2 / 60
2
しおりを挟む*****
「フラウリーゼはああ言っていたが、俺はそんなに甘くねーし!」
クラスが違うためフラウリーゼと別れたアランは一人、口元で文句を垂れながら裏庭へと歩いていた。
フラウリーゼを含め彼女の周りを取り巻く親戚たちの容姿は他の貴族たちと比べて飛び抜けているが、アランも彼らに引けを取らないほどに目を引く容貌をしている。だから令嬢たちからのアプローチがすごいのだ。このようなことに慣れているフラウやセイとは違い、アランは彼女たちへの対応に手を焼いていた。正直面倒くさいのだ。学園に入ったからには自分も婚約者を探さなければならないし、それを家にも求められている。しかし、アランの中ではもうすでに相手は決まっていて、だが身分的にも難しい相手だった。
そう。相手はフラウリーゼだ。彼女は代々王家にとって大きな存在であるブロッサム公爵家のご令嬢、それに比べ自分は政治の場では発言権があるものの、特にこれといった功績を挙げたこともない侯爵家のそれも次男だ。身分に差がありすぎる。それに彼女の兄も許さないだろう。
はぁあと重い溜息を零していると、角の向こうからひそひそとした話し声が聞こえていた。声を聞くに、それは今年から入学すると社交界でも話題の、アランと同じ年齢の第三王子のものだとすぐにわかった。壁に身体をつけ、角の向こうをそっと覗くと予想通り声の持ち主は第三王子のゼノで、なんとその彼の隣にはあの氷のプリンセス、リリーがいたのだ。二人は顔を寄せ合って、何やら親しげに話し込んでいる。
アランは朝方の苛立ちがぶり返し、眉間がピクピクと脈打つのを感じた。
リリー=ホワイトローズ。彼は密やかに第三王子の婚約者になると囁かれている人物だ。それが、アランが彼を気に入らない理由の一つであり、リリーが社交界で“悪役令息”と呼ばれている理由でもあったりする。
彼の家、ホワイトローズ家は、長いことブロッサム家と張り合いながらも並んで王家にとって重要な役割を担う存在である。だが大昔にホワイトローズの者が悪事に手を染めたという話もあり、貴族たちの中ではあまり良い評判を聞いたことはなかった。それに、ホワイトローズ公爵家の三兄弟も良い噂は聞かない。リリーは口を利かずその瞳と態度はひたすら冷たいことから嫌煙されている。そして彼の兄たちもそれぞれ狡猾で策士であり人を損得で判断する冷たさを持っている。長男と次男はいつもリリーの側を離れず、その様子は言わば姫を護る騎士のようである。だからか、彼らはリリーの異名にちなんで“氷の三兄弟”や“ホワイトローズ家の姫と騎士”などと言われているのだ。
これだけでは特にアランが彼ら、いやリリーを目の敵にする理由にはならない。だが長男のギムリィは第一王子のクォードライトと、次男のハレムは第二王子のジルナイトと婚約を結び、そして今リリーは第三王子の婚約者となると囁かれているのだ。この国では同性同士でも結婚が許されている。偉大なる王と呼ばれた前々王が同性の者を婚約者にすることを民の前で公表し、『愛は子をも成す』と宣言し、本当に子どもができたことには皆おったまげたが、事実なのだから現実は摩訶不思議である。
長年ライバル関係であるブロッサム家とホワイトローズ家だが、これでは政治的パワーバランスが崩れに崩れていると言えよう。まだ第三王子の婚約は正式に決まってはいないが、ここで同い年のフラウリーゼが王子の婚約者とならないとブロッサム家の立場も、そしてブロッサム家でのフラウリーゼの立場も危うくなるだろう。
なのに、リリーと王子はすでに親密な関係だという。アランは、愛する者が悲しむ結末を黙って見ていられるわけがなかった。リリーは確かに美しい。だが今は王子と会話をしているが、他の者には一切声を聞かせないほど人を選ぶ腹黒さを持っている。そんな奴に、王子の婚約者は似合わない!!アランははらわたを煮え繰り返しながら、そっと二人の交わされる会話に耳を傾けた。
一体どんなことを話しているのかにも興味があったし、リリーがどのような声をしているのかにも興味がないとは言えなかったからである。
「もぉやら・・・・・・
なんれ、なんれふつうにしゃべえないの?こんなくち、もうやらぁ~~!!!」
「は?」
思わず声を出してしまい、咄嗟に口を両手で塞ぐがおそらく彼らに自分の存在を知られてしまっただろう。勝手に会話を盗み聞きし、王子を怒らせてしまってはいないだろうかと一瞬頭を過ぎったが、そんなことよりもアランの頭の中にはさきほどのリリーの声がリピートされていた。
一度聞けば中毒になってしまいそうなほど甘く、甘く、甘い声。それに『らめ』とは何だとはてなが耐えない。
自分が姿を現すのを待っている彼らの空気を感じ取ってアランは観念し、沈黙しているあちら側に申し訳なさそうに姿を現した。
「っは・・・・・・」
するとまた声が無意識のうちに出てしまった。今度は、口を塞ぐことも忘れていた。
そこにはなんと、恥ずかしそうに頬をバラ色に染め、涙で潤ませた瞳で上目遣いに自分を睨むリリーの可憐な姿があったからだ。
可愛らしいという感情にはフラウリーゼで慣れていたはずだった。しかし、こんな胸の締め付けられるような、誰かに心の臓を握りしめられているような胸の痛みを感じるのは初めてだった。
思わず彼に見とれているとふとその後ろから冷たい視線を感じ、目を向けるとそこには絶対零度の笑顔を貼り付けた第三王子様、ゼノタールが立っていた。
「アランロード=アネモネ。少し時間をいいかな?」
彼が、聞いたこともないような低い声で言い放った。
アランは黙って頷くことしかできなかった。
94
あなたにおすすめの小説
前世が俺の友人で、いまだに俺のことが好きだって本当ですか
Bee
BL
半年前に別れた元恋人だった男の結婚式で、ユウジはそこではじめて二股をかけられていたことを知る。8年も一緒にいた相手に裏切られていたことを知り、ショックを受けたユウジは式場を飛び出してしまう。
無我夢中で車を走らせて、気がつくとユウジは見知らぬ場所にいることに気がつく。そこはまるで天国のようで、そばには7年前に死んだ友人の黒木が。黒木はユウジのことが好きだったと言い出して――
最初は主人公が別れた男の結婚式に参加しているところから始まります。
死んだ友人との再会と、その友人の生まれ変わりと思われる青年との出会いへと話が続きます。
生まれ変わり(?)21歳大学生×きれいめな48歳おっさんの話です。
※軽い性的表現あり
短編から長編に変更しています
【完結】『ルカ』
瀬川香夜子
BL
―――目が覚めた時、自分の中は空っぽだった。
倒れていたところを一人の老人に拾われ、目覚めた時には記憶を無くしていた。
クロと名付けられ、親切な老人―ソニーの家に置いて貰うことに。しかし、記憶は一向に戻る気配を見せない。
そんなある日、クロを知る青年が現れ……?
