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それはハレムが生まれてすぐのことだった。ハレムは基準よりもやや小さく産まれ、また出産直後に古代病という珍しい病気にかかったのだという。
そこでその薬を召使いたちと手分けして探していたとき、ある古い町跡に並ぶ一見怪しそうな店へ立ち寄ったところ、やっとそこでそれらしい薬が見つかったのだとか。
そして、ロイズはそこでリリアナ=カトレアという女性と出会った。
彼女は至極聡明で妖艶な女性であったという。腰まで伸びた黒髪は天の滴を垂らし馴染ませたかのように艶やかで、下唇がぷっくりとした特徴的な唇には真っ赤なルージュが引いてあり、より一層魅力的だった。目尻がつんとつり上がったまるで猫のような瞳は蠱惑的で、かつ上目遣いで見つめられると胸を甘く締め付けられる、なんとも不思議な瞳だったという。
その様に言葉を尽くしてリリアナについて話すロイズだったが、その顔は真面目で、どうやら心を寄せていたわけではないらしいことがよくわかる。真面目な言葉で形容されてこの様であることから、その女性は誰から見ても非常に魅力的な女性だったのだろうとその場にいるリリーたちは思った。
話は続くが、その薬をハレムに与えると容態はすぐに良くなったらしい。その後も薬を調達するためにその店へと通ううちにその店に材料を卸していた彼女とも顔馴染みになったそうで、ある日彼女が路地裏で男たちに絡まれていたところを助けると、そこから一気に親しくなったのだと、ロイズが苦々しげに言った。
薬がよく効き、ハレムの容態が落ち着いたことから店への訪問も途絶えたが、リリアナとは時々会って話をしていたという。彼女は薬草意外にも色んなことに詳しく、話を聞いていて飽きなかったのだ。
だがある日、いつものように話をしている途中ふと『もうすぐ子どもが生まれるんだ』と頬を緩ませてそう言った瞬間、彼女から表情が抜け落ち、持っていたティーカップが音を立てて割れた。
彼女はぶるぶると身体を震わせ、つり上がった目をさらにつり上げ、ロイズに詰め寄った。
『裏切ったな!』と。
どうやら彼女はロイズに恋をしていたようで、さらにロイズと交際している気でいたらしい、とその時ロイズは気づいた。交際していたつもりはなかったし、そもそも自分には妻もいて子どももすでに二人いるのだということを伝えると、彼女はさらに激怒しその場から去って行ってしまったのだった。
それからその町へ行っても彼女と会うことはなく、ロイズも諦めてそこへ通うのはやめた。もやもやとした煮え切らない思いが胸に残っていたがそれを押し込め、生まれてくるリリーを妻と共に楽しみに待った。
立て続けに生まれる三人目の子で負担が大きいと判断したため妻は離れで静養しており、リリーが生まれたらギムリィとハレムにも会わせる予定だったという。
そしてある夜無事にリリーは生まれ、その息を飲むほどの美しさに、妻に失礼とわかりつつもリリアナに因み“リリー”と名付けた。妻は疲れに眠ってしまい、生まれたばかりのリリーを抱き上げながらその小さいながらも美貌を持つリリーを愛情の籠った目で見つめていると、廊下から歩いてきた召使いの女が一人、リリーの身体を清めるからと手を差し伸べてきた。リリーを見つめていたので目線は低く、女の手元しか見ていなかったが、彼女に抱きかかえられたのを見ると視線を上へと上げた。
その直後、ロイズは自分の心臓が止まった気がした。今までの温かい気持ちが一瞬で急降下し、背筋に電気が走ったように震え、その後には冷たい汗がたらりと身体を冷やした。全身の血が重力に従って下へと下っていく感覚と、それに従い先端部分が冷えていく感覚。
その召使いは――リリアナだったのだ。
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