192 / 318
魔力切れ
しおりを挟む
193 魔力切れ
勝利の喜びもそこそこに冒険者たちは外に出ていく。
まだ戦いは終わっていないのだ。
砦の外をみるとシドとフェルを中心に少数の冒険者たちがゴブリンの大軍を押し留めていた。
砦の中で戦ってた人たちがそれに加わってゴブリンたちを押し返す。
マジックポーションを飲んでそれを防壁の上から見守った。
マジックポーションは初めて飲んだけど、すぐに魔力が回復するわけではないみたいだ。
じわじわとゆっくり何かが溜まっていく感じがする。
魔力察知を広げて森の様子を探る。
ゴブリンの群勢の奥にオークが5体。
そのうち1体の反応が強いから上位種かな?
ふと考えた。
目標を見なくても、気配察知を使って狙撃することはできないのだろうか?
要はさっきの戦いの中盤でやっていた、気配察知と狙撃の応用だ。
あの時は気配察知で獲物を見つけ、最後は目視で狙っていたけど……。
頭の中に浮かぶ映像を肉眼で見ている視界に近づけてと。
……なんか気持ち悪い。物が二重に見えてる感じだ。
体の揺れをできるだけ抑えて、見えてる視界と、頭で感じる3D映像を重ね合わせる。
カチッと何かが噛み合う感じがした。
あ、できたかも。
この感覚が消えないように静かに弓を引く。
……やばい、弓に魔力が結構持ってかれる。
一番大きなオークの反応に向かって打つ。
ズキュツ.......ドガーーン
森がえぐれて何本か木が倒れる。
オークの反応は……消えてる。
おぉぉ。なんか前世の記憶にあるロボットのアニメを見ているようだ。
続けて森の奥の残りのオークの反応に向けて矢を放っていった。
撃つたびに凄まじい音をさせて矢がオークにあたってその周辺が爆発する。
なにこれ。やばいかも。
5本の矢を打ち終わった段階で胃が気持ち悪くなった。
魔力切れだ。
震える手で、マジックポーションを取り出しゆっくりと飲んだ。マジックポーションはこれで最後だ。
少し気持ち悪いのが治った。
お茶の入った水筒を取り出して口をゆすぐようにゆっくりと飲む。
なんとか落ち着いてきた。
下で戦っている人たちに声をかける。
「すみませーん魔力切れでーす。少し休みまーす」
砦の外で戦っていたジンさんがこっちにきて、手を振る。
「ケイ!もうこっちは大丈夫だから下に降りてゆっくり休め!何かあったら呼ぶから!」
お言葉に甘えて休憩を取ることにする。
下に降りるとジークとザックのジグザグコンビがマジックバッグにオークの死体を入れているところだった。
至る所にあったオークの死体はだいぶ片付けられている。
オークキングの死体ももうなかった。
ギルドから借りたマジックバッグは大容量のものだったらしく、時間停止の機能までついていた。
なんでも昔、辺境伯さまがどこかで手に入れた物らしい。
手が空いた治療士の女の人が周辺にクリーンをかけてくれた。おかげであたりの血の匂いがかなりおさまった。
地べたに座り、マジックバッグからコンロを出してお茶を淹れる。
ジグザグコンビが、何やってんだお前、みたいな目で見てくる。
いいんですよ。
魔力切れたらもう何にもできないし。
休憩するんです。
暖かい紅茶を砦の中にいる人に配った。
いつだったかエリママにもらったいい茶葉だ。
外では戦いの音が聞こえてるけど、砦の中にはのんびりとした空気が流れてる。
僕は地べたに座り込み、エリママがくれた美味しい紅茶を飲んだ。
空を見上げるとゆっくりと雲が流れて行くのが見えた。
外からはまだ剣戟の音が聞こえてくる。
紅茶はフェルが淹れてくれたやつの方がやっぱり美味しいよな。
しばらく空を見上げてぼーっとしていた。少し冷めてしまった紅茶を飲み干し、立ち上がって体を伸ばして深呼吸をする。
なんかお腹、すいたな。
オークキングのいた中央の建物の中で、手頃なテーブルを何個か見つける。
ジグザグコンビに手伝ってもらって外に出してもらった。
水魔法でテーブルの上を濡らしてタワシで擦って綺麗にする。
建物の中は獣臭くて、とてもじゃないけど中では休めそうになかった。
タワシでゴシゴシ擦ってからもう一度水で流すとテーブルはだいぶきれいになった。
ポーションを飲んでから魔力は少しずつ回復してる。
水魔法みたいな生活魔法ならいくらでも使えるのに、あの弓に持っていかれる魔力はハンパない。
