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8.出航の警笛
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第八番 嬰へ短調 Molt agitato
7月も下旬が近づいた頃、高校から駅へ向かう帰宅途中で聡は僕に向かって
「はぁ憂鬱だよな~」
そう言って盛大な溜息をついた。
「期末テストのことか?」
海の日から始まる夏休みという学生にとっては夢の時間を迎えるためには期末テストを乗り越えなければならない。
「まぁそれもあるけどさ」
ふぅ。とまた溜息をつきながらもそんなことは当たり前だと言わんばかりの顔をする。
「じゃあ、なんだよ」
面倒くさいけど聞いておいてみることにした。
「テスト終われば夏休みだろ?」
「ああ、そうだな」
「夏休みと言えば毎日が日曜日という学生特権の夢の時間だ」
「どうかな。まぁ授業を受けなくていいのは嬉しいかな」
「夢の時間なんだよ!」
聡は語気を強める。
「なのにさ、高校二年の夏休みだっていうのに、女の子との夏の想い出がこのままじゃ何も作れないんだぜ」
「ああ、そんなことか」
聡の悩みというのは大抵がこんなものだ。真剣に聞く程でもないのは毎度のことでもある。だからといって重たい悩み事ではないことが返って僕との日常に変わりもないことを告げてくれているようで良い意味で悪く感じない。
「そんなことか?って来年は進路考えないといけないんだぜ。高校生活っていっても二年までが青春ってやつを謳歌できるタイムリミットってなもんだ」
なんだか熱血教師の台詞でも引用しているのかなと僕は思った。
「そうでもないんじゃないかな。部活やってりゃ三年の夏が最後の青春って奴だろ?」
「・・・」
聡は少しの間を置いてから
「お前帰宅部じゃん!」
なぜ僕のことに突っ込みをいれる。
「僕のことはいいんだよ。お前は放送部だろ。放送部に女の子いないのかよ?」
僕はとくに興味のない質問を仕方なくする。
「いねえよ。なんでかなぁ、女子アナ目指したいって子は世の中たくさんいるくせにうちの高校の生徒にはそんな子いないのか放送部に入ってくれる女子がいねえんだよ」
聡は納得いかない台詞を吐き捨てる。
「なるほど女子アナか。うむ。たしかにそういう理由ならいてもおかしくはなさそうだな」
僕は頷いてしまった。
「だろう?」
聡はうまいことを言ったと得意げに返事を返す。
「女子が入部してこないってってことは、お前の放送スタイルがAMっぽいからないからじゃないかな?ほら文化祭の出し物でやったお前がDJの番組」
「なんだよAMっぽいって。AM局の方々に謝れよ」
漫才師のずっこけかのように大袈裟に体を揺らして反論してくる。
「だけどFMの方がさ、綺麗な声のお姉さんが湘南の海に似合う音楽流したりしてる雰囲気あるよな」
僕はテレビをみる習慣がないのでせめてラジオを聴けよと聡から勧められて、ラジオは音楽が流れてくることがあるから悪くはないなと思い深夜ラジオを少しだけ聞いていた。
「くっそ。どうせここは横須賀だよ!お前だって、神奈川県ヒエラルキーってものを知ってるだろ?どうしても俺ら横須賀市民は湘南にコンプレックスがある。なんといっても車のナンバープレートと言ったら親の仇くらいに思えるくらいだ」
聡は聡なりの例えで主張を譲らない。
「車のナンバープレートは違うんじゃないかな。横須賀は横浜ナンバーじゃんかよ」
「原付は横須賀だ!」
本当どうでもよい神奈川県ヒエラルキーとやらだが『湘南』は聡にとってNGワードだったらしく妙に刺激してしまったのか、くそくそと聡は腹の虫が収まらなくなってしまった。
「俺の放送、AMっぽいかな~」
と怒っていたかと思えば聡はしょげだし始めた。まるでジェットコースターのように気分が上昇下降する。
「湘南の海に流れるラジオか・・・まぁいいよなそれ」
なんだかんだ湘南に憧れもあるのも事実らしい。
「別に悪いと言ってるわけじゃないぞ。女の子が放送してみたくなる放送を目指してみたらってことさ」
とにかく放送部が活躍する場所など文化祭か体育祭程度しかなく部活動のアピール場が少ないのは気の毒ではある。
文化祭でラジオ番組をした時には「帰宅部や部活合わなくてやめた奴とかが、俺の放送聞いて放送部に興味もってくれるはず」だなんて息巻いていたけど結局中途からの新入部員はなしだった。二年は聡だけで三年生と一年生は皆兼部しているから普段ほとんどいないらしい。
とりあえず現状の放送部において青春を送ることには気の毒だが諦めるしかなさそうだ。
「この先歩む世界ってやつはさ、青春ってやつをいつ振り返ってもいつでも美化できる人間が住む世界と、そうでない人間の住む世界どちらかになると思うんだ」
「いきなり、何の話だよ」
相変わらず話題がいきなり吹っ飛ぶな。
「俺は青春をいつでも美化できる住人になりたいんだよ」
聡は気にせずに切実な気持ちを吐き出しながらつぶやきを続ける。
「例えばさ。学校のマドンナと付き合える人間と、そうでない人間のどちらかなんだ」
そりゃまたえらく具体的だな。まぁ確かに誰かはそうなれる特権階級な人間はいるだろう。
「そりゃあさ、アイドルと付き合えるなんて思わないけどさ、クラスのマドンナくらい夢みたいじゃないかよ。例えば松田さんとかよー」
例えがえらく具体的になってきた。松田さんというのはバスケット部所属のスポーツ少女。すらっとしてて顔立ちも整ってる。人それぞれ好みはあるだろうが美人なのは間違いないかな。
「何か接点でもあるのか?」
「・・・・まったくない」
「クラス一緒になって3ケ月もたってまったくないんじゃまぁ無理なんじゃないかな?」
「だよな・・・」
「ああいう子と話せるのは社交的行動派かつクラスの一軍になるしかないわけだ。だけど俺らは無派閥でしかも二軍。無駄にあがくもんじゃないぜ」
僕はもっともな理由で聡を悟す。
「ああ俺とお前はたしかに二軍だよ。二軍だって、女の子と一緒になってで何か取り組みたいじゃないかよ。The青春みたいなさ」
とにかく憤慨が収まらないらしい。最近失恋でもしたのだろうか。
「とにかくその青春ってやつの基準がよくわからないんだけど、特別したいことがあるわけじゃないんだろ?」
こうした質問をしてみると聡はだいたい言葉に詰まってこれ以上を諦める。
「うううぅ」
呻き声をあげるととともにこの件に関しては断念したらしい。
「さあとにかく帰ってテスト勉強するのがとりあえず得策だと思うぜ」
僕はもう聡との会話に付き合うのも疲れてきたので話を切り上げるよう促した。
