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第八十七話 「「耳嚢」の著者、南町奉行・根岸鎮衛の逸話」
しおりを挟む松浦静山著「甲子夜話続篇」
巻九十八、一〇「御城外廻以前之事」より
増上寺の僧侶である竹尾善筑に会った時、彼から聞いた話を思い出したままに記す。
寛政の頃、その能力を買われ町奉行に登用された根岸肥前守鎮衛という人は、徒士(下級武士)の出身で、御勘定奉行を歴任し、町奉行まで昇り詰めた男である。
私も以前会ったことがあるが、背が高くよく肥えた、不器用で慇懃な感じの男であった。
善筑和尚の話では、鎮衛はこんな話をしたことがあるという。
「私(鎮衛)が、これまでお裁き(裁判の判決)で死罪にした者は十人くらいであるが、憐れむべきことである・・・」
それを聞いた者が不審に思って鎮衛に聞いた。
「長年(注:18年)のお役の中で、死罪とした者がたったの十人というのは・・・はなにかのお間違いではありませんか・・・・」
鎮衛は答えた。
「いや、その罪科が明白で死罪となった者は、もとより天罰でありそれは当然の事だ・・・私が十人と言ったのは、吟味の際に、私自身は死罪にするほどの罪ではないと思ったのだが、吟味の同心与力達が強く死罪を主張したため、その言葉に押されて死罪としてしまった者達の事である。今考えれば、可哀想な事をしたと思っているのだ・・・」
鎮衛の言葉を聞いた者達はみな感服したという・・・。
あの最高に面白い「耳嚢」の著者、下級武士から南町奉行まで昇り詰めて「名奉行」として名高い根岸鎮衛の逸話です。
彼が三十年余に渡って書き記した「耳嚢」は、巷の噂話から、怪談、奇談、艶笑談、おまじないの類から、世間を騒がせた大事件まで、様々な話が記されており、大変に面白いです。
私の愛読書でもあります。
その根岸鎮衛についての逸話です。
「甲子夜話続編」の著者、肥前国、平戸藩第九代藩主の松浦清(静山)も、鎮衛に会ったことがあるということですが、言葉の端々から察するに、どうやら「俗物」的な印象を持っていたように感じます・・・。
他の文献から伺える根岸鎮衛像としては、
「声がデカい」「性格が豪快」「庶民的(町人にも気さくに接する)」・・・といったところでしょうか。
ちなみに、「耳嚢」は、岩波文庫から上中下の全三巻で刊行されていまして、比較的入手しやすいです。
是非一度読んでみて頂けると面白いと思います。
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