冷遇王子を匿ったらまさかのアレがついてきた

すずね

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第3話 2

 

 放心状態の家族全員でアルベルトの馬車を見送った後、溶けたアイスがもったいなかった、捨てずに再利用してくれているだろうかなどと、どうでも良いことを考えながら皆でお茶を飲んでいると、向かいのソファでサムエルが大きな溜息を吐いた。
「全くお前という奴は、余計なことをしおって」
 現実逃避は終了、確実にまずいことになっている。
「エリアスの成人に合わせて、我が家にアルベルト殿下が降嫁することになるだろう」
 半信半疑でやり取りを見ていた家族だが、サムエルの一声でそれが現実であると実感したのか、普段は表情を崩さない母と長姉までが「ああ!」「そんな!」と短い悲鳴を上げて動揺している。
「父上……殿下は可愛いけど、男のお嫁さんは嫌です!」
「何をのんきな! だから出てくるなと言ったのだ」
 サムエルは苦虫を噛み潰したような顔でエリアスを睨みつける。
「お前がいなければ理由を付けて帰らせることもできた。殿下にとって最善の婿入り先を探すことだってできたのだ」
「え、だって、姉ね達が嫌がってるのに結婚させられると思ったから」
「はあ……そんなことするわけないだろう。お前は本当に、頭がいいのか悪いのか。だから何事も事前に相談するよう言っておるのだろうが」
(はいはい、報連相ですね、すみませんねー。だって貴族の常識って未だに分からないこと多いからさ)
「ごめんなさい。でも僕は男だよ。男同士の婚姻なんてあるの?」
「特例だが、同性同士の婚姻はある。王族や貴族の同性婚は、その地位から裁くことができない犯罪者や、血筋を残すことで混乱を招く可能性がある者などを安易に処刑しない為の措置であり、受け入れる側は自身の後継を得るために妾を持つことが許されている。監視や居場所の確保が目的の婚姻であるから、冷え冷えとした関係であることが多い。たとえ兄弟姉妹のような家族愛に恵まれたとしても、真の夫婦のような関係は期待できないだろう」

 現在十五歳のアルベルトは、東の島国が属国となる際に嫁いできた第一側妃ハナの子で、王妃に疎まれていることにより、周囲からも冷遇されていた。
 王妃のマクタリーナは四大公家の娘で、彼女の息子である第一王子ラファエルが成人した際に立太子している。
 同じく彼女の息子である第二王子セバスティアンは学者肌で、魔術研究の道に進んでいるため出席必須の公式行事でしか見ることはない。
 彼らと同母の姉である二人の王女は国内外の貴族のもとに既に降嫁している。
 第二側妃として西の連合国から嫁いできた姫もいるが、まだ幼いため離宮で過ごしており、人前に出ることはない。

「マクタリーナは私の従姉なのだけれど、昔から本当に性格が悪くてね。ハナ殿下は、王国に嫁いだ時からずっと嫌がらせをされているのではないかしら。前に、アルベルト殿下が優秀だという噂が出回った直後に暗殺未遂事件があったの。犯人は王妃かその派閥だって分かっているのに、実行犯が自死したことでうやむやになってしまったわ。最近のラファエル殿下は勢いばかりで周囲の意見を聞かず、傲慢な様子が目立っているせいか、下位貴族がハナ殿下やアルベルト殿下にすり寄ってきているのを見て、強硬派が不穏な空気になっているそうよ。ちょうど良い年頃の娘が二人いる我が家なら、どちらか1人くらい婚約者になってもらえると思ったのかしらね。アルベルト殿下はハナ殿下の母国である島国の政務を行う事を希望していたはずなのに、同性婚でもいいから我が家にすがるくらい状況は切迫しているのね」
 社交界で表やら裏やらの様々な情報を仕入れているバレンティーナは、困惑を隠しきれない表情でエリアスを見た。
 事情を知れば不憫ではある。
 だが、王子は娶るが、エリアスは愛人を迎えて事実上の嫁を持ち、子を成し、本妻である王子は居候のように扱い、愛人や子を持つことは認めないというルールが納得できない。
 普通に、同性カップルとしてアルベルトと愛し合い生涯を共にしろ、と言われたほうがまだ納得できる。
 現実問題として男を愛せるのか、となると自信はないのだが。
 十歳の情緒では、理屈は分かっても恋愛についての想像は難しい。
 だが、性別や恋愛の括りを外せば、懐かしさを感じる顔立ちはかなり好感が持てる。
 そして何より可愛い。
(シュッとして格好いいけど、まだ少しだけ子供っぽさが残っているところが可愛いんだよな)

「この後、正式に王家から書状が届くだろう。断ることはできないが、『候補』とつけることで猶予を稼ぐという手はある。アルベルト殿下のお考えが分からない今、答えを出さずにやり過ごす」
 サムエルはそう言うが、実は兄ができることを期待する気持ちもある。
 母と姉と侍女に囲まれ、父とはなかなか会えず、従者は優しく頼り甲斐はあるが距離を感じている。
 従者も侍女も使用人なのだから当然だが、もっと砕けた関係の仲間が欲しかった。
 どんな人物か分からないので、まだ警戒してはいるが、娶るのならば仲良くしたい。
 なんだかんだで男の嫁を受け入れ始めている。
「まだ婿入りするかどうか分からん者に情報を与えたくない。エリアスはしばらく新しいことをするなよ」
「え? 婿? お嫁さんでしょ?」
 サムエルは頭を抱え、バレンティーナは溜息を吐きながら頭を横に振る。
「どっちでも良いが、何かやる時はまずは儂かバレンティーナに言うのだぞ」
「はーい!」
 エリアスは、そんな事は当然だとばかりに良い返事を返した。
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