「とにかく俺だって向こう側の世界にいきたいんだよ」
若干泣きっ面だった。
「なんだよ、向こう側の世界って」
「向こう側っていったら向こう側だよ」
今日の聡は感情の起伏が激しいようだ。ただそれは何か別の事に藻掻いているようにも見えた。それが言葉に現せられないもどかしさなのか。僕も夏休みについて何をすべきか少しは考えて過ごすべきなのかとも思える。そうでないと時間なんてあっという間に過ぎ去ってしまうものなのだろうから。
そう思ったのも一時の事で、結局僕には夏休みの重みというものをとくに感じることはなかった。
*
期末テスト最終科目となる現代文の終了を告げる鐘が鳴ったようだ。鐘の音は僕には聞こえないが、皆が開口一番に
「あー終わったー」
「できた?」
「あの問題さ~」
各々が反省会をしはじめたのを横目に確認するとことで今学期が終わりも告げる鐘が鳴り終わったことを認識する。
毎回テストの結果はいまいちだ。僕はどちらかというと成績はあまりよくはない。ただここのところはピアノを練習する時間がなくなったためいつもよりかは勉学に勤しんだから多少はましな成績だろう。それでも点数が芳しくないのは現代文だ。今回のテストもさっぱりな感触だった。
音大への進学を考えてもいたが、コンクールに勝てれば所属なんてどこでもいいと思っていたし、高名な教授に習ってみたいという気持ちもなかった。
ならば理系に進むか文系か。教育学部で音楽の教員免許をとっておくのも生活のためならば、それもありかなとか考えたりもしている。そうとなると国立を目指すわけであるが絶望的な現代文をなんとかしなければいけないなと思う。ただ今日はテストが終わったばかりだし、自分の進路について深く考えるのはやめることにした。
聡を帰りに誘おうと声をかけようとしたがフリーズしている。表情を覗き込んでみると、意気消沈しており能面のような顔となっていた。お互い夏休みの補習は決定のようだ。
*
期末テストが終わると学校は一学期終業式。校長先生のありがたいお言葉を頂くと僕はそのまま通院の予約が決まっていたので病院に足を運んだ。
診察はいつも通り何も進展はなく終えた。
海岸公園でお見舞いの約束をしてからまだ美海を訪ねてはいない。
僕は『なぎさ棟』を目指して歩き出すも途中途中何回も足は止まってしまう。今度は何を話したらよいのか話題が浮かばないからだ。
そんなうだうだと引き返す言い訳を探しながら足を進めていくと『なぎさ棟108号室』の前に着いてしまった。
ここまで来てもノックを躊躇う。また返事がなかったらいいかなとかも考えてえしまう。
一度深呼吸をしてから僕は扉をノックした。
「どうぞ」
部屋の中から返事がした。
僕は少し俯きながら余所余所しく扉をゆっくりと開ける。
「こんにちは」
目を合わせずに会釈を済ませる。言葉のままにお見舞いにきたわけだけれど本当に大丈夫だっただろうかと一抹の不安を感じる。
恐る恐る顔を上げると、穏やかな顔でこちらを見てくる美海がベットの上に座っていた。また部屋着のようなラフな格好だったので視線は反らしてしまう。
「あっ響君こんにちは」
まるで海岸公園の会話の続きのようなトーンで接してくれたので緊張の糸が解けていく。
「お見舞いにきたよ、具合はどうかな?」
「ありがとう、悪くはないよ」
たしかに表情をみると入院患者という感じはしない。手元をみると楽譜を眺めていたようだ。
「譜読み?」
僕は手元を指さして尋ねる。
「うん。もう暗譜は出来ている曲だけれど、こうして読み返したりするよ。読み落としてしまっているところがあるかもしれないしね」
「うん、それは大事なことだね」
自分もよくやることだ。
それから僕は病室を簡単に見渡すと花瓶に花が添えられていることに気付いた。誰かがお見舞いで持ってきた花なのかもしれない。僕は手ぶらできてしまったことをしまったことを少し後悔する。
「お花が飾ってあるけれど、誰かお見舞いにきてくれているのかな?」
自分の失態は置いておき話題の切り口として目についたものから話を始めてみることにした。
「うん、昨日お友達が持ってきてくれたの。小学校からの同級生なんだけどね。高校からは別々になっちゃったのだけれど今でも仲良しの同級生なの」
「そうか、それはよかったね」
高校のクラスメイトはお見舞いに来たことはないと話していたから誰か話相手はいないのかなと勝手な心配をしてしまっていたから少しだけ安堵する。僕だって今では聡がいてくれることがありがたいと思うから。
ただ、その友人とやらに共通の接点ではないわけなのでそれ以上会話は弾まない。花の名前もわからないし。
「入院生活はどうかな?」
僕には経験のないことなので単純に質問をしてみたくなった。
「うーん、学校にいけなくて勉強が出来ていないのは困るかな。一応教科書は持ってきていて自習はしてみているけれど。そういえば期末テストってもう終わっちゃったよね?」
美海は今思い出しようで日付を気にし出した。
「残念ながら先日終わったよ。今日が終業式だったんだ」
「そっかぁ。結局一学期は一度も学校にいけなかったなぁ」
悔しい気持ちがあるのだろう。視線を床に落とすと声のトーンも下がる。
「明日からは夏休みなんだし、その間に後れを取り戻せるといいね」
退院の目途がたってもいない患者に向かってそう口にするのは酷なのかもしれないと分かってはいたけどそう声をかけるのが精一杯だった。
「好きな科目とかある?音楽以外で」
「科目?現代文は好きかな。本を読むの好きだから」
話題を変えたことでまた視線を床から戻してきてくれた。
「現代文か・・・僕は一番の苦手科目だね」
「それじゃ響君の好きな科目は?」
「そうだな、物理と歴史は好きかな」
「物理?」
「そうだね。物理はそこに答えが用意されているからシンプルで楽しいね。歴史はもしを考えたとしても今が存在しているから、それが答えなわけだし。現代文は問題だから答えが用意されているとはわかってはいるのだけど筆者のいうことをいちいち解釈しなくちゃいけないだろう?それで何が言いたいのかを理解するのが面倒臭いというかさ。それが本当に答えなのかなとか考えてしまうんだ」
我ながら妙に熱っぽく語ってしまっている。そんな僕を美海は耳を澄ましながら聞いてくれていた。
「そういえば病気のヒロインの小説がとか話していたものね」
海岸公園で話したことを思い返す。
ちらと視線を外すと病室には小さな本棚が設置されていることに気づいた。小説と思われる文庫やハードカバー本、教科書も並べられている。
「病室でも本を読んでいたりするの?」
本棚を指さして尋ねてみる。
「ん?そうだよ。気分転換に小説を読んだりしてるよ」
