上 下
26 / 49

ゼランド商会

しおりを挟む
 26 ゼランド商会  

 ギルドの受付で教えてもらい、日用品から野営の道具、調味料など様々なものを扱う商会に来た。
 ギルドカードを見せると割引きしてもらえるらしい。冒険者御用達の商会なんだそうだ。

 南地区で一番大きいその商会の名前は、ゼランド商会という。
 
 中に入ると仕立ての良い上品な服装をした年配の男性が僕たちを迎えた。
 ギルドカードを見せるとそれを確認して年配の男性が話しだす。

「ゼランド商会へようこそ。私はここの代表をしておりますゼランドと申します。お客様は当店は初めてでしょうか?」

 代表って会長さん?いきなり偉い人と出会っちゃった。
 僕が緊張しながら初めてだと答えると、ゼランドさんはやさしい笑顔でうなずく。

「まずは店内を簡単にご案内致しましょう。我が商会はさまざまなものを扱っております。やみくもに店内を見て回るよりはまずはどんなものが置いてあるか見ていただいた方が良いでしょう。気になることがございましたらお気軽にご質問ください」

 そう言ってゼランドさんは店内を案内してくれた。
 僕が商会長自らに案内してもらって良いのか尋ねると、この時間は実は自分が一番ヒマなのだとゼランドさんは笑って言う。

 店内にある商品はとても魅力的なものばかりだった。ちょうど良い大きさの片手鍋。ピカピカでよく切れそうな包丁。大きめのしっかりしたフライパン。木製の食器や磁器でできた皿。
 
 料理コーナーの隣には家具が並ぶ。
 野営の時に料理するのにちょうど良さそうな折りたたみの机。寝具、
 その奥には野営用の様々な道具、寝袋などが置いてある。だけどテントはなかった。
 テントはどこにありますかと聞くと、嵩張るから奥にまとめて置いてあるらしくて、後ほどご案内しますとゼランドさんは笑顔で答え、店内の案内を続ける。
 
 他にも文房具、雨具やノコギリなどの工具、蝶番や釘なども置いてあった。
 魔道具も置いてあったが、なんの魔道具か田舎者の僕には見ただけではわからなかった。

 魔道具に少し興味があったけど、まずは店内を案内してもらおう。そして僕たちは隣の建物に移った。

「調味料はこちらでございます。多少匂いのあるものがございますので、こちらにまとめてあるのです」

 なんだか懐かしい匂いがする。これは醤油の匂いだ。醤油があるの?
 匂いは小さな樽からしている。

「ゼランドさん!この樽の中の調味料はなんですか?」

「お客様こちらの商品をもしかしてご存じなのですか?こちらは東の国で作られている醤油というものです。うちの末の息子が領都で仕入れて来たのですが、さっぱり売れなくて困っているのです」

「いくらですか?僕これ欲しいです。ずっと探していたんですよ」

 行商人が来るたびに醤油のような調味料がないか聞いてみたり、大豆のような豆を探してみたりしたことがあった。結局誰も知らなくて諦めてしまっていたのだけれど。
 じいちゃんはもしかして知っていたのかな?聞いてみればよかった。

「息子から聞いた仕入れ値を考えますと……その樽で銀貨4枚と言いたいのですが、新人冒険者の割引きもございますし、そうですね……」

 ゼランドさんが少し考え込む。

「同じく息子が仕入れてきた味噌というものがあります。こちらも銀貨4枚としたいところですが、こちらの商品も一緒に買って頂ければ、両方合わせて銀貨4枚でけっこうですよ」

「味噌!それも売ってください!お願いします!」

 ゼランドさんは優しく微笑んでうなずいた。

「それでは後ほどご用意しましょう。さて、こっちは木材などを置いているんですが、お客様がお探しのテントはこの奥に並べております」

 奥のスペースにいくつかテントが実際に組み立てられて展示されていた。

 ゼランドさんに大きさと予算を伝えると、ゼランドさんは展示してある濃い緑色をした丈夫そうなテントを勧めてくる。

 こちらは生地に防刃の魔法陣を仕込んだものになります。中は3人まではゆったりと眠れる中型のものになりますね。

 そう言ってファスナーを開けて中を見せてくれる。これならフェルと2人で寝ても大丈夫そうだ。

「防刃と言いましても限界はございますが、一般的に敵がテント内に侵入するのに時間がかかるほど、中にいる者の生存率は上がります。ここなのですが、ちょっと仕掛けがありまして中から鍵をかけられるようになっております。簡単に入り口が開かないように工夫してあるのですよ」

