あーくんとひなた

2(sideひな)

　それからしばらく、あーくんから話してくれる事を待ってみたけど、いつまでたっても合コンの話はしてくれなかった。でも、聞くタイミングも逃しちゃったし、今更聞くに聞けなくなってしまって、なんだかなーってまま放置しちゃってた。

　そんなある日。
　ホームルームの時に担任が「今から生徒会の投票について委員長から話してもらう、生徒会の投票については俺たち教師の管轄外になるので、委員長の話を聞いてお前らでよく考えるように！それが終わったら各自帰っていいぞー」と言って帰っていった。

　担任に変わって委員長が教壇に立ち、プリントを配りながら説明をしている。
　簡単に言うと、うちの学校は生徒の自主性？を重んじるとかで、生徒会と風紀委員にある程度の権力的なものが与えられている。なので学力などはもちろん、生徒たちをまとめられるような求心力も必要になる。
　そのわかりやすい方法として人気投票が行われていた。
　前から配られてきた紙を見ると、『抱かれたい』『抱きたい』と書かれている2つの空欄があった。それに自分が好きな人を書くということだった。

　抱かれたい？抱きたい？

　中学の時は先生がある程度指名して、了承したら生徒会役員。って感じだったけど、高校生になった途端謎の低俗さ。それでもやっぱり、選ばれた人は立派に学校を治めているので全く無意味って訳でもなさそうだ。ちなみにあーくんは中学の時生徒会長で、雪斗と碧、俺もあーくんに巻き込まれて生徒会役員だった。
　しかも1年生は補佐しか出来ないらしく、2年と3年の中から選ばないといけないらしい。全然思いつかない。詰んでる。

　そんな事を紙を見ながら考えてたけど、もうめんどくさくなって周りの子のをカンニングしようと思ってキョロキョロしてたらヒソヒソと『1年生から選べるなら絶対東雲くんにいれるのにぃー！』とか『僕も抱かれるなら東雲くんがいいなぁー』とかいうキャッキャした声が聞こえてきた。

　え、あーくん？
　……え？あーくん……？

　なんだか雷に打たれたような衝撃だった。あーくんは、女の子からだけじゃなくて男の子からもモテるんだ……。あーくんが誰かを抱いたり、抱かれたりするの？あーくんが？
　でも、よく考えたら当然だ。あーくんは見た目も中身も素晴らしい。誰かを好きになって、誰かから好きになってもらって、結婚して子どもとかも出来て、幸せになるのだ。……多分、あーくんが女の子好きだったらだけど。

　……俺は？その時俺はどうしたらいいんだろう。当然あーくんが作る幸せな家族の中に俺の居場所はないだろうし……あーくんは優しいから入れてくれるかもだけど役職が謎すぎる。お嫁さんだって俺がいたら『なにこいつ』てなるよね？え？邪魔じゃない？

　いつまでもあーくんに甘えてたらダメだという事に今気づいてしまった。今まで散々『朝陽離れしなさい』って色んな人に言われてたのに。その度にはいはいって軽く考えてたけど、こういう事だったのか。
　今までそんな事考えたことなかった。
　あーくんと俺はずーっと一緒にいるんだと思ってた。でも違うんだ。
　俺、あーくんの邪魔しちゃってるんだな……。
　コアラとかも、してもらっちゃダメかな……ダメなんだろうな……。怖い夢見ても、あーくんのベッドに潜り込んじゃダメなんだろうな。
　悲しい。胸が苦しい。痛い。泣きそう。もうヤダ。
　俺からあーくんを取らないで！って心の中が叫んでるけど、頭の中はあーくんの幸せを考えなくちゃ！って言ってる。ぐちゃぐちゃだ。
　もう座ってられなくて、適当に前の席の子の真似して投票して、教室から飛び出した。
　あーくん以外の人なんて、誰でも同じ。どうでもよかった。
　大切な幼なじみだと思ってたけど、それだけじゃなかった。
　俺はあーくんの事が恋愛という意味でも好きなんだ。こんな事で気付くなんて馬鹿だ。