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第三話 「結界破りと魔女の復活」

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 「結界僧達は一体なにをしておるのだ!」

 近衛隊長が怒りにまかせて叫ぶ。

 王宮には、魔術や魔力者から女王達を護るため、魔力によって結界を張る「結界僧」と呼ばれる強力な魔力者が数十人待機して、王宮をすっぽり包み込むような、目には見えない大規模な結界を作り、魔力の使用を察知する警報装置のような役割を担っている。


 その時、廊下から息を切らせた一人の守衛兵が飛び込んできた。

 「隊長殿っ、結界僧がっ・・全員石になっております!」

 「・・・そ、そんな馬鹿なっ・・・そんなことがあり得るのかっ・・・」

 人を石化する魔法は、ほとんど百年に一人という異常な魔力を持った魔力者だけが可能な、強力な魔法である。
 しかも数十人を一度に石化するなど、前代未聞である・・・。


 「おほほほっ、王付きの魔力者もちょろいもんねっ!」

 ・・・すっかり静まり返った広間に、甲高い女の声を響いた。

 蜂の巣を突いたような騒ぎの中でも、凛とした表情を崩さなかった女王・リュディアの顔色がサッ・・・と変わる。

 「・・・そっ、その声は、まさか・・・」

 その瞬間、三羽の大きなカラスが宮殿の小窓から入ってきたかと思うと、玉座に座っている女王リュディアのエメラルドの髪飾り、アレッタ姫やパリエル王子のネックレス等を鋭い鍵爪で奪い去り、再び宮殿の小窓から飛び去って行った。

 身に着けている者が魔法の対象とされることに抗力を発揮する、エメラルドを奪った鮮やかな手口・・・。

 「うふふっ、お久しぶりでございます、リュディア様・・・」


 黒いローブを纏い、銀の装飾品を身に着けた黒髪の若い女が突如として女王の前に出現した。

 「おっ・・・お前はっ、ロミア!・・ど、どうしてっ、封印の間で永久凍結の刑を受けていたはずロミアが・・・」

 魔力者ロミア、20年ほど前に、その魔力を使い地方で騒乱を起こした魔女である。
 ロミアは、村民の心を魔術で惑わし私兵に変え、領主を殺害し一か月ほど辺境の城を占拠し暴虐の限りを尽くしたのだ。
 ロミアの反乱の報を受けた女王リュディアが、国軍と直属の魔力兵を派遣、多少の犠牲はあったがロミアを捕らえ、永久凍結の刑に処したのである。

 ロミアは確かに、物体を動かしたり破壊する物理系魔法から、人の精神や身体を自由に操る精神奪取など、全ての魔法に長けた強大なパワーを持ってはいたが、100年に一人と言われる国の脅威となるような魔力者ではなかったはずだ。

 現に20年前は、王立魔力軍の前に屈している。

 しかし今夜見せられた魔力は、そんな20年前の彼女と同一人物とは思えない、恐ろしいほどの強大な魔力であった。

 「あらっ、リュディア様のお隣にいらっしゃるのは・・・お姫様ですのね、確か、アレッタ姫様とおっしゃいましたか・・・お母様にソックリで素晴らしい美しさでございますわねぇ♥」

 「お前がどうしてここに・・・まさか、あの封印を解いて結界を抜け出したというの?」

 ロミアは軽く笑って王女リュディアに向かって言う。

 「ええっ、20年もあんなところで固まっていると、もう退屈で死にそうですものっ・・・」


 その時、宴に招かれていた客の中から、一人の若い騎士が剣を片手に飛び出した。

 「・・・この魔女めがっ!女王様達に狼藉は許さぬっ!」

 腰の長剣を高々と振り上げ、ロミアに斬りかかった騎士は、ロミアのひと睨みであっという間に石へと変わって、床に倒れて砕け散った。

 「ギャアアアッ!」

 女性達の悲鳴が広間に響き渡る。

 「わっ、わしは関係ないっ・・・無関係だぁ!」

 デップリと太った、これ見よがしに金銀の装飾品を身に着けた中年貴族がパニックになって、人々を押しのけて広間から逃げ出そうとする。

 「ふふっ、みっともないことっ・・・」

 ロミアが逃げる中年貴族に掌を向けると、その指先から青い光が放たれ、中年貴族は風船のように弾け飛んで辺りに肉片の雨を降らせた。

 再び起こる女性達の狂気のような悲鳴。

 「逃げる者はこうなるからねっ!・・・でも、安心して・・・逃げない限り、貴方達には危害は加えないわ」

 怯えて泣き出す者もいる宴の参列者に向かって、ロミアは優しい声で言う。

 そうして、玉座に座っている女王リュディアとアレッタ姫、そして彼女の婚約者のパリエル王子を舐めるようなイヤラシイ目で見つめる・・・。

 「うふっ、20年経っても変わらない美しさでございますねぇ、リュディア様っ・・・いや、女の色気は昔よりも磨きがかかっていますわね♥」

 ロミアの眼光が青く変わると、女王リュディアの身体が硬直したように動かなくなり、大の字になった体が空中に磔になったように宙に浮く。

 「キャアアッ、なっ、何をっ!・・・ロミアっ」

 「ああっ、お母様ぁっ!」

 「リュディア女王っ・・・」

 リュディアの両隣りのアレッタ姫とパリエル王子が、思わず立ち上がって駆け寄ろうとするが、身体が椅子に吸い付いたように動かない・・・・これもロミアの魔力によるものだ。

 「・・・ああっ、リュディア様が・・・魔力で・・・」

 広間の壁際に固まって身を小さくしている祝宴の参列者達は、先ほど石にされた若い騎士や、逃げようとして一瞬にして肉塊となった中年貴族を見て恐れ、事の成り行きを見守るしかない・・・。

 「ま、魔法を解きなさいっ、ロミアっ!一体何が目的なのっ?」

 「あらっ、ご挨拶じゃないっ、リュディア様ぁ♥20年間置物みたいに封印されていた私がやっとこうしてシャバに出てこれたっていうのに・・・」

 「くううっ、一体どうやって・・・あの強力な結界を・・・・」

 女王リュディアは、ロミアを睨みつける。


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