上 下
91 / 100

第九十一話 「蛇の怪異」~江戸時代らしい答えのない怪談~

しおりを挟む
 

 松浦静山著「甲子夜話続篇」

 巻九十七、五「同姓大膳屋敷近辺、御旗本衆屋敷厠小白蛇の怪(梅塢話)」より


 小笠原候の屋敷の近所の、小身の旗本衆の屋敷の便所に夜毎、小さな白蛇が二匹現れて、人が通るたびに鎌首をもたげて襲ってくるという。
 その為、屋敷の者も気味悪がって、その便所には行かなくってしまったということだ。

 その旗本の家で使われている一人の老婆がいた。
 彼女は元は賤しい身分の者で、たいへん気の強い女であった。
 その老婆が、便所に出る白蛇の話を聞いて、自分が退治すると言い出した。

 老婆は、火箸を真っ赤に焼いて便所に行き、白蛇が頭をもたげたところに焼け火箸を押し当てると、蛇はたちどころに消えてしまったという。

 蛇が消えると同時に、かの旗本屋敷の周りには一面に霧がたち込め、一寸先も分からなくなってしまった。
 その霧の中に、黒いモヤモヤとした「気」が固まっているのを人が見つけて騒ぎ出した。

 蛇を退治した怖いもの知らずの老婆が再びやってきて、その黒い「気」を捕まえようとしたが、妖気に当てられたのか、たちまち気絶して倒れてしまった。
 黒い「気」もその瞬間消散してしまった。

 気絶した老婆が目を覚まし、人々が彼女の身体を調べると、身体のあちこちに子蛇の咬み跡のようなものが残っていた。
 人々は、この怪異が一体何なのか分からなかったという。

 天保みずのと巳の年七月、幕臣の荻野梅塢ばいうが語った話である。


 短い話ですが、因果も原因もわからない、ただ「不思議な話」でした。
 蛇は一体何だったのか?妖怪なのか、悪霊なのか?なにかの化身なのか?・・・何も回答がありません。

 ただ「不思議な話」というのが、いかにも昔の怪談っぽい気がしました。

しおりを挟む

処理中です...