そう返事をすると美海も本棚に視線を移す。
「小説楽しいよ」
そう口にするなり棚に視線は置いたまま何かを考えはじめてしまった。
僕は無言のまま美海の動きに注視し続けていると、美海は一冊の本を手に取って僕に差し出してきた。
「この本の作品集のなかの『セロ弾きのゴーシュ』なんか読んでみない?」
本のタイトルは宮沢賢治作品集と書かれたものだった。
「セロ弾きのゴーシュ?」
「うん、セロはチェロのこと。チェロ奏者が主人公だから私この作品好きなの」
本を薦められたが読書習慣などない僕が読了することができるか不安だ。
そんな僕の心情を見透かしたように
「大丈夫、セロ弾きのゴーシュは短編だから最後まですぐに読めるよ」
と付け加えてくれる。
「この作品童話だし、動物が次々とゴーシュの演奏を聴きにくる話なのだけどね。私初めて読んだ時は小学生だったから、私もチェロ弾いていたら動物が遊びにきてくれるんじゃないかって思ったりしたの」
「でも、年齢を重ねて何回も読み返していくうちにゴーシュの心情の変化について考えるようになって」
口調の滑らかさから、物語の魅力を伝えたい気持ちが伝わってくる。
それから美海は少し何かに躊躇いながら言葉を選ぶように僕に語りかけてきた。
「あのね、音楽だけが聴こえないってことは、何か音楽で悩んでしまっているのかなとか勝手に考えちゃって、それでセロ弾きのゴーシュがそれとどう関係するのかとかはうまく言えないけれど、もし何かの役に立てたらなって思って」
美海はおろおろしながらも僕に本を差し出したままでいる。
僕は何て返事をしていいのか分からなかったけれど本を受け取った。
「美海も大変なのに心配してくれてありがとう。本、読んでみるよ」
単純にそう感謝の意を伝えた。
美海はほっとしたのか表情がっぱっと明るくなった。
「ゆっくりでいいからね」
そう付け加えてくれた。
そして本を鞄に入れると僕はそこでさよならをすることにし病室を後にした。
自宅に戻り鞄を机の上において、制服を着替える。
僕は鞄から借りた本を取り出してみた。
音楽が題材の童話だし短編なので美海のお勧め通り容易に読み終えることが出来た。
だけれども読み終えたところでこれといった心情の変化が生まれるという感覚はなかった。
もう一度読み返してみようかと思ったところでば夕食を知らせる母親の声が居間から聞こえたので、僕は本を閉じ部屋の灯りを消して自室を後にした。
*
夏休みが始まった。世間は通常通りの週末。聡が言うように長期休暇など学生の特権なのかもしれないが、僕はとくに何をするでもなく家で怠惰な毎日を過ごしている。扇風機の前に横たわって楽譜を眺めては寝るの繰り返しだ。ピアノを取り上げられると僕という器の中身は見事に空っぽであることを実感する。ピアノがもう弾けないかもしれないのに楽譜を眺めてしまう。幼いころからの習慣でもあるので。
ただ少しだけこの楽譜については特別な意味を持って譜読みを続けてみている。それは本当に少しだけ僕の心に沸いてくる感情なのだけれど、今の僕に何故その感情が沸いてくるのかは言葉に出来ない。
午後3時は過ぎた頃に聡からLINEがきた。寝ぐせ頭をぽりぽりと掻きながらスマートフォンの画面に視線を落とす。
『釣りでも行かないか?』
僕は倉庫から釣竿を取り出して自転車で久里浜港まで出かけた。
横須賀は坂の街だ。僕の住む家も坂の上にある。だから出かける時はいつも坂を下っていけるので風が心地よい。僕は少し前傾姿勢をとり重力に任せて加速しながら下っていった。車ならたいした速度でなくても自転車の体感速度は比にならない。坂の終わりに赤信号が見えたのでブレーキレバーを握ると、ブレーキシューの鳴く音がわずかに緊張感をあたえてくる。坂をくだる時は気持ちいい。反面帰りはひたすらこの坂道を登らなければならないということではあるだけれどもね。世の中都合の良い事ばかりでないものだ。
待ち合わせ場所のペリー公園に着くと、僕の隣町、浦賀に住んでいる聡の方が先に来ていた。自転車を飛ばしてきたのか少し汗をかいていて、浜風に吹かれた直毛のとんがり頭が塩っ気によっていつもよりもとんがり具合が強くなっていた。いがぐりというよりはウニみたいな頭だ。
僕と聡は時たま釣りをする。以前はピアノばかりだったけど、聡と出会ってからはこうして外の空気を吸うことも気分転換になってかえってピアノの調子がよかったりもする。釣りを趣味にしているというわけではなく、時間を潰すアイテムに釣りが丁度良い、というだけだ。二人でアオイソメの入った餌箱一つを割り勘で買い、あとはコンビニでおにぎりと唐揚げとジュースを買うだけで半日の時を無駄にできる。
僕らは久里浜港の防波堤に移動し、釣りの準備を始めた。ここは水産加工会社の水揚げ場所だけれど週末は操業していないので釣り人がよく集る。本来は立ち入り禁止なのかもしれないけれど。針に餌をつけて、竿を勢いよく振る。針に餌をと簡単に言うがアオイソメは生きているので、生きたまま針を呑み込ませるという一見残酷なようにも思える行為に釣りの覚えたての頃は戸惑ったものだが直ぐに慣れた。
投げ釣りをするためにリールのベイルを外して釣り糸を人差し指で抑え竿を後方に構える。針先の糸の揺れが収まったのことを確認してから竿を振りかぶる。シュッという風切り音を奏でながら竿はしなり、ジェット天秤は海面に向かって弧を描きながら飛んでいく。
ポチャンと音とがしたらリールが止まるまで天秤を海底まで落としベイルをロックさせる。少し糸を巻いたら後は魚が食いついてくれるのを待つだけだ。本当はあたりをさぐりながら海底の魚を狙うのだけど真面目に釣りをしているわけでもないので竿はひたすらほったらかし。久里浜港はコチやカレイといった海底に巣食う魚が釣れる。カレイが釣れると周囲にはちょっとした人だかりができるものだ。
僕は波止場の船止めに腰を下ろす。黒い鉄の塊はけっして座り心地のよいものではないが地面に座るよりはいい。
隣のおっちゃんは簡易チェアをもってきて腰かけている。スーパーカブでやってきたらしくキャリアにはクーラーボックスを括り付けてあるから大物を釣り上げる気満々なんだなと思ってしまう。おっちゃんの上半身は裸だ。たるんだ腹を隠しもせずにふんぞり返っている。僕もいつかはあんなおっちゃんのような釣りのスタイルにでもなるんだろうかと考えてしまった。
隣に停泊している漁船とつなぐロープが波にゆられてぎしぎしと音を立てていた。
遠くの方からカモメの鳴く声が聞こえてくる。
聡は釣竿を持ったまま、ごろりとアスファルトの上に横になった。こちらも実にやる気のない釣りスタイルだ。
