
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