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ムー大陸編
51待遇向上?
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水平線が白み始める頃には、空き地は無数の黒鳥を捕獲する仕掛けで覆い尽くされていた。伴の白色人を連れて裏口から姿を現したラ・ムーは、遠目にも呆然と立ち尽くしているのが分かった。
「これを二人だけで一晩で作ったというのかね」
近づいて来たラ・ムーが信じられないとばかりに上ずった声を上げた。普段の荘厳な声とは大違いだ。
「まあ、そうですね。大したことではありませんよ、少しがんばっただけです」
強いて言えば、がんばったのは邪神なのだが。
結局、神谷は邪神にソファーを出してもらい、朝まで睡眠を取ることができたが、アルハザードは徹夜で仕掛けのでき上がる様子を眺めていたようだ。
「信じられないことだが、こうして現物が目の前にあるのだから信じない訳にはいかないな」
「後はこの仕掛けのなかにあの鳥の好む餌を入れて、街中に置いておけば上手くいくと思いますよ」
アルハザードの話では、黒鳥は肉の中でも特に内蔵、しかも腐臭の漂う腐りかけた物を好むらしい。
邪神の作った仕掛けは取り敢えず三分の一ほどが動物の内蔵を入れて、街のあちらこちらに設置されることとなった。
「しかし、3Dプリンターとは驚いたね。しかも、あの仕掛け全てが同じ材料でできているんでしょ、どのくらいの数作ったんだい」
部屋に戻る通路の中でアルハザードに話しかけた。
「大体千個くらいかな」
あまりの数の多さに驚いた。
「そんなに驚くことじゃないよ。プリンターは一台だけじゃないからね、コピーをコピーして、最終的には二十個を同時にコピーしたんだ」
「だったら、材料の材木の量が伐採された木よりも格段に多いことに気がつかなかったのかな」
「その点を訊かれたらどういうふうに答えるか、考えてはいたんだけど、あまり驚きすぎて、頭が回らなかったみたいだね」
「因にどんなふうに答えるつもりだったんだい」
「さあね、もう忘れてしまったね、それよりも、朝までがんばってくれたこいつにたくさんサービスをしてやってくれよ」
再び姿を消した邪神はアルハザードの肩の上で丸まっていることだろう。
部屋に戻るとアルハザードは午後の治療に供えて体を床に横たえた。
仮眠をとっている横で邪神好みの軽快な曲を弾くのはためらわれると思っていると、顔にかけたタオル越しに「神谷の弾くギターくらいで眠れなかったら、とても砂漠の夜を越すことはできないよ、気にしないで存分にやってくれ」と言う涼やかな声が聞こえた。
魔人の進言に従い、軽快な曲を三十分ほど弾いていると昼食の時間になったらしく、頭の中に料理の映像が浮かんだが、今日の物はいつもの白色人用の物ではなく、鉄の皿に肉のかたまり、分厚いステーキと白いシチューのような物だった。
「いつものメニューとは違うみたいだね」
起き上がったアルハザードに話しかけた。間もなく目の前に映像と同じ料理が現れた。
「これは白色人用の料理じゃないみたいだね」
「それじゃあ……」
「ああ、これは黄金人、王族のための料理だ」
黒鳥退治のための仕掛けを作ったお礼だろうか。しかし、何もしないでソファーで寝ていた神谷としては少し気が引けるところだ。
「気にすることはないよ、神谷は寝ていただけだけど、僕だって見ていただけだ、こいつが全てをやってくれたけど、こいつは普通の食事はしないしね」
部屋の隅で丸くなっている邪神が退屈そうに小さく欠伸をした。
料理の前には金属製の細い棒が置いてあった。これでどうやって食べるのかと思っていると、肉の前にはナイフとフォーク、スープの前にはスプーンが現れた。これは明らかに邪神のサービスだ。