「昼は過ぎたが暑いよな・・・」
僕は丁度竿を投げ終えたところだったけど何も答えなかった。聡も別に返事が欲しかったわけじゃなく適当に出た台詞なのがわかっていた。
時刻は16時を過ぎたところ。魚が釣れるのは潮の満ち引きがある時間がよい。朝か夕方がベストってところだろうが単純に炎天下の下で釣りをする気にはならないからだ。それでも16時じゃまだまだ暑い。
ぼんやりと海を眺めていると赤白に彩られた東京湾フェリーの『くりはま丸』が寄港してきた。東京湾フェリーは久里浜港から千葉県の金谷港まで約40分で東京湾を横断するらしく、早朝ともなると千葉のゴルフ場へいく車の輸送に賑わうらしい。らしく、らしいというのも僕は東京湾フェリーに乗ったことはないからだ。
フェリーがボーッと警笛を立てる。
聡は相変わらず寝っ転がったまま
「この警笛が黒船の音だったらなぁ」
また唐突に意味のわからないことを空に向かって口にする。
「だってさ、ここからペリー提督が上陸したんだろう?それから幕末に向かってたくさん英雄が生まれてさ、英雄っていうのは混沌のなかから生まれてくるものだろ?」
「俺の人生にだって何か世の中が変わってしまうような出来事が起きれば、俺だって英雄になれたかもしれないんだぜ?」
たしかそんなような歴史上の人物に憧れるシーン、聡が読めといって貸してくれた漫画にあったような。しかし仮に混沌が起きたとしても聡が英雄になれるかは疑わしい。ただ、たしかに歴史に名を刻んだ英雄には何か大きな出来事があったからなのは間違いないかな。何かが起きて、その何かに向かっていけるエネルギーがとんでもなくあったのだろう。僕がそんな状況におかれたら僕は何が出来るのだろうかとは一時考えたけどすぐにやめた。
歴史上の人物を知ることは嫌いではない。学校の隣には三笠公園があるので日本海海戦はわりと好きでもある。僕は音楽だけしか知らないという人間なわけにはなりたくないかなと思うように少しずつ変わってはきたけれど、まだ世の中の流行にはとんと疎いままである。
自己分析をはじめてしまっていたが聡の演説は続いていた。
「もういっそ異世界転生でもいいんだけどな。もちろん英雄役で俺TUEEEな設定でさ」
まったくもって言葉の意味はよくわからなかったけど、聡が刺激に飢えていることは理解した。そして期末テスト前に話していた「向こう側の世界」って話の続きでもあるように察っする。具体的に何かしたい事があるわけではないが高校生らしい青春を謳歌したいってことなんだろうなと。
僕は久里浜海岸の方を眺めた。大学生らしき男女達がバーべキューを楽しんでいる。
聡も視線を這わせており、少し恨めしそうに眺めては溜息をついている。何かそれについて話をしたそうな雰囲気もあったが、口にしたところでどうにもならなという諦めの表情も汲み取れる。
それから僕らはしばらく無言のまま釣りを楽しむことにした。
おっちゃんのバケツを横目に覗き込むと数匹のコチがはいっていた。僕らのバケツは海水が入っただけの状態だ。
すっかり夕暮れとなってきた。
「んん!」
簡易チェアに座ってまるまると肥えた腹を突き出していたおっちゃんが嬌声を上げた。
おっちゃんの竿がぐぐっとしなる。格闘すること数分。海面に平べったい魚のシルエットが浮かび上がる。
「「カレイだ」」
僕と聡も声を同時に発した。
おっちゃんはたもを海面に落とすと40cmばかしのカレイを釣り上げた。おっちゃんは上機嫌でクーラーボックスにカレイを押し込むと僕らにむかって白い歯を見せ、カブのエンジンをかけて50ccの独特なエンジン音をファンファーレのように奏でながら帰っていった。
港に少し灯りが付き始めた。
僕は聡に話をしたいことがあったのだけれど、なかなか切り出すことが出来ないでいた。それは僕のなかでまだ何も準備が出来ていないからでもある。
久里浜海岸に目を向けると大学生らしき人達も帰る準備をしている。さっきまでは上半身水着ではしゃいでいたお姉さんも上着のシャツを着ていた。
ボーと警笛が聴こえてくると共に久里浜港にまた『くりはま丸』が寄港してきた。金谷港に人を運んで、今度は金谷港から久里浜港に人を運んでくる。時間はあっという間だなと感じた。
小さな女の子がお父さんに連れられて甲板にあがっていた。僕らに向かって手を振っているようにみえたので、僕は思わず手を振り返してしまった。そんな僕を聡は少し不思議そうにみていた。自分自身も驚いてはいるが、聡に話を切り出すタイミングがみつからず、ざわついている心がそうさせてしまったのかなと思った。
それから僕は少しの間を置いて、
「なぁ、お前って願い事ってあるか?」
ついこの間、僕が質問されたことを聡にもしてみた。
「願い事?なんだよ急に。そんなこと急に言われてもなぁ」
「とくにはないんだな?」
「なくはないだろうけど急には思いつかないよ」
美海のことを話して良いのか悩んだけど、誰かに相談してみたい気持ちがあったし、相談できるのなんか聡しかしないので僕は意を決して話を続けた。
「演奏を録音したいんだ」
僕はそう話を切り出した。
「録音?そりゃしたらいいじゃないかと言いたいところだけど、お前、その、やっぱり耳まだ駄目なんだろう?」
「いや、僕のことじゃないんだ。話が唐突すぎたな。余計な心配をさせてしまってすまん」
話の切り出し方というのは難しいものだ。
「えっと、何から話したらいいか・・・」
「この間、教えてくれたクラスメイトで入院している潮崎さん。彼女、僕が通院している病院と同じだったんだ」
それから僕がぶっ倒れた夜に出会ったこと。ピアノの音にまたやられてぶっ倒れて迷惑をかけてしまったこと。お詫びにまた会いにいったこと。彼女の病名。録音の願い。これまでの経緯を聡に話した。
聡は寝転びながらも僕の方に顔を向けながらだまって僕の話を聞いてくれた。
「なあ、お前がしたいとびっきりの夏の想い出ってやつにはならないかもしれないけどさ、夏休みの間、その録音に向けて何かやってあげられることってないかなって考えててさ」
浜風が僕らに向かってぴゅうと吹く。
聡は何も答えずむくりと起き上がってリールを巻いた。きりきりきりとベアリングの回る音だけが二人の世界を包み込む。竿が一瞬しなったようにもみえたが、巻き上げた針の先は海藻がついているだけった。
「・・・・。坊主だな」
僕はそう呟いた。
「ああ。坊主だ」
聡も呼応し、二人してどうしようもない台詞を吐き捨てる。
「坊主か・・・」
針先に興味をなくした聡はもう一度そう呟き、
「いいぜ。誰かのために何かやってみる。そういうのもありかもな。協力するぜ」