いったいどれだけの魔力を持っていかれてたんだろ。
マジックバッグからオークを1体出してもらって、テーブルの上で解体する。
内臓など捨てるものは空いてる樽を取り出してそこにいれた。
オークの睾丸は高く売れるらしいので、また別の樽に入れておく。
疲れていたから、ちょっと雑になっちゃったけど、食べられる部分を切り分け、あまった皮などはマジックバッグの中に戻した。
オークの肩の肉は塊にして、バラ肉は適当な厚さにスライス。
モモの肉はちょっと薄めのステーキのようにした。
持ってきた魔道コンロは4台。
そのうち2台を使って米を炊く。
もう1つのコンロを使ってスープを作る。スープと言ってもただの味噌汁なんだけど。
いつのまにか砦の中の一部がミニキッチンのようになっていた。
「何してんだー?ケイ」
治療を終えたシドがこっちに向かってくる。
「シド、おつかれー。みんなお腹が空くだろうと思って食事の支度だよ。討伐終わってもすぐ帰らないでしょう。だったらみんなで焼肉でも食べたらいいんじゃないかなと思って」
そう言ったらシドが大爆笑。
「あはは、普通、そんなことやるやついねぇぜ、せいぜい干し肉でスープを作るくらいだ。食材や料理道具まで持ち込んでんのか?あーそれでマジックバッグの容量がないとか言ってたんだな。普通マジックバックは狩った獲物を入れるために持って来るんだぞ」
「だって、普段はウサギしか狩らないし、今回も、マジックバッグはギルドから借りられるとか言ってたし。いいじゃんか、大体僕は料理人なんだ。魔物を討伐するのが仕事じゃないんだよ」
「料理人であの弓の腕前かよ。どうなってんだ?今回お前の弓の腕にに命を救われたってやつもいるんだぞ?」
見てたの?けっこう余裕あったんじゃん。
「弓は、いつかフェルに追いつきたいから毎日ずっと練習してた。食堂の仕事に行く前とかに。なんか命中すると気持ちがいいから、自分でもけっこう好きでやってたかも」
シドと話しながら手早く作業を進める。
タレどうしようかな。
「今回みたいなのはほんとに初めてだよ。普段は炊き出しで使うためのホーンラビットしか狩らないんだ。なんとかなったのはシドが教えてくれた気配察知のおかげかな」
タレに使えそうな材料を並べて考える。リンゴと……にんにく?あったかな?
「矢が当たったのもみんながオークの注意を引いていてくれたからであって、僕は当てやすい的にただ矢を当てただけだから。みんなの方がすごいよ。前線で危険なところで戦ってる。だから終わって帰ってくるみんなをこうやって労ってあげようと思って」
シドは呆れた顔で。
「自覚がないってのもまた困っちまうな。まぁ、お前はそれでいいのかもしれないな。そんで、何作ってんだよ」
「んー、オークをさっき1体潰したからその肉で焼肉かな。勝手に焼いて貰えばこっちの手間も少ないし。こっちの塊肉は、じっくり転がして焼いてローストポークみたいにするつもり。シド、手が空いてるなら薪取ってきてよ、あの建物の裏にいっぱいあったからさー」
「手が空いてるって、俺さっきまで、1人でゴブリンと戦ってたんだぞ!」
「上からフェルがたまに見てたよ。なんか大丈夫そうだからほっといてたらしいけど」
「大丈夫な訳あるか!こっちは必死だったんだって」
そんな文句ばかりのシドは無視して。
「あーみんなお茶も飲みたいよねー。でもコンロが足りないな。シド、冷たい水でもいいと思う?」
「お、おぅ。いいんじゃねえか?みんな喉は乾いているだろうし」
「オッケー。用意しとくー」
「なんか最初にあったときと口調が変わってんな、これが素か?」
「冒険者同士は敬語はいらねーって言ったのはシドじゃないか。もう疲れちゃってさー。なんか面倒でこんな話し方になってきちゃってるんだよ」
「神の目だとか言われるくらいの弓の達人にはとても見えねぇなぁ、まあそのくらいでいいと思うぜ」
そう言ってシドは笑った。
なんだかんだ文句を言いながらシドが持ってきた薪に火をつけて、焚き火をいくつか作っていく。
かまども作って、今作っているスープはそこにうつした。
バッグの中に入ってた野菜や、リンゴなどを使って、焼肉のタレみたいなのも作った。材料が足りないから満足のいく出来にはならなかったけど、それっぽいそこそこ美味しいタレができた。
なんとなく感覚で作ったのが良かったのかな?
使った材料はノートに書いておいた。
シドはもう1体、オークを解体しはじめた。
これじゃあ、肉が足りねぇそうだ。
さっきは人のこと頭おかしい奴みたいに言っていたのに。
食べるでしょう。夕飯くらい。
どうせ食べるなら美味しい方がいいじゃん。
バーベキュー用の焼き台は5つ持っている。今回の旅のためにガンツに追加で用意してもらっていた。
焚き火していた薪がいい感じに炭になってきているのを拾ってバーベキューコンロに入れていく。その上でオークの塊肉を焼いていった。
周りにしっかり焼き目がついたら、火の弱いところに置いてじっくり焼いていく。
お肉の焼けるいい匂いがする。
スープのおかわりするかもしれないなと思って、追加で味噌汁を大鍋でもう一つ作る。
具はオーク肉の切れ端と、ネギ。
もう入れる野菜がないので、ちょっと寂しいけど。
ごはんが炊き上がったのでおにぎりを握る。
シドが米を食べたことがないと言ったので、小さく握って味見させる。ただの塩むすびだけど。
シドは急に興奮しはじめて、「この量じゃぁ足りねぇ。もっと作れ!」と騒ぎ出す。
仕方ないので炊飯器の魔道具で追加でお米を炊いた。
コンロが1つ空いたので、もう一度お茶を淹れる。
疲れた顔でロザリーさんが戻ってきた。魔力切れだそうだ。
淹れたばかりのお茶を渡す。
最後に大きな魔法を放ってきたので、だいぶ数は減ったけど、まだ東側の奥からゴブリンとオークが集まってきているらしい。
もう少しかかるかな?
フェルは大丈夫だろうか。
戦いの音が聞こえる方をなんとなく眺めた。
砦で密かにケイの発案で焼肉パーティが企画されていた頃、砦の外ではゴブリンの軍勢との戦いが続いていた。
時間はまた少しだけ遡る。
「ロザリー!魔法でこの辺全部薙ぎ払え!」
「ジン!これで魔力切れちゃうけど大丈夫?」
「構わねー!それ撃ったら下がって休んでいいからとにかくでかいの頼む!」
ロザリーの大魔法が炸裂する。
あたり一面に焔の壁が出来上がった。
続々と増えていたゴブリンが一掃される。
北側はもう大丈夫そうだ。
森の奥にいたオークはケイの最後の攻撃で全部死体になっていたらしい。
あの弓ならドラゴンでも倒せるんじゃないかと思えてしまう威力だった。
オークの死体にはどでかい穴が空いていたと調査に行った奴らが報告してきた。
ケイ、どうやったらそんなことになるんだ?
「おい……、なんかいい匂いがしねぇか?」
「そうだな……、砦の中からじゃねーか?」
しつこくせまるゴブリンを相手にしながら、冒険者たちがざわつきはじめる。
「お前ら、いいから集中しろー!」
オークの槍を弾きながら俺は叫んだ。
とたんにフェルが大きな声で笑いだす。
「これはきっとケイだ!ケイが料理を作ってるんだ!」
うれしそうにフェルが叫ぶ。
「みんな!終わったら美味しいご飯が待ってるぞ!楽しみにしておけ、ケイの作る料理はうまいからな!」
剣を高くあげフェルはみんなを鼓舞する。
「あと少しだ!みんながんばれ!」
「「「おうっ!」」」
冒険者たちが気合の入った声でそれに応える。
あれ?
さっきから俺がずっとみんなを鼓舞してたけど、返事とか一切なかったじゃねぇか。
何?フェルならいいの?美人だから?
