称号は『最後の切り札』

四条元

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次に目指す所は

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「しかし見れば見る程、変わった魔道具だよなぁ。」
カイルがジャズを見て言葉を漏らす。
「乗りなれるとクセになるぞ、馬より速く風になるのは快感だぜ!」
「馬より速いってマジかよ!?」
「マジだよ、超マジ。」
驚くカイルの顔が楽しい。
俺は旅支度を終え、今は村の門の前にいる。
見送りはカイル。
それと宿の親父さんだ。
「そういやカイル、お前、最初にジャズコイツ見た時に怪しく思わなかったのか?」
ファスターの村に着いてからの疑問を口にする。
オートバイなんてセカンディールには存在せんからな。
「思わねぇ訳無いだろうが!」
あ、やっぱ怪しんでたか。
「まあ怪しいのは確かだったが、追い返して酷い目に逢わせたら寝覚め悪いからな。」
マジにお人好しの良いヤツだな、カイルコイツは。

ドンゴスの一件から四日間、俺は村に滞在した。
役人に証言しなけりゃいけなかったしな。
最初の二日は村はお祭り騒ぎ。
盗賊の脅威が失くなったんだから当然か。
そして村の酒飲み共は合計三日、飲み過ぎでダメな大人と化した訳だ。
…アンタ達、急性アルコール中毒でそのうち死ぬぞ?
役人に証言をして、一日のんびり酒を楽しむ。
そして今日、旅支度を終えた俺が門の前にいる。
あ、ドンゴス達は偶然発見したので結界で閉じ込めた事にした。
魔法で偶然発見ので嘘は言ってないぞ。
ちょっと事実を少し秘密にしただけだ。

「でもハヤテ、もう村を出るのか?」
「居所を探す旅烏だからな。一ヶ所に長くは居られねぇよ。」
「それはそうかも知れないけど…。」
カイルはもう少し居て欲しいのか?
だがそれは無理だ。
まだこのセカンディール世界を楽しみたいからな。
「別に今生の別れじゃ有るまいし。近場に住むと決めたならジャズコイツで遊びに来れるだろ。」
「まあ、それもそうだな。」
「また珍しい魔物で稼げたらお裾分けしてやんよ♪」
「そいつは楽しみだ!」
ケラケラと二人で笑った。

「ところで…。」
俺は話を見送りのもう一人に振る。
「何で宿の親父さんが見送りに来てるんすか?」
そう、宿の親父さんだ。
正直この人とはあまり会話をしていない。
酒と飯の注文ぐらいだ。
「いや~、アンタには稼がせて貰ったからな!礼ぐらいは言わんとな!」
なんでも三日で半月分程稼げたらしい。
この村の連中、どんだけ呑み助なんだよ…?

「さてと、名残惜しいが行くとするか。」
俺はジャズに股がりエンジンを始動する。
「見送りあんがとね、お二人さん!」
「ああ!又会おうぜ!」
「村に来たら俺の宿に泊まれよ。サービスするぞ。」
「そんじゃあまたね♪」
クラッチを繋ぎジャズを発進させた。

あいも変わらず軽快な音を起ててジャズは走る。
目指すのはファスターから早馬で一日かかる街、セカルドル。
カイル曰く
「身分証の無い人間は怪しまれる。」
「最悪の場合、入場を拒否される。」
「早急に身分証を入手した方が良い。」
との事。
そして
「一番手っ取り早いのはギルドだ。何処かのギルドで登録してギルドカードを貰え。身分証代わりになるから街や村の入場が楽になる。」
だそうだ。
こうして俺はセカルドル行きが決まった。
あ、それともう一つ。
…若返っちゃったよ俺。
顔洗おうと水桶覗いたら、皺が消えてたよ‥。
肌が艶々モチモチだったよ‥。
18才ん時の顔だったよ‥。

「オイ、ジジイ、テメエ!!この面ァどういう事だ!?」
当然、速攻でゴッドラインしました。
「なんじゃ、いきなり!?」
「いきなりも糞もあるか!!俺の面ァ、18ん頃の面になってんじゃねぇか!!」
「当然じゃ、若返らせたからの。」
「肉体年齢だけじゃなくて面まで弄ったんかよ!?」
「当たり前じゃろ?若々しい身体のオヤジなど気持ち悪いわい。」
なに気持ち悪いの一言で済ましてんだジジイ!?
つか『見た目は青年、思考は中年』の方が怖いわ!!
蝶ネクタイの眼鏡小僧より役に立たんわ!!
「顔も身体も若々しくなったんじゃ、もっと喜ばんか。」
「俺を何処ぞの半島の顔面改造人間と一緒にすんな!!胸糞悪くて吐き気するわ!!」
「‥お主も口が悪いのう。」
口が悪いとかどうでも良いわ!!
ショボい人生の冴えない面だったが、ソレなりに経験の年輪を重ねた面と自負してたんだ!!
俺の人生経験三分の二を全否定じゃねぇか!!
「とにかくこの面ァ何とかしてくれ。」
「無理じゃな。」
「…即答かよ。」
「神である儂が世界に介入するのは大事だからの。」
「はあぁぁ~……。」
深いため息が出ましたよ、マジで…。

諦めましたよ、諦めましたとも…。
このジジイにゃ何を言っても無駄だ…と諦めましたとも…。
まあ、いきなり老けたらカイルもビビるだろうし…。
「…他には怪しい改造してねぇだろうな?」
「他には何もしとらん。」
「…分かった。」
通話オフ。
なんだろう、この遊ばれてる感?
俺の人生、どうしてこうなった‥?
「諦めよう、諦めと開き直りが肝心だ。」
普通はやけくそって言うよな、この心境は…。

「…思い出すの止めよう、気が滅入るわ。」
セカルドル迄は早馬で一日。
ジャズなら…。
「馬が早足で時速20㎞として、八時間で160㎞。休憩が一時間を三回挟めば十一時間。」
頭で計算する。
距離とかの誤差を考えても200㎞前後か?
「ソレくらいジャズコイツなら半日程度だな。」
ギアを四速トップに上げてスロットルを開ける。
メーターの針はピンについたまま動かない。
「セカルドルに着いたら飯食ってからギルドだ。せっかく異世界に来たんだから、冒険者でもやってみるか!」
土煙を上げながらジャズは走った。
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