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言わなきゃ良いのに
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275 言わなきゃ良いのに
お茶のおかわりはフェルが淹れてくれた。使っていたお茶の葉が良いものだったから2杯目の紅茶は素晴らしく美味しいものになった。ガンツの機嫌も良くなったみたいだ。
アランさんとはそのあといろいろ雑談して、執事の人がアランさんを呼びに来るまで楽しくいろんな話をした。
アランさんの冒険者時代の話はとても面白くって、独特の言い回しや、自分がしでかした失敗を面白おかしく伝えてくれる。
良い人だな。素直に心からそう思った。
そして僕たちが帰ろうと立ち上がると、フェルが腰から鞘ごと剣を抜き、テーブルの上にそっと乗せる。
「昨晩ケイから聞いて納得がいった。この剣は元々は貴殿のものであったのだろう?私は今までこの剣に何度も助けられた。今では自分の半身のような気がするくらい素晴らしい物だ」
アランさんは少し困った顔になる。
言わなきゃ良いのに。そんな顔だ。
「私たちは信じられない値段でこの剣を譲り受けた。初めは確かにサビだらけでボロボロな物だったが元々が良いものであったからな。ガンツの作だと後で知ったが、いつかは元の持ち主に返さなければならぬと、そう思っていた」
アランさんはフェルの剣を取り、鞘を抜いてその刀身を眺める。
想いのこもった表情でその剣を光に翳し、何度も手首を返しながらアランさんはいろんな角度で剣を眺めた。
「私はその剣を打ったガンツもそうだが、その剣を打たせた貴方のことも尊敬している。あの当時、魔竜の被害はとてつもないものだった。私は幼いながらも王国の冒険者たちが命をかけてこれに対処したという話を聞いて育った。私も……そうなりたいと……皆を守る剣になりたいとそう思ったのだ」
「フェル。お前の気持ちは嬉しいが、とんだ買いかぶりもいいとこだぜ?確かにあの時ガンツに折れない剣をってねだったけどな、あん時は魔獣相手に負けない硬い剣が欲しくてそう言っただけのことだ。山の中で落としてしまったのは……まあその時はその時の状況があってたまたまそうなっちまっただけのことだ。大事にはしてたが、人ひとりの命より重たい剣なんて無いからな。あの時はあれで仕方なかったんだ」
ガンツは少し笑っていた。懸命に拵えた剣を無くしてきたアランさんにガンツは酷く怒鳴り散らしたことだろう。アランさんも全力で言い訳をしたはずだ。
「フェルがその剣を使っていると言う話もガンツから聞いて知っている。人を守る剣と言ったらしいな?そう思ってそれを使うお前はきっとその剣に見合った正しい使い手ってことなんだと思うぜ。あん時の俺はそんな大層なことを考えてなかったぞ。俺が攻撃を受け止めたらみんなの仕事がやりやすいだろってそれ持って前に出ただけだ。偉そうなことなんて何もしていない」
アランさんは剣を鞘にしまってフェルの前にしっかりと立ちその剣をフェルに差し出した。
「これはもうお前の剣だ。世の中には理不尽なことが多い。その理不尽からお前はお前の愛するものたちを守ればいい。騎士ではもう無いだろうがその心は騎士に通づる。実際返してもらってもな、俺の場合それでこれからどれだけの人を守らなくちゃいけねーんだって話になるからな。それは少し困るんだ。だからそれはこのままお前が持っていればいい。俺の代わりに守るべき者を守ってやってくれ」
まだ何か言いたそうなフェルだったけどうやうやしくその剣を受け取りアランさんに深く頭を下げた。
それを見たアランさんは「良いってそういうの」と慌ててフェルのことを真っ直ぐ立たせた。
帰る時は一緒に行くからなと、帰り際にアランさんがまるで昔からの友達みたいに言って、謁見?