リーダーやるのはもうやめよう。つまんない。
指揮なんてシドとか、ロザリーとかに任せて、戦闘に集中したい。
「ジン!ソルジャーが来た!砦にいた奴より一回り大きいぞ。たぶんアレがこの群れのボスだ!」
ザックが森から飛び出してきた。
さっきの戦いで、ザックの剣は使い物にならなくなってしまった。
今は疲労困憊だったシドに変わり、斥候役を引き受けてくれている。
「森から出てきた瞬間を狙え!出鼻を挫くんだ!」
一回り大きなオークが森から出てきた瞬間、フェルがそいつに向かって飛び込んだ。
大きな声で笑い出し、ケイが無事と分かった瞬間、フェルの動きが格段に良くなっていた。
きっと安心したのだろう。
フェルちゃんケイのこと大好きだもんな。
まだ付き合ってないらしいけど。
フェルは手前のゴブリンを盾で蹴散らし 真っ直ぐにオークソルジャーに向かって行く。
無理するなよと声をかけようとしたが、フェルは上段から振り下ろされた剣をヒラリとかわし、その手首を一瞬で切り飛ばした。
これで勝負はついた。
悲鳴をあげるオークの首をフェルが切り落とし、オークソルジャーはあっけなく討ち取られた。
その後も次々とゴブリンを切っていくフェルを見てたら、お腹が空いたから早く終わらせたいだけなのかも、と思ってしまった。
オークソルジャーが討ち取られたことで、統率が取れなくなったゴブリンたちが逃げていく。
普段なら追いかけてとどめを刺すところだが、今回はもういいだろう。
俺たちの勝利だ。
勝利の喜びもそこそこに冒険者たちは外に出ていく。
まだ戦いは終わっていないのだ。
砦の外をみるとシドとフェルを中心に少数の冒険者たちがゴブリンの大軍を押し留めていた。
砦の中で戦ってた人たちがそれに加わってゴブリンたちを押し返す。
マジックポーションを飲んでそれを防壁の上から見守った。
マジックポーションは初めて飲んだけど、すぐに魔力が回復するわけではないみたいだ。
じわじわとゆっくり何かが溜まっていく感じがする。
魔力察知を広げて森の様子を探る。
ゴブリンの群勢の奥にオークが5体。
そのうち1体の反応が強いから上位種かな?
ふと考えた。
目標を見なくても、気配察知を使って狙撃することはできないのだろうか?
要はさっきの戦いの中盤でやっていた、気配察知と狙撃の応用だ。
あの時は気配察知で獲物を見つけ、最後は目視で狙っていたけど……。
頭の中に浮かぶ映像を肉眼で見ている視界に近づけてと。
……なんか気持ち悪い。物が二重に見えてる感じだ。
体の揺れをできるだけ抑えて、見えてる視界と、頭で感じる3D映像を重ね合わせる。
カチッと何かが噛み合う感じがした。
あ、できたかも。
この感覚が消えないように静かに弓を引く。
……やばい、弓に魔力が結構持ってかれる。
一番大きなオークの反応に向かって打つ。
ズキュツ.......ドガーーン
森がえぐれて何本か木が倒れる。
オークの反応は……消えてる。
おぉぉ。なんか前世の記憶にあるロボットのアニメを見ているようだ。
続けて森の奥の残りのオークの反応に向けて矢を放っていった。
撃つたびに凄まじい音をさせて矢がオークにあたってその周辺が爆発する。
なにこれ。やばいかも。
5本の矢を打ち終わった段階で胃が気持ち悪くなった。
魔力切れだ。
震える手で、マジックポーションを取り出しゆっくりと飲んだ。マジックポーションはこれで最後だ。
少し気持ち悪いのが治った。
お茶の入った水筒を取り出して口をゆすぐようにゆっくりと飲む。
なんとか落ち着いてきた。
下で戦っている人たちに声をかける。
「すみませーん魔力切れでーす。少し休みまーす」
砦の外で戦っていたジンさんがこっちにきて、手を振る。
「ケイ!もうこっちは大丈夫だから下に降りてゆっくり休め!何かあったら呼ぶから!」
お言葉に甘えて休憩を取ることにする。
下に降りるとジークとザックのジグザグコンビがマジックバッグにオークの死体を入れているところだった。
至る所にあったオークの死体はだいぶ片付けられている。
オークキングの死体ももうなかった。
ギルドから借りたマジックバッグは大容量のものだったらしく、時間停止の機能までついていた。
なんでも昔、辺境伯さまがどこかで手に入れた物らしい。
手が空いた治療士の女の人が周辺にクリーンをかけてくれた。おかげであたりの血の匂いがかなりおさまった。
地べたに座り、マジックバッグからコンロを出してお茶を淹れる。
ジグザグコンビが、何やってんだお前、みたいな目で見てくる。
いいんですよ。
魔力切れたらもう何にもできないし。
休憩するんです。
暖かい紅茶を砦の中にいる人に配った。
いつだったかエリママにもらったいい茶葉だ。
外では戦いの音が聞こえてるけど、砦の中にはのんびりとした空気が流れてる。
僕は地べたに座り込み、エリママがくれた美味しい紅茶を飲んだ。
空を見上げるとゆっくりと雲が流れて行くのが見えた。
外からはまだ剣戟の音が聞こえてくる。
紅茶はフェルが淹れてくれたやつの方がやっぱり美味しいよな。
しばらく空を見上げてぼーっとしていた。少し冷めてしまった紅茶を飲み干し、立ち上がって体を伸ばして深呼吸をする。
なんかお腹、すいたな。
オークキングのいた中央の建物の中で、手頃なテーブルを何個か見つける。
ジグザグコンビに手伝ってもらって外に出してもらった。
水魔法でテーブルの上を濡らしてタワシで擦って綺麗にする。
建物の中は獣臭くて、とてもじゃないけど中では休めそうになかった。
タワシでゴシゴシ擦ってからもう一度水で流すとテーブルはだいぶきれいになった。
ポーションを飲んでから魔力は少しずつ回復してる。
水魔法みたいな生活魔法ならいくらでも使えるのに、あの弓に持っていかれる魔力はハンパない。
いったいどれだけの魔力を持っていかれてたんだろ。
マジックバッグからオークを1体出してもらって、テーブルの上で解体する。
内臓など捨てるものは空いてる樽を取り出してそこにいれた。
オークの睾丸は高く売れるらしいので、また別の樽に入れておく。
疲れていたから、ちょっと雑になっちゃったけど、食べられる部分を切り分け、あまった皮などはマジックバッグの中に戻した。
オークの肩の肉は塊にして、バラ肉は適当な厚さにスライス。
モモの肉はちょっと薄めのステーキのようにした。
持ってきた魔道コンロは4台。
そのうち2台を使って米を炊く。
もう1つのコンロを使ってスープを作る。スープと言ってもただの味噌汁なんだけど。
いつのまにか砦の中の一部がミニキッチンのようになっていた。
「何してんだー?ケイ」
治療を終えたシドがこっちに向かってくる。
「シド、おつかれー。みんなお腹が空くだろうと思って食事の支度だよ。討伐終わってもすぐ帰らないでしょう。だったらみんなで焼肉でも食べたらいいんじゃないかなと思って」
そう言ったらシドが大爆笑。
「あはは、普通、そんなことやるやついねぇぜ、せいぜい干し肉でスープを作るくらいだ。食材や料理道具まで持ち込んでんのか?あーそれでマジックバッグの容量がないとか言ってたんだな。普通マジックバックは狩った獲物を入れるために持って来るんだぞ」
「だって、普段はウサギしか狩らないし、今回も、マジックバッグはギルドから借りられるとか言ってたし。いいじゃんか、大体僕は料理人なんだ。魔物を討伐するのが仕事じゃないんだよ」
「料理人であの弓の腕前かよ。どうなってんだ?今回お前の弓の腕にに命を救われたってやつもいるんだぞ?」
見てたの?けっこう余裕あったんじゃん。
「弓は、いつかフェルに追いつきたいから毎日ずっと練習してた。食堂の仕事に行く前とかに。なんか命中すると気持ちがいいから、自分でもけっこう好きでやってたかも」
シドと話しながら手早く作業を進める。
タレどうしようかな。
「今回みたいなのはほんとに初めてだよ。普段は炊き出しで使うためのホーンラビットしか狩らないんだ。なんとかなったのはシドが教えてくれた気配察知のおかげかな」
タレに使えそうな材料を並べて考える。リンゴと……にんにく?あったかな?
