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死後の世界
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───ここは、死後の世界なの?
心が凍り付いたように何も感じなかった。
焚き木の暖も感じない。
折角の料理の味も匂いも感じない。
三人の話し声も聞こえない。
私はただそこにあって、景色を見る事だけを許されている。
私が16年間生きてきた世界とは異なる世界。
夜空に浮かんだ二つの月が、ココがそれなのだと告げている。
勿論現実感なんてまったくない。
異世界なんてものがあるのだとして、全く異常なことだけど普通に考えたら、私はあの時に殺されていたのだろう。
私は死んで……ここにいる、そう考えるのが自然だ。
ここはどこにも存在していない魂の国で、私は魂となってここに来たのではないだろうか?
……やっぱり酷い暴行を受けたのかな。
どんなに思い出そうとしても、思い出せない。
恐怖に息が詰まって、死体になったみたいに身体が冷えた事しか、思い出せない。
「おねえちゃん、だいじょうぶ?」
せっかくの歓待の宴、豪華な夕餉なのにどうしたの?
そんな感じにクルシュが覗き込んできた。
無垢な子供の顔を見て、大丈夫だよと返事しようとしていたのに無意識の涙が零れ出す。
「あれ……?」
慌てて涙を拭い、無理にでも笑顔を向けようとして……ズキン!と眼の奥が拍動した。
「痛……」
頭を押さえる間もなくグラリと世界が足元から崩れていく。
「危ない!」
後方に傾いた私の身体は、ウィルシェの細い体に抱き留められた。
「おいおい、どうした。大丈夫か?」
カルノヴァさんが酒瓶を置いて、ウィルシェとは違う、どこか性的な触り方で私に触れる。
「彼女は今朝も森の中で倒れていたんです。カルノヴァさんすいません、客室のベッドを貸していただけますか……」
成人男性に抱かれて宙に浮く感覚。
ウィルシェがカルノヴァさんに状況を説明してる声が遠ざかっていく。
私……また意識を失おうとしてる?
これで元の世界に帰ったりしないかな……?
それともこのまま──。
──はい。普通に目覚めました。
また知らない天井を見ています。
結論から言いますと、心への負荷がエグくで自律神経やられただけでした。
胸の圧迫感が凄い。
息し辛い。
汗もいっぱいかいてる。
これアレ、きっとPTSDってヤツ。
殺されるほどの、いえ殺された経験をしたんだから、こうなるのも無理はないのかもしれない。
寝返りを打つ。
ウィルシェ家のものよりはすこし上質な寝具で、硬いけどそこまで痛くない。
天井には相変わらず隙間があって、あの二つの月が私を見ている。
その月を睨み、月光を浴びながら思う。
死人の私。
確か仏教の教えだと、人が死んだ後に魂が体を抜け出して、あの世に行くまでに48日間の猶予期間があるんじゃなかったっけ。
だから49日目に法要を行う。祖父の時もそうだった。
その間に魂は旅をして不思議な経験をするのだと誰かが言ってた。
チベット死者の書、だったきがする。
「それが……コレなのかな……」
私は両親を知らない。1歳に満たない幼い頃に死別した。
災害事故だったと聞いている。
母方である祖父が私を引き取って育ててくれた。
これが死後にする魂の旅だと言うのなら、ちょっとくらい顔を見せに来てくれても良くない?ねえ、幸せそうな写真の中でしか知らないパパにママっ。
ギィ……。
軋んだ音を立てて扉が開き、カルノヴァさんが顔を出した。
室内を······寝ている私の様子を伺っている。
心配してくれているのかもしれないから、声をかけても良かったんだけど、そのまま横になり続けていた。
今は周囲に気を配ってられる余裕がなく、自分の事で精一杯で誰かの相手をする気が起きなかった。
「……」
スッと扉が閉められて、でも男性の気配はそこに残った。
……入ってきて……る?
何も感じなくなっていたはずの耳に、彼の息遣いを感じる。
何も感じなくなっていたはずの肌に、人が動く空気の流れを感じる。
怖くて視線を向けられない。
自意識過剰と言われるかもしれないけど、お食事に誘われた時にチラッとだけ、私目当てかな?とは思ってた。
でも、ここで、その、襲うの!?
昼間に顔を合わせて、笑顔で会話した相手で、今朝がた村はずれの森に倒れてたんだと教えられて、目の前で頭を押さえて倒れた女を襲う······の?
襲われるかもしれないと思った時、すぐ隣の部屋に無垢な幼い兄弟がいる事が真っ先に頭に浮かんだ。
男性がすぐそこまできて、私の寝顔に乱れまくった鼻息が吹きかけられだす。
つい今しがた気づいたかのような素振りで起き上がって、「心配して見に来てくれたんですね、もう大丈夫です」的な事を言えば彼を止めれるのでは……そう思ったのに、身がぎゅっと硬直して動けない。
これは夢なのかも。
ちょっとシチュエーションが好みではないけど、襲われる夢を何度か見たことはある。
だって、ここは現実ではない二つの月がある世界なのだから。
そもそも、今私の身に降りかかってる事はリアルではないはずなのだ。
心が凍り付いたように何も感じなかった。
焚き木の暖も感じない。
折角の料理の味も匂いも感じない。
三人の話し声も聞こえない。
私はただそこにあって、景色を見る事だけを許されている。
私が16年間生きてきた世界とは異なる世界。
夜空に浮かんだ二つの月が、ココがそれなのだと告げている。
勿論現実感なんてまったくない。
異世界なんてものがあるのだとして、全く異常なことだけど普通に考えたら、私はあの時に殺されていたのだろう。
私は死んで……ここにいる、そう考えるのが自然だ。
ここはどこにも存在していない魂の国で、私は魂となってここに来たのではないだろうか?
……やっぱり酷い暴行を受けたのかな。
どんなに思い出そうとしても、思い出せない。
恐怖に息が詰まって、死体になったみたいに身体が冷えた事しか、思い出せない。
「おねえちゃん、だいじょうぶ?」
せっかくの歓待の宴、豪華な夕餉なのにどうしたの?
そんな感じにクルシュが覗き込んできた。
無垢な子供の顔を見て、大丈夫だよと返事しようとしていたのに無意識の涙が零れ出す。
「あれ……?」
慌てて涙を拭い、無理にでも笑顔を向けようとして……ズキン!と眼の奥が拍動した。
「痛……」
頭を押さえる間もなくグラリと世界が足元から崩れていく。
「危ない!」
後方に傾いた私の身体は、ウィルシェの細い体に抱き留められた。
「おいおい、どうした。大丈夫か?」
カルノヴァさんが酒瓶を置いて、ウィルシェとは違う、どこか性的な触り方で私に触れる。
「彼女は今朝も森の中で倒れていたんです。カルノヴァさんすいません、客室のベッドを貸していただけますか……」
成人男性に抱かれて宙に浮く感覚。
ウィルシェがカルノヴァさんに状況を説明してる声が遠ざかっていく。
私……また意識を失おうとしてる?
これで元の世界に帰ったりしないかな……?
それともこのまま──。
──はい。普通に目覚めました。
また知らない天井を見ています。
結論から言いますと、心への負荷がエグくで自律神経やられただけでした。
胸の圧迫感が凄い。
息し辛い。
汗もいっぱいかいてる。
これアレ、きっとPTSDってヤツ。
殺されるほどの、いえ殺された経験をしたんだから、こうなるのも無理はないのかもしれない。
寝返りを打つ。
ウィルシェ家のものよりはすこし上質な寝具で、硬いけどそこまで痛くない。
天井には相変わらず隙間があって、あの二つの月が私を見ている。
その月を睨み、月光を浴びながら思う。
死人の私。
確か仏教の教えだと、人が死んだ後に魂が体を抜け出して、あの世に行くまでに48日間の猶予期間があるんじゃなかったっけ。
だから49日目に法要を行う。祖父の時もそうだった。
その間に魂は旅をして不思議な経験をするのだと誰かが言ってた。
チベット死者の書、だったきがする。
「それが……コレなのかな……」
私は両親を知らない。1歳に満たない幼い頃に死別した。
災害事故だったと聞いている。
母方である祖父が私を引き取って育ててくれた。
これが死後にする魂の旅だと言うのなら、ちょっとくらい顔を見せに来てくれても良くない?ねえ、幸せそうな写真の中でしか知らないパパにママっ。
ギィ……。
軋んだ音を立てて扉が開き、カルノヴァさんが顔を出した。
室内を······寝ている私の様子を伺っている。
心配してくれているのかもしれないから、声をかけても良かったんだけど、そのまま横になり続けていた。
今は周囲に気を配ってられる余裕がなく、自分の事で精一杯で誰かの相手をする気が起きなかった。
「……」
スッと扉が閉められて、でも男性の気配はそこに残った。
……入ってきて……る?
何も感じなくなっていたはずの耳に、彼の息遣いを感じる。
何も感じなくなっていたはずの肌に、人が動く空気の流れを感じる。
怖くて視線を向けられない。
自意識過剰と言われるかもしれないけど、お食事に誘われた時にチラッとだけ、私目当てかな?とは思ってた。
でも、ここで、その、襲うの!?
昼間に顔を合わせて、笑顔で会話した相手で、今朝がた村はずれの森に倒れてたんだと教えられて、目の前で頭を押さえて倒れた女を襲う······の?
襲われるかもしれないと思った時、すぐ隣の部屋に無垢な幼い兄弟がいる事が真っ先に頭に浮かんだ。
男性がすぐそこまできて、私の寝顔に乱れまくった鼻息が吹きかけられだす。
つい今しがた気づいたかのような素振りで起き上がって、「心配して見に来てくれたんですね、もう大丈夫です」的な事を言えば彼を止めれるのでは……そう思ったのに、身がぎゅっと硬直して動けない。
これは夢なのかも。
ちょっとシチュエーションが好みではないけど、襲われる夢を何度か見たことはある。
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