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本編
暴走者
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「人の命ですか、そんなこと考えたこともなかったですね。逆に言えば、あなたは何か思うことがあると?」
ようやく姿を現したそいつに俺は答える。
「さあな。お前が知っての通り、俺は俺という行動自体に無感情だ。いちいち、考えたこともない。だが」
俺は一拍おいて。
「これを一般人にやるかどうか別問題だ」
これ……。先の男のような状態のこと。
俺はあれがどういうことなのか知っている。だからこそ、一般人に向けるものじゃないということはいやというほどわかる。
「それはあなたが感じたことでしょう。私たちの主様はそんな些細なことなどに目を向けられることはありません」
組織Xに所属するそいつ、幹部クラスの男は淡々と言う。抑揚などない、ロボットのごとく冷え切った言葉で。
「そうかよ。いや、それぐらいは予想していたさ。だが、俺が思っているのとは違うな」
「何がですか?」
「俺が知ってる主は到底そんな奴とは思えないがな。俺に命を教えたのは主だぞ」
俺という存在に命を教えた。人間をうめてくれた。
だからこそ、この件を指示した人物が主とは到底思えない。
「お前の言っている主は俺が知っている主じゃないってことか?」
「さあ、どうでしょう。残念ながら、その質問に対する解答を私は有していないので何も言えません。また、あなたと戦うにはまだ早い、そう思いません?」
そう言って、そいつは踵を返す。
ああ、分かってるとも。これ以上は舞原の体が持たない。煙が充満しつつあるこのフロアに長居は危険だ。
「ではこれで。次に出会うときは然るべき時に」
ばさり、とやつが羽織っていた黒マントがなびく音が背後で聞こえた。
俺は振り返る、なんて野暮なことはせず、舞原を抱え上げる。
「はっ……」
俺は乾いた笑みを発する。
「誰が戦うためにお前と会わなくちゃならないんだよ。何処の戦闘狂だ」
そんな俺のツッコミに返答はない。
既に奴はこの場から去っている。
俺もさっさとここを去ることにしようと、階段へと歩き始めた。
「ん……」
「目覚めたか」
あれから学校に戻ってきた俺たちだが、事件を一つ解決してきた旨を伝えると学校側も認識していたようで、午後の授業の出席免除を貰った。
そのまま昏倒した舞原を彼女の部屋で寝かしていたところだ。
「……。……え」
「どうかしたか」
寝ぼけた目をこすって暫く瞬きを数回。今の状況を理解するように俺をじっと見つめ、瞬間、かけていた毛布を今一度自分の身に巻き付けた。
「な、な、なっ……! なんで貴方が私の部屋にいるのよ!!!」
「何でと言われても、俺の部屋で寝かせるより自分の部屋で目覚めたほうが気持ちは優れると思ったんだが、違ったか?」
「な、な、なっ!!!」
さっきからのな、と連呼してるが何がな、なのか。全くもって意味が分からない。
「そ、それだったら私の部屋に居座らなくてもよかったじゃない! 何でまだいるのよ!」
突如として投げられた枕を受け止めると、冷静に答える。
「お前はあいつの正体は気にならないのか?」
「正体? ……あ」
あいつ。火事の原因となったあの火だるまとなっていた人間。図らずも、舞原はそんな奇妙な事件に巻き込まれてしまった。ならば、説明を受ける権利はあるだろう。
「知りたくないのなら俺は今すぐにここから去るが、どうなんだ?」
「……。貴方はあれが何なのか知っているってことでしょう?」
「ああ」
「なら、説明して。私が知らないところで何が起きているのか。それが知りたい」
「ああ、いいだろう。少なくとも舞原に知る権利はある」
俺は一息ついて、口を開く。
「まず、条件だが、詳しいことは何も訊くな。俺の質問だけに解答しろ。そして、このことを口外しない。いいな?」
舞原がその言葉に首肯したのを確認して俺は話し始める。
政府さえも隠しているこの世界の裏の姿を。