「矢が当たったのもみんながオークの注意を引いていてくれたからであって、僕は当てやすい的にただ矢を当てただけだから。みんなの方がすごいよ。前線で危険なところで戦ってる。だから終わって帰ってくるみんなをこうやって労ってあげようと思って」
シドは呆れた顔で。
「自覚がないってのもまた困っちまうな。まぁ、お前はそれでいいのかもしれないな。そんで、何作ってんだよ」
「んー、オークをさっき1体潰したからその肉で焼肉かな。勝手に焼いて貰えばこっちの手間も少ないし。こっちの塊肉は、じっくり転がして焼いてローストポークみたいにするつもり。シド、手が空いてるなら薪取ってきてよ、あの建物の裏にいっぱいあったからさー」
「手が空いてるって、俺さっきまで、1人でゴブリンと戦ってたんだぞ!」
「上からフェルがたまに見てたよ。なんか大丈夫そうだからほっといてたらしいけど」
「大丈夫な訳あるか!こっちは必死だったんだって」
そんな文句ばかりのシドは無視して。
「あーみんなお茶も飲みたいよねー。でもコンロが足りないな。シド、冷たい水でもいいと思う?」
「お、おぅ。いいんじゃねえか?みんな喉は乾いているだろうし」
「オッケー。用意しとくー」
「なんか最初にあったときと口調が変わってんな、これが素か?」
「冒険者同士は敬語はいらねーって言ったのはシドじゃないか。もう疲れちゃってさー。なんか面倒でこんな話し方になってきちゃってるんだよ」
「神の目だとか言われるくらいの弓の達人にはとても見えねぇなぁ、まあそのくらいでいいと思うぜ」
そう言ってシドは笑った。
なんだかんだ文句を言いながらシドが持ってきた薪に火をつけて、焚き火をいくつか作っていく。
かまども作って、今作っているスープはそこにうつした。
バッグの中に入ってた野菜や、リンゴなどを使って、焼肉のタレみたいなのも作った。材料が足りないから満足のいく出来にはならなかったけど、それっぽいそこそこ美味しいタレができた。
なんとなく感覚で作ったのが良かったのかな?
使った材料はノートに書いておいた。
シドはもう1体、オークを解体しはじめた。
これじゃあ、肉が足りねぇそうだ。
さっきは人のこと頭おかしい奴みたいに言っていたのに。
食べるでしょう。夕飯くらい。
どうせ食べるなら美味しい方がいいじゃん。
バーベキュー用の焼き台は5つ持っている。今回の旅のためにガンツに追加で用意してもらっていた。
焚き火していた薪がいい感じに炭になってきているのを拾ってバーベキューコンロに入れていく。その上でオークの塊肉を焼いていった。
周りにしっかり焼き目がついたら、火の弱いところに置いてじっくり焼いていく。
お肉の焼けるいい匂いがする。
スープのおかわりするかもしれないなと思って、追加で味噌汁を大鍋でもう一つ作る。
具はオーク肉の切れ端と、ネギ。
もう入れる野菜がないので、ちょっと寂しいけど。
ごはんが炊き上がったのでおにぎりを握る。
シドが米を食べたことがないと言ったので、小さく握って味見させる。ただの塩むすびだけど。
シドは急に興奮しはじめて、「この量じゃぁ足りねぇ。もっと作れ!」と騒ぎ出す。
仕方ないので炊飯器の魔道具で追加でお米を炊いた。
コンロが1つ空いたので、もう一度お茶を淹れる。
疲れた顔でロザリーさんが戻ってきた。魔力切れだそうだ。
淹れたばかりのお茶を渡す。
最後に大きな魔法を放ってきたので、だいぶ数は減ったけど、まだ東側の奥からゴブリンとオークが集まってきているらしい。
もう少しかかるかな?
