親友は砂漠の果ての魔人

瑞樹

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ムー大陸編

33魔人の訓練と黒い玉その後

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 先日と同じく、赤色人たちは黒い箱から黒い玉を取り出して、それを黒い袋につめていく。袋はパンパンに膨れ上がり、入り口を黒い紐でぐるぐると巻いて、人がやっと抱えられる大きさだろう。今日できた黒い玉が黒い袋にすっかり収まると、赤色人たちは今まで壁に積んであった物と一緒に、一人一袋ずつ背負って部屋を出て行った。

「さあ、ここから先だよ」

 アルハザードが言って、その後について部屋を出た。赤色人たちは暗い廊下を黙って列になって歩いて行く。

 赤色人が黒い袋を背負って歩いている様は、サンタクロースが悪い子供に邪悪なプレゼントを渡しに行くように見えてしまう。

 赤色人たちの行進が止まった。先頭の赤色人が壁に手を当てると、そこに空洞ができ、また行進が始まった。その後ろについて部屋の中に入ると、そこにはヒラニプラの外であった車がズラッと並んでいた。

「ここは駐車場かな」

「車が並んでいるんだからそうなんだろうね、でも、神谷の思っている駐車場とは大分違うみたいだけどね」

「どういうこと」

「さあね、そのうち分かるって言ってるよ」

 薄暗い部屋の中を見渡すと、車は白、黄、赤、青の各色に分かれて停まっていて、一つの色につき十台はあるだろうか、だが金色の車は見当たらない。金色人は車には乗らないということなのだろう。

 赤色人は背負った黒い袋を車のボンネットを開けて、その中に押し込んでいる。各色五台ずつほど入れたところで、黒い袋はなくなり、赤色人たちは来た時と同じように列を成して空手で部屋を出て行った。

「あの車には黒い玉を運ぶ役割があるみたいだね」

「明日、あの黒い玉を積んだ車はこの国を出るようだね」

「あの玉をどこかに運ぶのかな」

「そういうことだろうね」

 どこに運ぶかは教えてもらえないのだろう。

 部屋に戻ってワインを二人で二本飲んでから寝袋に入ると、いつの間にか眠りの世界に陥っていた。

 翌朝起きると、相変わらずアルハザードは先に起きていた。腕時計を見ると、すでに九時を回っている。

「やっと目が覚めたかい」

 アルハザードは相変わらす邪神の出してくれた書類の束に目を通している。
 
 寝袋から出て大きく伸びをしていると、テーブルが現れ、その上にグラスに入った水が乗っていた。その水をのみほしてから、シャワーが浴びたいな、と思っていると「こいつが用意してくれるってさ、着替えもね」アルハザードが足元で丸まっている邪神を指差した。

 部屋の隅にシャワー室が現れ、それを使い久々にすっきりすることができた。シャワー室には更衣室もついていて、下着の替えが用意されていて、シャワーを浴び終わった時には来ていたシャツとズボンがクリーニングされていた。昼食までは邪神へのサービスを忘れてはならないようだ。

「今日昨日の車が出発するんでしょ」

 シャワー室を出たアルハザードに訪ねた。やはり、服が新品のようにきれいになっている。

「だけど出て行くのは昼間だから、見に行く訳にはいかないね、どうにかして見たいものだけど」

 言いながら、邪神を見た。邪神は小さく欠伸をして再び体を丸めた。外見も動作もすっかり猫になり切っている。

 ギターの練習をしていると頭の中に車の映像が浮かんだ。白色人、黄色人、赤色人、青色人が其々の色の車に乗り込んでいる。

「今の映像って」

「ああ、こいつが、またこの国のシステムを真似して僕たちの頭の中に送ってきたんだよ」

 映像の中の車は駐車場を出て、王宮の外へと走り出した。王宮の出口、おそらくは裏口だろうが、には青い甲冑をつけた青色人が数名立っていた。街の入り口に立っていた者と同じく、この街の兵士なのだろう。

 映像はそこで終わった。車の行き先はどこなのだろうか。

「車は其々の故郷に向かってるみたいだよ」

「故郷?」
「白色人は白色人の出身国、黄色人は黄色人の出身国というふうに、ここに連れて来られる前の自分たちの国だよ」

「元々の自国に帰ってるって訳だね」

「自国に帰って行くというよりは、その方向に向かってるってだけらしいけどね」

「じゃあ、帰る訳じゃないんだ」
「そのあたりも、そのうち教えてくれるってさ」

 当分は邪神の機嫌を損ねないようにしなければならない。

 昼食後、アルハザードは精神同調機の訓練のために部屋を出て行った。邪神へのサービスの意味も込めて、ギターの練習をしていると、頭の中にグラムダルクリッチの映像が浮かんだ。今から迎えに来るらしい。


 間もなくグラムダルクリッチが部屋に現れ、ラ・ムーの待っている部屋へと連れて行かれた。

「そなたの友人の訓練は思いのほか順調にいっているようだな」

 ラ・ムーはいつにも増して機嫌が良さそうだった。

「大分頑張ってるみたいですね、何といっても自分の体が元に戻るかどうかの瀬戸際ですからね」

「頑張るとはいっても機械の中で横になるだけだだがね、しかし、彼の精神は常人の物とは違っているらしな、あの体といい、そうとう過酷な人生を送ってきたのだろうね。私の耳に入った情報によると、あの黒色人と闘って勝ったらしいな、もしそうならば、戦士としてこの国に残ってもらうという選択肢もあるね」

「この国に戦士はいるのですか」

「戦闘集団という意味での戦士はおらんよ。この国にはいる時に門の所に青色人が立っているのを見なかったかね」

「ええ、門の両側に甲冑を着て立っているのをみました」

「そうか、この王宮の入り口にも常時立っている。彼らが戦士ということになるのかな、もちろん訓練は行っているがね。黒色人に勝った彼ならば、誰よりも強い戦士になれるのではないか」

 それは戦士というよりは衛兵とい呼ぶ方が相応しいような気がする。

「訓練というのはこの王宮の中で行われているのですか」

「そうだ、この建物の中には戦士のための訓練を行う闘技場があるからね。見学をしたかったらいつでも言うがいい、伴の者に案内させるぞ」

 真剣勝負しか興味のない邪神に訓練など興味はないだろう。

「いえ、僕は肉体的な訓練は苦手なので遠慮しておきます」

 よほど夕べ見た黒い玉について詳しく訊きたかったが、それは止めておくことにした。

 いつものように甘酸っぱい飲み物を飲み、ギターを弾いて部屋を辞した。
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