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【三】
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その日も俊乗は、後ろで繰り広げられているお玉の痴態に気付いた素振りもなく、祈祷を終え寺へと帰った。
お玉は、その夜も夜着を大きく波打たせ、激しく胡瓜と戯れた・・・彼女にとって、いまや胡瓜は俊乗の魔羅そのものであった。
護摩祈祷も最終日となった。
「俊乗様、本当に有り難うございました、これでわたくしの大願も成就いたします」
「・・・はい、その奇特な心掛け、きっと御仏もお聞きくださいましょう」
俊乗が壇に向き直り、袈裟を正して経を読もうとしたその時、お玉がその広い背中にしなだれかかった。
一瞬の出来事だった。
驚いた俊乗が落ち着き払った声で言う。
「お止めなさい、お玉殿・・・・」
そして、お玉を振り解くように袖を払う。
「ああっ、俊乗様っ、お願いでございます・・・今日が最後なんて嫌っ・・・わたくしの、私の気持ちを察してくださいませ・・・」
お玉は、再び俊乗に取り付くと、その手を取って自分の着物の裾へと持ってゆき、自分で大きく胸をはだける。
「ええいっ、離れなさいっ!」
俊乗が一喝して、決然と立ち上がる。その袖に必死にすがりつくお玉。
「お願いでございますっ・・・俊乗様っ、私に恥をかかせないでっ・・・」
露わになった乳房を揺らしながらお玉が哀願する。
俊乗は、怒気を帯びた表情で、しかし努めて静かにその場を立ち去ろうとする。
「俊乗様っ、お願いでございます・・・お願いでございます・・・私を抱いて!」
俊乗は無言でその場を離れようとするが、お玉は泣きながら食い下がる。
はだけた着物の裾から真っ白な太腿が露わになる。
「・・・俊乗様っ・・・どうしてもわたくしの思いを叶えて下さいませんの・・・・」
「・・・判り切った事を」
「・・・・どうしても・・・だめですの・・・・どうしても・・・」
お玉の美しい声が、低くしわがれたものに変わってゆく・・・・。
「・・・俊乗様・・・・その魔羅を私に・・・・」
お玉の白く美しい肌が逆立つ鱗に変わり始め、目が三日月のように吊り上がり口が耳まで裂け、焔のように上向きに揺れる長い黒髪の間から恐ろしい角が生え始めた。
見る見るうちに、下半身が長く伸びてゆき、生きながらに蛇身となったお玉が、俊乗めがけて襲い掛かる。
「俊乗っ・・・私と交わるのだ!・・・その魔羅で私と・・・」
恐ろしい蒼い火焔を上げて、のたうち回る大蛇が俊乗を絡め獲ろうととぐろを巻く。
「・・・お玉殿が・・・大蛇に・・・」
驚いた俊乗は、数珠を片手に裸足で逃げ出した。
十丈を超えるような大蛇と化したお玉が、襖を壊し、柱をへし折り、家から溢れ出てのたうちながら俊乗の後を追いかける。
念仏を唱えながら必死で逃げる俊乗を、恐ろしい大蛇となったお玉が追う。
息を切らせて走る俊乗が賀茂川の近くの深い淵に差し掛かった時、大蛇はその淵に飛び込んで渦を巻いて水底へと消えていった。
俊乗は後ろも顧みず寺へと走った。
それ以来、付近には大蛇が出て、通りかかった男を淵に引きずり込むようになったという・・・。
人々は恐れおののいて淵には近寄らなくなり、街道の人の往来も絶えた。
困り果てた里の者達は、管領の役人に訴え出た。
男を取って淵へと引きずり込む大蛇の噂は京の都まで響き渡り、その頃、都で剛勇をもって知られた板垣という侍が、軍を率いて大蛇退治に出た。
大蛇は彼の矢で仕留められ、巨大な蛇体はずんずんに断ち斬られた。
里には平穏が戻った。
人々は、その大蛇の死骸を集めて淵のほとりに埋め、お玉の執心悪行、蛇体変化の罪障を弔うために御影石で堂を作り、仏像を安置して香華を供えた。
俊乗はその堂の前で三日二番経を読んで、お玉の霊を弔ったという。
この堂はいつからともなく「胡瓜堂」と呼ばれるようになった・・・・胡瓜が端緒となって起こった出来事だからである。