フェルは大丈夫だろうか。
戦いの音が聞こえる方をなんとなく眺めた。
砦で密かにケイの発案で焼肉パーティが企画されていた頃、砦の外ではゴブリンの軍勢との戦いが続いていた。
時間はまた少しだけ遡る。
「ロザリー!魔法でこの辺全部薙ぎ払え!」
「ジン!これで魔力切れちゃうけど大丈夫?」
「構わねー!それ撃ったら下がって休んでいいからとにかくでかいの頼む!」
ロザリーの大魔法が炸裂する。
あたり一面に焔の壁が出来上がった。
続々と増えていたゴブリンが一掃される。
北側はもう大丈夫そうだ。
森の奥にいたオークはケイの最後の攻撃で全部死体になっていたらしい。
あの弓ならドラゴンでも倒せるんじゃないかと思えてしまう威力だった。
オークの死体にはどでかい穴が空いていたと調査に行った奴らが報告してきた。
ケイ、どうやったらそんなことになるんだ?
「おい……、なんかいい匂いがしねぇか?」
「そうだな……、砦の中からじゃねーか?」
しつこくせまるゴブリンを相手にしながら、冒険者たちがざわつきはじめる。
「お前ら、いいから集中しろー!」
オークの槍を弾きながら俺は叫んだ。
とたんにフェルが大きな声で笑いだす。
「これはきっとケイだ!ケイが料理を作ってるんだ!」
うれしそうにフェルが叫ぶ。
「みんな!終わったら美味しいご飯が待ってるぞ!楽しみにしておけ、ケイの作る料理はうまいからな!」
剣を高くあげフェルはみんなを鼓舞する。
「あと少しだ!みんながんばれ!」
「「「おうっ!」」」
冒険者たちが気合の入った声でそれに応える。
あれ?
さっきから俺がずっとみんなを鼓舞してたけど、返事とか一切なかったじゃねぇか。
何?フェルならいいの?美人だから?
リーダーやるのはもうやめよう。つまんない。
指揮なんてシドとか、ロザリーとかに任せて、戦闘に集中したい。
「ジン!ソルジャーが来た!砦にいた奴より一回り大きいぞ。たぶんアレがこの群れのボスだ!」
ザックが森から飛び出してきた。
さっきの戦いで、ザックの剣は使い物にならなくなってしまった。
今は疲労困憊だったシドに変わり、斥候役を引き受けてくれている。
「森から出てきた瞬間を狙え!出鼻を挫くんだ!」
一回り大きなオークが森から出てきた瞬間、フェルがそいつに向かって飛び込んだ。
大きな声で笑い出し、ケイが無事と分かった瞬間、フェルの動きが格段に良くなっていた。
きっと安心したのだろう。
フェルちゃんケイのこと大好きだもんな。
まだ付き合ってないらしいけど。
フェルは手前のゴブリンを盾で蹴散らし 真っ直ぐにオークソルジャーに向かって行く。
無理するなよと声をかけようとしたが、フェルは上段から振り下ろされた剣をヒラリとかわし、その手首を一瞬で切り飛ばした。
これで勝負はついた。
悲鳴をあげるオークの首をフェルが切り落とし、オークソルジャーはあっけなく討ち取られた。
その後も次々とゴブリンを切っていくフェルを見てたら、お腹が空いたから早く終わらせたいだけなのかも、と思ってしまった。
オークソルジャーが討ち取られたことで、統率が取れなくなったゴブリンたちが逃げていく。
普段なら追いかけてとどめを刺すところだが、今回はもういいだろう。
俺たちの勝利だ。
101
あなたにおすすめの小説
辺境領主は大貴族に成り上がる! チート知識でのびのび領地経営します
潮ノ海月@2025/11月新刊発売予定!
ファンタジー
旧題:転生貴族の領地経営~チート知識を活用して、辺境領主は成り上がる!
トールデント帝国と国境を接していたフレンハイム子爵領の領主バルトハイドは、突如、侵攻を開始した帝国軍から領地を守るためにルッセン砦で迎撃に向かうが、守り切れず戦死してしまう。
領主バルトハイドが戦争で死亡した事で、唯一の後継者であったアクスが跡目を継ぐことになってしまう。
アクスの前世は日本人であり、争いごとが極端に苦手であったが、領民を守るために立ち上がることを決意する。
だが、兵士の証言からしてラッセル砦を陥落させた帝国軍の数は10倍以上であることが明らかになってしまう
完全に手詰まりの中で、アクスは日本人として暮らしてきた知識を活用し、さらには領都から避難してきた獣人や亜人を仲間に引き入れ秘策を練る。
果たしてアクスは帝国軍に勝利できるのか!?
