親友は砂漠の果ての魔人

瑞樹

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ムー大陸編

52捕獲された黒鳥の最後

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「昨日の仕掛けは効果を上げているようだね」

 朝起きるとアルハザードが声をかけてきた。

「たった一晩で?」

「うん、夕べのうちに三百羽くらい捕まえたらしいね」

「この神様からの情報かい」

 邪神が部屋の隅で大きくのびをしている。


「そうだよ、もうすぐラ・ムーに報告が入って、青色人が仕掛けの回収に行くんじゃないかな」

 一晩でそれだけの数を捕獲したことよりも、それだけの数の黒鳥が街にいたことに驚いてしまう。

「何といっても、あの増幅装置は未だに稼働中だからね、従って黒い玉も作られている。黒い生き物は今もどんどん生まれているんだ。だから、どんなに捕獲しようとも、あの鳥がこの街からいなくなることはないんだ」


「ということは、黒色人も増えている訳でしょ、よくこの国に現れないね」

「あの黒い玉から生物が生まれるところを見ただろう、あの玉からは黒色人よりも蜥蜴のような生物の方がたくさん生まれる。だから彼らは食料には困らない、唯、知能がないために鳥を捕らえることはできないんだ。黒色人と黒蜥蜴の生まれる割合は、あのやたらと長い名前の神が調整ととっているらしいけどね」

「何のかんの言っても、この国を守っているということだね」

「この前、あの神の上司が酸性雨を降らせるまではね。オレンジ色の実を成らせる木が枯れてしまったことや、それに付随して黒鳥の飛来、今までになかったことが起こっているからね、これから先何が起こるか分からないよ」

 もしも、黒色人がこの国にやって来るようなことがあったら、闘えるのはアルハザード一人だけだろう。

「もしやって来たとしても、黒鳥ほど数が多い訳じゃないから、僕一人でも何とかなるとは思うけどね」

 何とかならなくては困る。

 部屋の隅で丸まったいる邪神を見ると、そんなことは知ったことかと言わんばかりに前足に顎を乗せて気持ち良さそうにまどろんでいるように見える。


「実際に知ったことかと思っているからね。この国の神ももうこいつに相談するのは諦めたみたいだしね」

 あれだけ、けんもほろろに扱われれば致し方のないことだ。神とはいえ憐憫の情が湧いてしまう。

「まあ、神とは言ってもまだ見習いだからね、ここの島の行く末はどうなることやら、誰にも分からないよ、こいつ以外にはね」

 アルハザードが邪神を見たが、見た目だけは可愛い子猫は相変わらずまどろんでいるだけだった。

「これ裏の空き地で黒鳥のかかった仕掛けを燃やすみたいだよ」

 午後の治療を終えたアルハザードが部屋に戻るなり、邪神のためにギターを弾いていた神谷の背中に向かって言った。

「もう回収が済んだのかい」

「そのようだね、行ってみようか」

 神谷に断る理由などあるはずがない,

 アルハザードについて王宮の裏口から出ると、広い空き地に邪神が3Dプリンターで作った仕掛けが山積みになっていた。
 中には黒鳥がぎっしりと詰まっているらしく、仕掛け自体がギシギシと揺らぎ、捕獲された黒鳥の鳴き声であろう「ギヤ一」という凄まじい騒音が辺りに轟いている。。
 仕掛けの周りには延焼を促進するためであろう、乾いた藁のようなものを赤色人がかけていた。
 五十人以上はいるであろう青色人が松明を片手にラ・ム一の後方に集まっている。
「では、火を放て」

 ラ・ム一の掛け声で仕掛けを取り囲んだ青色人が、各々手に持った松明を藁に向かって投げ込んだ。
 火はあっとう間に燃え広がり、仕掛を積んだ山は赤々と燃えあがった。途端に山がガタガ夕と大きく揺れ「ギヤー」という黒鳥の大きな鳴き声が広場中にこだました。耳を覆いたくなるような不快な断末魔の鳴き声だ。
「すごい声で鳴くんだね」
「あの大きさだからね、断末魔の声もすさまじいね」

 仕掛を積んだ山が全て炎で覆われ、黒鳥は全て焼け死んだらしく、静かに炎がはぜるパチパチという音だけになった。
 炎の先から黒い煙が上る。そして徐々に広がりながらも上空に集まりだした。

「黒い煙が集まってるね、何でだろう」
「見ていれば分かるよ、瞬き禁止らしいから良く見ていなよ」

 アルハザードに言われるまでもなく、この異様な光景から目を離すことなどできはしない。

 煙は次第に大きくなりある形を作り始めた、それは燃やされる前の物、一匹の巨大の黒鳥である。しかし、何百羽分になるのか分からないほどの大きさがある。
 黒煙で形成された黒鳥は全ての煙を吸い上げると、天に向かって「ギヤ一」という鳴き声を上げ、数秒後には天空で弾けるように霧散した。

「また、超巨大な黒鳥になるのかと思ったら、消えてなくなって良かったね」
「見た目では消えてなくなった、でも、あの煙は黒鳥の邪悪な部分その物だ。空気中にまぎれてそれをこの国の人たちがその成分を吸う、そして増幅器にかけられて黒玉ができる。その循環だよ」
 ということは、今ここで呼吸をしている自分も邪悪な念を吸ってしまっているのか。
「神谷は大丈夫だよ。この岛の人たちとは精神の構造が違うからね。むしろ、精神同調器にかけられていた僕の方が邪悪な念を吸っているね。だけど……」
「だけど?」

「この程度の邪悪な念は僕にとってどうってことないね。
「こいつの餌にもならないよ」
 邪神は破滅のほかに邪悪な念も餌にするようだ。
 アルハザ一ドが肩に乗っているはずの邪神の方を見た。

 青色人が仕掛けの燃えカスをかたずけ始めた。
 アルハザードと神谷は部屋に戻ることにした。

 部屋に戻ると間もなく食事の映像が頭の中に浮かんだ。
 メニューは昨日と同じ黄金人用の物だ。

「今日も黄金人用の食事をもらえるみたいだね」
「とりあえずは黒鳥の駆除に成功したからね」
「でも、あの黒い煙でできた大きな黒鳥を見て何とも思わなかったのかな」
「思わなかったんだろうね、そもそのあの黒鳥を生み出していいるのが自分たちの使つている増幅器だと思っていないしね」
「じゃあ、黒色人や黒鳥が誕生することについては、どう思ってるのかな」

「さあね、唯の災いくらいにしか思っていないんじゃないかな。後はこいつにでも訊いてみるかい」
 アルハザードが肩から駆け下りて、足元で丸くなっている邪心を指差した。
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