貴族の青年×記憶喪失の青年です。
※自サイトでも掲載しています。
2021年6月28日 本編完結
俺の居場所を探して
夜野
BL
小林響也は炎天下の中辿り着き、自宅のドアを開けた瞬間眩しい光に包まれお約束的に異世界にたどり着いてしまう。
そこには怪しい人達と自分と犬猿の仲の弟の姿があった。
そこで弟は聖女、自分は弟の付き人と決められ、、、
このお話しは響也と弟が対立し、こじれて決別してそれぞれお互い的に幸せを探す話しです。
シリアスで暗めなので読み手を選ぶかもしれません。
遅筆なので不定期に投稿します。
初投稿です。
【完結】うるさい犬ほど、よく懐く
兎沢にこり
BL
【完結】中学時代、文化祭のステージで絶頂を迎えたギターボーカル・瀬戸晴生(せと・はるき)。だがバンド仲間の言葉に傷つき、音楽も友情も捨てて"陰気な方"での高校デビューを図る。
そんな彼の前に現れたのは、かつての同じ中学出身の後輩、真木奏太(まき・そうた)。「先輩が、ずっと好きでした」——その告白が、止まっていた瀬戸の時間をふたたび動かし始める。
音楽と恋にもう一度向き合う、まっすぐで不器用な青春BL!
㊗️完結しました!
青春BLカップBET(投票)期間終了の9/1までは、毎日番外編を投稿します✨
本編では描けなかった、真木と瀬戸のラブラブ話をお楽しみに💕
すべてはあなたを守るため
高菜あやめ
BL
【天然超絶美形な王太子×妾のフリした護衛】 Y国の次期国王セレスタン王太子殿下の妾になるため、はるばるX国からやってきたロキ。だが妾とは表向きの姿で、その正体はY国政府の依頼で派遣された『雇われ』護衛だ。戴冠式を一か月後に控え、殿下をあらゆる刺客から守りぬかなくてはならない。しかしこの任務、殿下に素性を知られないことが条件で、そのため武器も取り上げられ、丸腰で護衛をするとか無茶な注文をされる。ロキははたして殿下を守りぬけるのか……愛情深い王太子殿下とポンコツ護衛のほのぼの切ないラブコメディです
【完結】君を上手に振る方法
社菘
BL
「んー、じゃあ俺と付き合う?」
「………はいっ?」
ひょんなことから、入学して早々距離感バグな見知らぬ先輩にそう言われた。
スクールカーストの上位というより、もはや王座にいるような学園のアイドルは『告白を断る理由が面倒だから、付き合っている人がほしい』のだそう。
お互いに利害が一致していたので、付き合ってみたのだが――
「……だめだ。僕、先輩のことを本気で……」
偽物の恋人から始まった不思議な関係。
デートはしたことないのに、キスだけが上手くなる。
この関係って、一体なに?
「……宇佐美くん。俺のこと、上手に振ってね」
年下うさぎ顔純粋男子(高1)×精神的優位美人男子(高3)の甘酸っぱくじれったい、少しだけ切ない恋の話。
✧毎日2回更新中!ボーナスタイムに更新予定✧
✧お気に入り登録・各話♡・エール📣作者大歓喜します✧
【完結】かわいい彼氏
* ゆるゆ
BL
いっしょに幼稚園に通っていた5歳のころからずっと、だいすきだけど、言えなくて。高校生になったら、またひとつ秘密ができた。それは──
ご感想がうれしくて、すぐ承認してしまい(笑)ネタバレ配慮できないので、ご覧になるときはお気をつけください! 驚きとかが消滅します(笑)
遥斗と涼真の動画をつくりました!
もしよかったら、お話と一緒に楽しんでくださったら、とてもうれしいです。
インスタ @yuruyu0
Youtube @BL小説動画
プロフのwebサイトから飛べます!
名前が * ゆるゆ になりましたー!
中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる