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しおりを挟む「それで、本題なんだが・・・・・・。先ほどのはフラウ=ブロッサムにやられたんだよな?」
いきなり真面目な顔つきになったクォードに、リリーは緊張して姿勢を正し、肯定を表すように一つ頷いた。
「そうか。最近のあいつは特に気が立っていて、リリーを敵視し過ぎているように思える」
「そうですね。普段ギムリィとハレムが側にいるから特段目立ったことはないですが、ブロッサム家の肩を持つ貴族たちがリリーの悪い噂を広めているというのを耳にしたことがあります」
「えっ、それは本当なんですかジル!?」
「ええ。根も葉もない噂ですが」
「許せんな。俺たちの大事な大事なリリーを愚弄するなど。・・・・・・先ほども怖かっただろう、よく一人で耐えたな」
皆が自分のことで憤ってくれている、そのことだけで、リリーは胸が一杯になった。口を開くことには細心の注意が必要だが、その反動かリリーは身内の前では表情豊かだ。リリーは思わず“嬉しい”を最大限表すような笑顔を彼らに向け、言葉の代わりに弧を描く唇で感謝を表した。
早退させることにしたのでハレムに送られて屋敷へと帰るリリーを見送り、扉が閉まると同時に部屋の空気が重くなる。
「おいゼヌ、アラン呼んでこい」
「言われなくても」
顔に影が射しているゼヌがすぐさま扉を開き姿を消した。
はぁ~と溜息をつき前髪を搔き上げながら、クォードがソファへと座り直し、ギムリィとジルもこれからくる“役立たず”に脅しをかけるため姿勢を正した。
********
「兄さん、一体どうしちゃったんだろ・・・・・・。前はあんなに怒りっぽくなかったのに」
隣では悲しそうに下を向いているフラウリーゼ。
あの後フラウは悔しそうな、恨めしそうな顔のまま『リーゼ、セイ、悪かったな』と言い残して去ってしまった。セイは彼の後を追い、残された俺たちは噂話をする生徒たちの垣根の中から逃げ出し人気のない庭園まで移動した。
「まぁ・・・そういうときもあるだろ。ただ、今日はちょっと機嫌が悪かっただけだよ。心配すんなって」
「アラン・・・・・・、ありがとう」
「ほら、まだ時間があるから教室戻ってろよ。俺はもう少しここで休憩してるからさ」
そう言ってまだなんとなく晴れない顔のフラウリーゼを見送り、アランは噴水の前に設置されてあるベンチに腰掛けた。
確かに、フラウリーゼが言っていたように最近のフラウは以前にも増してホワイトローズ家を目の敵にしているように思う。それは、普段側にいないアランでもわかるほどに激しかった。そしてアランは、何もできない自分に嫌気が差していた。まるでフラウリーゼ本人よりもブロッサム家のことを優先するかのような態度にも、フラウに嫌がらせを受けていたリリーを庇うためにも、自分は何一つ行動を起こすことができなかったのだ。
「はぁ・・・・・・」
また最近ギスギスしている空気に知らない間に身体が緊張していたようで、怠い思いに溜息を吐いていると、背筋に凍り付くような視線を感じた。既視感のある感覚に恐る恐る振り返ると、そこには凍った笑顔を貼り付けているゼノ・・・・・・正確に言うとゼヌが立っていた。目が合うとにこ~と音がでそうなほどに微笑みながら真っ青な顔になっているアランに不思議そうに顔を傾ける。
自分が至らないことなど自分自身が痛いほどわかっているし、もどかしさと情けなさからそんな自分を罰して欲しいという願望もあったが、今はただその作られた笑顔が怖くて堪らなかった。
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