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本編
秒殺と一人語り
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ついに始まった特別試験。俺たちのチームは今日の二回戦目に出場だった。俺たちの出番が来るまで他チームの分析を進める。まあ、主に舞原とミサだけで、俺はのんびりとするだけなのだが。
「吞気、楽観的、協力性皆無っと」
「強者の余裕、ムカつくっと」
「待て、一体誰を分析している」
何故か、今の俺の状況の事を言っているように聞こえたが……。
「誰って、今戦っているチームのことに決まってるでしょ」
「他に何があるのよ」
「そ、そうか……」
どうやら気のせいだったらしい。となると、先程まで向けられていた二人のジト目も気のせいらしい。
全く酷い言いようだ。こっちはこっちで西園寺が言っていた裏で関わっているとされている組織への警戒をしているというのに。いったい誰のおかげで試験に集中出来ていると思っているのだろうか。
まあ、そんなことはどうでもいい。
分析と言っても、要注意という訳ではないチームばかりなので、それほど注意深く見る必要もない。
俺たちは次の試合のため、傍観を止め、スタジアムの広場へと向かった。
スタジアムの用意されたステージに上がると、ワッ、と歓声が沸く。当たり前だ。何せ、こっちには学校最強の座を争う舞原千歳がいるのだから。
設置されたタブレットに腕時計をかざし、承認を済ます。これで準備は整った。
「それでは双方、準備が整った為、第二試合開始」
教師そのその掛け声とともに、戦いの火ぶたは切って落とされた。
相手はD・E・Fクラスの中でもそんなに目立たないような生徒三人。だが、油断はできない。クラス下位とは言え、Dクラスはつい最近まではCクラスとして君臨していたのだから。その三人が一斉に俺へと襲い掛かってくる。
これも当然のこと。もちろん予測していたことだ。Aクラスの中でも強い方に部類される人物をどう相手にするか。簡単だ。
数的優位を作り、多勢に無勢に則って戦う。
作戦としては素晴らしい。戦場において数的優位というものは何よりも相手にプレッシャーを掛けられ、かつ、相手が自分より実力が上でも対等に戦うことが可能だ。
よく考えられている。だが、これには密かな条件がある。それは……、
俺が本当に落ちこぼれだったらの話だ。
俺は飛びかかってきた生徒を一瞥する。
相手はDクラスの生徒。つい先月まではCクラスだった者だ。Fクラスよりも実戦経験が豊富な生徒。
だが、俺はそれを哀れな目で見ていた。
ため息が出るような単調な動き。きっと、ここから腕を大きく振りかぶって拳を繰り出すんだろう。だが、それもまた愚直な直線的な一撃。よけるのは容易い。そして何より既に隙だらけだ。西園寺にでもそんなことをやったら一瞬で倒される。まあ、俺だからこそそんなにも隙を見せられるんだろうが。
一撃ならば食らっても問題ない。ましてや落ちこぼれの一撃なんて……。
そんな甘い考えが丸見えだ。油断こそ敗北の理由では最も多い。だからこそ、俺は……、
「ガハッ……!」
俺はそれらの甘い考えを吹き飛ばすかのように、その隙だらけな腹部に右拳を打ち込んだ。無論、全力で、だ。打ち込まれた生徒は受け身も防御姿勢もとれぬまま。否、とる時間も与えぬまま勢いのままにステージ後ろに大きく吹っ飛ばされた。その生徒の腕時計にはしっかりと赤いランプが二つ、点滅していた。
今まで湧いていた会場は一瞬にして沈黙に包まれる。皆、目の前の光景が信じられないというように、驚愕の表情を浮かべていた。
当然だろう。今まで学校では『最弱』と、『落ちこぼれ』とけなされ、馬鹿にしてきたその男が、一撃でDクラスの生徒を地に沈めたのだから。
俺はそんな会場の雰囲気とは裏腹に、残った二人の生徒に、同じく驚愕の表情を漏らすその生徒にゆっくりと問いかける。
「終わりか? まだ、一分も経ってないぞ。ウル〇ラマンだってもっと根性あるぜ。まだ、終わりじゃないだろ?」
軽口を交えながらも、俺は悪魔の微笑みをたたえながら、恐怖に染まった生徒を見つめる。
俺の今の心情だって?
優越? 憐みの目? 余裕? 全く違う。
何も感じない。何も思わない。自分でも何か感情のピースが欠けていると思う。だが、実際何も感じない。こんな奴ら……。いや、この際、大きく言ってしまおう。
この学校に通う俺以外の生徒全員掛かってこようが俺を止めることはできない。例えそれが舞原だったとしても西園寺だったとしてもミサだったとしても、その事実は変わることはない。全員俺以下。俺以上の輩は奴らだけ。
そして、その輩こそ、この試験に裏で関わっている組織のことだ。
その組織は確かに裏から関わるという手にピッタリなもので、かつ、俺、いや、俺たちの目的、存在意義、生存本能に直結するような話だ。
それが達成された時、俺は…………。
いや、そんな先のことを考えても仕方ない。一応この試験での布石は既に打ってある。取り敢えず追っ払うことはできそうだ。倒せるかどうかは別として……。
まあ、このくらいで考え事はやめるとしよう。
さて、この試合は秒殺で締めますか……。
「吞気、楽観的、協力性皆無っと」
「強者の余裕、ムカつくっと」
「待て、一体誰を分析している」
何故か、今の俺の状況の事を言っているように聞こえたが……。
「誰って、今戦っているチームのことに決まってるでしょ」
「他に何があるのよ」
「そ、そうか……」
どうやら気のせいだったらしい。となると、先程まで向けられていた二人のジト目も気のせいらしい。
全く酷い言いようだ。こっちはこっちで西園寺が言っていた裏で関わっているとされている組織への警戒をしているというのに。いったい誰のおかげで試験に集中出来ていると思っているのだろうか。
まあ、そんなことはどうでもいい。
分析と言っても、要注意という訳ではないチームばかりなので、それほど注意深く見る必要もない。
俺たちは次の試合のため、傍観を止め、スタジアムの広場へと向かった。
スタジアムの用意されたステージに上がると、ワッ、と歓声が沸く。当たり前だ。何せ、こっちには学校最強の座を争う舞原千歳がいるのだから。
設置されたタブレットに腕時計をかざし、承認を済ます。これで準備は整った。
「それでは双方、準備が整った為、第二試合開始」
教師そのその掛け声とともに、戦いの火ぶたは切って落とされた。
相手はD・E・Fクラスの中でもそんなに目立たないような生徒三人。だが、油断はできない。クラス下位とは言え、Dクラスはつい最近まではCクラスとして君臨していたのだから。その三人が一斉に俺へと襲い掛かってくる。
これも当然のこと。もちろん予測していたことだ。Aクラスの中でも強い方に部類される人物をどう相手にするか。簡単だ。
数的優位を作り、多勢に無勢に則って戦う。
作戦としては素晴らしい。戦場において数的優位というものは何よりも相手にプレッシャーを掛けられ、かつ、相手が自分より実力が上でも対等に戦うことが可能だ。
よく考えられている。だが、これには密かな条件がある。それは……、
俺が本当に落ちこぼれだったらの話だ。
俺は飛びかかってきた生徒を一瞥する。
相手はDクラスの生徒。つい先月まではCクラスだった者だ。Fクラスよりも実戦経験が豊富な生徒。
だが、俺はそれを哀れな目で見ていた。
ため息が出るような単調な動き。きっと、ここから腕を大きく振りかぶって拳を繰り出すんだろう。だが、それもまた愚直な直線的な一撃。よけるのは容易い。そして何より既に隙だらけだ。西園寺にでもそんなことをやったら一瞬で倒される。まあ、俺だからこそそんなにも隙を見せられるんだろうが。
一撃ならば食らっても問題ない。ましてや落ちこぼれの一撃なんて……。
そんな甘い考えが丸見えだ。油断こそ敗北の理由では最も多い。だからこそ、俺は……、
「ガハッ……!」
俺はそれらの甘い考えを吹き飛ばすかのように、その隙だらけな腹部に右拳を打ち込んだ。無論、全力で、だ。打ち込まれた生徒は受け身も防御姿勢もとれぬまま。否、とる時間も与えぬまま勢いのままにステージ後ろに大きく吹っ飛ばされた。その生徒の腕時計にはしっかりと赤いランプが二つ、点滅していた。
今まで湧いていた会場は一瞬にして沈黙に包まれる。皆、目の前の光景が信じられないというように、驚愕の表情を浮かべていた。
当然だろう。今まで学校では『最弱』と、『落ちこぼれ』とけなされ、馬鹿にしてきたその男が、一撃でDクラスの生徒を地に沈めたのだから。
俺はそんな会場の雰囲気とは裏腹に、残った二人の生徒に、同じく驚愕の表情を漏らすその生徒にゆっくりと問いかける。
「終わりか? まだ、一分も経ってないぞ。ウル〇ラマンだってもっと根性あるぜ。まだ、終わりじゃないだろ?」
軽口を交えながらも、俺は悪魔の微笑みをたたえながら、恐怖に染まった生徒を見つめる。
俺の今の心情だって?
優越? 憐みの目? 余裕? 全く違う。
何も感じない。何も思わない。自分でも何か感情のピースが欠けていると思う。だが、実際何も感じない。こんな奴ら……。いや、この際、大きく言ってしまおう。
この学校に通う俺以外の生徒全員掛かってこようが俺を止めることはできない。例えそれが舞原だったとしても西園寺だったとしてもミサだったとしても、その事実は変わることはない。全員俺以下。俺以上の輩は奴らだけ。
そして、その輩こそ、この試験に裏で関わっている組織のことだ。
その組織は確かに裏から関わるという手にピッタリなもので、かつ、俺、いや、俺たちの目的、存在意義、生存本能に直結するような話だ。
それが達成された時、俺は…………。
いや、そんな先のことを考えても仕方ない。一応この試験での布石は既に打ってある。取り敢えず追っ払うことはできそうだ。倒せるかどうかは別として……。
まあ、このくらいで考え事はやめるとしよう。
さて、この試合は秒殺で締めますか……。
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