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第五十三話 ランプの炎に妖しく揺らぐ羅刹女の姿 ~女泣村の女王蜂との対峙!~
「・・・幸介さん・・・一人だけで今すぐにこの村から逃げて・・・お願い!」
しかし幸介は大きく首を横に振って力強く言った。
「そんなことは嫌だ!僕は菊さんと一緒にこの村を出るんだ・・・そして、一緒に東京に行こう、そして夫婦になろう!僕は・・・菊さんと夫婦になりたい!」
「・・・こ、幸介さん・・・」
「だって・・・僕は父親になるんだろう?愛する妻と、これから生まれてくる僕達の子供と離れ離れになるくらいなら、ここで呪いで死んだ方がましさ!」
「・・・し、知っていたの?・・・ああっ、幸介さんっ!」
幸介がニッコリとほほ笑むと菊の目から涙がこぼれる。
「菊さん、僕の子供を身籠ってくれて有難う!・・・・まずはここから抜け出すことだよ、待って、すぐに助けてあげるから・・・いまこの錠を開ける道具を探してくるよ!」
幸介が牢の頑丈な南京錠をこじ開ける為の道具を探すため、引き返そうとした瞬間、不意に後ろから声が響く!
「・・・まったく馬鹿な男だねぇ!この村で大人しくオス蜂になってりゃ、女は抱き放題の極楽だったというのに・・・」
洞窟内にこだまするその冷たい声は、蜂ヶ谷家の女当主、志津だった!
その後ろには、娘の凛子!・・・そして幸介の縛めを自分で解いたのだろう、この秘密を幸介に白状した女中頭のセツも乱れた着物を羽織って幸介を睨みつけている!
セツは幸介との激しい交合で失神した後、ほどなくして意識を取り戻し、自分で手足の戒めを解いて主人の志津の元に走ったのだろう。
・・・女性を縛るという乱暴な行為に躊躇し、つい縛り加減を緩めてしまった幸介の甘い気持ちが招いたミスであった。
「・・・ああっ、し、志津さん!凛子さんもっ・・・あっ、セツさんっ・・・」
「幸介さん・・・貴方には失望したわ、もう少し利口な男だと思ったけど」
セツの持っているランプの光が風に揺らめき、美しい志津の顔が幸介には一瞬、羅刹女のように見えた。
「・・・し、志津さんっ!どうして菊さんをこんな目に?いくら女中と言えどもこんな酷い仕打ちは許されない・・・許されるはずがない!」
幸介は志津の妖しく光る冷たい視線に負けないよう彼女の目を睨み返す!
「よそ者はこの村の事に首を突っ込むのはおよしなさい・・・貴方はただオス蜂となって、何も考えずに村の女を抱いて「種」を撒いていればそれでよかったのよ、さあ、今なら見なかったことにしてあげるわ、幸介さん・・・だって貴方は優秀で逞しくて、とってもいい男なんですもの!村の女達はみな貴方に抱いてもらうのを心待ちにしているのよ・・・もちろん私もね」
「そんなことはイヤだ!僕は操り人形なんかじゃない!・・・それに菊さんをこんな目に合わせている貴女達を僕は許せない!一体どうして菊さんをこんな目に?」
・・・志津は妖艶な顔に邪悪な笑みを浮かべ、幸介を小馬鹿にしたように口を開く。
「・・・簡単なことよ・・・菊が孕んだからよ・・・」
菊が幸介の子を妊娠したことは志津も知っていたのである。
「それがどうして?・・・・どうして菊さんを監禁する理由になるんだ?」
「貴方にも一度お話したでしょう?お忘れになった?・・・・この女達だけの「蜂の巣」・・・女泣村では、オス蜂と交尾をして、最初に生まれた女の子がこの蜂ヶ谷家の当主に迎えられ、代々この女達の「巣」を率いてゆく掟なのよ・・・」
「そ、それじゃあ菊さんのお腹にいる子供が次の蜂ヶ谷の・・・いや、村の「女王蜂」・・・それでいいじゃないか!それが昔からのこの村の掟ならば・・・何も問題はないじゃないか!」
志津は恐ろし気な目で幸介を睨みつけると隣に立っている凛子をチラリと眺める。
「オホホホッ、馬鹿な事をお言いでないよ!余所者が!・・・孤児の女中風情が産んだ子がこの蜂ヶ谷の当主になるですって?フンッ、そんな馬鹿な事が許せるものですか!村の女王蜂・・・当主の座は私の血筋・・・そう、この凛子が生んだ子が継ぐのよ!」
・・・そう、この村では、よそ者の子種を村の女全員に注いでもらい、最初に生まれた女の子が養子の形でこの蜂ヶ谷家の当主となり、村を率いてゆく「女王蜂」となる掟なのだ。
女ばかりの村ゆえ、赤ん坊自体が貴重なこの特殊な村で自然に形作られた「巣」を維持してゆく上での知恵なのであった。
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