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ムー大陸編
49黒鳥の被害発生
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「今晩はちょっと屋上まで行ってみようか」
夕飯後にワインを飲みながら、アルハザードが言った。
「最上階に何かあるの」
「最上階には飛行船と祭壇の部屋があるだけだ、別にそれに用事がある訳じやない、屋上から眺めたいものがあるんだ」
「それって何」
「行けば分かるさ」
多分アルハザードには見えても神谷には見えないのだろうが、黙って後について行くことにする。
「今夜は星空だし月も出ている、眺めは悪くはいと思うよ」
ツルツル滑る階段を上り、最上階についた。
アルハザードが壁に手を当てると穴があき、そこを通って中には入った。
暗閨の中でも金色の巨大な飛行船は鈍い光を放っている。
アルハドが部屋を横切り、璧に手を当てるとそこに窓ができた。それは縦横二メートルはあろうかという大きな物で、透明な板がはめ込まれている。
「ここからならばヒラニプラの国が一望できる」
アルハザードにはできても、神谷にはそんなに遠くまで見える訳ではない。
「何を見に来たんだい」
「あの黒鳥さ、あの鳥は昼夜関係なく活動するらしいね。今でもこの国の上空に飛来しているよ。住民は夜で歩く習慣がないようだから、屋根の上を歩き回ってうるさいぐらいの迷惑しか感じていないだろうけどね」
アルハザードが遠くをポツリと見ながら言うが、神谷には暗閨が見えるばかりで、月明かりの下で鳥の姿などは見えるはずもない。
「黒鳥以外の鳥はいないのかな」
「この島には猫や犬のような小動物や鳥はいないんだ」
「元々いなかったのかな」
「昔はいたらしいね、鳥がいないのは今は枯れてしまった猛毒の木の実のせいだし、小動物はあの増幅機の実験ためにいなくなったんだよ」
「この前言ってた実験に使われたのかい」
「そうらしいね、食料用の家畜以外の動物は全て絶滅したそうだ」
この国の王族は動物の命など何とも思っていないのだろう。
「それはこの国の王族に限ったことではないよ、どこの国の王族もそんなものだよ」
以前アルハザードは王族という人種はおそろしく残酷だと言っていた。もちろん、そこには「切り落とし」の刑を受けた者としての深い実感がこもっている。
「でも、それだけの動物が絶滅してしまったら、生物形態にすごい影響が出たんじゃないのかな」
「この時代には小さな虫などもいたはずなんだが、それを食べる小動物がいなくなったために、それが大量繁殖した。それを駆除するための植物が開発された、それを更に強力にしたのがこの前王宮の畑にまいていた種だろうね」
「でも、虫がいなくなると植物の受粉ができなくなるんじゃないかい」
「その通りだ、初めのうちは植物に実がならない訳が分からなかったようだけど、植物にも雄と雌があることが分かって、受粉は全て人工で行われているんだ。だから、ひどく効率が悪くて、収穫も極端に減ったんだ」
「その上にあの黒色人や黒鳥だとしたら、黄金人以外の人種からしたら良いことなんか一つもないね」
「ある訳がないさ、全ては王族のためのシステムなんだよ、だから、あちらこちらの国で不穏な動きが起こっているようだよ」
「フランスとかロシアの革命みたいなものかな」
「そこまでのエネルギーはないだろうけど、ヒラニプラ以外の国の住民は王族を良く思っていないのは確かだね。何たって貢ぎ物を収めている上に、命まで削られている訳だからね」
「この国以外は全くの後進国だって言ってたよね」
「ああ、その通りだよ」
「だとすると、ほとんど農業か動物を飼育しているんでしょ」
「それ以外の仕事はは木を伐採して家を建てるとか、そんな原始的な生活をしてるね、もちろん増幅器はこの国にしかないから、動力なんかもないしね」
「他の国の人は車とか飛行船がないんだったら、移動手段は歩くだけ」
「そう、他にはないよ、それが普通だからね。もっとも、この国に連れて来られる時だけは、車や飛行船に乗せられるらしいけどね、この国から出される者と交代でね」
アルハザードが目を見開いて顔を一段と窓に近づけた。
「どうかしたの」
「神谷には見えないだろうが、黒鳥に人が襲われている」
アルハザードが指差す方を見ても暗闇が広がるばかりで、何も見ることができない。
「理由は分からないけど、この時間に外を歩いていたんだろうね。襲われているのはおそらく大人、赤色人の男だ。一応手に武器である棒を持ってはいるが、数羽の黒鳥に襲われている。おそらくは敵わないだろうね」
「敵わないっていうことは、死んでしまうのかい」
「そうだね、死ぬ、それも食殺されるね。おそらくは死骸も残らないだろうね」
「死骸も残らないのか、それじゃあ死んだことすら分からないじゃない」
「そういうことだけど、この国の人にとってそんなに大したことじゃないらしいよ」
アルハザードが窓に顔を近づけたまま話を続けた。
「この国というよりこの島全体の習慣として、結婚というものはないんだ。だから、好きあって一緒に住んでいても相手が急にいなくなるなんてことは普通にあることなんだよ。カップルになるのはもちろん同色人どうしだけどね」
「それじゃ相手は急にいなくなったと思ってそれで終わり」
「ああ、終わりだね。そして新しい相手を見つけて新しいカップルになるだけさ」
「戸籍なんてものもないんだろうね」
「ないよ、人種ごとにある程度の人数は把握しているようだけど、急に人がいなくなっても、大騒ぎにはならないらしいよ。元の国に帰ったとでも思うのだろう」
「人間関係の密度が薄いんだね」
「そんなものじゃないのかな。この時代にあまり他人に対して感情を持たないのが普通なんだろうね。医学が発達していないから、王族以外は盲腸になっただけでも腹膜炎で死んでしまうからね。いつ死んでしまうかもしれない者一々感情移入していられないんだろう」
アルハザードが窓からは慣れた。赤色人を襲った黒鳥が飛去ったのだろう。赤色人の生きていた痕跡も残さずに。
夕飯後にワインを飲みながら、アルハザードが言った。
「最上階に何かあるの」
「最上階には飛行船と祭壇の部屋があるだけだ、別にそれに用事がある訳じやない、屋上から眺めたいものがあるんだ」
「それって何」
「行けば分かるさ」
多分アルハザードには見えても神谷には見えないのだろうが、黙って後について行くことにする。
「今夜は星空だし月も出ている、眺めは悪くはいと思うよ」
ツルツル滑る階段を上り、最上階についた。
アルハザードが壁に手を当てると穴があき、そこを通って中には入った。
暗閨の中でも金色の巨大な飛行船は鈍い光を放っている。
アルハドが部屋を横切り、璧に手を当てるとそこに窓ができた。それは縦横二メートルはあろうかという大きな物で、透明な板がはめ込まれている。
「ここからならばヒラニプラの国が一望できる」
アルハザードにはできても、神谷にはそんなに遠くまで見える訳ではない。
「何を見に来たんだい」
「あの黒鳥さ、あの鳥は昼夜関係なく活動するらしいね。今でもこの国の上空に飛来しているよ。住民は夜で歩く習慣がないようだから、屋根の上を歩き回ってうるさいぐらいの迷惑しか感じていないだろうけどね」
アルハザードが遠くをポツリと見ながら言うが、神谷には暗閨が見えるばかりで、月明かりの下で鳥の姿などは見えるはずもない。
「黒鳥以外の鳥はいないのかな」
「この島には猫や犬のような小動物や鳥はいないんだ」
「元々いなかったのかな」
「昔はいたらしいね、鳥がいないのは今は枯れてしまった猛毒の木の実のせいだし、小動物はあの増幅機の実験ためにいなくなったんだよ」
「この前言ってた実験に使われたのかい」
「そうらしいね、食料用の家畜以外の動物は全て絶滅したそうだ」
この国の王族は動物の命など何とも思っていないのだろう。
