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ムー大陸編
27精神力増幅装置とその活用方法
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「一体何人分の生体エネルギーを吸い上げているんですか」
アルハザードの興味はエネルギーの質と量、そして活用方法なのだろう。
「毎日、およそ百人分を吸い上げている。そのくらいないと、この王宮は活動が維持できないのだよ。その他にも使う用途はあるしね」
それは王自身の寿命を伸ばすためだろう。
「君の体にこのエネルギーが使えるかどうかは、専門家に訊いてみないとね」
専門家というのは、医者のような者だろうか。
「この国には医者のように病気を治す者はいないらしい、病気を治すという考えそのものがないようだ、重い病にかかったらそのまま死んでいく、それだけのことなんだろう、だから怪我をしても、自然に治るまで放っておくようだね」
「でも、王族のための医者くらいはいそうなもんだけどね」
「それが必要ないんだよ、その装置があるからね。そのあたりも、これから分かるよ」
アルハザードがクスリと笑い、ラ・ムーを見上げた。
ラ・ムーが部屋を出て通路を歩き、壁に手を当てると部屋の中には一人の黄金人が立っていた。予め王から部屋を訪ねる映像を受け取っていたのだろう。
「偉大なる王ラ・ムー様、その者が先ほど連絡を頂いた、体を治したいという者ですか」
「うむ、それが可能かどうかをお前に確かめてもらいたいのだが、どうかな」
「分かりました、やってみましょう」
ラ・ムーよりも一回り小さい、かなり年配の黄金人が部屋の隅の金色の石に座り、手を前方に出すとそこにテーブルが現れた。
テーブルに手を置いて胸に両掌を当てると、テーブルの上にA四サイズほどの薄い板が現れ、その上に模様が次々と現れた。
よく見ると、それは書かれているのではなく、彫られている物だと分かった。
「あれがこの国の文字かな」
「ああ、そうだよ。ヒラニプラに入った時に、門に刻んであった物を憶えてるかい、あれが文字だよ、そしてそこに同じ文字が刻まれているね」
言われてみれば、模様はアラビア語とハングル語の中間のような物で、奇妙な姿をした馬や象と一緒に見た記憶がある。
板の上にみるみる文字が刻まれていく。あっという間に板の表面が文字でいっぱいになり、黄金人が右手を差し出すと、その掌に新しい板が現れる。こうして机の上に板が山積みになった。
「この国には紙ってないのかな、それにペンの用な物も」
「ないようだね、こうして木に文字を刻んで読み、読み終わったら捨ててしまうようだよ。そのデータは全て王宮のライブラリーに保管されているようだね。それをあの胸の装置を使って取り出しているのさ」
アルハザードが小声で言った。
椅子に座っていた黄金人の手が止まった。
「ラ・ムー様、今までのデータを精査しましたが、この者はこの国の人間ではありません。故に精神の構造がこの国の人間とはかなり違っておりますが、少なくとも同じ理性を持った人間です。可能性は皆無でがありません。やってみる価値はあるかと」
少なくともというところに多少の違和感を感じるが、反論はしないでおく。
「この者の精神の波動を調べなくてはなりません。お時間を頂ければ」
黄金人の言葉にラ・ムーは満足そうに「うむ、良いかね」とアルハザードの方を向いた。
「宜しくお願いします」
アルハザードが畏まってほんの少し頭を下げた。
アルハザードが別室に案内され、検査を受けている間、神谷はまたラ・ムーの前でギターを弾かされた。
「何ならそなたも寿命を五百年分くらい与えようか」
と言われたが、それは丁重に断った。アルハザードならともかく、神谷が現世で五百年も生きたら、親族どころか知り合いも誰もいなくなって、とてつもない孤独を生きなければならない、とてもではないが耐えられるはずもない。
適度に健康で長生きが一番なのだ。
「私は八百年生きているが、つまらないなどと思ったことはないぞ」
それはラ・ムーが王だからだ。何でも思い通りになる人生ならば、何百年生きても退屈はしないのだろう。しかし、望みがない訳ではない。
「何百年も生きたいとは思いませんが、身体能力を高めることはできますか」
「それはどのようなことかね」
「もっとこの楽器を上手に弾けるようになりたいのです」
「今でも充分に上手く弾きこなせているではないか、それ以上に上手くなりたいのかね」
「ええ、この世の中で一番上手くなりたいのですよ」
「海の向こうの世界には、そなたよりもそのギタラという楽器をもっと上手く弾きこなせる者がいるということかね」
「もちろんそうです。僕よりも上手いギター弾きはたくさんいますよ」
「信じられないが、もしそうだとしたら、その者たちの演奏をぜひ聴いてみたいものだな」
実現できるはずがない。そのギタリストたちは、一万二千年後の世界にしか存在しないのだから。
「分かった、では先ほどの彼の後になるが、そなたの望みも叶えるように指示しておこう」
「ありがとうございます」