 そう言ってゼランドさんは鍵の仕組みを見せてくれた。なるほど、よくできてる。

「この開け閉めする金具は当店が知り合いの鍛治職人に作らせた特別なものでございます。特許も申請してあるのですよ」
 
 そう言ってファスナーを上下に動かす。
 ファスナーは前世の知識にあるものとは少し形が違っていたけど、これを作れる技術力はたいしたものだと思う。
 ファスナーを開け閉めして問題なく口が閉じられるのをみてそう思った。

 その鍛治職人に会ってみたいな。お金が貯まったら作ってもらいたい物、けっこういっぱいあるんだ。

 ゼランドさんにその職人を紹介して欲しいというと、後で地図を書くので、工房に行ってみると良いと言ってくれた。行くなら昼過ぎが良いらしい。朝はあまり良くないみたいだ。

 肝心のテントの値段だけど、定価は銀貨18枚。Eランク特別料金として3割引きになるので銀貨12枚と銅貨60枚。僕が迷っていると、このテントは最後の1個で、来週にはもう少し畳みやすく改良された新型に切り替わるらしく、展示品で少し日に焼けてることもあり、銀貨10枚でも構わないと言う。
 その値段だったら明日討伐を頑張れば買えそうだ。

 明日にはお金ができると言って取り置きをお願いした。ゼランドさんはにっこりしてこころよく承諾してくれた。

「私が不在の場合でもわかるようにしておきますので、遠慮なく店のものにお声がけください」

 ゼランドさんは優しい笑顔でそう言った。

 なぜ冒険者にこんなに優しくしてくれるのか僕が聞くと、ゼランドさんは昔、行商人だったころ、今のギルドマスターに命を救われたことがあるんだそうだ。
 当時ギルドマスターはAランクの冒険者で、その後すぐSランクになった。
 ゼランドさんが商会を立ち上げたとき、同じタイミングでギルド長も冒険者を引退して今の南支部のギルドマスターになったのだそうだ。
 王都にギルドは3つあり、中央と東と南、中央は事務的なことや会議に使われるところらしい。冒険者は普段出入りすることはないそうだ。

 商会を立ち上げてしばらく経った頃、ギルドマスターに新人冒険者のために何か協力して欲しいとお願いされ、登録して1年未満のEランクの新人冒険者には3割引で商品を売るようにしたのだそうだ。
 Dランクからは2割引で商品を販売しているらしい。ゼランドさんなりに冒険者を応援したいという気持ちでこのサービスを続けているんだそうだ。

「冒険者になって1年目の死亡率は高いですからね。なるべくいい装備を買って命を大切にして欲しいのです」

 ゼランドさんは少し悲しそうに言った。

 そのあとゼランドさんに魔道具の説明をしてもらって、その中で僕は小さなあかりの魔道具を買うことにした。

 ゼランドさんと別れてフェルと店内を見て回る。フェルに何か欲しい物がないか聞いてみたけど、僕の料理に使うものを優先してくれと言われた。

 折りたたみの安いテーブル、唐辛子、砂糖やお酢などの調味料。片手鍋と大きめのしっかりとしたフライパン。文房具はノート2冊とボールペンのようなものを2本買った。

 醤油と味噌も合わせて、全部で銀貨6枚と銅貨50枚支払って商品をマジックバックにしまった。いろんな調味料を小分けできるようにいくつか保存瓶も買った。
 ゼランドさんは通常の割引き価格を超えてさらに値引きしてくれた。「内緒ですよ」そう言ってゼランドさんは優しく笑っていた。
 
 ゼランドさんに鍛冶屋までの地図を書いてもらって、お礼を言って店を出た。

 
















しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

田舎で師匠にボコされ続けた結果、気づいたら世界最強になっていました

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:1,065pt お気に入り:581

生まれ変わりも楽じゃない ~生まれ変わっても私はわたし~

恋愛 / 完結 24h.ポイント:71pt お気に入り:2,922

自由に語ろう!「みりおた」集まれ!

エッセイ・ノンフィクション / 連載中 24h.ポイント:355pt お気に入り:22

ワケありのわたしでいいですか

恋愛 / 完結 24h.ポイント:184pt お気に入り:1,734

没落貴族の異世界領地経営!~生産スキルでガンガン成り上がります!

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:3,509pt お気に入り:3,504

処理中です...