「能力というものは、突如としてこの世界に現れたわけじゃない。元々、俺たち人間が持っていたものが日々年を過ぎていくことによって次第に開花したものだと言われている。だが、詳しいことはまだ分かっていない。だから、これは現在考えられる最有力説に過ぎない。だから、もう一つ考えられている説を多くの人間は知らない。何故なら、前者の説が真実だと政府が謳い、皆それを真実だと擦り込みをされた。それはなぜだと思う?」
「政府がその説を謳う理由? それが一番証明出来る説だからじゃないの?」
「そうじゃない。理由はただ一つ。国民たちに危険から目を逸らせるためだ。その危険性がもう一つの説に繋がる」
政府が今もなお、隠し続けているもう一つの説、それが。
「能力は人間に備わっていたものではなく、人類の上をゆく何者かに植え付けられたもの、という説だ」
「何者かに植え付けられた?」
「これを知っているものは皆それを神という。その神こそが俺たちという人間に能力を植え付けたのだと、そう説いた」
皆それを訊けば笑うだろう。そんなことがあるわけがない。あり得ないと。
だが、それは何も知らないごく一般人の意見に過ぎない。短絡的な考え方だ。
「一つ。この説についての研究がある。能力者一人を対象にしたものだ。まず、能力者の身に何もない時の能力の出力を計測する。そして、能力者精神状態を操作し、命の危機に瀕したときと同じ精神にして、もう一度出力を計測した。結果はどうなったか予想できるか?」
「普通に同じ出力じゃないの?」
「これは人間の特性である生存本能を利用した実験だ。人間は普段、無意識に力を押さえているという。それを100%近くまで引き出すときは身が危険にさらされた時などに限定される。いわば、火事場の馬鹿力だ」
人は自分が思っている数倍の力を持っている。だがそれを抑え、必要な時使用することで生存を高める働きを持っている。
この場合、最初の能力者の出力は、普段使っている程度の能力だ。それが、火事場の馬鹿力が加わると。
「結果として、後者のほうが出力は数倍の数値を示した。このことから、普段能力者が使用できる力は本来の半分程度ということになる。何故そこまで押さえているか分かるか?」
「もし100%の力を発揮したら、身の危険があるから、なの?」
「ああ、そういうことだ。察しがいいな」
俺は先ほど生存本能の話をした。生存するために無意識にしていること。それは火事場の馬鹿力だけじゃない。
もし、自分が持っている力を100%発揮したとき、身に危険が迫るなら生存本能はどうするか。
当然、その力を押さえるだろう。使いやすい出力に調整して。
「並の能力者なら30%、もう少し上を行くなら50%が多くの能力者の出力だとされている。逆にもし何らかの原因で100%の力を引き出してしまったら、人間はどうなるか。単純にまず力に耐えきれず死ぬ可能性」
もう一つ、それが今回の正体。
「二つ。生き残った場合、自我は失われ、ただただ能力を使用して視界に入るものをひたすらに破壊する破壊神と化す」
「それって……」
記憶に新しい謎の火だるま人間。
「それがすべての真相だ」
何らかが原因で能力の暴走に至ったあの人物は予想するに炎に関連した能力者だったのだろう。その結果、能力の暴走によってあのビルは炎に包まれた。
これがあの事件の推移だろうな。
「現在も研究は知らず知らずのうちに進められているが、何が原因となって暴力状態に陥るのかはわかっていない。だが、その危険性故に暴走を強制的に止める方法は考えられている」
「その方法が、あれ……。ということなの?」
「ああ、それが俺がやった行為。言わば」
そして俺はその決定的な言葉を口にする。
「殺しだ」
暴走者を止める唯一の方法。現状で最も効果的な手段。
それが息の根を止めること。
それを舞原ができるわけがなかった。
「単純に考えて、相手は自分よりも高い出力で能力を使っているんだ。取り押さえるという作業でさえも難しい程の状況で暴走を抑えることはさらに難しい」
そうした結論から、研究者たちは結論付けたのだ。
能力が暴走した場合、その者を殺すしかないと。
はっきり言って、極端なやり方だ。残酷だとも思うし、ほかの方法があるなら俺だってそちらを選ぶ。だが、今のところそれ以外の方法は分かっていない。それにあれ以上奴を放置はできなかった。放置していればさらに被害は拡大していた。
平和の陰に潜む少なからずの犠牲。
普通に過ごしていれば目にすることはない影の犠牲。
それを舞原は目にしてしまった。
「この学校に通っている奴は少なくとも並以上の能力者は数えきれないほどいるだろう。更には舞原のような飛びぬけた実力の奴もいる。だが、そいつらはある意味優しい。能力者主義という名実の下に生活してきたかりそめともいえる平和の表しか見てきていない。だからこそ、殺しという動作に強烈な抵抗を示す。つまりは暴走者を止められない」
不運にもこの類いの事件は日に日に増加している。理由は簡単。先ほど会ったあの
黒マントのような奴らが最近になって行動を活発化している。
奴らは元々能力を研究していた。つまり、原理として暴走が分からなくとも、奴らは作り上げてしまった。能力者を強制的に暴走させる薬を。
恐らく、今回の件もこの類いであることは間違いない。だが、それを舞原には言えない。
いつか知るときは必ず来る。この社会の裏の真実を、その深層な闇を。だが、それは今でもないし、俺から伝えるものでもない。
それは舞原自身で知り得なきゃいけないものだ。だから、俺はそこまでしか言わない。
「きっと暴走者は今後増え続ける。警察になるのならば、将来的にそういう奴らを相手取ることもある」
「暴走者を、止める必要が出てくる……」
「ああ、いつかさっきの俺のような行動をとる必要がある、ということだ」
「……」
舞原はそこで黙ってしまった。
そりゃそうだ。
暴走者を止める。ということはそれは自分の手を殺しに使うということと同義。
そんなものを学生に強いる、そんなことをこの世界は黙認しているのだ。
とんだ畜生だ。
「無理しなくていい。これはあくまでも可能性の話だ。暴走者を止める必要があるという可能性のな。だが、もしそれが本当に起こったのだとしたら」
舞原にはできない。ほかの者にもほぼ間違いなく出来ない。だから。
「俺を頼れ。そんな局面に出くわしたらその場から逃げてもいい。それもできないなら俺を頼れ。どんな方法でも伝達していい。お前が助けを求めるなら俺はそれに答える」
ただそんな簡単で単純な提案を。
ようやく姿を現したそいつに俺は答える。
「さあな。お前が知っての通り、俺は俺という行動自体に無感情だ。いちいち、考えたこともない。だが」
俺は一拍おいて。
「これを一般人にやるかどうか別問題だ」
これ……。先の男のような状態のこと。
俺はあれがどういうことなのか知っている。だからこそ、一般人に向けるものじゃないということはいやというほどわかる。
「それはあなたが感じたことでしょう。私たちの主様はそんな些細なことなどに目を向けられることはありません」
組織Xに所属するそいつ、幹部クラスの男は淡々と言う。抑揚などない、ロボットのごとく冷え切った言葉で。
「そうかよ。いや、それぐらいは予想していたさ。だが、俺が思っているのとは違うな」
「何がですか?」
「俺が知ってる主は到底そんな奴とは思えないがな。俺に命を教えたのは主だぞ」
俺という存在に命を教えた。人間をうめてくれた。
だからこそ、この件を指示した人物が主とは到底思えない。
「お前の言っている主は俺が知っている主じゃないってことか?」
「さあ、どうでしょう。残念ながら、その質問に対する解答を私は有していないので何も言えません。また、あなたと戦うにはまだ早い、そう思いません?」
そう言って、そいつは踵を返す。
ああ、分かってるとも。これ以上は舞原の体が持たない。煙が充満しつつあるこのフロアに長居は危険だ。
「ではこれで。次に出会うときは然るべき時に」
ばさり、とやつが羽織っていた黒マントがなびく音が背後で聞こえた。
俺は振り返る、なんて野暮なことはせず、舞原を抱え上げる。
「はっ……」
俺は乾いた笑みを発する。
「誰が戦うためにお前と会わなくちゃならないんだよ。何処の戦闘狂だ」
そんな俺のツッコミに返答はない。
既に奴はこの場から去っている。
俺もさっさとここを去ることにしようと、階段へと歩き始めた。
「ん……」
「目覚めたか」