頭を下げようとしたが、何の意味もないことに思い至ってラ・ムーの顔を見上げた。
ラ・ムーは透明な板越しに見える、生体エネルギーを吸い出される青色人たちを静かに眺めているだけだった。
アルハザードの興味はエネルギーの質と量、そして活用方法なのだろう。
「毎日、およそ百人分を吸い上げている。そのくらいないと、この王宮は活動が維持できないのだよ。その他にも使う用途はあるしね」
それは王自身の寿命を伸ばすためだろう。
「君の体にこのエネルギーが使えるかどうかは、専門家に訊いてみないとね」
専門家というのは、医者のような者だろうか。
「この国には医者のように病気を治す者はいないらしい、病気を治すという考えそのものがないようだ、重い病にかかったらそのまま死んでいく、それだけのことなんだろう、だから怪我をしても、自然に治るまで放っておくようだね」
「でも、王族のための医者くらいはいそうなもんだけどね」
「それが必要ないんだよ、その装置があるからね。そのあたりも、これから分かるよ」
アルハザードがクスリと笑い、ラ・ムーを見上げた。
ラ・ムーが部屋を出て通路を歩き、壁に手を当てると部屋の中には一人の黄金人が立っていた。予め王から部屋を訪ねる映像を受け取っていたのだろう。
「偉大なる王ラ・ムー様、その者が先ほど連絡を頂いた、体を治したいという者ですか」
「うむ、それが可能かどうかをお前に確かめてもらいたいのだが、どうかな」
「分かりました、やってみましょう」
ラ・ムーよりも一回り小さい、かなり年配の黄金人が部屋の隅の金色の石に座り、手を前方に出すとそこにテーブルが現れた。
テーブルに手を置いて胸に両掌を当てると、テーブルの上にA四サイズほどの薄い板が現れ、その上に模様が次々と現れた。
よく見ると、それは書かれているのではなく、彫られている物だと分かった。
「あれがこの国の文字かな」
「ああ、そうだよ。ヒラニプラに入った時に、門に刻んであった物を憶えてるかい、あれが文字だよ、そしてそこに同じ文字が刻まれているね」
言われてみれば、模様はアラビア語とハングル語の中間のような物で、奇妙な姿をした馬や象と一緒に見た記憶がある。
板の上にみるみる文字が刻まれていく。あっという間に板の表面が文字でいっぱいになり、黄金人が右手を差し出すと、その掌に新しい板が現れる。こうして机の上に板が山積みになった。
「この国には紙ってないのかな、それにペンの用な物も」
「ないようだね、こうして木に文字を刻んで読み、読み終わったら捨ててしまうようだよ。そのデータは全て王宮のライブラリーに保管されているようだね。それをあの胸の装置を使って取り出しているのさ」
アルハザードが小声で言った。
椅子に座っていた黄金人の手が止まった。
「ラ・ムー様、今までのデータを精査しましたが、この者はこの国の人間ではありません。故に精神の構造がこの国の人間とはかなり違っておりますが、少なくとも同じ理性を持った人間です。可能性は皆無でがありません。やってみる価値はあるかと」
少なくともというところに多少の違和感を感じるが、反論はしないでおく。
「この者の精神の波動を調べなくてはなりません。お時間を頂ければ」
黄金人の言葉にラ・ムーは満足そうに「うむ、良いかね」とアルハザードの方を向いた。
「宜しくお願いします」
アルハザードが畏まってほんの少し頭を下げた。
アルハザードが別室に案内され、検査を受けている間、神谷はまたラ・ムーの前でギターを弾かされた。
「何ならそなたも寿命を五百年分くらい与えようか」
と言われたが、それは丁重に断った。アルハザードならともかく、神谷が現世で五百年も生きたら、親族どころか知り合いも誰もいなくなって、とてつもない孤独を生きなければならない、とてもではないが耐えられるはずもない。
適度に健康で長生きが一番なのだ。
「私は八百年生きているが、つまらないなどと思ったことはないぞ」
それはラ・ムーが王だからだ。何でも思い通りになる人生ならば、何百年生きても退屈はしないのだろう。しかし、望みがない訳ではない。
「何百年も生きたいとは思いませんが、身体能力を高めることはできますか」
「それはどのようなことかね」
「もっとこの楽器を上手に弾けるようになりたいのです」
「今でも充分に上手く弾きこなせているではないか、それ以上に上手くなりたいのかね」
「ええ、この世の中で一番上手くなりたいのですよ」
「海の向こうの世界には、そなたよりもそのギタラという楽器をもっと上手く弾きこなせる者がいるということかね」
「もちろんそうです。僕よりも上手いギター弾きはたくさんいますよ」
「信じられないが、もしそうだとしたら、その者たちの演奏をぜひ聴いてみたいものだな」
実現できるはずがない。そのギタリストたちは、一万二千年後の世界にしか存在しないのだから。
「分かった、では先ほどの彼の後になるが、そなたの望みも叶えるように指示しておこう」
「ありがとうございます」
頭を下げようとしたが、何の意味もないことに思い至ってラ・ムーの顔を見上げた。
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