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1(sideひな)
しおりを挟む俺、相馬陽太と、あーくんこと東雲朝陽は、産まれてすぐからの幼なじみだ。
母親たちが、俺たちを産んだ病院で出会い、意気投合した結果、家族ぐるみのお付き合いの幼なじみである。ちなみに誕生日は二日違い。あーくんの方が少しだけお兄ちゃん。
毎年誕生日当日は家族で祝い、その真ん中の日は『真ん中バースデー』とかいって合同で誕生日パーティもする。
幼稚園から高校生になった今でもずっと一緒の学校で、なんなら高校から全寮制になった今は、部屋さえも一緒だった。私立のエスカレーター校とはいえ、小学校から同じと言うのは結構少ない。まあ、いるにはいるけど、なにせ俺が産まれた時にはすでにあーくんは俺の隣にいたのだ。『そうま』と『しののめ』で出席番号も近い。だからずーっと一緒。
お互いの事はなんでも知ってるし、少なくとも俺はあーくんに隠し事なんてした事がなかった。
――そんなあーくんが、俺に内緒で合コンに行っていた。
そんな衝撃的な話を聞いたのは今日の昼休み、いつもはあーくんも一緒に食べているのだが先生に呼ばれて行ってしまったので、幼なじみその2の松下雪斗と、その3の長谷川碧と俺の3人でご飯を食べていた。
雪斗はとても頭が良くて、文句を言いつつ色々お世話してくれるツンデレさんだ。短めに切り揃えられた黒髪はツヤツヤでとても綺麗だし、すっきり二重で、鼻筋もすっと通ってるし、薄めの唇もキュッと引き締まっていて意思が強そうに見える。
碧は、明るくて元気で、いつも俺とふざけては、あーくんや雪斗に怒られてる。二重でくりっとした目と、小さい鼻と口、少し茶色い髪はふわふわとしていて、撫ぜるとめっちゃ気持ちいい。とっても可愛くて愛想もいいので、よく色んな子に話しかけれている。でも小さくて可愛いは禁句。
そんな碧が、ハッと閃いたように口を開いた。
「あ、そういやさ、朝陽から一昨日の話聞いた?」
「えぇ?一昨日?」
「合コン行ったんでしょ?ご、う、こ、ん!」
「……合コン」
「そーそー!近くの女子校の子たちと合コンだったらしいよー?どうせ陽太はなんか聞いてるんでしょ?」
碧は、二重の大きいまんまるの目をさらに大きくして身を乗り出してきた。
「碧、行儀悪い。でも、あの朝陽が合コンなんてなぁ」
雪斗は、右上を見ながら「うーん」と唸り出した。あーくんが合コンに行ってるところを想像しているのだろうか。
「……俺、あーくんからそんなの聞いてない」
「え?」
「合コン行くなんて話も聞いてない」
俺がそう言うと、2人は顔を見合わせた後
「じゃあ、付き合いで行ったんだろ」
「そうだね、別に言う程の事でもなかったのかもねぇ」
と、なんだか気まずそうに話を変えた。
俺はというと、なんだかすごくモヤモヤしてしまっていた。あーくんが俺に隠し事?しかも合コン?誰と行ったのかも気になるし、どんな子たちとどんな事をしたのかも気になる。
(ていうか、なんで俺誘ってくれなかったの?ずるい、あーくんだけ!女の子と楽しくしてたんだ!)
それからは2人の話は入ってこなくて、ずーっとあーくんの合コンの事を考えてた。
寮に帰ってからも、普段はリビングでダラダラあーくんの帰りを待ってるのに、今日は逃げるように自分の部屋に閉じこもった。
ちなみに部屋は真ん中にリビング、左右に個室になっている。部屋にはトイレとお風呂、キッチンもある。さすがお金持ち校って感じ。
電気も付けずにベッドに横になっていると、ガサガサと音が聞こえてきてあーくんが帰ってきたのがわかった。でも、どんな顔して出ていけばいいかわかんないし、聞き耳を立ててじーっとする。
しばらくすると、コンコンと部屋がノックされてあーくんが部屋に入ってきた。
「ひな?寝てるの?」
あーくんはベッドの横に立つと、俺の顔を覗き込んできた。
「あれ?起きてる、電気も付けないでどうしたの?体調悪い?」
あーくんのひんやりした手が、額に触れる。
「熱はないみたい。なんかあった?ひな?」
額に触れた手が、そのまま頭を撫でてくれて、その心地良さに思わず頭を擦り寄せてしまう。
俺がしょんぼりしてるのは、あーくんのせいだよって言いたいけど、なんだか言えなかった。
「……あーくん」
「なあに?」
「コアラして」
「ふふっ、いいよ、おいで、ひな」
あーくんは、ベッドに座って両手を広げてくれる。そのままあーくんの脚の上に向かい合う様に座って、脚も腕も使ってギューッと抱きついた。
あーくんの右手は頭を撫でてくれて、左手はトントンと優しく背中を叩いてくれる。
昔からこの一連の流れをコアラと呼んでいて、しょんぼりした気持ちの時は、あーくんがいつもこうしてくれた。高校生になった今でも止められないのは自分でもちょっとどうかなとは思ってるけど、中々卒業出来ない。
「あーくん、あのね」
「うん」
「俺、しょんぼりしてるの」
「うん、どうして?」
「……わかんない」
「そう……」
今までの色々はいつもあーくんに相談してたのに、あーくんの事で悩んでるのはあーくんに言えないじゃん。あーくんのばか。イケメン。完璧野郎。
悔しいのか悲しいのか分からなくなって、頭をあーくんの首筋にグリグリ擦り付ける。
するとあーくんは、1回だけ俺をギュッと抱き締めた後、身体を逸らして顔を覗き込んできた。
「ひな、こんな暗い部屋にいたら余計にしょんぼりしちゃうよ?ご飯食べよ?リビングまで抱っこで連れてってあげるから、ね?」
「……うん」
「よし、ひなはホントいつまでも甘えん坊だね?」
「あーくんにだけだもん」
「そうだね、俺だけにしといてね?可愛い可愛い俺のひな」
よいしょ、と俺を抱えたままリビングのソファまでたどり着くと優しく降ろしてくれて、初めてそこで目が合った。
あーくんは、サラサラの黒髪で前髪を少し長めにして左に分けている。切れ長の二重の目はいつも優しいし、鼻筋も綺麗。下唇だけ少し厚めの唇はとてもツヤツヤしている。頭が良くて、スポーツも出来て。背も高くて足も長い。見た目も中身も絵本の中から出てきた王子様みたいだ。あと着痩せする脱いだらすごい細マッチョ。
それに比べて俺は、おばあちゃん譲りの茶色い髪に、これまたおばあちゃん譲りの茶色い目(この2つは気に入ってるけど)、焼きたくても焼けない白い肌だし、鍛えても薄っぺらいまんまの身体。小さい頃はよく女の子に間違われてたけど、背だけは伸びたと思う。モデルの母親の遺伝で脚も長いと思う。自分ではよくわかんないけど、あーくんが褒めてくれる。
こんなにずっと一緒にいるのに、たまに見蕩れてしまう。あーくんは本当に綺麗。
じっと見つめていると、あーくんは困ったように首を傾げた。あーくんのばか、イケメン。
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