とにかくお城での話し合いは終わった。
オークキングの報告と僕が見つけてしまった塩の作り方について王様に報告しなければならないそうだ。あんまり大袈裟にしないでねと僕が言ったらアランさんは笑っていた。
お昼の時間もだいぶ過ぎてしまった。
帰りの馬車の中でフェルは自分の剣を抜き、ずっと刀身を眺めていた。
「そんなに考え込まなくても良い。アランも言っとったじゃろ。そんなにたいそうなもんじゃないとな」
フェルは剣を鞘に収めてガンツを見る。
「魔竜の災いに苦しんだあの当時の王国ではの、数え切れんほどの人間が死んだ。アランがワシにその剣を打って欲しいと頼みにきた時、アランはパーティの仲間の1人を魔獣との戦いで亡くしたばかりじゃった。もう同じことは繰り返したくないと彼奴は言っとった。無くしてきたのは仲間の命を助けるために魔物に投げつけたとか言っとったかの。その後命を救われた奴が長い時間をかけ探してその剣を拾ってきたそうじゃが、アランはもう要らぬと言いおったらしい。その頃にはアランは辺境伯になっておった。必要とする奴に使って貰えばいいとそうライアンに言ったそうじゃ」
その割にこの剣に対してライアンさんの扱いが雑だった気もするが、それはおいておこう。
「ライアンもライアンでそんなめんどくさい事を頼んでくるなと思っておったようじゃがな。なんにせよ、その剣はオヌシに出会う時を待っておったのだ」
そしてガンツは出会った時と同じ優しい目をする。
「とりわけ想いを込めて作られた道具はな、それに見合った使い手を待っているもんじゃ。魂が宿っているとまでは言わん。そんなことはあるわけはないのだ。だがの。長いこと生きていた中で、作られた道具がまるで運命のように、使いこなす者のところに惹き寄せられられていくのをワシは何度も見た。また相応しくない者には災いが降りかかり、その道具を手放していく様子もな。まぁ安心せい。オヌシのようにまっすぐな想いでその剣を振るう限りそれはオヌシを裏切ることはない。前にも言ったじゃろ。その剣はもうオヌシのものだ。これからも大切に使っておくれ」
「しかし、私は……」
フェルが何かを言おうとしたけれどそのまま下を向いてしまった。
「たとえその剣を抜く機会がなかろうと、それはオヌシに必要なものじゃ。そうじゃろう?だから気にするな」
下を向くフェルにガンツは優しい声でそう言った。
やがて馬車は商業ギルドに着き、アランさんに言われた通り、ギルドマスターのダニエルさんに手紙を渡す。
次の日再びチコの村にダニエルさんを含めた数人の職員と向かい、商業ギルドの人達に塩の作り方を教えて帰った。
領都に戻った僕たちは出来上がった銭湯に行き、王都の公衆浴場よりもさらに充実した設備になったお風呂を満喫する。
明日はいろいろお土産になりそうな物を仕入れて、一晩寝たら、いよいよ僕たちは王都に帰る。
お茶のおかわりはフェルが淹れてくれた。使っていたお茶の葉が良いものだったから2杯目の紅茶は素晴らしく美味しいものになった。ガンツの機嫌も良くなったみたいだ。
アランさんとはそのあといろいろ雑談して、執事の人がアランさんを呼びに来るまで楽しくいろんな話をした。
アランさんの冒険者時代の話はとても面白くって、独特の言い回しや、自分がしでかした失敗を面白おかしく伝えてくれる。
良い人だな。素直に心からそう思った。
そして僕たちが帰ろうと立ち上がると、フェルが腰から鞘ごと剣を抜き、テーブルの上にそっと乗せる。
「昨晩ケイから聞いて納得がいった。この剣は元々は貴殿のものであったのだろう?私は今までこの剣に何度も助けられた。今では自分の半身のような気がするくらい素晴らしい物だ」
アランさんは少し困った顔になる。
言わなきゃ良いのに。そんな顔だ。
「私たちは信じられない値段でこの剣を譲り受けた。初めは確かにサビだらけでボロボロな物だったが元々が良いものであったからな。ガンツの作だと後で知ったが、いつかは元の持ち主に返さなければならぬと、そう思っていた」
アランさんはフェルの剣を取り、鞘を抜いてその刀身を眺める。
想いのこもった表情でその剣を光に翳し、何度も手首を返しながらアランさんはいろんな角度で剣を眺めた。
「私はその剣を打ったガンツもそうだが、その剣を打たせた貴方のことも尊敬している。あの当時、魔竜の被害はとてつもないものだった。私は幼いながらも王国の冒険者たちが命をかけてこれに対処したという話を聞いて育った。私も……そうなりたいと……皆を守る剣になりたいとそう思ったのだ」
「フェル。お前の気持ちは嬉しいが、とんだ買いかぶりもいいとこだぜ?確かにあの時ガンツに折れない剣をってねだったけどな、あん時は魔獣相手に負けない硬い剣が欲しくてそう言っただけのことだ。山の中で落としてしまったのは……まあその時はその時の状況があってたまたまそうなっちまっただけのことだ。大事にはしてたが、人ひとりの命より重たい剣なんて無いからな。あの時はあれで仕方なかったんだ」
ガンツは少し笑っていた。懸命に拵えた剣を無くしてきたアランさんにガンツは酷く怒鳴り散らしたことだろう。アランさんも全力で言い訳をしたはずだ。
「フェルがその剣を使っていると言う話もガンツから聞いて知っている。人を守る剣と言ったらしいな?そう思ってそれを使うお前はきっとその剣に見合った正しい使い手ってことなんだと思うぜ。あん時の俺はそんな大層なことを考えてなかったぞ。俺が攻撃を受け止めたらみんなの仕事がやりやすいだろってそれ持って前に出ただけだ。偉そうなことなんて何もしていない」
アランさんは剣を鞘にしまってフェルの前にしっかりと立ちその剣をフェルに差し出した。
「これはもうお前の剣だ。世の中には理不尽なことが多い。その理不尽からお前はお前の愛するものたちを守ればいい。騎士ではもう無いだろうがその心は騎士に通づる。実際返してもらってもな、俺の場合それでこれからどれだけの人を守らなくちゃいけねーんだって話になるからな。それは少し困るんだ。だからそれはこのままお前が持っていればいい。俺の代わりに守るべき者を守ってやってくれ」
まだ何か言いたそうなフェルだったけどうやうやしくその剣を受け取りアランさんに深く頭を下げた。
それを見たアランさんは「良いってそういうの」と慌ててフェルのことを真っ直ぐ立たせた。
帰る時は一緒に行くからなと、帰り際にアランさんがまるで昔からの友達みたいに言って、謁見?
とにかくお城での話し合いは終わった。
オークキングの報告と僕が見つけてしまった塩の作り方について王様に報告しなければならないそうだ。あんまり大袈裟にしないでねと僕が言ったらアランさんは笑っていた。
お昼の時間もだいぶ過ぎてしまった。
帰りの馬車の中でフェルは自分の剣を抜き、ずっと刀身を眺めていた。
「そんなに考え込まなくても良い。アランも言っとったじゃろ。そんなにたいそうなもんじゃないとな」
フェルは剣を鞘に収めてガンツを見る。
「魔竜の災いに苦しんだあの当時の王国ではの、数え切れんほどの人間が死んだ。アランがワシにその剣を打って欲しいと頼みにきた時、アランはパーティの仲間の1人を魔獣との戦いで亡くしたばかりじゃった。もう同じことは繰り返したくないと彼奴は言っとった。無くしてきたのは仲間の命を助けるために魔物に投げつけたとか言っとったかの。その後命を救われた奴が長い時間をかけ探してその剣を拾ってきたそうじゃが、アランはもう要らぬと言いおったらしい。その頃にはアランは辺境伯になっておった。必要とする奴に使って貰えばいいとそうライアンに言ったそうじゃ」
その割にこの剣に対してライアンさんの扱いが雑だった気もするが、それはおいておこう。
「ライアンもライアンでそんなめんどくさい事を頼んでくるなと思っておったようじゃがな。なんにせよ、その剣はオヌシに出会う時を待っておったのだ」
そしてガンツは出会った時と同じ優しい目をする。
「とりわけ想いを込めて作られた道具はな、それに見合った使い手を待っているもんじゃ。魂が宿っているとまでは言わん。そんなことはあるわけはないのだ。だがの。長いこと生きていた中で、作られた道具がまるで運命のように、使いこなす者のところに惹き寄せられられていくのをワシは何度も見た。また相応しくない者には災いが降りかかり、その道具を手放していく様子もな。まぁ安心せい。オヌシのようにまっすぐな想いでその剣を振るう限りそれはオヌシを裏切ることはない。前にも言ったじゃろ。その剣はもうオヌシのものだ。これからも大切に使っておくれ」
「しかし、私は……」
フェルが何かを言おうとしたけれどそのまま下を向いてしまった。
「たとえその剣を抜く機会がなかろうと、それはオヌシに必要なものじゃ。そうじゃろう?だから気にするな」
下を向くフェルにガンツは優しい声でそう言った。
やがて馬車は商業ギルドに着き、アランさんに言われた通り、ギルドマスターのダニエルさんに手紙を渡す。
次の日再びチコの村にダニエルさんを含めた数人の職員と向かい、商業ギルドの人達に塩の作り方を教えて帰った。
領都に戻った僕たちは出来上がった銭湯に行き、王都の公衆浴場よりもさらに充実した設備になったお風呂を満喫する。
明日はいろいろお土産になりそうな物を仕入れて、一晩寝たら、いよいよ僕たちは王都に帰る。
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