親友は砂漠の果ての魔人

瑞樹

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ムー大陸編

29王宮内の散策

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 夕飯を摂った後、邪神の出してくれたワインを飲んでいると、頭の中に白い寝袋の映像が浮かび、目の前にそれが現れた。そろそろ就寝の時間ということだろう。

「どうする、もう寝るかい」

「いや、ワインをもう少し飲みたい。その後、この王宮で気になる所へ行ってみよう」

「行ってみたい所って」
「ついて来れば分かるさ」
 アルハザードがグラスのワインを呷ると、テーブルの上に新しい赤ワインのボトルが現れた。

 アルハザードと二人、部屋を出て金色の廊下を歩いた。

「勝手に出歩いても大丈夫なのかな」

「大丈夫な訳ないだろう、でも、見つからなければ良いんだよ」

 二人は邪神の力によって、姿が見えないようにしてもらっている。

「あまり喋るなよ、声は聞こえるからね。もっとも、何て言ってるかは分かるはずないけどね」

 他の人間には見えなくても、お互いの姿は見ることができる。今はアルハザードの肩の上に乗った猫の姿の邪神も見える。

「これから行く所はどこなんだい」

「さっきも言ったろう、黙ってついてくれば分かるよ」

 アルハザードが「ここだな」と言って壁に手をつけた。人が通れる分の空間が開き、二人は中に入った。
「いつの間にそんなことができるようになったんだい」
 驚いて思わず声が出てしまった。
「僕ができるようになった訳じゃない、こいつがやってくれたんだよ」
 アルハザードがくぐもった声でしゃべりながら、肩に乗っている邪神を見た。

 そこは王宮の心臓部、昨日も訪れた精神力増幅器の設置されている部屋だった。今は管理人は不在のようだが、機械だけは動いているらしく、低いモーター音と共に白い霧状の物が機械の上から伸びたホースの中で天井に向かって上っていく様子が見える。

「この機械を良く調べるのが目的かい」

「いや、この機械というよりもこいつだ」

 アルハザードが指を指したのは機械から床に出ている、中の見えない灰色のホースだ。

「このホースの中は何だと思う」

「何だろうね、やっぱりエネルギーの一種じゃないのかい」

「それをこれから見に行くんだよ」

 言った途端にアルハザードの身長が徐々に低くなっていく。身長が縮まっているのかと足元を見てみると、床に膝あたりまでめり込んでいた。

「神谷もついて来るんだよ」

 言われると、視界がどんどん下に変わっていく。見ると自分も膝まで床にめり込んでいた。

「この下の部屋には今も人がいるようだ。喋らないようにね」

 アルハザードの首から下が床にめり込んでいる。目線が同じということは自分も同じ状態なのだろう。

  視界が黒い空間を数秒なぞった後、急に視界が開け、ゆっくりと床に降り立った。薄明るい光の中で、数名の赤色人がせわしなく動いている様子が見える。

 赤色人たちは天井から床付近まで伸びている灰色のホースの先を黒い人の大きさ程もある四角い機械に繋げて、箱についているメーターをしきりに触っている。

「あの灰色のホースは増幅器の下の部分から出ていた物だよね」

「そのようだね、問題はあの中身だ」

 暫く赤色人たちを見ていると、機械の下の蓋が開き、中からテニスボール大の黒い玉がいくつも転がり出てきた。赤色人たちはそれを拾い集め、別に用意されていた、人がようやく抱えられる大きな籠の中に入れていった。

「ラ・ムーが言っていただろう、生体エネルギーをフィルターで濾して純度の高いエネルギーを作るって、あれは濾されるフィルターに残った余分な物、言わばカスさ」

「じゃあ、彼らはそのカスを集めているのかい」

「そうだよ、カスをどうするのかを見てみたいんだ」

 赤色人たちは籠のボールを今度は黒い布製の袋に入れ、片手で持てる程度の大きさにして部屋の隅に積み上げていった。

 二十個程の袋ができたところで機械が止まり、赤色人たちの作業も終了となったようだ。

 全員が無言で部屋から退去して行った。後には動きを止めた黒い機械と隅に山積みになった同じく黒い袋が残った。

 アルハザード山積みにされた黒い袋の前に立ち、色々と考えを巡らせているようだった。

「ふーん、そういうことか」

 何を分かったのか、一人後ごちたアルハザードが神谷の方を振り返り「もうここにはいない方が良いようだ、部屋に帰ろう」と言って、袋とは反対側の壁に向かって歩き出し、神谷もその後に従った。

 部屋に戻ると、テーブルの上には赤ワインのボトルとグラスが二つ用意されていた。

「今日は好きなだけ飲んで良いって言ってるよ」

 邪神がアルハザードの足元で体を丸めて横になっていた。

「さっきの部屋は赤色人しかいなかったよね、あの仕事は彼らの仕事なのかな」

「そうらしいね、前にホテルで言ったとおり、王族に仕えるのが白色人で白色人に仕えるのが黄色人、雑用が赤色人、肉体労働や警備と言った体を使う仕事が青色人と決まっているんだよ」

「それじゃあ、さっきの黒い玉を集めるのは雑用になる訳だね」

 二人はグラスに入ったワインを飲みながら、先ほど目にした光景について話した。

「そうだね、雑用と言っても重要な役目だけどね」

「どんな風に」

「それは明日になれば分かるよ」

 アルハザードがボトルからグラスにワインを注ぎながらクスリと笑った。
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