「それはこの国の王族に限ったことではないよ、どこの国の王族もそんなものだよ」
以前アルハザードは王族という人種はおそろしく残酷だと言っていた。もちろん、そこには「切り落とし」の刑を受けた者としての深い実感がこもっている。
「でも、それだけの動物が絶滅してしまったら、生物形態にすごい影響が出たんじゃないのかな」
「この時代には小さな虫などもいたはずなんだが、それを食べる小動物がいなくなったために、それが大量繁殖した。それを駆除するための植物が開発された、それを更に強力にしたのがこの前王宮の畑にまいていた種だろうね」
「でも、虫がいなくなると植物の受粉ができなくなるんじゃないかい」
「その通りだ、初めのうちは植物に実がならない訳が分からなかったようだけど、植物にも雄と雌があることが分かって、受粉は全て人工で行われているんだ。だから、ひどく効率が悪くて、収穫も極端に減ったんだ」
「その上にあの黒色人や黒鳥だとしたら、黄金人以外の人種からしたら良いことなんか一つもないね」
「ある訳がないさ、全ては王族のためのシステムなんだよ、だから、あちらこちらの国で不穏な動きが起こっているようだよ」
「フランスとかロシアの革命みたいなものかな」
「そこまでのエネルギーはないだろうけど、ヒラニプラ以外の国の住民は王族を良く思っていないのは確かだね。何たって貢ぎ物を収めている上に、命まで削られている訳だからね」
「この国以外は全くの後進国だって言ってたよね」
「ああ、その通りだよ」
「だとすると、ほとんど農業か動物を飼育しているんでしょ」
「それ以外の仕事はは木を伐採して家を建てるとか、そんな原始的な生活をしてるね、もちろん増幅器はこの国にしかないから、動力なんかもないしね」
「他の国の人は車とか飛行船がないんだったら、移動手段は歩くだけ」
「そう、他にはないよ、それが普通だからね。もっとも、この国に連れて来られる時だけは、車や飛行船に乗せられるらしいけどね、この国から出される者と交代でね」
アルハザードが目を見開いて顔を一段と窓に近づけた。
「どうかしたの」
「神谷には見えないだろうが、黒鳥に人が襲われている」
アルハザードが指差す方を見ても暗闇が広がるばかりで、何も見ることができない。
「理由は分からないけど、この時間に外を歩いていたんだろうね。襲われているのはおそらく大人、赤色人の男だ。一応手に武器である棒を持ってはいるが、数羽の黒鳥に襲われている。おそらくは敵わないだろうね」
「敵わないっていうことは、死んでしまうのかい」
「そうだね、死ぬ、それも食殺されるね。おそらくは死骸も残らないだろうね」
「死骸も残らないのか、それじゃあ死んだことすら分からないじゃない」
「そういうことだけど、この国の人にとってそんなに大したことじゃないらしいよ」
アルハザードが窓に顔を近づけたまま話を続けた。
「この国というよりこの島全体の習慣として、結婚というものはないんだ。だから、好きあって一緒に住んでいても相手が急にいなくなるなんてことは普通にあることなんだよ。カップルになるのはもちろん同色人どうしだけどね」
「それじゃ相手は急にいなくなったと思ってそれで終わり」
「ああ、終わりだね。そして新しい相手を見つけて新しいカップルになるだけさ」
「戸籍なんてものもないんだろうね」
「ないよ、人種ごとにある程度の人数は把握しているようだけど、急に人がいなくなっても、大騒ぎにはならないらしいよ。元の国に帰ったとでも思うのだろう」
「人間関係の密度が薄いんだね」
「そんなものじゃないのかな。この時代にあまり他人に対して感情を持たないのが普通なんだろうね。医学が発達していないから、王族以外は盲腸になっただけでも腹膜炎で死んでしまうからね。いつ死んでしまうかもしれない者一々感情移入していられないんだろう」
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