【短編エッセイ】 紙魚の海

糺ノ杜 胡瓜堂

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第八十五話 「気の毒なる奇病の事」

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 根岸鎮衛著「耳嚢」 巻之九


 「気の毒なる奇病の事」より


 鍼医の云栄氏のところにある屋敷の家来の奥方が治療を依頼しにきた。
 彼女は、ことのほか腹が張って苦しいとのことだった。

 云栄が診察すると確かに腹は張っているが、脈などは別条なかった。

 奥方は云栄に小声で打ち明けた。

 「去年の冬頃から、大変放屁が多くて難儀しております、特に来客などがあって放屁を我慢すると、余計苦しくなって気分が悪くなってしまうのです・・・」

 云栄は、大変気の毒に思い出来る限りの治療をして帰った。

 次の日、奥方の家から「大変楽になりました」と礼があった。

 数日後、云栄が見舞に行くと、奥方は「放屁を四五日も我慢すると、また腹がはって苦しくなってしまいます」という。

 「いくら放屁が恥ずかしいと言っても、出るものをあまりに我慢するのは良くありません、女性だからと恥ずかしがらずに放屁したくなったら我慢せずにお出しなされ」

 云栄が治療を施しながらそう言うと、奥方は嬉しそうに五度も六度も放屁をしたので、その臭気が甚だしく云栄も難儀して、重ねの見舞いは遠慮したという。


 第四十話でご紹介しました「放屁にて闘諍に及びし事」もそうですが、人前でオナラをすることは、大変恥ずかしいことだとされていました。

 この奥方のように、お腹にガスが溜まる体質だと本当に気の毒です。
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