あれから学校に戻ってきた俺たちだが、事件を一つ解決してきた旨を伝えると学校側も認識していたようで、午後の授業の出席免除を貰った。
そのまま昏倒した舞原を彼女の部屋で寝かしていたところだ。
「……。……え」
「どうかしたか」
寝ぼけた目をこすって暫く瞬きを数回。今の状況を理解するように俺をじっと見つめ、瞬間、かけていた毛布を今一度自分の身に巻き付けた。
「な、な、なっ……! なんで貴方が私の部屋にいるのよ!!!」
「何でと言われても、俺の部屋で寝かせるより自分の部屋で目覚めたほうが気持ちは優れると思ったんだが、違ったか?」
「な、な、なっ!!!」
さっきからのな、と連呼してるが何がな、なのか。全くもって意味が分からない。
「そ、それだったら私の部屋に居座らなくてもよかったじゃない! 何でまだいるのよ!」
突如として投げられた枕を受け止めると、冷静に答える。
「お前はあいつの正体は気にならないのか?」
「正体? ……あ」
あいつ。火事の原因となったあの火だるまとなっていた人間。図らずも、舞原はそんな奇妙な事件に巻き込まれてしまった。ならば、説明を受ける権利はあるだろう。
「知りたくないのなら俺は今すぐにここから去るが、どうなんだ?」
「……。貴方はあれが何なのか知っているってことでしょう?」
「ああ」
「なら、説明して。私が知らないところで何が起きているのか。それが知りたい」
「ああ、いいだろう。少なくとも舞原に知る権利はある」
俺は一息ついて、口を開く。
「まず、条件だが、詳しいことは何も訊くな。俺の質問だけに解答しろ。そして、このことを口外しない。いいな?」
舞原がその言葉に首肯したのを確認して俺は話し始める。
政府さえも隠しているこの世界の裏の姿を。
「能力というものは、突如としてこの世界に現れたわけじゃない。元々、俺たち人間が持っていたものが日々年を過ぎていくことによって次第に開花したものだと言われている。だが、詳しいことはまだ分かっていない。だから、これは現在考えられる最有力説に過ぎない。だから、もう一つ考えられている説を多くの人間は知らない。何故なら、前者の説が真実だと政府が謳い、皆それを真実だと擦り込みをされた。それはなぜだと思う?」
「政府がその説を謳う理由? それが一番証明出来る説だからじゃないの?」
「そうじゃない。理由はただ一つ。国民たちに危険から目を逸らせるためだ。その危険性がもう一つの説に繋がる」
政府が今もなお、隠し続けているもう一つの説、それが。
「能力は人間に備わっていたものではなく、人類の上をゆく何者かに植え付けられたもの、という説だ」
「何者かに植え付けられた?」
「これを知っているものは皆それを神という。その神こそが俺たちという人間に能力を植え付けたのだと、そう説いた」
皆それを訊けば笑うだろう。そんなことがあるわけがない。あり得ないと。
だが、それは何も知らないごく一般人の意見に過ぎない。短絡的な考え方だ。
「一つ。この説についての研究がある。能力者一人を対象にしたものだ。まず、能力者の身に何もない時の能力の出力を計測する。そして、能力者精神状態を操作し、命の危機に瀕したときと同じ精神にして、もう一度出力を計測した。結果はどうなったか予想できるか?」
「普通に同じ出力じゃないの?」
「これは人間の特性である生存本能を利用した実験だ。人間は普段、無意識に力を押さえているという。それを100%近くまで引き出すときは身が危険にさらされた時などに限定される。いわば、火事場の馬鹿力だ」
人は自分が思っている数倍の力を持っている。だがそれを抑え、必要な時使用することで生存を高める働きを持っている。
この場合、最初の能力者の出力は、普段使っている程度の能力だ。それが、火事場の馬鹿力が加わると。
「結果として、後者のほうが出力は数倍の数値を示した。このことから、普段能力者が使用できる力は本来の半分程度ということになる。何故そこまで押さえているか分かるか?」
「もし100%の力を発揮したら、身の危険があるから、なの?」
「ああ、そういうことだ。察しがいいな」
俺は先ほど生存本能の話をした。生存するために無意識にしていること。それは火事場の馬鹿力だけじゃない。
もし、自分が持っている力を100%発揮したとき、身に危険が迫るなら生存本能はどうするか。
当然、その力を押さえるだろう。使いやすい出力に調整して。
「並の能力者なら30%、もう少し上を行くなら50%が多くの能力者の出力だとされている。逆にもし何らかの原因で100%の力を引き出してしまったら、人間はどうなるか。単純にまず力に耐えきれず死ぬ可能性」
もう一つ、それが今回の正体。
「二つ。生き残った場合、自我は失われ、ただただ能力を使用して視界に入るものをひたすらに破壊する破壊神と化す」
「それって……」
記憶に新しい謎の火だるま人間。
「それがすべての真相だ」
何らかが原因で能力の暴走に至ったあの人物は予想するに炎に関連した能力者だったのだろう。その結果、能力の暴走によってあのビルは炎に包まれた。
これがあの事件の推移だろうな。
「現在も研究は知らず知らずのうちに進められているが、何が原因となって暴力状態に陥るのかはわかっていない。だが、その危険性故に暴走を強制的に止める方法は考えられている」
「その方法が、あれ……。ということなの?」
「ああ、それが俺がやった行為。言わば」
そして俺はその決定的な言葉を口にする。
「殺しだ」
暴走者を止める唯一の方法。現状で最も効果的な手段。
それが息の根を止めること。
それを舞原ができるわけがなかった。
「単純に考えて、相手は自分よりも高い出力で能力を使っているんだ。取り押さえるという作業でさえも難しい程の状況で暴走を抑えることはさらに難しい」
そうした結論から、研究者たちは結論付けたのだ。
能力が暴走した場合、その者を殺すしかないと。
はっきり言って、極端なやり方だ。残酷だとも思うし、ほかの方法があるなら俺だってそちらを選ぶ。だが、今のところそれ以外の方法は分かっていない。それにあれ以上奴を放置はできなかった。放置していればさらに被害は拡大していた。
平和の陰に潜む少なからずの犠牲。
普通に過ごしていれば目にすることはない影の犠牲。
それを舞原は目にしてしまった。
「この学校に通っている奴は少なくとも並以上の能力者は数えきれないほどいるだろう。更には舞原のような飛びぬけた実力の奴もいる。だが、そいつらはある意味優しい。能力者主義という名実の下に生活してきたかりそめともいえる平和の表しか見てきていない。だからこそ、殺しという動作に強烈な抵抗を示す。つまりは暴走者を止められない」
不運にもこの類いの事件は日に日に増加している。理由は簡単。先ほど会ったあの
黒マントのような奴らが最近になって行動を活発化している。
奴らは元々能力を研究していた。つまり、原理として暴走が分からなくとも、奴らは作り上げてしまった。能力者を強制的に暴走させる薬を。
恐らく、今回の件もこの類いであることは間違いない。だが、それを舞原には言えない。
いつか知るときは必ず来る。この社会の裏の真実を、その深層な闇を。だが、それは今でもないし、俺から伝えるものでもない。
それは舞原自身で知り得なきゃいけないものだ。だから、俺はそこまでしか言わない。
「きっと暴走者は今後増え続ける。警察になるのならば、将来的にそういう奴らを相手取ることもある」
「暴走者を、止める必要が出てくる……」
「ああ、いつかさっきの俺のような行動をとる必要がある、ということだ」
「……」
舞原はそこで黙ってしまった。
そりゃそうだ。
暴走者を止める。ということはそれは自分の手を殺しに使うということと同義。
そんなものを学生に強いる、そんなことをこの世界は黙認しているのだ。
とんだ畜生だ。
「無理しなくていい。これはあくまでも可能性の話だ。暴走者を止める必要があるという可能性のな。だが、もしそれが本当に起こったのだとしたら」
舞原にはできない。ほかの者にもほぼ間違いなく出来ない。だから。
「俺を頼れ。そんな局面に出くわしたらその場から逃げてもいい。それもできないなら俺を頼れ。どんな方法でも伝達していい。お前が助けを求めるなら俺はそれに答える」
ただそんな簡単で単純な提案を。
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