能力者主義の世界で俺は無能なチート能力者

高桐AyuMe

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本編

一難去ってまた一難ではなく、一楽

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 気付けば、暗闇にいた。
 正確に言えば、建物の中。
 周りには怪しげな光がチラチラと点滅し、その微かな光の中で、俺は対峙している奴の顔を睨み付ける。
 そして、自分の足元には水たまりが出来ていた。
 いや、違う。
 それは血だまりだ。
 この研究施設で幼くして命を奪われた者の血だ。
 それを行ったのは無論、目の前にいる男であり、やっとここまで追い詰めたのだ。
「はあ、はあ……」
 だが、ここまでオーバーワークをし過ぎたのか、息切れが激しい。満身創痍。
 そして、それは俺の隣にいる、一緒に戦っている男も同じだった。
 しかし、次にの瞬間、その男は俺を守るように後ろへ突き飛ばし、その男へと疾駆した。
 そして、俺の目の前で、そいつは心臓を貫かれ、俺は……、迷いなく、彼に手を伸ばしながら、……能力を発動した……。

 「いつつ、最悪だ」
 痛む頭を抑えながら、俺はベットから起き上がる。
 舞原と死闘を繰り広げた俺は後片付けをした後、そのまま部屋で寝てしまっていた。やはり睡魔には勝てそうにもない。
 にしても、久しぶりに過去の夢を見た。昨日、能力を使ったからだろうか。まあ、そのせいで目覚めが最悪になっているんだが……。
 俺は身支度をすまし、学食へと向かう。
 既に学食には数人の生徒が朝食を取っていた。
 俺は無難にサンドイッチを売店で買い、席に座る。
 ゆっくりと朝の空気を楽しんでいると、話しかけてくる生徒がいた。
「椿零」
「舞原か。昨日はよく眠れたか?」
「ええ。だけど、なんでか気付いたら自分の部屋のベットの上で寝ていたのよ。何か知らない?」
「俺が運んだ」
「は?」
 何だ?そんな驚くことか?
「じゃあ、貴方、私の部屋に入ったってこと?!」
「逆にそれ以外でどうしろと……」
 それを聞いた舞原の顔がみるみるうちに赤くなっていく。
「じゃ、じゃあ、どうやって運んだのよ」
「お姫様抱っこ」
「ッ――」
舞原の顔はどんどん赤くなっていく。
「貴方、恥というものを知らないの?」
「んなこと気にしねえよ。逆に何もされたくなかったら、今度からそのまま放置しておく」
「貴方、人の感情が一部欠如してるわね」
「否定はしない」
「ま、まあ、取り敢えず、」
 舞原は恥ずかしがるように、俺から顔を背けながら、
「あ、ありがと……」
「何で顔を背ける。人にお礼を言うときは相手の目を見ろ。一般常識だぞ」
「う、うっさいわね。そんなことわかってるわよ!」
「あー、そうかいそうかい。じゃあお先」
 そう言って、俺は席を立つ。
 なんか、今日の舞原、可愛かったな……。
 そう思ってしまうのは負けだろうか。

 今日も今日とて授業が始まるかと思いきや、担任からの大事なお知らせがあるらしく、俺達は大人しく席に座っていた。
「さて、この前は学校内紛が起こり、特別試験が行えなかった。その為、新たな特別試験が一週間後に行うことになった」
 クラスメイトから息を飲む音が聞こえる。
 特別試験。
 これは、クラスの昇格、降格が掛かった特別な試験だ。
 昨年は、既に終わりを迎えている時期だが、学校内紛により、中止となったらしい。その代わりとして、新しい試験を用意したという事だった。
「今回、学校の状況で、Cクラスが不在となっている。今回はそのCクラスの穴を埋める目的で行う。資料を配る。前から後ろへ」
 俺は回ってきた資料に一通り目を通す。
「今回は個人戦ではなく、チーム戦となる。チームは一つにつき3人。クラスの強制はない」
 つまり、他クラスとも組むことができるというわけか。
「実施は総当たり戦。一週間後、専用の闘技場へと向かう。そこで行うことになっている」
 闘技場か。かなり手の込んだ試験となっているようだ。
「今から5日以内にチームを作ってもらう。もし作れなかった場合は余った者たちでこちら側がランダムで組んでもらう。そして、チームを組む時に必要なのが、この腕時計だ」
 担任は黒光りする腕時計を掲げる。
「これは一人一つ配給する。これはチームを組む時に、組む人物の腕輪と10秒間かざすとチームとして承認される。既にチームに登録されている者は腕時計に赤いランプが点灯する。何か質問は?」
 シーンと静まり返る教室。
「では、結果についてだ。総当たり戦では勝つたびに1ポイントが貰える。逆に負けると1ポイント失うこととなる。そのまま勝ち進み、ポイントを稼いでもらう。そして、全て終わり次第、順位をつける。結果、下位5チームがCクラスへと降格する。今回の昇格はないと思え。質問は?」
「もし、0ポイントの時に負けたらどうなるんですか?」
 汗衫が細かい所をついてくる。
「いい質問だ。もし、0ポイントで失った場合、マイナスへと移行する。つまり、最低ラインは0じゃないという事だ。他に」
「終盤に差し掛かった時、ポイントがもう間に合わない時はそこで中断ですか?」
「いやそれはない。もしかしたら落ちてくるかもしれないからな。後、ボーナスポイントもある。ボーナスポイントを得るには通常の戦闘で相手に一人追加させる必要がある。この場合、勝った場合は5ポイント取得、敗北は6ポイント失うこととなる。また、追加するメンバーには一切規定はない」
 明らかなハイリスクハイリターン。
 この試験、楽しめそうだ。
「ちなみにだが、Dクラス以下の生徒の場合は上位5チームの生徒がCクラスへと昇格する。以上、これからはチーム決めの時間を取る。好きなように使ってくれ」
 そう言い残して、担任は教室を出ていった。
 そこからは、いろいろな生徒が出入りし始め、各々チームを決めていく。
「零、俺とチーム組ないか?」
 汗衫が俺を誘ってきた。が、俺は……、
「すまん、汗衫。先約がいるんだ」
「あ、ああ。分かった」
 汗衫は直ぐに手を引いた。
 やれやれ、そこまで重要な役どころではない、か。
 そして、俺の先約がBクラスにやって来る。
 その人物は真っ直ぐに俺のところへ向かってきて、俺は自然な動作で取り付けた腕時計を机の上に出し、ただただ前を見据える。
 10秒後、軽快な音と共にチームとして認定された音が響き渡る。
 それで用は済んだのか、Bクラスを去ろうとするその人物の背中に、俺は一言語りかけた。
「よろしく頼むよ、」

「舞原千歳先輩?」

と。
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