親友は砂漠の果ての魔人

瑞樹

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ムー大陸編

01ムー大陸事前調査1

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「やあ、元気にしていたかい」
 不意に背後から声をかけられて、神谷はキッチンで野菜を刻んでいた包丁を握っていた手を止めた。涼やかな声の主は分かっている。
「まあね」
 後ろを振り返るとを着たアルハザ-ドがクスリと笑いながらたたずんでいた。足元にはやはり巨大な難が横たわっている。
「君は料理も作るのかい」
「料理は嫌いではないんだ。他に作ってくれる人もいないしね」
「それじゃあ、いつか神谷の作る料理を食べさせてくれるかい」
「君のロに合うものが作れるかなj
「蛇や蠍を食べて生きながらえた僕に食べられない物などないよ」

 でも、イスラム教には、と言いかけて、思いとどまった。この魔人はとっくにイスラムを棄教していたのだった。
「そうだよ、今の僕には食べてはいけない物など何もないんだよ。アルコールも飲めるしね」
「それじゃあ、冷蔵庫にビールが入っているけど、飲むかい」
「ビール? 本当はワインが好きなんだけど、それしかないのであれば、頂くよ」
 神谷が冷蔵庫の扉を開いて五百ml入りのビールの缶を一本取り出して、アルハザードに手渡した。
「これ、どうやって飲むのかい」

 今日の邪神は機嫌が悪いのか、プルトップの開け方を教えてはくれないようだ。
 神谷はアルハザードから受け取った缶のプルトップを開けて、再び手渡した。

「これは、エジプトで飲んだことのある飲み物に似ているね。こんなに冷えてはいなかったけど」
 ビールを一口飲んだアルハザードがロの回りに泡をつけたまま眩いた。
 ビールの起源がエジプトであることは、どこかで聞いた記憶がある。

「ところで、どこかに古代文明についての情報を知り得る場所はあるかな」
「古代文明というと、例えばインダス文明とか黄河文明なんか」
「いや、もっと昔、ムー大陸のことについてさ」

 ムー大陸? たしか遥か昔にあったかもしれない大陸のことだ。
「それはネットで調べた方がいいかもしれないね、ちょっと待ってくれるかい、パソコンを起動させるから」
 
神谷は料理を中断してリビングの机の前に座り、パソコンを起動させた。
 エクスプローラを立ち上げて、検索画面からムー大陸と入力して、検索してみる。
 まずはウィキぺディアを開いてみた。
「これは、ネット上の百科事典みたいなものだけど、読んでみるかい」
 神谷と入れ替わりにアルハザードが椅子に座り、食い入るようにパソコンの画面に見入っている。
「もっと詳しい情報はないのかな」

 アルハザードは、今度はムー大陸に行こうとしているらしい。
 再び神谷がパソコンの前に座り、今度は「ム一大陸 本」と入力してみると、何冊かのムー大陸に関する本がデスクトップ画面に表示された。

「ネットのデータは元々こういった本が情報源だから、この中から何冊か購入した方が詳しい情報が得られると思うょ」
「そうか、ではそうすることにしよう」
「じゃあ、君が選んでくれ、アマゾンで注文するから」
「そんな必要ないよ」

 アルハザードが画面を峴き込み、「これとこれだな」と言って足元の黒猫を見下ろすと、黒猫のサファイア色の瞳がしばたたせた。そして、次の瞬間机の上にパソコンの画面に表示されていた本が二冊乗っていた。
「こいつに頼んだのさ」

 最高位の邪神は背筋を伸ばしながら、大きな欠伸をした。アマゾンよりも役に立つ、今日は特別に機嫌が悪いという訳ではなさそうだ。
 アルハザードは薄手の絨毯の敷かれた床に胡座をかいて、届いたばかりの本のページを開いた。

 しばらくはそのまま動き出しそうにないので、神谷は料理の続きをするためにキッチンに戻った。
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