お友達係から解放されたのですが、

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16 話題の人物




皇城の使者から話を聞き終え、ソリアは唖然とした。

マレオンが学術院の卒業を待たず、来週から軍学校に入ると言う。
皇后が「己を一から磨け」と命じたらしい。
なんて酷い母親だ。息子の晴れの舞台を見たくないのか。

「軍学校って会いに行けるよね?」

ソリアの疑問に使者が淡々と答えた。

「面会や外出は余程の事情無しに許されません。休暇はあります」
「なら訓練を見学も応援も出来ないわけ? 婚約者でも?」
「……聖女殿は習い事と混同されておられる。公開演習などの例外を除き、敷地内は民間人の立ち入り禁止です」

ソリアは男の兵士にムッとして見せた。

「貴方、聖女殿って言った? 聖女様って習わなかった?」

兵士の固く結ばれた口元が、微かに緩む。
口の中で「信仰は自由で良いんだよ」と言って、

「失敬。故郷に神殿が無いもので」
「可哀そー。きっと罰が当たるね」
「女神は罰を? 竜の聖人と違って狭量なんですね」

ソリアは相手を睨んだが一秒遅く、言うだけ言った使者は素早く回れ右をして、既に背を向けていた。

イライラしながら呼び出された中庭から校舎に引き返す。
思えば、最近マレオンは休みがちだったし、付き合いも悪かった。
軍学校入りを控え、城で剣の素振りとかしていたのかもしれない。

翌日、第二皇子の中退と入学の報が帝都を飛び交った。
勇ましい皇子だ、と帝都民が誉めそやす声を聞き、ソリアの機嫌は上向いた。
校内でも令息令嬢から「頼もしい婚約者をお持ちで」と讃えられ、鼻が高い。

「マレオン殿下であれば首席で卒業し、青竜皇子だの青竜将軍だのを超える偉大な軍人になることでしょう」

誰かの、何の根拠も無い賛辞がソリアを心地よくさせた。
マレオンが竜の乗り手を超える。そうなれば最高だ。
皇太子もカダリーニャ侯爵も学術院をスキップして軍学校に入り、それぞれの卒業年で驚異の好成績をマークしている。
尤もマレオンは中退で飛び級とは違う。――学術院の飛び級システムはさして利用されていない。留学や大学等、次を想定している者以外にメリットが無い。貴族令嬢は特に。進学なんて婚期を遅らせるだけだ。

放課後、皇城を訪ねたソリアは婚約者を激励した。

「頑張ってください。マレオン殿下なら一番を取れます」

有難う、とマレオンはソリアに笑みを返した。
蒼褪めているような、頬の引き攣った笑みだ。勇ましくも頼もしくも見えなかったけれど、ソリアは気にしなかった。
最近出番のない聖女に代わり、婚約者たる彼が功績を作る。それが大事だ。

マレオンと別れ、城下に繰り出そうと馬車に向かう。
不意に、外通路から侍女達の話し声が聞こえた。

「――中々ご承知くださらないみたい、子爵家のお嬢様」

なんだ、と足を止めてソリアは聞き耳を立てる。
同じ侍女の声が続けた。

「追放された身でトリエンナーレの誉れは頂けないと仰って」
「頑固ね。もらっときゃ良いのに」
「でもそういう人は信用出来る。コロコロ態度変わる人なんてダメよ」
「そもそも追放理由、何?」
「聖女に嫌がらせ、だっけ? 学生事情なんて外野には分からないわ」

話題の人物を察するのと同時に、ソリアの脳がカッと熱を持った。
クレムだ。
クレムがトリエンナーレのノミニーに選出されている。
三年前、ソリアは逃した。タッチの差で第二皇子の事件は間に合わなかった。

――ムカつく。許せない!

追放された人間を選ぶ皇室もどうかしている。地方にいる人間に大した仕事は出来まい。どんな功績か知らないが誉れには程遠い筈。シードル欲しさのご機嫌取りか。
そうか、とソリアは閃いた。

「マレオン殿下が軍隊にやられる」

文句を言う人間を排除した。
なんて酷い母親だ。再度想念して、ソリアは来た道を引き返した。
マレオンの代わりに意見しなければ。



ティータイム前に侯爵邸へと戻ったクレムは、自室の窓辺に座って少しぼんやりしていた。
北部産の野草が床から茂って見える壁紙はやはりシブく、ドラマチックだ。
壁際のデスクではモルガがクレムに課された宿題中。
餌付けならぬ、知恵付けは未だ続けている。最近のモルガは天体に詳しくなってきた。実家で星の話をしたら、次の誕生日に天体望遠鏡をプレゼントすると父親が約束してくれたそうだ。
モルガの成長や変化がクレムには嬉しく、複雑だ。
ソリアに出来なかった事をモルガにしている。無自覚だった。
ソリアは星にまるで興味を持たなかった。バレエもオペラも苦手で、オーケストラも「全部同じ曲じゃん」と言って嫌った。結局一つの楽器も習得出来なかった。

――少しは弾けるようになってる、かな。

正午前。皇太子とケリデューが訪ねて来た。
ケリデューの訪問理由は「トリエンナーレの授賞式に出席するよう説得する事」だったようだが、彼はクレムに説得などしなかった。

「俺の言う事聞くクレムじゃないよ。俺だってクレムの言う事聞かずに留学したもんな」

似たところのある二人は親友になれた。互いの意思を尊重し合い、助け合うけれど寄りかからない。
説得の代わりにケリデューは帝都の状況を教えてくれた。
第二皇子が近々軍学校に入る。彼が帝都を離れ次第クレムの追放は撤回される。
それから、聖女に新たなお友達係が出来た。

「伯爵家の子で、ピアノの優等生だってさ」

クレムは惚けた。背負っていた荷物が急に無くなった気分だ。追放されて随分経っているにも拘わらず。
クレムがソリアに出来なかった事を後任がしてくれる。知らない事や分からない事でソリアが困る事は無いし、――独りになる事も無い。

クレムがケリデューと話す間、ラファルと皇太子も話し込んでいた。
先輩後輩だという彼らは、神妙な顔を並べて湖で戯れる三体の竜を眺めていた。
去り際、皇太子がクレムに言った。

「皇城に北部産のシードルを回すようラファルに依頼したのだ」

帝都でシードル人気が増している事はクレムも最近知った。
旧品を捌いた後ラベルデザインを一新して加熱したようだが、火付け役がケリデューとは初耳だった。ラベルデザインを手掛けたモダニズムの画家もケリデューの紹介との事。
「有難う。ごめんね、何も知らなくて」と詫びたクレムに、ケリデューは肩を竦めて見せた。

「別に何もしてないし。イベント会場で好きに飲んでただけ」

突然、ラファルが顔を向け、ケリデューとクレムを見比べた。

「お前達は、似ているな」

初めて第三者から似ていると言われた。
褒め言葉かどうかも分からないのにケリデューは「そうですかあ」と無邪気に喜んでいた。
つられてクレムもラギュオルも笑った。
ラファルの仏頂面は、変わらず仏頂面だった。





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