料理を口に運んでみると、肉は牛肉に近い味がした。おそらくは王宮の裏で飼われている牛の祖先のものだろう。味つけは塩だけではなく微かにスパイスが入っているような気がした。
「実際に使われているようだね。さすがは王族の食事だけあって豪華だね」
アルハザードは付属の棒を使って器用に肉を切り分け、それを串刺のようにして口に運んでいる。皿の中のシチューの具材も棒に差して食べている。
「これからも、この食事が続くのかな」
「さあね、あの仕掛けの成果次第じゃないのかな。今回のは『夕べは御苦労』ってことだろうね」
食後には紅茶に似た飲み物が現れた。カップの色は白だった。
「黄金人と同じ食事は与えるけど、今日は特別だということを忘れるなよってことだろう」
「でも、あの仕掛けが成果を上げたら、それも変わるんじゃないの」
「何だ、神谷は待遇が変わった方がいいのかい、僕は今までのままで充分だけどね」
「僕だって別に不満がある訳じゃないよ。唯気分的に多少違うかなって思っただけだよ」
「ふーん、そうなんだ」
アルハザードは思わせぶりに笑っただけで、後は何も言わなかった。
アルハザードが午後の治療に出かけた。神谷は邪神にギターのためにギターを弾いた。いつものように周りを黒い影が踊った。
考えてみれば、ムー大陸に来てから十日余り、今まで以上にギターの演奏をしている。しかも、邪神とはいえ神のために演奏をしている時間が長いことは、楽器弾きとして幸せなことなのだろうか。
アルハザードが治療から部屋に戻って来た。
「取り敢えず、あの仕掛けは街の色々な場所に設置されたよ」
「予定通り、三分の一が設置された?」
「うん、中に家畜の内蔵を入れて青色人を総動員して王宮から運び出したみたいだね」
「上手く行くかな」
「さあね、こいつくらいじゃないのかな、結果が分かっているのは」
もちろん、その結果を教えてはくれないのだろう。
「当たり前だよ。だからこその邪神だからね」
部屋の隅で体を丸めて喉をゴロゴロを鳴らしながら、邪神は眠っているように見えた。
「これを二人だけで一晩で作ったというのかね」
近づいて来たラ・ムーが信じられないとばかりに上ずった声を上げた。普段の荘厳な声とは大違いだ。
「まあ、そうですね。大したことではありませんよ、少しがんばっただけです」
強いて言えば、がんばったのは邪神なのだが。
結局、神谷は邪神にソファーを出してもらい、朝まで睡眠を取ることができたが、アルハザードは徹夜で仕掛けのでき上がる様子を眺めていたようだ。
「信じられないことだが、こうして現物が目の前にあるのだから信じない訳にはいかないな」
「後はこの仕掛けのなかにあの鳥の好む餌を入れて、街中に置いておけば上手くいくと思いますよ」
アルハザードの話では、黒鳥は肉の中でも特に内蔵、しかも腐臭の漂う腐りかけた物を好むらしい。
邪神の作った仕掛けは取り敢えず三分の一ほどが動物の内蔵を入れて、街のあちらこちらに設置されることとなった。
「しかし、3Dプリンターとは驚いたね。しかも、あの仕掛け全てが同じ材料でできているんでしょ、どのくらいの数作ったんだい」
部屋に戻る通路の中でアルハザードに話しかけた。
「大体千個くらいかな」
あまりの数の多さに驚いた。
「そんなに驚くことじゃないよ。プリンターは一台だけじゃないからね、コピーをコピーして、最終的には二十個を同時にコピーしたんだ」
「だったら、材料の材木の量が伐採された木よりも格段に多いことに気がつかなかったのかな」
「その点を訊かれたらどういうふうに答えるか、考えてはいたんだけど、あまり驚きすぎて、頭が回らなかったみたいだね」
「因にどんなふうに答えるつもりだったんだい」
「さあね、もう忘れてしまったね、それよりも、朝までがんばってくれたこいつにたくさんサービスをしてやってくれよ」
再び姿を消した邪神はアルハザードの肩の上で丸まっていることだろう。
部屋に戻るとアルハザードは午後の治療に供えて体を床に横たえた。
仮眠をとっている横で邪神好みの軽快な曲を弾くのはためらわれると思っていると、顔にかけたタオル越しに「神谷の弾くギターくらいで眠れなかったら、とても砂漠の夜を越すことはできないよ、気にしないで存分にやってくれ」と言う涼やかな声が聞こえた。
魔人の進言に従い、軽快な曲を三十分ほど弾いていると昼食の時間になったらしく、頭の中に料理の映像が浮かんだが、今日の物はいつもの白色人用の物ではなく、鉄の皿に肉のかたまり、分厚いステーキと白いシチューのような物だった。
「いつものメニューとは違うみたいだね」
起き上がったアルハザードに話しかけた。間もなく目の前に映像と同じ料理が現れた。
「これは白色人用の料理じゃないみたいだね」
「それじゃあ……」
「ああ、これは黄金人、王族のための料理だ」
黒鳥退治のための仕掛けを作ったお礼だろうか。しかし、何もしないでソファーで寝ていた神谷としては少し気が引けるところだ。
「気にすることはないよ、神谷は寝ていただけだけど、僕だって見ていただけだ、こいつが全てをやってくれたけど、こいつは普通の食事はしないしね」
部屋の隅で丸くなっている邪神が退屈そうに小さく欠伸をした。
料理の前には金属製の細い棒が置いてあった。これでどうやって食べるのかと思っていると、肉の前にはナイフとフォーク、スープの前にはスプーンが現れた。これは明らかに邪神のサービスだ。
料理を口に運んでみると、肉は牛肉に近い味がした。おそらくは王宮の裏で飼われている牛の祖先のものだろう。味つけは塩だけではなく微かにスパイスが入っているような気がした。
「実際に使われているようだね。さすがは王族の食事だけあって豪華だね」
アルハザードは付属の棒を使って器用に肉を切り分け、それを串刺のようにして口に運んでいる。皿の中のシチューの具材も棒に差して食べている。
「これからも、この食事が続くのかな」
「さあね、あの仕掛けの成果次第じゃないのかな。今回のは『夕べは御苦労』ってことだろうね」
食後には紅茶に似た飲み物が現れた。カップの色は白だった。
「黄金人と同じ食事は与えるけど、今日は特別だということを忘れるなよってことだろう」
「でも、あの仕掛けが成果を上げたら、それも変わるんじゃないの」
「何だ、神谷は待遇が変わった方がいいのかい、僕は今までのままで充分だけどね」
「僕だって別に不満がある訳じゃないよ。唯気分的に多少違うかなって思っただけだよ」
「ふーん、そうなんだ」
アルハザードは思わせぶりに笑っただけで、後は何も言わなかった。
アルハザードが午後の治療に出かけた。神谷は邪神にギターのためにギターを弾いた。いつものように周りを黒い影が踊った。
考えてみれば、ムー大陸に来てから十日余り、今まで以上にギターの演奏をしている。しかも、邪神とはいえ神のために演奏をしている時間が長いことは、楽器弾きとして幸せなことなのだろうか。
アルハザードが治療から部屋に戻って来た。
「取り敢えず、あの仕掛けは街の色々な場所に設置されたよ」
「予定通り、三分の一が設置された?」
「うん、中に家畜の内蔵を入れて青色人を総動員して王宮から運び出したみたいだね」
「上手く行くかな」
「さあね、こいつくらいじゃないのかな、結果が分かっているのは」
もちろん、その結果を教えてはくれないのだろう。
「当たり前だよ。だからこその邪神だからね」
部屋の隅で体を丸めて喉をゴロゴロを鳴らしながら、邪神は眠っているように見えた。
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