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ムー大陸編
50黒鳥退治の仕掛け
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アルハザードの昼食後の治療が終わり、神谷が邪神のためにギターを弾いていると、頭の中にグラムダルクリッチの映像が浮かんだ。
「またラ・ムーが呼んでいるみたいだね」
「もしかしたら、昨日言っていた、君の体についてのことかもしれないね」
「いくら調べても分かるはずがないけどね、調べたいのならば気が済むまでさせるけどね」
間もなくグラムダルクリッチが部屋に現れ、その後について部屋を出た。
「演奏の邪魔をされたから、こいつが御機嫌斜めだね」
アルハザードが肩に乗っているはずの邪神の方を見た。
最上階の部屋に入ると、ラ・ムーがテーブルに座り、数人の白色人が周りに立っていた。
ラ・ムーが二人を椅子に座るように促されて、腰を降ろした。
「先日は黒鳥を退治してもらって御苦労だったな」
「いえ、先日も言った通り、治療をしてもらっているお礼ですから」
「その黒鳥のことなのだが、街での被害が大きくなっていくようだ、そなたたち何か良い方法はないかね。あの鳥と闘って勝てるのは、今のところそなたしかおらぬのだ」
ラ・ムーは困り果てた様子でアルハザードを見た。
「しかし、この国に飛来する全ての黒鳥を僕一人で退治することはできませんよ」
アルハザードの言葉にラ・ムーが眉間に皺を寄せた。
「その通りだ。この国にはそなたほどに強い戦士はおらぬ。このままではこの国はあの鳥のために滅んでしまいかねない」
それ以前に別の理由でこの島全体が滅んでしまいかねないのだが、それを言う訳にはいかない。
「鳥を捕獲するだけなら、罠を仕掛ければいいのではありませんか」
アルハザードが涼やかな声で答えた。
「あの鳥を捕獲できる罠など作れるのかね」
「多分、このような物で大丈夫だと思いますよ」
アルハザードが胸のブローチに両掌を当てた。ラ・ムーに自分の頭の中で描いた映像を送っているようだ。
ついでに神谷の頭の中にも映像が浮かんだ。竹のような材質で作られた筒状の物で、片方は完全に塞がれているが、もう片方は穴が開いているが、筒の真ん中辺りで穴がすぼまっているため、一端入ってしまうと、外へは出られないようになっている。
この仕掛けはどこかで見たことがある。
「これは日本で使われている物だよ、見たことないかい」
これは確か川の中に沈めて使う物ではなかったか。
「そう、これはうなぎを捕まえるための仕掛けを大きくした物だよ」
「このなかに餌を仕掛けて出られなくなったところを捕まえるのだな」
ラ・ムーもアルハザードの考えついたことが分かったようだ。
「ええ、そして捕まえた後はこの罠ごと燃やしてしまえばいいでしょう」
しかし、これでは一つの仕掛けに二~三羽捕捕らえるのが精々ではないのだろうか。
「この仕掛けを数多く作って街のあちこちに置くんだよ。要は数を作ることだね」
「それは分かるけど、大変だよこんな仕掛けをたくさん作るのは」
「大丈夫だよ、僕と神谷がいれば」
「えっ、僕も手伝うのかい」
「当たり前じゃないか、幸い材料は枯れてしまったオレンジの実の成る木がある、それを王宮の空き地に運んでもらって作ればいい」
アルハザードの顔をマジマジと見たが、本気のようだ。
神谷が呆然としている間に、アルハザードはラ・ムーに刃物はどのような物があるかなどと訊いている。ラ・ムーも「では青色人を総動員して枯れた木を集めさせよう」などと答えている。
「青色人が木を集めている間、少し部屋で休もうか」
アルハザードの提案で二人は部屋に戻った。
「本気であんな仕掛けを大量に作るのかい」
「もちろん本気だよ、但し作るのは一つだけだよ」
「えっ、どういうこと」
「見ていれば分かるよ」
アルハザードが床の上で横になった。顔を隠してはいないので眠るつもりはなく、唯体を休めるためらしい。
神谷は邪神のために先ほど中途半端に終わったギターの演奏を続けた。
二時間ほど経った頃、頭の中に材木の映像が浮かんだ。青色人が運んできた木を角材に加工した物が王宮の裏に運ばれてきたようだ。
「そろそろ行こうか」
アルハザードが起き上がり、大きく伸びをしてから部屋を出る。神谷もそれに続いた。
王宮の外に出ると、陽は地平線に沈み、夜の帳が降りていた。上空を見ると、月明かりの中で黒い物体が高速で飛行している。もちろん黒鳥だ。
「数は少ないけど、王宮の上を飛び始めているね」
「ああ、これからどんどん増えるよ」
なぜか嬉しそうにしている。これから仕掛けを作ることがよほど楽しいのだろうか。
「ああ、あれだね」
アルハザードが指差した先には青色人が空き地に角材を積み上げていた。おそらくは五~六本分くらいの木から削りだしたのだろう。
アルハザードが青色人の一人に話しかけ、木材の一本を手に取った。長さは三メートルほどだろうか、太さが二十センチはありそうだから、かなりの重さなのだろうが、左手一本で軽々と持っている。
「さて、加工に適した細さに削るにはナイフが欲しいかな」
言った途端にアルハザードの右手に長さが三十センチほどの片手ナイフが握られていた。
アルハザードはそのナイフを角材の先端の中央部に当てると、まるで羊羹でも切るように縦に切り裂いた。しかも定規も当てていないのに、真っ直ぐに二等分されているように見える。
「その木は柔らかいのかい」
アルハザードが割ったばかりの角材を神谷に手渡した。近くで見ると松のように木目が詰まっていて、見るからに固く、そして重い。
「そんなに柔らかい木ではあの鳥を捕獲することはできないだろう」
アルハザードが木材を更に縦に割り続け、一辺が三センチほどの角材が大量にできた。いつの間にか周りを囲っている青色人がその様子を表情もなく眺めていた。
「このくらいかな、あ、そうだ、神谷にやってもらうことは分かってるとは思うけど」
「やっぱりこれかい」
神谷が念のために担いできたギターケースを指差した。
「そうだよ、それでこいつを多いに喜ばせておいてくれよ」
青色人の用意してくれた白い石にすわり、足を組んでギターを弾き始めた。もちろん選曲は邪神の好きな軽快なテンポの物ばかりだ。
アルハザードが懐から紐を取り出し、角材を適当な長さに切りながらその紐でがっちりと縛りつけ、徐々に形が映像で見た罠に近づいていった。
神谷の周りで黒い影が踊り、一時間以上も経過した頃、アルハザードが作業をしていた手を止めた。
こちらに向かって今まで作っていた物をこちらによく見えるように掲げている。
ギターを弾き終わると、周りの影も消えた。
「こんな感じかな」
アルハザードが頭の中に送ってきた映像そのままの物を両手に抱えている。木材の長さは綺麗に揃えられ、其々が紐できっちりと留められている。罠の中へと入るように折り曲げられた木材も、鳥が中へ入りやすいように柔軟にできている。そしてその先の細さ、一度入ったら二度と出られないことは一目瞭然だ。
「良くできてると思うよ、でも、これを後何百個も作れるのかい」
「神谷、僕の話を聞いていなかったのかい、作るのは一個だけだよ」
確かにアルハザードは作るのは一個だけだと言っていた。しかし数多く必要だと言っていたのも事実だ。
「後はこいつに任せることにする」
アルハザードが肩に乗っているはずの邪神を指差した。
青色人の一人がこちらに向かって話しかけてきた。二メートルはあろうかという身長には似合わない高い声だった。
「彼は何と言ったんだい」
「そろそろ遅いから眠いんだそうだ、部屋に帰ってもいいかと言われたよ」
アルハザードが青色人に何事かを伝えると、彼らは一人残らず王宮の中へと入って行った。
「もう用事はないから寝ていいと言っておいたよ。彼らがいない方が都合がいいしね」
アルハザードが何をするつもりなのかというよりも、邪神が何をするのかが分からない。
「まあ見ていなよ」
アルハザードが自ら作った仕掛けを地面の上に鳥の入口を上にして立てかけた。
邪神が姿を現し、アルハザードの肩から飛び降り、仕掛けに向かってゆっくりと歩きながらサファイヤ色の目を瞬かせた。
「何をしてるんだろうね」
「スキャニングさ」
「えっ、何て言ったの」
「神谷は3Dプリンターを知らないのかい」
「それはテレビで見たことくらいはあるけど、それがどうしたの」
「まあ面白いことが始まるから、黙って見ていなよ」
アルハザードはそれきり何も言おうとはしない。仕方なく隣に並んでその様子を眺めることにした。
邪神のスキャニングは一分ほどで終わった。次に仕掛けの脇に茶色い平たいものが現れ、高速で左右に動き出した。徐々にではあるがその物体が上昇して行く。するとその下に、隣の仕掛けと同じ物が作られていく。
「ほら、だから3Dプリンターだろ」
「ということは、あの茶色い平たいものはヘッダーってこと」
「そうだね、そういうことだね、しかも、材質まで同じ木材で作ってくれているからね」
一体の仕掛けがコピーされるまで十分足らずだろう。この分ならば朝までには目標の数ができあがる。
現代の最新技術の3Dプリンターを使用するとは、神谷の予想を遥かに越えているというよりも、かなり反則なのではと思ったが、よく考えれば邪神の潜在自体がかなりの反則なので、その点は深く考えないことにした。
「またラ・ムーが呼んでいるみたいだね」
「もしかしたら、昨日言っていた、君の体についてのことかもしれないね」
「いくら調べても分かるはずがないけどね、調べたいのならば気が済むまでさせるけどね」
間もなくグラムダルクリッチが部屋に現れ、その後について部屋を出た。
「演奏の邪魔をされたから、こいつが御機嫌斜めだね」
アルハザードが肩に乗っているはずの邪神の方を見た。
最上階の部屋に入ると、ラ・ムーがテーブルに座り、数人の白色人が周りに立っていた。
ラ・ムーが二人を椅子に座るように促されて、腰を降ろした。
「先日は黒鳥を退治してもらって御苦労だったな」
「いえ、先日も言った通り、治療をしてもらっているお礼ですから」
「その黒鳥のことなのだが、街での被害が大きくなっていくようだ、そなたたち何か良い方法はないかね。あの鳥と闘って勝てるのは、今のところそなたしかおらぬのだ」
ラ・ムーは困り果てた様子でアルハザードを見た。
「しかし、この国に飛来する全ての黒鳥を僕一人で退治することはできませんよ」
アルハザードの言葉にラ・ムーが眉間に皺を寄せた。
「その通りだ。この国にはそなたほどに強い戦士はおらぬ。このままではこの国はあの鳥のために滅んでしまいかねない」
それ以前に別の理由でこの島全体が滅んでしまいかねないのだが、それを言う訳にはいかない。
「鳥を捕獲するだけなら、罠を仕掛ければいいのではありませんか」
アルハザードが涼やかな声で答えた。
「あの鳥を捕獲できる罠など作れるのかね」
「多分、このような物で大丈夫だと思いますよ」
アルハザードが胸のブローチに両掌を当てた。ラ・ムーに自分の頭の中で描いた映像を送っているようだ。
ついでに神谷の頭の中にも映像が浮かんだ。竹のような材質で作られた筒状の物で、片方は完全に塞がれているが、もう片方は穴が開いているが、筒の真ん中辺りで穴がすぼまっているため、一端入ってしまうと、外へは出られないようになっている。
この仕掛けはどこかで見たことがある。
「これは日本で使われている物だよ、見たことないかい」
これは確か川の中に沈めて使う物ではなかったか。
「そう、これはうなぎを捕まえるための仕掛けを大きくした物だよ」
「このなかに餌を仕掛けて出られなくなったところを捕まえるのだな」
ラ・ムーもアルハザードの考えついたことが分かったようだ。
「ええ、そして捕まえた後はこの罠ごと燃やしてしまえばいいでしょう」
しかし、これでは一つの仕掛けに二~三羽捕捕らえるのが精々ではないのだろうか。
「この仕掛けを数多く作って街のあちこちに置くんだよ。要は数を作ることだね」
「それは分かるけど、大変だよこんな仕掛けをたくさん作るのは」
「大丈夫だよ、僕と神谷がいれば」
「えっ、僕も手伝うのかい」
「当たり前じゃないか、幸い材料は枯れてしまったオレンジの実の成る木がある、それを王宮の空き地に運んでもらって作ればいい」
アルハザードの顔をマジマジと見たが、本気のようだ。
神谷が呆然としている間に、アルハザードはラ・ムーに刃物はどのような物があるかなどと訊いている。ラ・ムーも「では青色人を総動員して枯れた木を集めさせよう」などと答えている。
「青色人が木を集めている間、少し部屋で休もうか」
アルハザードの提案で二人は部屋に戻った。
「本気であんな仕掛けを大量に作るのかい」
「もちろん本気だよ、但し作るのは一つだけだよ」
「えっ、どういうこと」
「見ていれば分かるよ」
アルハザードが床の上で横になった。顔を隠してはいないので眠るつもりはなく、唯体を休めるためらしい。
神谷は邪神のために先ほど中途半端に終わったギターの演奏を続けた。
二時間ほど経った頃、頭の中に材木の映像が浮かんだ。青色人が運んできた木を角材に加工した物が王宮の裏に運ばれてきたようだ。
「そろそろ行こうか」
アルハザードが起き上がり、大きく伸びをしてから部屋を出る。神谷もそれに続いた。
王宮の外に出ると、陽は地平線に沈み、夜の帳が降りていた。上空を見ると、月明かりの中で黒い物体が高速で飛行している。もちろん黒鳥だ。
「数は少ないけど、王宮の上を飛び始めているね」
「ああ、これからどんどん増えるよ」
なぜか嬉しそうにしている。これから仕掛けを作ることがよほど楽しいのだろうか。
「ああ、あれだね」
アルハザードが指差した先には青色人が空き地に角材を積み上げていた。おそらくは五~六本分くらいの木から削りだしたのだろう。
アルハザードが青色人の一人に話しかけ、木材の一本を手に取った。長さは三メートルほどだろうか、太さが二十センチはありそうだから、かなりの重さなのだろうが、左手一本で軽々と持っている。
「さて、加工に適した細さに削るにはナイフが欲しいかな」
言った途端にアルハザードの右手に長さが三十センチほどの片手ナイフが握られていた。
アルハザードはそのナイフを角材の先端の中央部に当てると、まるで羊羹でも切るように縦に切り裂いた。しかも定規も当てていないのに、真っ直ぐに二等分されているように見える。
「その木は柔らかいのかい」
アルハザードが割ったばかりの角材を神谷に手渡した。近くで見ると松のように木目が詰まっていて、見るからに固く、そして重い。
「そんなに柔らかい木ではあの鳥を捕獲することはできないだろう」
アルハザードが木材を更に縦に割り続け、一辺が三センチほどの角材が大量にできた。いつの間にか周りを囲っている青色人がその様子を表情もなく眺めていた。
「このくらいかな、あ、そうだ、神谷にやってもらうことは分かってるとは思うけど」
「やっぱりこれかい」
神谷が念のために担いできたギターケースを指差した。
「そうだよ、それでこいつを多いに喜ばせておいてくれよ」
青色人の用意してくれた白い石にすわり、足を組んでギターを弾き始めた。もちろん選曲は邪神の好きな軽快なテンポの物ばかりだ。
アルハザードが懐から紐を取り出し、角材を適当な長さに切りながらその紐でがっちりと縛りつけ、徐々に形が映像で見た罠に近づいていった。
神谷の周りで黒い影が踊り、一時間以上も経過した頃、アルハザードが作業をしていた手を止めた。
こちらに向かって今まで作っていた物をこちらによく見えるように掲げている。
ギターを弾き終わると、周りの影も消えた。
「こんな感じかな」
アルハザードが頭の中に送ってきた映像そのままの物を両手に抱えている。木材の長さは綺麗に揃えられ、其々が紐できっちりと留められている。罠の中へと入るように折り曲げられた木材も、鳥が中へ入りやすいように柔軟にできている。そしてその先の細さ、一度入ったら二度と出られないことは一目瞭然だ。
「良くできてると思うよ、でも、これを後何百個も作れるのかい」
「神谷、僕の話を聞いていなかったのかい、作るのは一個だけだよ」
確かにアルハザードは作るのは一個だけだと言っていた。しかし数多く必要だと言っていたのも事実だ。
「後はこいつに任せることにする」
アルハザードが肩に乗っているはずの邪神を指差した。
青色人の一人がこちらに向かって話しかけてきた。二メートルはあろうかという身長には似合わない高い声だった。
「彼は何と言ったんだい」
「そろそろ遅いから眠いんだそうだ、部屋に帰ってもいいかと言われたよ」
アルハザードが青色人に何事かを伝えると、彼らは一人残らず王宮の中へと入って行った。
「もう用事はないから寝ていいと言っておいたよ。彼らがいない方が都合がいいしね」
アルハザードが何をするつもりなのかというよりも、邪神が何をするのかが分からない。
「まあ見ていなよ」
アルハザードが自ら作った仕掛けを地面の上に鳥の入口を上にして立てかけた。
邪神が姿を現し、アルハザードの肩から飛び降り、仕掛けに向かってゆっくりと歩きながらサファイヤ色の目を瞬かせた。
「何をしてるんだろうね」
「スキャニングさ」
「えっ、何て言ったの」
「神谷は3Dプリンターを知らないのかい」
「それはテレビで見たことくらいはあるけど、それがどうしたの」
「まあ面白いことが始まるから、黙って見ていなよ」
アルハザードはそれきり何も言おうとはしない。仕方なく隣に並んでその様子を眺めることにした。
邪神のスキャニングは一分ほどで終わった。次に仕掛けの脇に茶色い平たいものが現れ、高速で左右に動き出した。徐々にではあるがその物体が上昇して行く。するとその下に、隣の仕掛けと同じ物が作られていく。
「ほら、だから3Dプリンターだろ」
「ということは、あの茶色い平たいものはヘッダーってこと」
「そうだね、そういうことだね、しかも、材質まで同じ木材で作ってくれているからね」
一体の仕掛けがコピーされるまで十分足らずだろう。この分ならば朝までには目標の数ができあがる。
現代の最新技術の3Dプリンターを使用するとは、神谷の予想を遥かに越えているというよりも、かなり反則なのではと思ったが、よく考えれば邪神の潜在自体がかなりの反則なので、その点は深く考えないことにした。
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