天使の声と魔女の呪い

狼蝶

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 少し時は遡り、セイはギムリィに舌打ちをしどこかへ去って行くフラウの後を追っていた。

 セイ=ブロッサムは、代々王家に仕えるブロッサム家一族の分家である家の長男であり、フラウと同い年で彼ら兄妹の従兄弟であった。幼子の頃からの付き合いであり、二人で彼の妹のフラウリーゼの成長を見守ってきた、いわば同士のようなものだ。兄のような気持ちでフラウリーゼと接してきたものの、日に日に美しく育っていく彼女の姿に段々心惹かれていき、気づいた時にはすでに恋に落ちていた。
 社交界デビューを果たし、何も知らない子どもから大人の事情というものに触れる機会が多くなって来た頃、セイとフラウは自分たちの家とホワイトローズ家が敵対関係であることを知った。親から教えられたことであり、社交界で実際にホワイトローズ家のギムリィを目にしてもあまり悪い気はしなかったため、セイにしたら必要以上に敵視する意味はないと思っていたが、どうやらフラウにとっては違ったらしい。
 フラウは自分と違ってブロッサム家の長男という重荷を背負っていたからだろう、とセイは思った。何をやっても常に上を行っており、評価が良いのは同い年のギムリィの方。一方背負うものもそれほど重くないセイは、ただホワイトローズ家の彼はすごいとだけしか思っていなかった。だがセイの父はフラウと仲良くすることを強いてきたし、同じブロッサム家であることからそれが当然とされてきたので、セイはいつもフラウの愚痴に付き合っていた。フラウも努力をしている。それは近くにいてよくわかっていた。これで愚痴を言わなければ一層良いのに、と何度も思ったが、そのたびに心の中へ閉まっていた。
 王子は年子で三人もいたことからフラウリーゼは誰の妻となるのかブロッサム家やブロッサム家を指示する派閥の者たちは囁き合っていたが、皆の望みは彼女が第一王子の婚約者になることであった。しかし、あえなくその願いは打ち砕かれた。セイたちが一年次の修学を祝う席で、クォードとギムリィの婚約が発表されたのだ。
 そのときのフラウの憤りようといったら、隣にいる自分も射殺されそうなほどの気迫で近づくのも怖かったのを覚えている。そして次の年にはギムリィの弟のハレムが第二王子の婚約者に決まり、ブロッサム家としてはとうとう後がなくなってしまったのだ。クォードとギムリィは社交界デビューしたときから仲睦まじく周りから婚約しそうだという噂があり、また次男同士であるジルとハレムとの仲も良かったことは周知のことだであったし、自分たちもよく知っていたことだった。それに対しフラウが毎回文句を言っていたから。だが婚約は平等。きっとブロッサム家からも婚約者を娶るのだと無意識のうちに安心していたのかもしれない。だから、二人の婚約者がどちらもホワイトローズ家の者だという事実が知らされたとき、絶望したのだ。

 もちろんフラウリーゼが王族の婚約者となることは家にとって名誉なことだし彼女も幸せならば喜ばしいことだと思う。だが、彼女が第三王子の妃になるということは現実的ではないとセイは思っていた。それは、リリーの存在があったからだ。
 王子たちは年子だがホワイトローズ家の兄弟も皆年子で、さらに彼らはそれぞれ同い年だった。そして一番下のリリーが社交界に初めて参加する場にいたセイは、その可憐さに一瞬で目と心を奪われた。
 長年積もらせてきたフラウリーゼへの叶わぬ恋心がまるで一陣の風に飛び去ってしまったかのような、そんな衝撃を受けた。ホワイトローズ家の者に特有の、ホワイトブルーシルバーの美しい髪。どんな有名な店にも売っていないような、汚れを知らぬ透き通った瞳。それを縁取るのはそれだけで芸術品のような存在感を放つ豪華な睫。そして鼻筋は完璧な線で、淡い桃色をした唇は異性同性関わらず全ての人間を魅了する色気を放っていた。

 彼は人に口を利かないことから“人を選び皆を馬鹿にしている”などと言われて嫌な人物だと思われているが、セイは皆の言うことは当てにならないことを知っていたのでその考えにはあまり賛成していなかった。本当はブロッサム家の人間として思ってはいけないことであるが、セイはフラウリーゼが第三王子の婚約者になれなくても仕方がないと思っていたのだ。
 あれだけの美貌と、王子だけには見せるかも知れない顔。ホワイトローズ家の人間は誤解されがちだが皆ちゃんと努力をしているし筋の通った性格をしていると密かに分析をしていたセイは、第三王子もリリーを見初めきっと修学祝いのパーティーでそれを発表するのだと予想した。そしてそれが社交界でのブロッサム家の立場の悪化のきっかけであっても、回避するべきことだとしても、セイは何も変えることは出来ないだろうと思ったのだった。

 ガサガサと草を踏んで人気のない校舎裏へとたどり着く。
 先に歩いて行ったフラウの隣にはフラウがおかしくなったその原因と考えられそうな青年、自分たちと同じ制服を身に纏った男子生徒が立っていた。






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