親友は砂漠の果ての魔人

瑞樹

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ムー大陸編

31精神同調樹訓練開始

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「では、早速訓練を開始しようかな」
 黄金人がアルハザードを連れて部屋を出て行った。
「そなたは部屋でくつろいでいるがいい」

 ラ・ム一の言葉に椅子から腰を上げると、グラムダルクリッチが部屋に入ってきた。

「あなたは車に乗ってこの国の外に出かけたりはしないんですか」
 部屋に戻る途中でグラムダルクリッチに話しかけてみた。

「あれは決まった人しか出来ない仕事ですから、私は乗ったことはありません」
 返事は抑揚のない言葉の羅列だった。その理由などについては、アルハザードを通じて邪神に訊いた方が良さそうだ。
 
 部屋でくつろぐといっても、できることはギターを弾くことだけだ。近くにいるはずの邪神へのサービスも含めて、ギターの練習をしていると、アルハザードが部屋に入ってきた。

「もう、今日の訓練は終わったのかい」
「ああ、一日に一時間くらいしか機械の中に入れないらしいんだ」

「ずいぶん短いんだね」
「それ以上入っていると、精神に異常をきたす恐れがあるらしい、もっとも、僕はとっくに普通ではなくなっているんだけどね」

 アラブの魔人がクスリと笑った。

「さっきグラムダルクリッチに訊いたんだけど、僕たちがこの国の外で会った車は決まった人しか乗れないらしいんだよね、どういうことかな」

「あの車はこの王宮の物と比べると微力だけど精神力増幅機を動力源として使っているから、当然ある程度の精神力が要求される、この王宮で生体エネルギーを吸われてしまった者には操縦することができない、ということだろうね」

「それじゃあ、彼女もあの機械で生体エネルギーを吸われているということかい」

「車を操縦していた二人とこの王宮で今までに会った奴らを比べればすぐに分かることさ。車を操縦していたニ人は好奇心が旺盛で、感情も豊かだった。それに比べてここの奴らは唯生きているだけ、そんな印象を受けないかい」

 アルハザードに言われてみると、全くその通りだった。この国の住人はあの巨大な機会に生体エネルギーを吸われているせいで、何の感情もない人間へと変えられているのだ。

「だから、あの機械にかけられない黄金人は感情があるんだろうね。それと同じように、あの車を運転する必要のあるものは、あの機械に生体エネルギーを吸われない、だから人間らしい感情がある、そういうことじゃない
かな」

「ラ・ム一が僕にも訓練を受ければこの国の人間と同じ恩恵が受けられるって言ってたけど、恩恵っていうのはもしかして……」

「精神力増幅装置を使えるようになることを指しているのかもしれないし、黄金人のように生体エネルギーを与られて長く生きられるようになることを指しているのかもしれ.な.いね」
「そういえば、ラ・ム一は僕に五百年くらい寿命を与えようかって言ったよ」

「それって神谷に五百年間傍らでギタラを弾かせるつもりなんじやないか」

「僕も絶対にそうだと思って断ったけどね」

「まあ、断っても断らなくても結果は同じだけどね」
 アルハザードはこの島の近い将来のことを言っているのだ。

「訓練てどんなことをするんだい」
「黄金人の言った通り、機械の中で寝ているだけだったよ。現代にたとえると、MRIの中に入っているようなもんだよ。電磁波でなないけど、何か目に見えない波動のような物が機械の中に充満しているのを感じたね。この国の住民は僕たちとは精神の波長が違っていて、それを補正するための機械らしい。もちろん、今までそんな機械を使うことはなかったろうから、初めて使うんじやないかな。どうしてそんな機械があるのかは分からないけどね」

「それじやあ、その機械がまともに作用するかも含めてのテストみたいなものだね」
「そういうことになるけど、いざとなったら、こいつに何とかしてもらうさ」

 アルハザードが姿を現した邪神の頭をなでた。邪神は小さく喉をゴロゴロと鳴らした。

「今夜も王宮の中を散策するのかい」
 夕飯を食べ終わった二人は邪神の出してくれた赤ワインを飲んでいた。

「いや、今日は止めておくよ。昨日と同じ場面を見るだけらしいからね」

「君は何が見たいんだい」

 言った途端に頭の中に黒い玉の映像が浮かんだ。
「分かったかい」
「君が映像を送ったのか」

「そうだよ、こいつにあの文様の代わりをしてもらってね」

 さすがはアラブの魔人、一日で精神力増幅装置を多少なりとも使えるようになっているのか。

「僕の力ではないよ、こいつが僕に合わせてくれているんだ。この国の装置を使えるようになるまでにはもう少し時間がかかりそうだ」

 アルハザードでさえ時間がかかるのならば、神谷にはほとんど不可能ということだろう。

 ラ・ム一の申し出を断って正解だったようだ。
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