応仁の乱中に京の都は荒れ果て、民衆は京を離れたが、この胡瓜堂は未だにその場所にあるという・・・・。
お玉は、その夜も夜着を大きく波打たせ、激しく胡瓜と戯れた・・・彼女にとって、いまや胡瓜は俊乗の魔羅そのものであった。
護摩祈祷も最終日となった。
「俊乗様、本当に有り難うございました、これでわたくしの大願も成就いたします」
「・・・はい、その奇特な心掛け、きっと御仏もお聞きくださいましょう」
俊乗が壇に向き直り、袈裟を正して経を読もうとしたその時、お玉がその広い背中にしなだれかかった。
一瞬の出来事だった。
驚いた俊乗が落ち着き払った声で言う。
「お止めなさい、お玉殿・・・・」
そして、お玉を振り解くように袖を払う。
「ああっ、俊乗様っ、お願いでございます・・・今日が最後なんて嫌っ・・・わたくしの、私の気持ちを察してくださいませ・・・」
お玉は、再び俊乗に取り付くと、その手を取って自分の着物の裾へと持ってゆき、自分で大きく胸をはだける。
「ええいっ、離れなさいっ!」
俊乗が一喝して、決然と立ち上がる。その袖に必死にすがりつくお玉。
「お願いでございますっ・・・俊乗様っ、私に恥をかかせないでっ・・・」
露わになった乳房を揺らしながらお玉が哀願する。
俊乗は、怒気を帯びた表情で、しかし努めて静かにその場を立ち去ろうとする。
「俊乗様っ、お願いでございます・・・お願いでございます・・・私を抱いて!」
俊乗は無言でその場を離れようとするが、お玉は泣きながら食い下がる。
はだけた着物の裾から真っ白な太腿が露わになる。
「・・・俊乗様っ・・・どうしてもわたくしの思いを叶えて下さいませんの・・・・」
「・・・判り切った事を」
「・・・・どうしても・・・だめですの・・・・どうしても・・・」
お玉の美しい声が、低くしわがれたものに変わってゆく・・・・。
「・・・俊乗様・・・・その魔羅を私に・・・・」
お玉の白く美しい肌が逆立つ鱗に変わり始め、目が三日月のように吊り上がり口が耳まで裂け、焔のように上向きに揺れる長い黒髪の間から恐ろしい角が生え始めた。
見る見るうちに、下半身が長く伸びてゆき、生きながらに蛇身となったお玉が、俊乗めがけて襲い掛かる。
「俊乗っ・・・私と交わるのだ!・・・その魔羅で私と・・・」
恐ろしい蒼い火焔を上げて、のたうち回る大蛇が俊乗を絡め獲ろうととぐろを巻く。
「・・・お玉殿が・・・大蛇に・・・」
驚いた俊乗は、数珠を片手に裸足で逃げ出した。
十丈を超えるような大蛇と化したお玉が、襖を壊し、柱をへし折り、家から溢れ出てのたうちながら俊乗の後を追いかける。
念仏を唱えながら必死で逃げる俊乗を、恐ろしい大蛇となったお玉が追う。
息を切らせて走る俊乗が賀茂川の近くの深い淵に差し掛かった時、大蛇はその淵に飛び込んで渦を巻いて水底へと消えていった。
俊乗は後ろも顧みず寺へと走った。
それ以来、付近には大蛇が出て、通りかかった男を淵に引きずり込むようになったという・・・。
人々は恐れおののいて淵には近寄らなくなり、街道の人の往来も絶えた。
困り果てた里の者達は、管領の役人に訴え出た。
男を取って淵へと引きずり込む大蛇の噂は京の都まで響き渡り、その頃、都で剛勇をもって知られた板垣という侍が、軍を率いて大蛇退治に出た。
大蛇は彼の矢で仕留められ、巨大な蛇体はずんずんに断ち斬られた。
里には平穏が戻った。
人々は、その大蛇の死骸を集めて淵のほとりに埋め、お玉の執心悪行、蛇体変化の罪障を弔うために御影石で堂を作り、仏像を安置して香華を供えた。
俊乗はその堂の前で三日二番経を読んで、お玉の霊を弔ったという。
この堂はいつからともなく「胡瓜堂」と呼ばれるようになった・・・・胡瓜が端緒となって起こった出来事だからである。
応仁の乱中に京の都は荒れ果て、民衆は京を離れたが、この胡瓜堂は未だにその場所にあるという・・・・。
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