13 / 55
本編
死闘
しおりを挟む
「死闘?」
舞原の突然の宣言に俺は疑問符を浮かべた。
「何故命を賭ける必要がある」
「貴方に遊びで戦いを挑んでも本気は出さないでしょ?」
「俺が強ければの話だがな……」
「あれを見せられて貴方を弱いと思うほど私は見る目がないわけじゃないわ」
あれ、とは多分、この間の堀藤雅との一戦のことを指しているのだろう。
「ただ鉛玉ぶっ放しただけじゃないか。あれのどこで俺を強者と判断できたんだ?」
「あの場で冷静に狙いを定めて拳銃を正確に当てられる人はそうそういないわ」
確かに。
あの緊迫した場面で俺は正確に奴の肩を打ち抜き、攻撃手段を封じた。ただそれだけだと思っていたのだが、どうやら、舞原には違う認識でとらえたらしい。
「まあ、んなことはどうでもいい。取り敢えず分かった。どうせ断っても押し切るつもりだったんだろ。だったら、お前の気が済むまで付き合ってやるよ」
「随分と素直ね」
「寛大だからな。あと、深夜テンションも混ざっているかもな」
そんな軽口を言いながら、俺達は場所を変え、敷地内のちょっとした広場にて対峙する。
「それで?どっちから始める?」
そんな俺の問いかけに、舞原は……、
「じゃあ、私からで……!」
そんな彼女の答えは既に背後から聞こえていて……!
「っぶね~」
危機一髪。
舞原が背後から振るった槍を間一髪でかわした俺は、ホッとしたように息を吐き出す。
「いきなりとはな。随分とマナーがなってないみたいだな」
「先輩に敬語を使わない人がなんか言ったかしら?」
「ハッ、おあいこってことか」
俺は乾いた笑みを漏らし、手をプラプラと振るう。
大丈夫。体に異常はないし、全てにおいて安定している。本気を出しても問題はないだろう。
瞬間、俺は地を蹴り、舞原へと突進する。
「あら、愚直過ぎる攻撃ね」
直線的な俺の動きは流石に簡単だっただろう。
いとも簡単によけて見せる。
「それが貴方の本気?」
「さあ、どうだろうな」
そう返しつつ、俺は純粋な疑問を舞原にぶつけた。
「お前が言う、俺の本気とは、どのことを指すんだ?」
「はあ? 突然何を言い出すかと思えば、一体何を言っているの? 貴方の本気は本気でしょう。それ以外に何があるの?」
違う。俺が言いたいのはそういうことじゃない。
俺が聞いている本気とは、俺の人間としてとらえた時なのか、俺を人格ととらえた時なのか。それを聞いているのだが、今更いったところで理解されるはずもない。
それに、舞原ぐらいだったら、俺一人でも十分だ。
そうして、俺は再び地を蹴った。
今度は直線ではなく、舞原の背後を狙う。が、
「だから、愚直すぎるのよ……!」
これも見切った舞原は俺に槍を薙ぎ、俺を吹っ飛ばす。
「ハッ、これも見切るか……」
「いい加減にして!」
暗く、済んだ夜の空気に舞原の叫びが響く。
「私は言ったはずよ、死闘だと。なのに貴方は普通の動きばかり。あの時の貴方はどこに行ったの?」
「安心しろ。ここにいる」
俺はそう言って、ゆっくりと立ち上がった。
さてさて、体も温まってきた。そろそろ、ギアを上げますか。
「行くぞ、舞原。これがお前に言う言葉だ」
俺は腰を屈め、前傾姿勢になりながら、言い放った。
「後悔するなよ?」
刹那、鈍い音が響き渡った。
俺の拳が舞原の腹部にモロに打ち込まれた。
誰が見ても見事なクリーンヒットに、舞原は受け身を取りながら、吹き飛んだ。
「ッ、やっと出してきたのね」
「お望み通り、な。さあ、いつまで寝てるんだ?まだ始まったばかりだぜ」
そう言って、俺が疾駆すると同時に、舞原も突っ込んでくる。
そうして、突き出された槍を簡単にいなすと、蹴りを放つ。
「クッ……!」
先ほどとはまた一段階速い俺のスピードに追い付けてこられなかったようだ。
それでも舞原は俺の襟元を掴むと、
「お?」
俺を投げ飛ばす。
「受け取れるもんなら受け取ってみなさい」
そうして、舞原は空中に放り出された俺に向けて、手に持っていた槍を投擲した。
正確に捉えたその槍は、自由を奪われた俺に向かってきていて、そして、俺に、着弾……、
――しなかった。
「なっ……!」
舞原が驚きの声を漏らす。
なぜなら、当たると確信していた槍が俺によけられ、しまいには俺の姿も消えていたからだ。
すまんな、舞原。
俺の能力はそういう能力だ。
そして、俺は一瞬にして舞原の懐へと潜り込み、
「隙だらけだぞ」
容赦なく、拳を入れた。
瞬間、轟音が響き渡り、舞原は崩れるようにその場に倒れた。
本日二度目のクリーンヒット。
しかも、俺の全力となると、当然の結果だ。
「ったく、人に本気を出せと言っておいて、自分が出さないとはどういうことだ」
今回の戦いにおいて、舞原は一度も本気を出すことはなかった。
本来の舞原の実力はこんなものではない。
それを俺が知っている。
正確に言えば、あいつが知っている。
「しかも、久しぶりに能力も使っちまった」
本来であれば使いたくなかった能力。
どう責任取ってくれるんだ? っとその前に先ずは……、
「さて、」
俺は自分の足元で伸びている舞原を見ながら、
「これ、どうすっかな……」
と、口にするのだった。
舞原の突然の宣言に俺は疑問符を浮かべた。
「何故命を賭ける必要がある」
「貴方に遊びで戦いを挑んでも本気は出さないでしょ?」
「俺が強ければの話だがな……」
「あれを見せられて貴方を弱いと思うほど私は見る目がないわけじゃないわ」
あれ、とは多分、この間の堀藤雅との一戦のことを指しているのだろう。
「ただ鉛玉ぶっ放しただけじゃないか。あれのどこで俺を強者と判断できたんだ?」
「あの場で冷静に狙いを定めて拳銃を正確に当てられる人はそうそういないわ」
確かに。
あの緊迫した場面で俺は正確に奴の肩を打ち抜き、攻撃手段を封じた。ただそれだけだと思っていたのだが、どうやら、舞原には違う認識でとらえたらしい。
「まあ、んなことはどうでもいい。取り敢えず分かった。どうせ断っても押し切るつもりだったんだろ。だったら、お前の気が済むまで付き合ってやるよ」
「随分と素直ね」
「寛大だからな。あと、深夜テンションも混ざっているかもな」
そんな軽口を言いながら、俺達は場所を変え、敷地内のちょっとした広場にて対峙する。
「それで?どっちから始める?」
そんな俺の問いかけに、舞原は……、
「じゃあ、私からで……!」
そんな彼女の答えは既に背後から聞こえていて……!
「っぶね~」
危機一髪。
舞原が背後から振るった槍を間一髪でかわした俺は、ホッとしたように息を吐き出す。
「いきなりとはな。随分とマナーがなってないみたいだな」
「先輩に敬語を使わない人がなんか言ったかしら?」
「ハッ、おあいこってことか」
俺は乾いた笑みを漏らし、手をプラプラと振るう。
大丈夫。体に異常はないし、全てにおいて安定している。本気を出しても問題はないだろう。
瞬間、俺は地を蹴り、舞原へと突進する。
「あら、愚直過ぎる攻撃ね」
直線的な俺の動きは流石に簡単だっただろう。
いとも簡単によけて見せる。
「それが貴方の本気?」
「さあ、どうだろうな」
そう返しつつ、俺は純粋な疑問を舞原にぶつけた。
「お前が言う、俺の本気とは、どのことを指すんだ?」
「はあ? 突然何を言い出すかと思えば、一体何を言っているの? 貴方の本気は本気でしょう。それ以外に何があるの?」
違う。俺が言いたいのはそういうことじゃない。
俺が聞いている本気とは、俺の人間としてとらえた時なのか、俺を人格ととらえた時なのか。それを聞いているのだが、今更いったところで理解されるはずもない。
それに、舞原ぐらいだったら、俺一人でも十分だ。
そうして、俺は再び地を蹴った。
今度は直線ではなく、舞原の背後を狙う。が、
「だから、愚直すぎるのよ……!」
これも見切った舞原は俺に槍を薙ぎ、俺を吹っ飛ばす。
「ハッ、これも見切るか……」
「いい加減にして!」
暗く、済んだ夜の空気に舞原の叫びが響く。
「私は言ったはずよ、死闘だと。なのに貴方は普通の動きばかり。あの時の貴方はどこに行ったの?」
「安心しろ。ここにいる」
俺はそう言って、ゆっくりと立ち上がった。
さてさて、体も温まってきた。そろそろ、ギアを上げますか。
「行くぞ、舞原。これがお前に言う言葉だ」
俺は腰を屈め、前傾姿勢になりながら、言い放った。
「後悔するなよ?」
刹那、鈍い音が響き渡った。
俺の拳が舞原の腹部にモロに打ち込まれた。
誰が見ても見事なクリーンヒットに、舞原は受け身を取りながら、吹き飛んだ。
「ッ、やっと出してきたのね」
「お望み通り、な。さあ、いつまで寝てるんだ?まだ始まったばかりだぜ」
そう言って、俺が疾駆すると同時に、舞原も突っ込んでくる。
そうして、突き出された槍を簡単にいなすと、蹴りを放つ。
「クッ……!」
先ほどとはまた一段階速い俺のスピードに追い付けてこられなかったようだ。
それでも舞原は俺の襟元を掴むと、
「お?」
俺を投げ飛ばす。
「受け取れるもんなら受け取ってみなさい」
そうして、舞原は空中に放り出された俺に向けて、手に持っていた槍を投擲した。
正確に捉えたその槍は、自由を奪われた俺に向かってきていて、そして、俺に、着弾……、
――しなかった。
「なっ……!」
舞原が驚きの声を漏らす。
なぜなら、当たると確信していた槍が俺によけられ、しまいには俺の姿も消えていたからだ。
すまんな、舞原。
俺の能力はそういう能力だ。
そして、俺は一瞬にして舞原の懐へと潜り込み、
「隙だらけだぞ」
容赦なく、拳を入れた。
瞬間、轟音が響き渡り、舞原は崩れるようにその場に倒れた。
本日二度目のクリーンヒット。
しかも、俺の全力となると、当然の結果だ。
「ったく、人に本気を出せと言っておいて、自分が出さないとはどういうことだ」
今回の戦いにおいて、舞原は一度も本気を出すことはなかった。
本来の舞原の実力はこんなものではない。
それを俺が知っている。
正確に言えば、あいつが知っている。
「しかも、久しぶりに能力も使っちまった」
本来であれば使いたくなかった能力。
どう責任取ってくれるんだ? っとその前に先ずは……、
「さて、」
俺は自分の足元で伸びている舞原を見ながら、
「これ、どうすっかな……」
と、口にするのだった。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています
藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。
結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。
聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。
侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。
※全11話 2万字程度の話です。
敗戦国の姫は、敵国将軍に掠奪される
clayclay
恋愛
架空の国アルバ国は、ブリタニア国に侵略され、国は壊滅状態となる。
状況を打破するため、アルバ国王は娘のソフィアに、ブリタニア国使者への「接待」を命じたが……。
バッドエンド予定の悪役令嬢が溺愛ルートを選んでみたら、お兄様に愛されすぎて脇役から主役になりました
美咲アリス
恋愛
目が覚めたら公爵令嬢だった!?貴族に生まれ変わったのはいいけれど、美形兄に殺されるバッドエンドの悪役令嬢なんて絶対困る!!死にたくないなら冷酷非道な兄のヴィクトルと仲良くしなきゃいけないのにヴィクトルは氷のように冷たい男で⋯⋯。「どうしたらいいの?」果たして私の運命は?
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
復讐のための五つの方法
炭田おと
恋愛
皇后として皇帝カエキリウスのもとに嫁いだイネスは、カエキリウスに愛人ルジェナがいることを知った。皇宮ではルジェナが権威を誇示していて、イネスは肩身が狭い思いをすることになる。
それでも耐えていたイネスだったが、父親に反逆の罪を着せられ、家族も、彼女自身も、処断されることが決まった。
グレゴリウス卿の手を借りて、一人生き残ったイネスは復讐を誓う。
72話で完結です。
【完結】乙女ゲーム開始前に消える病弱モブ令嬢に転生しました
佐倉穂波
恋愛
転生したルイシャは、自分が若くして死んでしまう乙女ゲームのモブ令嬢で事を知る。
確かに、まともに起き上がることすら困難なこの体は、いつ死んでもおかしくない状態だった。
(そんな……死にたくないっ!)
乙女ゲームの記憶が正しければ、あと数年で死んでしまうルイシャは、「生きる」ために努力することにした。
2023.9.3 投稿分の改稿終了。
2023.9.4 表紙を作ってみました。
2023.9.15 完結。
2023.9.23 後日談を投稿しました。
裏切られ続けた負け犬。25年前に戻ったので人生をやり直す。当然、裏切られた礼はするけどね
竹井ゴールド
ファンタジー
冒険者ギルドの雑用として働く隻腕義足の中年、カーターは裏切られ続ける人生を送っていた。
元々は食堂の息子という人並みの平民だったが、
王族の継承争いに巻き込まれてアドの街の毒茸流布騒動でコックの父親が毒茸の味見で死に。
代わって雇った料理人が裏切って金を持ち逃げ。
父親の親友が融資を持ち掛けるも平然と裏切って借金の返済の為に母親と妹を娼館へと売り。
カーターが冒険者として金を稼ぐも、後輩がカーターの幼馴染に横恋慕してスタンピードの最中に裏切ってカーターは片腕と片足を損失。カーターを持ち上げていたギルマスも裏切り、幼馴染も去って後輩とくっつく。
その後は負け犬人生で冒険者ギルドの雑用として細々と暮らしていたのだが。
ある日、人ならざる存在が話しかけてきた。
「この世界は滅びに進んでいる。是正しなければならない。手を貸すように」
そして気付けは25年前の15歳にカーターは戻っており、二回目の人生をやり直すのだった。
もちろん、裏切ってくれた連中への返礼と共に。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる