親友は砂漠の果ての魔人

瑞樹

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ムー大陸編

28アルハザードの健康診断結果

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 ラ・ムーに連れられて部屋を出ると、そこにはグラムダルクリッチが待っていた。部屋に案内してくれるようだ。

「今日はそなたのギタラが存分に聴けて楽しかったぞ。できることなら、五百年くらい私の側でそれを弾いてくれると良いのだがね」
 ラ・ムーは少し残念そうに一人きびすを返し去って行った。

 この時代に音楽を録音できる装置などは存在しないだろう。CD代わりに五百年もの間、ラ・ムーのためにギターを引き続けるなど、神谷にとって懲役刑にも等しい。

 グラムダルクリッチに案内されて部屋に戻ると、当然アルハザードの姿はなかった。
 
「ギターの練習をしたいんだけど、腰かける物を用意してもらえますか」

 そう言うと、グラムダルクリッチは無言で両掌を胸に当てた。すると間もなく部屋の中央に白い石が現れた。

 グラムダルクリッチが部屋を辞してから、ふと気がついた。

 アルハザードが近くにいなくなっていても、この国の人間と言葉が通じていた、ということは邪神は神谷の近くにいてくれているのだろうか。

 思った途端に、足元から「ゴロゴロ」と猫が喉を鳴らす音が聴こえた。

 ギターをケースから出して、石に腰を降ろした。ここは足元にいるらしい邪神にサービスをしなくてはならない。

 軽快な曲を選んで二十分程演奏をした。周りにはいつものようにいくつもの黒い影が舞った。

 演奏を終えて、休んでいると頭の中に赤い液体の入ったグラスの映像が浮かんだ。またか、と思っていると、目の前にテーブルが現れ、その上に映像と同じグラスが乗っていた。

 グラスに入った白色人の飲み物である甘酸っぱいジュースを飲んでいると、アルハザードが部屋に入ってきた。

「どうだった、その……身体検査は」

 アルハザードが神谷の脇に座った。

「ああ、体中色々調べられたけどね、あとヘルメットみたいな物を被らされて脳波も調べられたね」

「で、結果は」

「検査結果が出るまでには時間がかかるらしい、それまで部屋でくつろいでいろってさ」

「こんな何もない部屋でくつろいでいるっていうのも、退屈だね」
「こんな部屋で何もしないでいる訳がないじゃないか」

 アルハザードの前にも同じようにテーブルとグラスが現れた。

「何か他に調べたいことでもあるのかい」

「ああ、まだ知りたいことがあるんだ、この前に言った疑問が解けていないしね」
 アルハザードの足元で黒猫の姿をした邪神が寝転がっていた。

「そういえば、さっき一人でいる時にラ・ムーやグラムダルクリッチと言葉が通じたけど、この神様が僕の近くにいてくれたのかな」

「神谷、こいつらを僕たちの常識で図ってはいけない。こいつらは一人でありながら同時に二ヶ所に存在することもできるんだ。一人で二ヶ所の同時通訳なんか簡単にできるのさ」

 咄嗟には理解ができなかった。だが、人智を越えた存在には人間の理解を大きく越えた能力がるということだけは分かった。

「神谷の演奏を聴けて大分満足しているようだね、何でも望みを叶えるって言ってるよ」

「僕はラ・ムーに五百年くらい寿命を延ばしてやろうかと言われたよ」

「それで何て答えたんだい」

「丁重にお断りしたよ。五百年間もラ・ムーの側でギターを引き続けるなんてできるはずないじゃないか」

「そうかな、この島も慣れれば色々と楽しいかもしれないよ」


 神谷から見て千三百年前のアラブ人であるアルハザードにとって、この島も荒涼とした砂漠も生活環境としては同じなのかもしれない。

「いっそここに永住するかい」

「だけど、この島はもうすぐ海に沈んでしまうんだろう」

「ああ、そうだったな、忘れていたよ」

「だったら、この島に永住なんてそもそも無理じゃないか」

「そうだな、早く体を治して、この島から離れた方がいいね」

「でも、あの増幅器を使っても島を救うことはできないのかな」

「いいかい、これはこれから起こることじゃないんだ。僕たちにとって過去に起こったことなんだ。島は沈む、変えようのない運命だよ」

 運命と言われてしまっては反論をすることができない。

「夕飯を食べたら、少し出かけよう、こいつの力を借りてね」

 アルハザードが邪神の頭をなでながら、クスリと笑った。
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