能力者主義の世界で俺は無能なチート能力者

高桐AyuMe

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本編

死闘

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 「死闘?」
 舞原の突然の宣言に俺は疑問符を浮かべた。
「何故命を賭ける必要がある」
「貴方に遊びで戦いを挑んでも本気は出さないでしょ?」
「俺が強ければの話だがな……」
「あれを見せられて貴方を弱いと思うほど私は見る目がないわけじゃないわ」
 あれ、とは多分、この間の堀藤雅との一戦のことを指しているのだろう。
「ただ鉛玉ぶっ放しただけじゃないか。あれのどこで俺を強者と判断できたんだ?」
「あの場で冷静に狙いを定めて拳銃を正確に当てられる人はそうそういないわ」
 確かに。
 あの緊迫した場面で俺は正確に奴の肩を打ち抜き、攻撃手段を封じた。ただそれだけだと思っていたのだが、どうやら、舞原には違う認識でとらえたらしい。
「まあ、んなことはどうでもいい。取り敢えず分かった。どうせ断っても押し切るつもりだったんだろ。だったら、お前の気が済むまで付き合ってやるよ」
「随分と素直ね」
「寛大だからな。あと、深夜テンションも混ざっているかもな」
 そんな軽口を言いながら、俺達は場所を変え、敷地内のちょっとした広場にて対峙する。
「それで?どっちから始める?」
 そんな俺の問いかけに、舞原は……、
「じゃあ、私からで……!」
 そんな彼女の答えは既に背後から聞こえていて……!

 「っぶね~」
 危機一髪。
 舞原が背後から振るった槍を間一髪でかわした俺は、ホッとしたように息を吐き出す。
「いきなりとはな。随分とマナーがなってないみたいだな」
「先輩に敬語を使わない人がなんか言ったかしら?」
「ハッ、おあいこってことか」
 俺は乾いた笑みを漏らし、手をプラプラと振るう。
 大丈夫。体に異常はないし、全てにおいて安定している。
 瞬間、俺は地を蹴り、舞原へと突進する。
「あら、愚直過ぎる攻撃ね」
 直線的な俺の動きは流石に簡単だっただろう。
 いとも簡単によけて見せる。
「それが貴方の本気?」
「さあ、どうだろうな」
 そう返しつつ、俺は純粋な疑問を舞原にぶつけた。
「お前が言う、俺の本気とは、どのことを指すんだ?」
「はあ? 突然何を言い出すかと思えば、一体何を言っているの? 貴方の本気は本気でしょう。それ以外に何があるの?」
 違う。俺が言いたいのはそういうことじゃない。
 俺が聞いている本気とは、俺のとしてとらえた時なのか、俺をととらえた時なのか。それを聞いているのだが、今更いったところで理解されるはずもない。
 それに、舞原ぐらいだったら、俺一人でも十分だ。
 そうして、俺は再び地を蹴った。
 今度は直線ではなく、舞原の背後を狙う。が、
「だから、愚直すぎるのよ……!」
 これも見切った舞原は俺に槍を薙ぎ、俺を吹っ飛ばす。
「ハッ、これも見切るか……」
「いい加減にして!」
 暗く、済んだ夜の空気に舞原の叫びが響く。
「私は言ったはずよ、死闘だと。なのに貴方は普通の動きばかり。あの時の貴方はどこに行ったの?」
「安心しろ。ここにいる」
 俺はそう言って、ゆっくりと立ち上がった。
 さてさて、体も温まってきた。そろそろ、ギアを上げますか。
「行くぞ、舞原。これがお前に言う言葉だ」
 俺は腰を屈め、前傾姿勢になりながら、言い放った。

「後悔するなよ?」

 刹那、鈍い音が響き渡った。
 俺の拳が舞原の腹部にモロに打ち込まれた。
 誰が見ても見事なクリーンヒットに、舞原は受け身を取りながら、吹き飛んだ。
「ッ、やっと出してきたのね」
「お望み通り、な。さあ、いつまで寝てるんだ?まだ始まったばかりだぜ」
 そう言って、俺が疾駆すると同時に、舞原も突っ込んでくる。
 そうして、突き出された槍を簡単にいなすと、蹴りを放つ。
「クッ……!」
 先ほどとはまた一段階速い俺のスピードに追い付けてこられなかったようだ。
 それでも舞原は俺の襟元を掴むと、
「お?」
 俺を投げ飛ばす。
「受け取れるもんなら受け取ってみなさい」
 そうして、舞原は空中に放り出された俺に向けて、手に持っていた槍を投擲した。
 正確に捉えたその槍は、自由を奪われた俺に向かってきていて、そして、俺に、着弾……、
――しなかった。
「なっ……!」
 舞原が驚きの声を漏らす。
 なぜなら、当たると確信していた槍が俺によけられ、しまいには俺の姿も消えていたからだ。
 すまんな、舞原。
 
 そして、俺は一瞬にして舞原の懐へと潜り込み、
「隙だらけだぞ」
 容赦なく、拳を入れた。
 瞬間、轟音が響き渡り、舞原は崩れるようにその場に倒れた。
 本日二度目のクリーンヒット。
 しかも、俺の全力となると、当然の結果だ。
「ったく、人に本気を出せと言っておいて、自分が出さないとはどういうことだ」
 今回の戦いにおいて、舞原は一度も本気を出すことはなかった。
 本来の舞原の実力はこんなものではない。
 それを俺が知っている。
 正確に言えば、あいつが知っている。
 「しかも、久しぶりに能力も使っちまった」
 本来であれば使いたくなかった能力。
 どう責任取ってくれるんだ? っとその前に先ずは……、
「さて、」
 俺は自分の足元で伸びている舞原を見ながら、
「これ、どうすっかな……」
 と、口にするのだった。
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