【短編エッセイ】 紙魚の海

糺ノ杜 胡瓜堂

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第十四話 「鬼僕の事」

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 根岸鎮衛著「耳嚢みみぶくろ」 巻之四

 
 「鬼僕の事」より

 芝田何某という、幕府の御勘定(会計)を勤めている人が、美濃で行われている工事の御用で去年出張した際の話。

 その際、一人の下僕を供として連れて行ったのだが、その下僕は普段から真面目な男であった。

 旅の途中のある夜、宿に泊まった芝田某が寝ていると、夢とも現ともなくその下僕が枕元に来て、

 「実はわたくしは人間ではございません・・・魍魎もうりょうと呼ばれるものです、よんどころなき事情ができましたので、急な話では御座いますがお暇を頂きとう存じます」

 ・・・・と言うのだった。

 柴田某が、「よんどころない事情であれば暇をつかわすが、その理由を教えて欲しい」

と申し出ると、その下僕が言うには、

 「私達の役目は、人間の亡骸を取り上げるもので、その順番が私に回ってきたのでございます、この宿から一里ばかり下った所で百姓の何某が亡くなりましたので、私がその死骸を取りにいかなくてはなりません・・・・」

 そう言って、下僕は消えるようにいなくなった。

 翌朝、柴田某が、「他愛もない夢をみたものだ・・・」と思っていると、かの下僕が行方不明となっていたので大変に驚いた。

 夢で見た通り一里ほど下った所にある村に行って聞いてみると、まさに亡くなった百姓がいた。

 驚いて詳しく聞いてみると、昨日葬儀を営んだのだが、葬送の途中、突然黒雲が立ち込め棺桶の中の死骸が無くったとのことだった。

 「あの下僕は本当に人間ではなかったのか・・・」

 と、柴田某はいよいよ驚いたという。


 「耳嚢」には、怪談、奇談といった類のものも多数収録されていて非常に面白いのですが、この話などはまさに怪談っぽいですね。

 「夜叉やしゃ」とか「羅刹女らせつにょ」と言われるものも人間の死骸を取って食うと伝えられているので、この下僕もそういう一族だったのかもしれません。

余談ながら、江戸時代は「小噺」と同様、「怪談」もまた大流行しました。

 これも耳嚢に載っている話なのですが、例の「番町皿屋敷」のお菊の霊が乗り移った「お菊虫」が大発生したという「都市伝説」も残っています。
 この「お菊虫」、背中の部分に、手を後ろ手に縛られた女の姿が浮き出ているように見えるとか・・・。


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