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19 雨の夜に星二つ
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工場で起きた大規模火災。それにより、平和な町タイゼーンは大騒ぎになっていた。
夜だと言うのに野次馬が周囲に集まり、警察が必死に人ごみを押し返そうとして大声を出している。ごうごうと燃える大火に向けて、消防団は必死に放水して鎮火を図っている。
けが人はいるのか、何が火種だ、と怒鳴り合う声が交錯し、現場は混迷を極めていた。
そんな状況を、とある建物の屋根の上から楽しそうに眺めている者が一人。
「やれやれ、派手にやらかしたなぁ。とはいえ、これで『始まった』ね。あとは、彼がどこまで行けるのか……」
屋根の上に腰を下ろし、そんなことを呟くのは、一人の少年。いや、少女かもしれない。
顔立ちは幼く、やっと十代に入ったくらいの年齢と予測できる。大きな目に余裕ぶった表情、楽しそうに吊り上がった唇は、男のような快活さもあり、女のような愛らしさもある。ゆえに、その顔立ちからは性別が判断できない。
それは彼の……便宜上、彼とする……外見にも要因がある。 蒼く美しい髪が背中まで延び、上の一部を後頭部でお団子上にまとめている。所謂ハーフアップという髪形だ。
服装も、あまり見慣れない奇抜なデザインで、一目で男性や女性と判別することが難しい。中世的な顔立ちにそんな服装をしているせいで、彼はどこか浮世離れして見えた。
「彼らが派手にやらかす羽目になったのは、貴方のせいでは?」
「まあそうだね」
振り向くことなく、彼は同意する。いつの間にか、背の高い人物が背後に立っていた。こちらもまた、長い蒼髪を渇いた風になびかせており、傍に座っている幼い彼と似たような服装をしている。
そして、よく見ると……彼らは顔立ちまで似ている。
「あはは、いいじゃないか。こんなこと、世界の一大事に比べれば栓無き事さ」
「否定はしません。ですが、『レン』達にも暮らしや営みがあります。騒ぎを起こすのは……」
「キミは優しいねぇ。うんうん、そういう慈悲深さが必要なんだろうね、ボクにも」
そう言うと、幼い彼は屋根から立ち上がり、うーん、と背伸びをした。
「だけど、優しいだけじゃやってけないんだよね、この『役目』。あのタウルスの姉弟が、うまいこと彼を刺激した……これでようやく、『停滞』は終わるかもしれないんだ。やるべきことを、僕はやるだけさ」
幼い彼は、遠くを見つめてそう言った。彼の大きな目は空を赤く染める火災よりも遠く、遥か彼方を見つめている。その表情は哀愁を帯びており、彼がまるで迷子のように寄る辺ない存在に想わせた。
「……その『お役目』の重さは、私どもに理解しきれるものではありません。貴方の為すべきことを為してください。……スピカ、そろそろ帰りましょう。ここでの為すべきことは終わったはずです」
背の高い彼は優しく促す。うん、と頷いた幼い彼は、一度目を閉じて、開く。その顔は、元通りの快活な表情に戻っていた。
「そうだねぇ、おなかもすいてきたし。……最後にボクからのお詫びだ、これで許してね」
そう言うと、幼い彼はすっと片手を持ち上げ、ゆらりと何かを撫でる仕草をする。
「さて、帰ろうか。キミもお疲れ様、レグルス。付き合わせて悪かったね」
労わりの言葉を受け、背の高い彼は恭しく頭を下げる。
そして二人は、音も無くその場から『消えた』。
*****
「……雨だ、雨が降ってきたぞ!」
火災現場で放水ホースを抱えていた消防団の一人が叫び、それに反応して皆が空を見上げる。聞こえてきた言葉通り、暗い空にはいつの間にか雨雲が立ち込めており、大粒の雨が零れ落ちてくる。
「助かった、これなら火の勢いが弱まるぞ!」
「野次馬達、濡れネズミになる前にこの場を離れなさい! 危険だから早く帰りなさい!」
「おかしいなぁ、昼間はあんなに晴れてたのに急に雨なんて……」
様々な声が飛び交う中、雨は勢いを増して降り続けた。
夜だと言うのに野次馬が周囲に集まり、警察が必死に人ごみを押し返そうとして大声を出している。ごうごうと燃える大火に向けて、消防団は必死に放水して鎮火を図っている。
けが人はいるのか、何が火種だ、と怒鳴り合う声が交錯し、現場は混迷を極めていた。
そんな状況を、とある建物の屋根の上から楽しそうに眺めている者が一人。
「やれやれ、派手にやらかしたなぁ。とはいえ、これで『始まった』ね。あとは、彼がどこまで行けるのか……」
屋根の上に腰を下ろし、そんなことを呟くのは、一人の少年。いや、少女かもしれない。
顔立ちは幼く、やっと十代に入ったくらいの年齢と予測できる。大きな目に余裕ぶった表情、楽しそうに吊り上がった唇は、男のような快活さもあり、女のような愛らしさもある。ゆえに、その顔立ちからは性別が判断できない。
それは彼の……便宜上、彼とする……外見にも要因がある。 蒼く美しい髪が背中まで延び、上の一部を後頭部でお団子上にまとめている。所謂ハーフアップという髪形だ。
服装も、あまり見慣れない奇抜なデザインで、一目で男性や女性と判別することが難しい。中世的な顔立ちにそんな服装をしているせいで、彼はどこか浮世離れして見えた。
「彼らが派手にやらかす羽目になったのは、貴方のせいでは?」
「まあそうだね」
振り向くことなく、彼は同意する。いつの間にか、背の高い人物が背後に立っていた。こちらもまた、長い蒼髪を渇いた風になびかせており、傍に座っている幼い彼と似たような服装をしている。
そして、よく見ると……彼らは顔立ちまで似ている。
「あはは、いいじゃないか。こんなこと、世界の一大事に比べれば栓無き事さ」
「否定はしません。ですが、『レン』達にも暮らしや営みがあります。騒ぎを起こすのは……」
「キミは優しいねぇ。うんうん、そういう慈悲深さが必要なんだろうね、ボクにも」
そう言うと、幼い彼は屋根から立ち上がり、うーん、と背伸びをした。
「だけど、優しいだけじゃやってけないんだよね、この『役目』。あのタウルスの姉弟が、うまいこと彼を刺激した……これでようやく、『停滞』は終わるかもしれないんだ。やるべきことを、僕はやるだけさ」
幼い彼は、遠くを見つめてそう言った。彼の大きな目は空を赤く染める火災よりも遠く、遥か彼方を見つめている。その表情は哀愁を帯びており、彼がまるで迷子のように寄る辺ない存在に想わせた。
「……その『お役目』の重さは、私どもに理解しきれるものではありません。貴方の為すべきことを為してください。……スピカ、そろそろ帰りましょう。ここでの為すべきことは終わったはずです」
背の高い彼は優しく促す。うん、と頷いた幼い彼は、一度目を閉じて、開く。その顔は、元通りの快活な表情に戻っていた。
「そうだねぇ、おなかもすいてきたし。……最後にボクからのお詫びだ、これで許してね」
そう言うと、幼い彼はすっと片手を持ち上げ、ゆらりと何かを撫でる仕草をする。
「さて、帰ろうか。キミもお疲れ様、レグルス。付き合わせて悪かったね」
労わりの言葉を受け、背の高い彼は恭しく頭を下げる。
そして二人は、音も無くその場から『消えた』。
*****
「……雨だ、雨が降ってきたぞ!」
火災現場で放水ホースを抱えていた消防団の一人が叫び、それに反応して皆が空を見上げる。聞こえてきた言葉通り、暗い空にはいつの間にか雨雲が立ち込めており、大粒の雨が零れ落ちてくる。
「助かった、これなら火の勢いが弱まるぞ!」
「野次馬達、濡れネズミになる前にこの場を離れなさい! 危険だから早く帰りなさい!」
「おかしいなぁ、昼間はあんなに晴れてたのに急に雨なんて……」
様々な声が飛び交う中、雨は勢いを増して降り続けた。
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