能力者主義の世界で俺は無能なチート能力者

高桐AyuMe

文字の大きさ
36 / 55
本編

戻ってくるのは非日常

しおりを挟む
 先ほどまでに盛り上がっていた会場は時間がたつにつれてその熱は段々と冷めていき、気づけば最終試合を終えた俺たちだけがロビーのベンチに座っているという状況になっていた。

 俺は近くの自販機で買った水を飲みながら一息つく。

 「やっと終わったか」

「そうね、やけに長い気がしたけれど」

「それについては同感だ」

 全戦全勝という形でこの試験を終えることができたことに関してはもう拍手喝采の功績だ。だが、その対価というものが恐らく、クラスの上昇。そもそも上のクラスを目指す事に興味がない俺にとっては少し物足りない。

「全チームの得点が出そろいました。よって、15分後にステージへ集合してください」

 このまま休みたかったが、学校側からのお呼出しだ。

 俺たちは渋々立ち上がってステージへ向かう。

「久しぶり、と言ってもそんなに日にちはたっていないか」

 ステージに着くなり、汗衫が俺に話しかけてきた。

「そうだな、だが、体感としては一週間ぶりくらいだな」

 長い期間での試験だったので周りを見れば疲労を抱えている生徒が多々見受けられる。

「これでやっと日常に戻れるのか……」

「それは無理な話じゃないか、零。特にお前は今や注目の的だ」

「俺が何をやったって?」

「十分、実力を見せつけただろ。あれで自覚がないのなら病気だぞ」

「大げさじゃないか? 無能力に油断しただけだろ」

 そこで会話を打ち切る。

 これ以上追及されても、答えられるものはない。

 数分の待機の後、教師がステージ上に上がる。

「全チームの結果が出そろった。詳しい順位は後に発表されるが、降格が関わる下位5組と上位3組のみ発表する」

 先ずは下位5組から発表される。主にF、Eクラス中心のチームが出揃う。まあ予想通りだ。Fクラスの生徒は退学、という形で学校を去ることになる。

 続いて上位3組。3位にAクラスで固めたチームが手堅くランクイン。2位は西園寺のチーム。俺たち以外に勝利をおさめる形となった。そして、1位は勿論、舞原のチーム。全戦全勝の圧倒的な実力差でもぎ取った頂点だった。

「続いて、本来は予定していなかったがやむなく、クラス上昇を行う生徒1人を発表する」

 ざわり、と生徒間でどよめきが広がる。が、そんな中でも俺は溜息を洩らし、覚悟した。

「椿零。試験での活躍を認め、Aクラスへの昇格とする」

 俺の日常はこの一言でぶち壊されることが決定した。


「憂鬱だ……」

 学校への帰りのためのバスの中。俺は一人呟く。

「かなり贅沢なことを言っている自覚はあるか?」

 隣に座った汗衫がそう言葉を掛けてくるが、あるわけないよなと一人で納得する。

 聞こえてるからな?

「なんとでも言え。これからどうしろと……」

「どうするも何も、Aクラスの生徒として過ごしていくしかないだろ。ほかに選択肢なんかないぞ」

 分かってる。分かってるさ。分かってるからこそ逃げ出したい現実があることを知らないのか。

「言っただろ。日常がそう簡単に戻ってくるものか」

 汗衫が繰り返して言う。

 だが、仕方ない。もともとの予定とは違う結末になってしまったのだから。そう割り切るしかない。

「Aクラス、か……」

 試験では全員を相手取ったのだから実力などたかが知れてる。だが、それでも、

「足りない……」

「何がだ?」

 舞原も西園寺も。この学校に入ってからはたったの1度も負けると思ったことはないし、まだ力を抑えても戦えるレベルだ。

 まだ見ぬAクラスのレベル。果たして、どれだけの実力を用意してくるのか。

 そこには少し興味がひかれるな。


 学校に戻った俺は部屋に戻ると部屋中を見渡した。

「また移動か……」

 Fクラスから一気にBクラスに上がり、寮生活が始まったのだが。Aクラスに上がるということは、またこの部屋がグレードアップするということだ。

「あんまり金のかかるような備品は好きじゃないんだけどな……」

 シンプルな部屋になりますようにとお祈りしてベットに飛び込む。

 これから始まる憂鬱な生活すべてをこの身のように投げ出したい気分だった。

 そのまま眠りにつこうとしたのだが、突然にドアがノックされる。

 眠りを妨げる奴は一体どこのどいつだ、と。

 文句の一言ぐらい言わしてもらおうと、来訪者を迎える。

「突然すまないな、椿零」

「西園寺、俺はなぜ眠い瞼をこすりながらお前と話さなければならない」

「さぞかし疲れているだろうにな。あの試験でリタイアを挟まなかったのは唯一お前だけだ」

「そりゃ、全く誉め言葉にはなってない。で、お前の言い方からすると、用があるのはお前じゃないのか?」

「ああ、俺は言伝を頼まれただけだ」

「言伝……」

 つまりは俺の連絡先を持っていない誰か。しかも、試験終了直後というタイミングからしてそこそこ急ぎの用なのかもしれない。

「それで、誰だ。用がある奴は」

 俺は西園寺に先を促す。そして、西園寺の口から放たれたのは、

「学園長からだ。至急、学園長室へ来い。だそうだ」

「……」

「……」

「……は?」

しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

敗戦国の姫は、敵国将軍に掠奪される

clayclay
恋愛
架空の国アルバ国は、ブリタニア国に侵略され、国は壊滅状態となる。 状況を打破するため、アルバ国王は娘のソフィアに、ブリタニア国使者への「接待」を命じたが……。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

バッドエンド予定の悪役令嬢が溺愛ルートを選んでみたら、お兄様に愛されすぎて脇役から主役になりました

美咲アリス
恋愛
目が覚めたら公爵令嬢だった!?貴族に生まれ変わったのはいいけれど、美形兄に殺されるバッドエンドの悪役令嬢なんて絶対困る!!死にたくないなら冷酷非道な兄のヴィクトルと仲良くしなきゃいけないのにヴィクトルは氷のように冷たい男で⋯⋯。「どうしたらいいの?」果たして私の運命は?

復讐のための五つの方法

炭田おと
恋愛
 皇后として皇帝カエキリウスのもとに嫁いだイネスは、カエキリウスに愛人ルジェナがいることを知った。皇宮ではルジェナが権威を誇示していて、イネスは肩身が狭い思いをすることになる。  それでも耐えていたイネスだったが、父親に反逆の罪を着せられ、家族も、彼女自身も、処断されることが決まった。  グレゴリウス卿の手を借りて、一人生き残ったイネスは復讐を誓う。  72話で完結です。

【完結】乙女ゲーム開始前に消える病弱モブ令嬢に転生しました

佐倉穂波
恋愛
 転生したルイシャは、自分が若くして死んでしまう乙女ゲームのモブ令嬢で事を知る。  確かに、まともに起き上がることすら困難なこの体は、いつ死んでもおかしくない状態だった。 (そんな……死にたくないっ!)  乙女ゲームの記憶が正しければ、あと数年で死んでしまうルイシャは、「生きる」ために努力することにした。 2023.9.3 投稿分の改稿終了。 2023.9.4 表紙を作ってみました。 2023.9.15 完結。 2023.9.23 後日談を投稿しました。

裏切られ続けた負け犬。25年前に戻ったので人生をやり直す。当然、裏切られた礼はするけどね

竹井ゴールド
ファンタジー
冒険者ギルドの雑用として働く隻腕義足の中年、カーターは裏切られ続ける人生を送っていた。 元々は食堂の息子という人並みの平民だったが、 王族の継承争いに巻き込まれてアドの街の毒茸流布騒動でコックの父親が毒茸の味見で死に。 代わって雇った料理人が裏切って金を持ち逃げ。 父親の親友が融資を持ち掛けるも平然と裏切って借金の返済の為に母親と妹を娼館へと売り。 カーターが冒険者として金を稼ぐも、後輩がカーターの幼馴染に横恋慕してスタンピードの最中に裏切ってカーターは片腕と片足を損失。カーターを持ち上げていたギルマスも裏切り、幼馴染も去って後輩とくっつく。 その後は負け犬人生で冒険者ギルドの雑用として細々と暮らしていたのだが。 ある日、人ならざる存在が話しかけてきた。 「この世界は滅びに進んでいる。是正しなければならない。手を貸すように」 そして気付けは25年前の15歳にカーターは戻っており、二回目の人生をやり直すのだった。 もちろん、裏切ってくれた連中への返礼と共に。 

処理中です...