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第二十二話 「大福を祈りて福を得し事」
しおりを挟む根岸鎮衛著「耳嚢」 巻之九
「大黒を祈りて福を得し事」より
浅草福井町に、元禄の頃といかいう事だが、いたって困窮していた善五郎という男がいた。
善五郎はいつも正直な男で、大黒様を信仰していたがその験もなく、ある年の暮れにいよいよ困窮極し、妻に向かって、
「このように年も越せず、もう本当に生きている甲斐もない、俺達夫婦が生きてゆくための他の方法もないから、俺は・・・この辺りの金持ちの家に盗みに入って、幾らかでも金を盗んで、それで年を越そうと思う・・・」
そう言うと、妻は、
「おまえさんっ、そんな恐ろしいことを言うのはよしておくれ・・・食べ物がなくなったら夫婦で飢え死にするだけだよ・・・そんな道に外れることはしてはいけないよ・・・」
妻は必死に押し止めた。
隙間風が身に染みる寝室で男は目が冴えて眠れなかった。
・・・妻の言う通りだが、それにしてもどうにかしないといけない・・・俺は・・・
妻が寝たのを確認して、男はそっと家を抜け出して近所の金持ちの家に盗みに入ることを決心した。
夜も更けて寝静まっている金持ちの家の板塀から中を覗くと、どういうわけかまるで昼の様に灯が光り輝いているのが見えた。
「家の者も寝ているはずなのに、これはどういうとこだ?・・・・」
・・・と、塀に手をかけて登ろうとした瞬間、薄く雪が積もっていたのに手を取られ、ドスンと地面に叩きつけられて男は気絶してしまった。
男が気絶しているその夢心地の中で、大黒様が現れた。
大黒様の周りには、おびただしい金銀財宝、大判から小判までが山のように積まれ、まるで昼間のように光り輝いている。
夢の中で男が、
「・・・大黒様、私は長年貴方様を信仰しているのですが、そんなに沢山ある財宝のほんの少しでも、私には与えて下さらないのですか?」
・・・と恨み言を言った。
大黒様は大きな声で笑う。
「ああ、これか・・・この金銀には全て持ち主がいるのじゃよ、わしもお前にやりたいのじゃが、お前に与えるべき「福分」がないのでな・・・・与えることはできん」
男がガックリと肩を落とすと、大黒はニコニコしながら続ける、
「じゃがな・・・・この金銀財宝の持ち主から借りればいいのじゃよ・・・」
「・・・・借りる?・・・その財宝の持ち主は誰でございますか?」
「この近くの木戸際に菰を被ってい寝ている無宿(浮浪者)がおる、その者にお前の欲しいだけの金額を証文にして渡して借りるとよいぞ」
「・・・・む、無宿からですか・・・・」
男がいかにも胡散臭げに思ったところで夢から醒めた。
「はっ・・・これは大黒様のお告げだったのか?・・・・それにしても無宿・・・」
男は半信半疑で、そのあたりを探すと、いかにも汚げな無宿が、菰を被って道端に転がっているのを見つける、
男は、その無宿を起こし声をかける。
「・・・おい、起きてくれ!・・・頼む、俺に三百両貸してくれないか?」
寒い師走、やっと寝入ったところを、変な事をいうヤツに叩き起こされ、無宿はすこし腹を立てながら答える。
「・・・おい、お前、頭ダイジョウブか?俺が三百両持っているように見えるか?三文も持ってないわっ!」
「・・・・い、いや・・・俺もお前さんが金を持っているようには見えないのだが・・・」
男は、先ほどの大黒様からのお告げの話をその無宿に聞かせる。
そして、お告げの通りに、証文(借用書)を作ってその無宿に渡し、その縁で色々との無宿の身の上も聞いた。
彼は、今は無宿として江戸の町を浮浪しているが、元々は相当に身分のある者だったという。
「たしかにお前さんから三百両借りたよ、俺の思い通りになったら、その時に取り立ててくれよ」
そう言って、義兄弟の契約をして分かれた。
家に帰った男は、妻にその話をしてバタバタと家の中を探し始めた。
「どこかに大福様からの授けものがあるはずだ・・・・」
家の根太(床下の横木)まで押し上げてくまなく探すと、床下の土が小高く盛り上がっている場所があった。
夫婦で掘り返して見ると、土の中から三百両という金が出てきたのだ。
夫婦は、この三百両を元手にして一生懸命稼いだので、数年後には裕福になった。
男は、かの無宿を江戸中を探し出してやっと見つけ、財産を分配して、それが元で無宿は元の身分に戻れたという。
こうして、両家は相応に暮らすことが出来るようになったが、男の家には子供がなかった。
元・無宿の家には子供があったので、そちらを本家として末永く親戚付き合いをしたという。
・・・・非常にめでたいお話でした。
私は落語も好きなのですが、お正月にはよく、新春にふさわしいハッピーエンドの演目がチョイスされます。
「芝浜」「おかめ団子」等ですね・・・・。
この話もそういうハッピーエンド系の奇談と言えます。
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