次の乗船客を乗せ終えた『くりはま丸』はまた金谷港に向かって出航し始めた。
ボーッと警笛を鳴らして。
7月も下旬が近づいた頃、高校から駅へ向かう帰宅途中で聡は僕に向かって
「はぁ憂鬱だよな~」
そう言って盛大な溜息をついた。
「期末テストのことか?」
海の日から始まる夏休みという学生にとっては夢の時間を迎えるためには期末テストを乗り越えなければならない。
「まぁそれもあるけどさ」
ふぅ。とまた溜息をつきながらもそんなことは当たり前だと言わんばかりの顔をする。
「じゃあ、なんだよ」
面倒くさいけど聞いておいてみることにした。
「テスト終われば夏休みだろ?」
「ああ、そうだな」
「夏休みと言えば毎日が日曜日という学生特権の夢の時間だ」
「どうかな。まぁ授業を受けなくていいのは嬉しいかな」
「夢の時間なんだよ!」
聡は語気を強める。
「なのにさ、高校二年の夏休みだっていうのに、女の子との夏の想い出がこのままじゃ何も作れないんだぜ」
「ああ、そんなことか」
聡の悩みというのは大抵がこんなものだ。真剣に聞く程でもないのは毎度のことでもある。だからといって重たい悩み事ではないことが返って僕との日常に変わりもないことを告げてくれているようで良い意味で悪く感じない。
「そんなことか?って来年は進路考えないといけないんだぜ。高校生活っていっても二年までが青春ってやつを謳歌できるタイムリミットってなもんだ」
なんだか熱血教師の台詞でも引用しているのかなと僕は思った。
「そうでもないんじゃないかな。部活やってりゃ三年の夏が最後の青春って奴だろ?」
「・・・」
聡は少しの間を置いてから
「お前帰宅部じゃん!」
なぜ僕のことに突っ込みをいれる。
「僕のことはいいんだよ。お前は放送部だろ。放送部に女の子いないのかよ?」
僕はとくに興味のない質問を仕方なくする。
「いねえよ。なんでかなぁ、女子アナ目指したいって子は世の中たくさんいるくせにうちの高校の生徒にはそんな子いないのか放送部に入ってくれる女子がいねえんだよ」
聡は納得いかない台詞を吐き捨てる。
「なるほど女子アナか。うむ。たしかにそういう理由ならいてもおかしくはなさそうだな」
僕は頷いてしまった。
「だろう?」
聡はうまいことを言ったと得意げに返事を返す。
「女子が入部してこないってってことは、お前の放送スタイルがAMっぽいからないからじゃないかな?ほら文化祭の出し物でやったお前がDJの番組」
「なんだよAMっぽいって。AM局の方々に謝れよ」
漫才師のずっこけかのように大袈裟に体を揺らして反論してくる。
「だけどFMの方がさ、綺麗な声のお姉さんが湘南の海に似合う音楽流したりしてる雰囲気あるよな」
僕はテレビをみる習慣がないのでせめてラジオを聴けよと聡から勧められて、ラジオは音楽が流れてくることがあるから悪くはないなと思い深夜ラジオを少しだけ聞いていた。
「くっそ。どうせここは横須賀だよ!お前だって、神奈川県ヒエラルキーってものを知ってるだろ?どうしても俺ら横須賀市民は湘南にコンプレックスがある。なんといっても車のナンバープレートと言ったら親の仇くらいに思えるくらいだ」
聡は聡なりの例えで主張を譲らない。
「車のナンバープレートは違うんじゃないかな。横須賀は横浜ナンバーじゃんかよ」
「原付は横須賀だ!」
本当どうでもよい神奈川県ヒエラルキーとやらだが『湘南』は聡にとってNGワードだったらしく妙に刺激してしまったのか、くそくそと聡は腹の虫が収まらなくなってしまった。
「俺の放送、AMっぽいかな~」
と怒っていたかと思えば聡はしょげだし始めた。まるでジェットコースターのように気分が上昇下降する。
「湘南の海に流れるラジオか・・・まぁいいよなそれ」
なんだかんだ湘南に憧れもあるのも事実らしい。
「別に悪いと言ってるわけじゃないぞ。女の子が放送してみたくなる放送を目指してみたらってことさ」
とにかく放送部が活躍する場所など文化祭か体育祭程度しかなく部活動のアピール場が少ないのは気の毒ではある。
文化祭でラジオ番組をした時には「帰宅部や部活合わなくてやめた奴とかが、俺の放送聞いて放送部に興味もってくれるはず」だなんて息巻いていたけど結局中途からの新入部員はなしだった。二年は聡だけで三年生と一年生は皆兼部しているから普段ほとんどいないらしい。
とりあえず現状の放送部において青春を送ることには気の毒だが諦めるしかなさそうだ。
「この先歩む世界ってやつはさ、青春ってやつをいつ振り返ってもいつでも美化できる人間が住む世界と、そうでない人間の住む世界どちらかになると思うんだ」
「いきなり、何の話だよ」
相変わらず話題がいきなり吹っ飛ぶな。
「俺は青春をいつでも美化できる住人になりたいんだよ」
聡は気にせずに切実な気持ちを吐き出しながらつぶやきを続ける。
「例えばさ。学校のマドンナと付き合える人間と、そうでない人間のどちらかなんだ」
そりゃまたえらく具体的だな。まぁ確かに誰かはそうなれる特権階級な人間はいるだろう。
「そりゃあさ、アイドルと付き合えるなんて思わないけどさ、クラスのマドンナくらい夢みたいじゃないかよ。例えば松田さんとかよー」
例えがえらく具体的になってきた。松田さんというのはバスケット部所属のスポーツ少女。すらっとしてて顔立ちも整ってる。人それぞれ好みはあるだろうが美人なのは間違いないかな。
「何か接点でもあるのか?」
「・・・・まったくない」
「クラス一緒になって3ケ月もたってまったくないんじゃまぁ無理なんじゃないかな?」
「だよな・・・」
「ああいう子と話せるのは社交的行動派かつクラスの一軍になるしかないわけだ。だけど俺らは無派閥でしかも二軍。無駄にあがくもんじゃないぜ」
僕はもっともな理由で聡を悟す。
「ああ俺とお前はたしかに二軍だよ。二軍だって、女の子と一緒になってで何か取り組みたいじゃないかよ。The青春みたいなさ」
とにかく憤慨が収まらないらしい。最近失恋でもしたのだろうか。
「とにかくその青春ってやつの基準がよくわからないんだけど、特別したいことがあるわけじゃないんだろ?」
こうした質問をしてみると聡はだいたい言葉に詰まってこれ以上を諦める。
「うううぅ」
呻き声をあげるととともにこの件に関しては断念したらしい。
「さあとにかく帰ってテスト勉強するのがとりあえず得策だと思うぜ」
僕はもう聡との会話に付き合うのも疲れてきたので話を切り上げるよう促した。
「とにかく俺だって向こう側の世界にいきたいんだよ」
若干泣きっ面だった。
「なんだよ、向こう側の世界って」
「向こう側っていったら向こう側だよ」
今日の聡は感情の起伏が激しいようだ。ただそれは何か別の事に藻掻いているようにも見えた。それが言葉に現せられないもどかしさなのか。僕も夏休みについて何をすべきか少しは考えて過ごすべきなのかとも思える。そうでないと時間なんてあっという間に過ぎ去ってしまうものなのだろうから。
そう思ったのも一時の事で、結局僕には夏休みの重みというものをとくに感じることはなかった。
*
期末テスト最終科目となる現代文の終了を告げる鐘が鳴ったようだ。鐘の音は僕には聞こえないが、皆が開口一番に
「あー終わったー」
「できた?」
「あの問題さ~」
各々が反省会をしはじめたのを横目に確認するとことで今学期が終わりも告げる鐘が鳴り終わったことを認識する。
毎回テストの結果はいまいちだ。僕はどちらかというと成績はあまりよくはない。ただここのところはピアノを練習する時間がなくなったためいつもよりかは勉学に勤しんだから多少はましな成績だろう。それでも点数が芳しくないのは現代文だ。今回のテストもさっぱりな感触だった。
音大への進学を考えてもいたが、コンクールに勝てれば所属なんてどこでもいいと思っていたし、高名な教授に習ってみたいという気持ちもなかった。
ならば理系に進むか文系か。教育学部で音楽の教員免許をとっておくのも生活のためならば、それもありかなとか考えたりもしている。そうとなると国立を目指すわけであるが絶望的な現代文をなんとかしなければいけないなと思う。ただ今日はテストが終わったばかりだし、自分の進路について深く考えるのはやめることにした。
聡を帰りに誘おうと声をかけようとしたがフリーズしている。表情を覗き込んでみると、意気消沈しており能面のような顔となっていた。お互い夏休みの補習は決定のようだ。
*
期末テストが終わると学校は一学期終業式。校長先生のありがたいお言葉を頂くと僕はそのまま通院の予約が決まっていたので病院に足を運んだ。
診察はいつも通り何も進展はなく終えた。
海岸公園でお見舞いの約束をしてからまだ美海を訪ねてはいない。
僕は『なぎさ棟』を目指して歩き出すも途中途中何回も足は止まってしまう。今度は何を話したらよいのか話題が浮かばないからだ。
そんなうだうだと引き返す言い訳を探しながら足を進めていくと『なぎさ棟108号室』の前に着いてしまった。
ここまで来てもノックを躊躇う。また返事がなかったらいいかなとかも考えてえしまう。
一度深呼吸をしてから僕は扉をノックした。
「どうぞ」
部屋の中から返事がした。
僕は少し俯きながら余所余所しく扉をゆっくりと開ける。
「こんにちは」
目を合わせずに会釈を済ませる。言葉のままにお見舞いにきたわけだけれど本当に大丈夫だっただろうかと一抹の不安を感じる。
恐る恐る顔を上げると、穏やかな顔でこちらを見てくる美海がベットの上に座っていた。また部屋着のようなラフな格好だったので視線は反らしてしまう。
「あっ響君こんにちは」
まるで海岸公園の会話の続きのようなトーンで接してくれたので緊張の糸が解けていく。
「お見舞いにきたよ、具合はどうかな?」
「ありがとう、悪くはないよ」
たしかに表情をみると入院患者という感じはしない。手元をみると楽譜を眺めていたようだ。
「譜読み?」
僕は手元を指さして尋ねる。
「うん。もう暗譜は出来ている曲だけれど、こうして読み返したりするよ。読み落としてしまっているところがあるかもしれないしね」
「うん、それは大事なことだね」
自分もよくやることだ。
それから僕は病室を簡単に見渡すと花瓶に花が添えられていることに気付いた。誰かがお見舞いで持ってきた花なのかもしれない。僕は手ぶらできてしまったことをしまったことを少し後悔する。
「お花が飾ってあるけれど、誰かお見舞いにきてくれているのかな?」
自分の失態は置いておき話題の切り口として目についたものから話を始めてみることにした。
「うん、昨日お友達が持ってきてくれたの。小学校からの同級生なんだけどね。高校からは別々になっちゃったのだけれど今でも仲良しの同級生なの」
「そうか、それはよかったね」
高校のクラスメイトはお見舞いに来たことはないと話していたから誰か話相手はいないのかなと勝手な心配をしてしまっていたから少しだけ安堵する。僕だって今では聡がいてくれることがありがたいと思うから。
ただ、その友人とやらに共通の接点ではないわけなのでそれ以上会話は弾まない。花の名前もわからないし。
「入院生活はどうかな?」
僕には経験のないことなので単純に質問をしてみたくなった。
「うーん、学校にいけなくて勉強が出来ていないのは困るかな。一応教科書は持ってきていて自習はしてみているけれど。そういえば期末テストってもう終わっちゃったよね?」
美海は今思い出しようで日付を気にし出した。
「残念ながら先日終わったよ。今日が終業式だったんだ」
「そっかぁ。結局一学期は一度も学校にいけなかったなぁ」
悔しい気持ちがあるのだろう。視線を床に落とすと声のトーンも下がる。
「明日からは夏休みなんだし、その間に後れを取り戻せるといいね」
退院の目途がたってもいない患者に向かってそう口にするのは酷なのかもしれないと分かってはいたけどそう声をかけるのが精一杯だった。
「好きな科目とかある?音楽以外で」
「科目?現代文は好きかな。本を読むの好きだから」
話題を変えたことでまた視線を床から戻してきてくれた。
「現代文か・・・僕は一番の苦手科目だね」
「それじゃ響君の好きな科目は?」
「そうだな、物理と歴史は好きかな」
「物理?」
「そうだね。物理はそこに答えが用意されているからシンプルで楽しいね。歴史はもしを考えたとしても今が存在しているから、それが答えなわけだし。現代文は問題だから答えが用意されているとはわかってはいるのだけど筆者のいうことをいちいち解釈しなくちゃいけないだろう?それで何が言いたいのかを理解するのが面倒臭いというかさ。それが本当に答えなのかなとか考えてしまうんだ」
我ながら妙に熱っぽく語ってしまっている。そんな僕を美海は耳を澄ましながら聞いてくれていた。
「そういえば病気のヒロインの小説がとか話していたものね」
海岸公園で話したことを思い返す。
ちらと視線を外すと病室には小さな本棚が設置されていることに気づいた。小説と思われる文庫やハードカバー本、教科書も並べられている。
「病室でも本を読んでいたりするの?」
本棚を指さして尋ねてみる。
「ん?そうだよ。気分転換に小説を読んだりしてるよ」
そう返事をすると美海も本棚に視線を移す。
「小説楽しいよ」
そう口にするなり棚に視線は置いたまま何かを考えはじめてしまった。
僕は無言のまま美海の動きに注視し続けていると、美海は一冊の本を手に取って僕に差し出してきた。
「この本の作品集のなかの『セロ弾きのゴーシュ』なんか読んでみない?」
本のタイトルは宮沢賢治作品集と書かれたものだった。
「セロ弾きのゴーシュ?」
「うん、セロはチェロのこと。チェロ奏者が主人公だから私この作品好きなの」
本を薦められたが読書習慣などない僕が読了することができるか不安だ。
そんな僕の心情を見透かしたように
「大丈夫、セロ弾きのゴーシュは短編だから最後まですぐに読めるよ」
と付け加えてくれる。
「この作品童話だし、動物が次々とゴーシュの演奏を聴きにくる話なのだけどね。私初めて読んだ時は小学生だったから、私もチェロ弾いていたら動物が遊びにきてくれるんじゃないかって思ったりしたの」
「でも、年齢を重ねて何回も読み返していくうちにゴーシュの心情の変化について考えるようになって」
口調の滑らかさから、物語の魅力を伝えたい気持ちが伝わってくる。
それから美海は少し何かに躊躇いながら言葉を選ぶように僕に語りかけてきた。
「あのね、音楽だけが聴こえないってことは、何か音楽で悩んでしまっているのかなとか勝手に考えちゃって、それでセロ弾きのゴーシュがそれとどう関係するのかとかはうまく言えないけれど、もし何かの役に立てたらなって思って」
美海はおろおろしながらも僕に本を差し出したままでいる。
僕は何て返事をしていいのか分からなかったけれど本を受け取った。
「美海も大変なのに心配してくれてありがとう。本、読んでみるよ」
単純にそう感謝の意を伝えた。
美海はほっとしたのか表情がっぱっと明るくなった。
「ゆっくりでいいからね」
そう付け加えてくれた。
そして本を鞄に入れると僕はそこでさよならをすることにし病室を後にした。
自宅に戻り鞄を机の上において、制服を着替える。
僕は鞄から借りた本を取り出してみた。
音楽が題材の童話だし短編なので美海のお勧め通り容易に読み終えることが出来た。
だけれども読み終えたところでこれといった心情の変化が生まれるという感覚はなかった。
もう一度読み返してみようかと思ったところでば夕食を知らせる母親の声が居間から聞こえたので、僕は本を閉じ部屋の灯りを消して自室を後にした。
*
夏休みが始まった。世間は通常通りの週末。聡が言うように長期休暇など学生の特権なのかもしれないが、僕はとくに何をするでもなく家で怠惰な毎日を過ごしている。扇風機の前に横たわって楽譜を眺めては寝るの繰り返しだ。ピアノを取り上げられると僕という器の中身は見事に空っぽであることを実感する。ピアノがもう弾けないかもしれないのに楽譜を眺めてしまう。幼いころからの習慣でもあるので。
ただ少しだけこの楽譜については特別な意味を持って譜読みを続けてみている。それは本当に少しだけ僕の心に沸いてくる感情なのだけれど、今の僕に何故その感情が沸いてくるのかは言葉に出来ない。
午後3時は過ぎた頃に聡からLINEがきた。寝ぐせ頭をぽりぽりと掻きながらスマートフォンの画面に視線を落とす。
『釣りでも行かないか?』
僕は倉庫から釣竿を取り出して自転車で久里浜港まで出かけた。
横須賀は坂の街だ。僕の住む家も坂の上にある。だから出かける時はいつも坂を下っていけるので風が心地よい。僕は少し前傾姿勢をとり重力に任せて加速しながら下っていった。車ならたいした速度でなくても自転車の体感速度は比にならない。坂の終わりに赤信号が見えたのでブレーキレバーを握ると、ブレーキシューの鳴く音がわずかに緊張感をあたえてくる。坂をくだる時は気持ちいい。反面帰りはひたすらこの坂道を登らなければならないということではあるだけれどもね。世の中都合の良い事ばかりでないものだ。
待ち合わせ場所のペリー公園に着くと、僕の隣町、浦賀に住んでいる聡の方が先に来ていた。自転車を飛ばしてきたのか少し汗をかいていて、浜風に吹かれた直毛のとんがり頭が塩っ気によっていつもよりもとんがり具合が強くなっていた。いがぐりというよりはウニみたいな頭だ。
僕と聡は時たま釣りをする。以前はピアノばかりだったけど、聡と出会ってからはこうして外の空気を吸うことも気分転換になってかえってピアノの調子がよかったりもする。釣りを趣味にしているというわけではなく、時間を潰すアイテムに釣りが丁度良い、というだけだ。二人でアオイソメの入った餌箱一つを割り勘で買い、あとはコンビニでおにぎりと唐揚げとジュースを買うだけで半日の時を無駄にできる。
僕らは久里浜港の防波堤に移動し、釣りの準備を始めた。ここは水産加工会社の水揚げ場所だけれど週末は操業していないので釣り人がよく集る。本来は立ち入り禁止なのかもしれないけれど。針に餌をつけて、竿を勢いよく振る。針に餌をと簡単に言うがアオイソメは生きているので、生きたまま針を呑み込ませるという一見残酷なようにも思える行為に釣りの覚えたての頃は戸惑ったものだが直ぐに慣れた。
投げ釣りをするためにリールのベイルを外して釣り糸を人差し指で抑え竿を後方に構える。針先の糸の揺れが収まったのことを確認してから竿を振りかぶる。シュッという風切り音を奏でながら竿はしなり、ジェット天秤は海面に向かって弧を描きながら飛んでいく。
ポチャンと音とがしたらリールが止まるまで天秤を海底まで落としベイルをロックさせる。少し糸を巻いたら後は魚が食いついてくれるのを待つだけだ。本当はあたりをさぐりながら海底の魚を狙うのだけど真面目に釣りをしているわけでもないので竿はひたすらほったらかし。久里浜港はコチやカレイといった海底に巣食う魚が釣れる。カレイが釣れると周囲にはちょっとした人だかりができるものだ。
僕は波止場の船止めに腰を下ろす。黒い鉄の塊はけっして座り心地のよいものではないが地面に座るよりはいい。
隣のおっちゃんは簡易チェアをもってきて腰かけている。スーパーカブでやってきたらしくキャリアにはクーラーボックスを括り付けてあるから大物を釣り上げる気満々なんだなと思ってしまう。おっちゃんの上半身は裸だ。たるんだ腹を隠しもせずにふんぞり返っている。僕もいつかはあんなおっちゃんのような釣りのスタイルにでもなるんだろうかと考えてしまった。
隣に停泊している漁船とつなぐロープが波にゆられてぎしぎしと音を立てていた。
遠くの方からカモメの鳴く声が聞こえてくる。
聡は釣竿を持ったまま、ごろりとアスファルトの上に横になった。こちらも実にやる気のない釣りスタイルだ。
「昼は過ぎたが暑いよな・・・」
僕は丁度竿を投げ終えたところだったけど何も答えなかった。聡も別に返事が欲しかったわけじゃなく適当に出た台詞なのがわかっていた。
時刻は16時を過ぎたところ。魚が釣れるのは潮の満ち引きがある時間がよい。朝か夕方がベストってところだろうが単純に炎天下の下で釣りをする気にはならないからだ。それでも16時じゃまだまだ暑い。
ぼんやりと海を眺めていると赤白に彩られた東京湾フェリーの『くりはま丸』が寄港してきた。東京湾フェリーは久里浜港から千葉県の金谷港まで約40分で東京湾を横断するらしく、早朝ともなると千葉のゴルフ場へいく車の輸送に賑わうらしい。らしく、らしいというのも僕は東京湾フェリーに乗ったことはないからだ。
フェリーがボーッと警笛を立てる。
聡は相変わらず寝っ転がったまま
「この警笛が黒船の音だったらなぁ」
また唐突に意味のわからないことを空に向かって口にする。
「だってさ、ここからペリー提督が上陸したんだろう?それから幕末に向かってたくさん英雄が生まれてさ、英雄っていうのは混沌のなかから生まれてくるものだろ?」
「俺の人生にだって何か世の中が変わってしまうような出来事が起きれば、俺だって英雄になれたかもしれないんだぜ?」
たしかそんなような歴史上の人物に憧れるシーン、聡が読めといって貸してくれた漫画にあったような。しかし仮に混沌が起きたとしても聡が英雄になれるかは疑わしい。ただ、たしかに歴史に名を刻んだ英雄には何か大きな出来事があったからなのは間違いないかな。何かが起きて、その何かに向かっていけるエネルギーがとんでもなくあったのだろう。僕がそんな状況におかれたら僕は何が出来るのだろうかとは一時考えたけどすぐにやめた。
歴史上の人物を知ることは嫌いではない。学校の隣には三笠公園があるので日本海海戦はわりと好きでもある。僕は音楽だけしか知らないという人間なわけにはなりたくないかなと思うように少しずつ変わってはきたけれど、まだ世の中の流行にはとんと疎いままである。
自己分析をはじめてしまっていたが聡の演説は続いていた。
「もういっそ異世界転生でもいいんだけどな。もちろん英雄役で俺TUEEEな設定でさ」
まったくもって言葉の意味はよくわからなかったけど、聡が刺激に飢えていることは理解した。そして期末テスト前に話していた「向こう側の世界」って話の続きでもあるように察っする。具体的に何かしたい事があるわけではないが高校生らしい青春を謳歌したいってことなんだろうなと。
僕は久里浜海岸の方を眺めた。大学生らしき男女達がバーべキューを楽しんでいる。
聡も視線を這わせており、少し恨めしそうに眺めては溜息をついている。何かそれについて話をしたそうな雰囲気もあったが、口にしたところでどうにもならなという諦めの表情も汲み取れる。
それから僕らはしばらく無言のまま釣りを楽しむことにした。
おっちゃんのバケツを横目に覗き込むと数匹のコチがはいっていた。僕らのバケツは海水が入っただけの状態だ。
すっかり夕暮れとなってきた。
「んん!」
簡易チェアに座ってまるまると肥えた腹を突き出していたおっちゃんが嬌声を上げた。
おっちゃんの竿がぐぐっとしなる。格闘すること数分。海面に平べったい魚のシルエットが浮かび上がる。
「「カレイだ」」
僕と聡も声を同時に発した。
おっちゃんはたもを海面に落とすと40cmばかしのカレイを釣り上げた。おっちゃんは上機嫌でクーラーボックスにカレイを押し込むと僕らにむかって白い歯を見せ、カブのエンジンをかけて50ccの独特なエンジン音をファンファーレのように奏でながら帰っていった。
港に少し灯りが付き始めた。
僕は聡に話をしたいことがあったのだけれど、なかなか切り出すことが出来ないでいた。それは僕のなかでまだ何も準備が出来ていないからでもある。
久里浜海岸に目を向けると大学生らしき人達も帰る準備をしている。さっきまでは上半身水着ではしゃいでいたお姉さんも上着のシャツを着ていた。
ボーと警笛が聴こえてくると共に久里浜港にまた『くりはま丸』が寄港してきた。金谷港に人を運んで、今度は金谷港から久里浜港に人を運んでくる。時間はあっという間だなと感じた。
小さな女の子がお父さんに連れられて甲板にあがっていた。僕らに向かって手を振っているようにみえたので、僕は思わず手を振り返してしまった。そんな僕を聡は少し不思議そうにみていた。自分自身も驚いてはいるが、聡に話を切り出すタイミングがみつからず、ざわついている心がそうさせてしまったのかなと思った。
それから僕は少しの間を置いて、
「なぁ、お前って願い事ってあるか?」
ついこの間、僕が質問されたことを聡にもしてみた。
「願い事?なんだよ急に。そんなこと急に言われてもなぁ」
「とくにはないんだな?」
「なくはないだろうけど急には思いつかないよ」
美海のことを話して良いのか悩んだけど、誰かに相談してみたい気持ちがあったし、相談できるのなんか聡しかしないので僕は意を決して話を続けた。
「演奏を録音したいんだ」
僕はそう話を切り出した。
「録音?そりゃしたらいいじゃないかと言いたいところだけど、お前、その、やっぱり耳まだ駄目なんだろう?」
「いや、僕のことじゃないんだ。話が唐突すぎたな。余計な心配をさせてしまってすまん」
話の切り出し方というのは難しいものだ。
「えっと、何から話したらいいか・・・」
「この間、教えてくれたクラスメイトで入院している潮崎さん。彼女、僕が通院している病院と同じだったんだ」
それから僕がぶっ倒れた夜に出会ったこと。ピアノの音にまたやられてぶっ倒れて迷惑をかけてしまったこと。お詫びにまた会いにいったこと。彼女の病名。録音の願い。これまでの経緯を聡に話した。
聡は寝転びながらも僕の方に顔を向けながらだまって僕の話を聞いてくれた。
「なあ、お前がしたいとびっきりの夏の想い出ってやつにはならないかもしれないけどさ、夏休みの間、その録音に向けて何かやってあげられることってないかなって考えててさ」
浜風が僕らに向かってぴゅうと吹く。
聡は何も答えずむくりと起き上がってリールを巻いた。きりきりきりとベアリングの回る音だけが二人の世界を包み込む。竿が一瞬しなったようにもみえたが、巻き上げた針の先は海藻がついているだけった。
「・・・・。坊主だな」
僕はそう呟いた。
「ああ。坊主だ」
聡も呼応し、二人してどうしようもない台詞を吐き捨てる。
「坊主か・・・」
針先に興味をなくした聡はもう一度そう呟き、
「いいぜ。誰かのために何かやってみる。そういうのもありかもな。協力するぜ」
次の乗船客を乗せ終えた『くりはま丸』はまた金谷港に向かって出航し始めた。
ボーッと警笛を鳴らして。
0
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