能力者主義の世界で俺は無能なチート能力者

高桐AyuMe

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本編

あれからお前は

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 日が昇る。この試験も今日で……何日目だ? 
 長い事感情も抱かなかったような、そんな感覚がするが。まあ、気のせいだろう。
 腕に付けられた腕時計を見て時間を確認する。
「5日目…、いや7日目、か」
 いつの間にか2日ほど経った気がする。
 だが、ポイントはエリア占有だけでは到底届かないポイントの量が振り込まれているところを見ると、2日経ったのは間違いではなさそうだ。
 5日目は何があったか。少し思い出してみる。
 ベルの襲撃以降、刺客と呼ばれるものは現れなかった。だが、他の生徒との戦闘がなかったわけじゃない。
 基本的には課題の出現に合わせて動きながら、出会った生徒と戦闘しているわけだが、果たして俺のポイントの量は多いのか少ないのか。
 何にしろ、行動を変える必要もない。
 6日目も同じように動いた。だが、刺客というやつらは現れる気配もなかった。
 やはり、ベルが死んだということが大きく作用しているのだろうか。
 ベルはかなりの手練だ。俺が昔に苦戦していたように、丸腰で戦うには不利すぎた。
 だが、俺にあった秘策は有効に働いた。
 なぜ負けたか。そんなことは組織にバレてもバレなくても重要視はしないだろう。
 結果が全てなのがあの組織の憎めないところだ。
 勝つか負けるか。重要なのは負けたのか、勝ったのか。俺がそうであるように。
 俺は寝袋を片付け、立ち上がる。まぶしい朝日が俺を出迎え、暗闇に目が慣れていた俺は一瞬顔をしかめる。
 だが、ほんの一瞬だった。来客がいたようだ。
「試験の調子はどうだ? 舞原」
 背中に朝日を携えて、舞原千歳はいつもの調子で告げる。
「あなたの方こそ、ずいぶんとため込んでるんでしょ」
「知らんな。比べる対象がない中で多いか少ないかなんて判断できようにもない」
「ならそれは私も同じ。会話が下手ね、貴方」
「かわす必要がないなら下手でも何でもいいさ。そろそろ本題に入ってくれないか? わざわざ立ち話をするために俺のところに来たのか?」
「本当にいいの? 私たち流の会話を始めても」
 なんだそれは、聞いたこともない。
「言葉以外で交わしたことがあったのか。今記憶をたどっているところだ。あともう少し待ってろ」
 返答はなかった。おかしい。俺たちは人間である以上、言葉でのコミュニケーションが一番楽なのに、なぜ返答を拳で交わしたがるのか。なかなかに不思議だ。
「なあ、そろそろお前の能力教えてくれてもいいんじゃないか?」
 舞原に握られた禍々しい槍を避けながら、聞いてみる。
「華麗なレディに質問はなしよ」
「華麗……?」
 ブン、と槍が頬を掠めた。危ない。こいつ殺す気でやりやがったな?
「ジョークだよ、ジョーク。こういうの返答待ってたんじゃないのか?」
「そんなわけないでしょ。普通に失礼よ」
「冗談も言い合える仲、ってことにしておかないか」
「なんのためによ……」
 随分と、舞原とは関わってきた。最近は何かと出来事には舞原も絡んでいたような気がする。
 別に違和感はなかった。俺たちは友達ではない。はたまたライバルというのも生ぬるい。そんな不思議な関係。
 だが、薄々感づいてはいた。
 舞原にとって俺という存在が目標になっていることを。
 悪い気はしない。しかし、それはある意味無謀とも言える目標だ。
 彼女が気付いているかは分からない。あるいは気づいているのかもしれない。
 俺は未だに手をぬいているということ。
 今やもう昔話。目立ちたくないと、面倒くさい物事全て放り捨てる。俺は最底辺のクラスの住人だった。だがそれはその意思のほかに、俺には目立ってはいけないという絶対条件があった。
 俺がこの学校に来た理由。その目的を達するための条件。それがある以上、俺はどんなに命を狙われようが、目立ってはいけない。全力を出してはいけない。目立ってはいけない。そんな馬鹿とも言える縛りを自分に課して過ごしていた。
 今現在、刺客という形で俺は命を狙われているわけだが、それでも俺は手を抜いた。
 もう既に俺が求める目的は達することはできない状態にある。だからこそ、俺はやりたいことがある。
 縛りを課した俺はどれほどの実力なのか。それを確かめたい。そんな心境にはちょうどいい。
 舞原は成長している。前よりも、あの試験の時よりもはるかに強い。
 今、手を抜いた状態で彼女はどこまで戦えるのか。俺は気になって仕方がない。
「私は、貴方に言いたいことがある」
「告白はお断りだが…ッ、っぶね……。軽口ぐらいは許してくれよ」
「察しが悪いとモテないわよ」
「余計なお世話だ」
 空気が冷たくなる。風が啼いたような気がした。冷たい酸素が喉を刺激する。
 心地いい殺気が舞原から感じ取る。まるで学校内紛後の頃のようだ。あの死闘はどう始まったか。
 槍を構える舞原の目を見て、俺は懐かしさに身をゆだねる。
「どっちからはじめる?」
 答えはあの時にもう決まっていた。
「私から、」
 既に俺の目の前から消えた舞原。声は背後から聞こえた。


 何本目だろうか。また同じように槍を顕現させ、それを振るう。だけど、彼はさも当然のように捌き切る。
 彼に掴まれた槍は一瞬で形を失った。
「無能力者っていう設定はまだ続けるの?」
「設定? 別に信じろ、なんて言ってないけどな」
 能力があるってことは薄々気づいてた。だけど、その考えが嘘なんじゃないかって思うほど、彼の戦闘は強い。まるで能力を複数発動しているような、圧倒的身体差があった。
 だけどきっとそれだけじゃない。
 この心の余裕は経験からくるものだ。
 まるで押されていないように見えて、こちらの精神が敗北の予知をしてくるかのよう。
 敗北。
 彼とかかわるまで、私はそれを知らなかった。
 私の周りにはいつでも強者が集まっていた。
 だから私も成長できた。私はいつもトップを走っていて、ほかの者が私を追いかけてくる。
 この学校でもそれは同じだった。
 唯一、西園寺という男が私と肩を並べた。初めてだった。
 私と同じ立場に初めてたどり着いた男だった。
 だからきっと、怖かったのかもしれない。
 今まで一番上だった私が下に落ちてしまうのが。
 下に落ちてしまったら、私が私でなくなってしまうようで、恐怖した。
 最強と、周りからそう揶揄され、それこそ私自身だと胸を張って生きてきた。
 それを否定されてしまったら、私でなくなってしまう気がした。
 だから、今まで西園寺と直接戦うことは避けてきた。
 ずるい奴だと、私は思う。
 でも、そんな自分を責めたとしても、自分を失うのが怖くて、逃げてきた。
 彼に会った。
 彼は自分は無能力者だと言い張って、だけどきっとそれは噓で。
 何だか可笑しかった。
 わざわざ自分の実力を隠して生活しているのが、可笑しくて気に食わなくて。彼の全力を暴きたくなった。
 だから、私は彼と試験でチームを組んだ。これも逃げ、なのかな。
 西園寺と言い、彼と言い、私はそろそろ逃げ続けられる状況じゃなくなってきた。
 試験では西園寺に負けた。これは紛れもない事実だ。
 それを倒した彼との実力差も明らかだ。
 だけど、もう逃げない。
 自分の現状に満足していた。もうそんな甘い考えは捨てよう。
 自分を変える。全部。もう最強なんて肩書は今はいらない。周りから言われるのはこりごりだ。
 自分で証明するんだ。自分で最強を証明するんだ。
 この試験で彼も西園寺も私が倒す。この試験で私はゼロから生まれ変わるんだ。
 彼は顔色一つ変えず、私の攻撃を捌き続ける。
 一体いくつの修羅場をくぐり抜けてきたのだろう。
 私には到底理解し難い経験だ。私にはない強み。
 なら私の強みは?
 また槍が彼の手に触れて消滅する。
 構わない。だけど、それは貴方の身を滅ぼす最初の一手だ。
 私は槍を顕現させなかった。


 何も変わらない。俺はやり方を変えない。
 今まで舞原と戦ったことは多くはない。だが、近くでその戦いは見てきたつもりだ。
 試験にともに挑み、暴走者だって見てきた。
 だが、舞原の戦闘スタイルが変わることはなかった。
 別に無理にして変える必要はない。だが、自分を知っている奴と戦えば、その弱さは露呈する。
 舞原が槍をふるってくる。
 やることは変わらない。
 俺は突き出された槍を掴んでそれを消滅させる。
 まとっていた禍々しいオーラは散り散りなる。
 もう、いい。お前の攻撃は飽きた。
 相手に効果をもたらさない、無駄な攻撃は退屈でしかない。
 ああ、そうだ。前回の試験でもそうだった。
 チームとしてお前は西園寺に勝ったかもしれない。だが、その戦いの末、立っていたのは俺であり、お前ではない。お前はそこで敗北を学んだはずだ。
 西園寺だけじゃない、俺よりも実力が劣っていると。この事実をお前が理解しないはずがない。
 学校最強である所以は、こいつ自身の周りが実力者ぞろいということも関わってくる。
 ともに高めあう者がいれば、必然的に自分の実力は向上していく。共に学び成長し、その成長速度は留まるところを知らない。
 お前はそういう環境で過ごしてきたはずだ。
 いつまで足踏みしているつもりだ? 



 動かなかった。
 何が?
 俺の体だ。
 何でだ?
 俺の動きが何かによって遮られている。
 じゃあ何に?
 目の前のこの少女に。
「驚いた顔ね。初めて見た」
 気のせいではない。確かに彼女は今笑った。
 何も面白いことをしたわけじゃない。ここは戦場だ。戦場で、舞原は笑ったのだ。
「貴方は今何を考えているの? このバインドの打開策? それとも自分が置かれた状況への理解が先かしら?」
 舞原の鋭い視線が俺を射抜く。
「さっきまでの余裕はどうしたの? この展開は予想できた?」
 ああ、予想できなかった。お前は成長していた。
 俺の考えが間違っていた。こいつなりに悩みぬいていたんだろうな。
 足踏みしていたその足は、確かに前に踏み出してたらしい。成長していたらしい。
「ああ、いいね。予想できなかったさ」
 これはどんな感情なんだろうな。分からない。
 少しばかりの嬉しさと、やられたという悔しさと、あとは。
「もっと、見せてみろ」
 俺は能力を発動させる。
 俺を縛っていた禍々しいオーラのバインドは雲散霧消する。
 地を蹴って加速。角度をつけて懐に潜り込む。流れるままに放った拳は、しかし何かに防がれた。
「こういう使い方はどう?」
 一度距離をとる。
 なるほど。オーラの使い方を変えてきた。
 彼女の能力は分からない。どいう原理なのか。
 だが、何だか知らないが舞原の能力は何かを原動力にして紫色のオーラを操れる。
 今までそれを武器として顕現させていた。だが今は違う。
 臨機応変に形状と用途を変化させ、その改変は舞原に今までにできなかった戦い方をもたらす。
 あと一つ。あと一つのピースがはまれば、格段にレベルが上がる。
 そのピースはお前を変える。
 舞原は今一番熱い状態だ。なら、俺がすることは……。
 戦闘の速度を上げることだ。
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