能力者主義の世界で俺は無能なチート能力者

高桐AyuMe

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本編

新しい姿

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「っ!?」
 風が啼いた。今日は強風が吹いているとかそういう意味じゃない。
 彼が動いた。ただそれだけのことだ。
「は、やいっ!」
 繰り出された足刀は防ぎきる。刹那、今まで戦ってきた経験が叫ぶ。
「まだっ!」
 後ろから伸ばされた手も防ぎきる。
 本命じゃない。
 跳躍。体を丸めて一回転。鋭く尖った槍を投擲する。
 土煙が舞い、地面がえぐれる。
 煙が晴れてきたその奥には無傷の彼が立っていた。
「今のは危なかったな」
 噓だ。本当はそんなこと思ってないくせに。
 当たってなければ意味ないのよ。
 似たようなことを赤い人が言っていた。
 彼のスピードは常軌を逸している。反応するには最低でも彼と同じスピードに達する必要がある。
 なら、どうするか。
 私の能力は自分に干渉することができない。
 西園寺のような自信を強化することができないのだ。
 本当に?
 西園寺の能力による身体強化は内面的な強化によるものだ。
 内面的。つまりは体の根底から強化しているということ。
 そんなこと、私の能力はできない。
 だけど、外からなら?
 例えば、どんな攻撃をも防ぐ鎧をまとったり、跳躍力だって、倍増する靴を作り出せばいい。
 ほら、できるでしょ。私の能力だからできること。できる戦い方。このオーラで私を包め。
 鎧をまとえ。私の新しい使い方、形状変化は私に想像をもたらした。

 空気が変わる。雰囲気が変わる。それは戦う者の変化を意味する。
 紫色のオーラが舞原を覆っていく。照らす日差しをも飲み込まんとする、美しい鎧が彼女を覆い尽くす。
「これが私の答え」
 新しい自分。戦いの末見つけた自分の最適解。
 果たしてどれほどか。
「なら、はじめましてだな。聞きたいことがあるんだ」
「何?」
「強くなったか?」
「すぐにわかるわ」
 刹那、地面が揺れた。
 比喩ではない。あたりに轟音が響き渡り、ぶつかり発生した衝撃波によって、周りの木々は根元から無残に折れた。
 隕石でも落ちたのか。地面はえぐれ、殺伐とした空気の中、俺と舞原はぶつかり続ける。
 常人にはどう見えているのか。音速を越えているとは言わない。だが、それに近いスピードで戦っているのだが、舞原は俺の速度についてきていた。
 彼女の能力によって身につけたこの鎧は外部的にではあるものの、身体能力を大きく向上させることができている。これが形状変化を取り入れた舞原の新しい戦闘スタイルか。
 俺と舞原が衝突するたびに、衝撃波と轟音が響き、島全体を震わすような錯覚さえする。
 しかも、舞原は速度を上げていく。無自覚か、それとも意識的か。どちらにせよ今までに舞原には想像できない成長を俺の目の前でやって見せた。
 舞原が投擲した槍が2本、3本と飛んでくる。すべてよけきった先には、舞原の投げナイフの雨が待っていた。
 俺は間髪入れず能力を発動。俺に当たるナイフだけを触れることで消滅させる。
 ブンっと大きく薙ぎ払われた槍は、舞原が振り回したものだ。
 これも掴んで消滅させる。しかし、それは上辺だけだった。
 何重にもオーラが重なり作り出した質量すべてを消すことができす、横腹に一撃をもらう。
 適応が早い。
 消滅する原理を見抜かれたわけじゃない。彼女なりの工夫を凝らした攻撃方法。
 虚を突かれたのは事実。次は対応できる。
 だが、舞原の攻勢は止まらない。次々に繰り出される攻撃を捌き続ける。
 ふと、体重く感じた。何だ?
 体が熱い。能力を使いすぎたか?
 今、能力が切れるのは非常に危険だ。
 このスピードで体が反応できているのは能力のおかげでもある。
 どこかでこの勢いを切る必要がある。いや、今すぐだ。
 放たれた槍を寸前でかわし、地を蹴り跳躍。さらに空気すらも能力により硬化、跳躍。
 降りぬかれた槍をよけ、さらに振り下ろされた剣さえもよけ。だが、一瞬、それだけ。放たれたもう一手。放たれたもう一本の槍。攻撃動作を急に中止することは不可能だ。向かってくるそれに対し、俺は防御姿勢をとることはできない。やられたと、目を見張る。ダメ元で手を伸ばす。
 だが、辿り居つくその前、槍は形を保てず消滅した。
 俺が伸ばした手のひらは、舞原の鎧に触れてはない。だが、その鎧は自発的に消滅した。
 
「っ……、ハア、ハアっ……ゲホゲホっ」
 激しく息を切らす舞原。能力が限界に達したのは明確だった。
 舞原は悔しがるように地面をたたく。
「あと1秒もっていれば……っ!」
「確かに、今のはいかれてたな」
 あの時の俺は防御姿勢が取れない状況下にあった。槍を食らっていれば勝負が決していたのは目に見えている。
「ほら、たてるか」
 手を差し出す。が、舞原はその手を払った。
「貴方は何を、考えてるの? 試験中よ。これは遊びじゃない。私は負けたのよ。早く、ポイントを、奪い取りなさい」
 聞いたことない日本語が飛び出した。
 息を切らしながらそんなことを言いだす舞原には俺は告げる。
「なんだそりゃ。俺は別にそんなことは求めていない」
 俺はもう一度手を差し出す。
「今回は引き分けだ。あのままだったら俺が負けていた。それを加味すれば引き分けが一番無難だろ。だから俺はお前のポイントを奪うつもりはない」
「どこまでも、お人よしね」
「どこを見て言ってるんだ? そんなに俺がやさしく見えるんなら病院に行くことを推奨する」
 黙って手を取ればいいものを。
 俺は舞原を立ち上がらせる。
「強かった。これは噓じゃない。変わったな、お前」
「ええ、貴方のおかげでね」
「俺は何もしてない」
 お前が変わろうとした。その心境変化が成長をもたらした。
「また、決着はつかないのね。そういう運命なのかしら、私たち」
「さあな。俺はそんなこと知ったこっちゃない」
 そんな運命は存在しない。
 言い切って見せようか。そういってもよかった。
 わずかながら、こいつの成長は美しいと感じた。少しでも先が見たくなった。
 だが、それはあってはならない。それが意味するのは、俺が目的を忘れてこの学校を卒業する未来。
 残念だが、それは俺が望むものじゃない。俺が手にしたい未来はもっとカオスなものだ。
 そんなきれいな将来なんて、俺は望んじゃいない。
 そんなことは言えない。だからウソを紡ぐ。
「また、いつか戦えるさ。まだ先は長い」
「そうね、それまで負けないようにね?」
「その言葉はそのままお返ししよう」
 その時が訪れる。
 それが意味するものは、もう俺はお前のことを味方とも、戦友とも認識していないんだろう。その時にきっと俺は容赦なくお前の敵として立ちふさがり、その実力でお前を捻りつぶすだろう。
 そんなほぼ確定した未来。疑うことなきビジョンがあるのにも関わらず、自分が負ける未来を望んでいるのは気のせいではない。
 それもまた、俺の目的を果たす道として正しいからだ。
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