これは転生貴族アクスが領地経営に奮闘し、大貴族へ成りあがる物語。
《作者からのお知らせ!》
※2025/11月中旬、 辺境領主の3巻が刊行となります。
今回は3巻はほぼ全編を書き下ろしとなっています。
【貧乏貴族の領地の話や魔導車オーディションなど、】連載にはないストーリーが盛りだくさん!
※また加筆によって新しい展開になったことに伴い、今まで投稿サイトに連載していた続話は、全て取り下げさせていただきます。何卒よろしくお願いいたします。
バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します
namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。
マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。
その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。
「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。
しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。
「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」
公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。
前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。
これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。
転生したら領主の息子だったので快適な暮らしのために知識チートを実践しました
SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
不摂生が祟ったのか浴槽で溺死したブラック企業務めの社畜は、ステップド騎士家の長男エルに転生する。
不便な異世界で生活環境を改善するためにエルは知恵を絞る。
14万文字執筆済み。2025年8月25日~9月30日まで毎日7:10、12:10の一日二回更新。
最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。
MP
ファンタジー
高校2年の夏。
高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。
地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。
しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。
辺境貴族ののんびり三男は魔道具作って自由に暮らします
雪月夜狐
ファンタジー
書籍化決定しました!
(書籍化にあわせて、タイトルが変更になりました。旧題は『辺境伯家ののんびり発明家 ~異世界でマイペースに魔道具開発を楽しむ日々~』です)
壮年まで生きた前世の記憶を持ちながら、気がつくと辺境伯家の三男坊として5歳の姿で異世界に転生していたエルヴィン。彼はもともと物作りが大好きな性格で、前世の知識とこの世界の魔道具技術を組み合わせて、次々とユニークな発明を生み出していく。
辺境の地で、家族や使用人たちに役立つ便利な道具や、妹のための可愛いおもちゃ、さらには人々の生活を豊かにする新しい魔道具を作り上げていくエルヴィン。やがてその才能は周囲の人々にも認められ、彼は王都や商会での取引を通じて新しい人々と出会い、仲間とともに成長していく。
しかし、彼の心にはただの「発明家」以上の夢があった。この世界で、誰も見たことがないような道具を作り、貴族としての責任を果たしながら、人々に笑顔と便利さを届けたい——そんな野望が、彼を新たな冒険へと誘う。
他人の寿命が視える俺は理を捻じ曲げる。学園一の美令嬢を助けたら凄く優遇されることに
千石
ファンタジー
【第17回ファンタジー小説大賞 奨励賞受賞】
魔法学園4年生のグレイ・ズーは平凡な平民であるが、『他人の寿命が視える』という他の人にはない特殊な能力を持っていた。
ある日、学園一の美令嬢とすれ違った時、グレイは彼女の余命が本日までということを知ってしまう。
グレイは自分の特殊能力によって過去に周りから気味悪がられ、迫害されるということを経験していたためひたすら隠してきたのだが、
「・・・知ったからには黙っていられないよな」
と何とかしようと行動を開始する。
そのことが切っ掛けでグレイの生活が一変していくのであった。
他の投稿サイトでも掲載してます。
※表紙の絵はAIが生成したものであり、著作権に関する最終的な責任は負いかねます。
出来損ない貴族の三男は、謎スキル【サブスク】で世界最強へと成り上がる〜今日も僕は、無能を演じながら能力を徴収する〜
シマセイ
ファンタジー
実力至上主義の貴族家に転生したものの、何の才能も持たない三男のルキウスは、「出来損ない」として優秀な兄たちから虐げられる日々を送っていた。
起死回生を願った五歳の「スキルの儀」で彼が授かったのは、【サブスクリプション】という誰も聞いたことのない謎のスキル。
その結果、彼の立場はさらに悪化。完全な「クズ」の烙印を押され、家族から存在しない者として扱われるようになってしまう。
絶望の淵で彼に寄り添うのは、心優しき専属メイドただ一人。
役立たずと蔑まれたこの謎のスキルが、やがて少年の運命を、そして世界を静かに揺るがしていくことを、まだ誰も知らない。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる