お友達係から解放されたのですが、

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28 再会




表向き、ルペリ侯爵家の罪状は「怠慢による魔物発生プロセスの重大な見逃し」となる。
患者や囚人や、聖女までも実験台にして人造魔物ファクトリーを運営していたなどと公表出来る筈も無い。監獄と軍隊内にいたかなりの数の協力者達は芋づる式に逮捕されていった。
幸いにして、神殿内に連中に加担していた者はいない。聖職者らにとって侯爵家は沢山寄付金をくれる熱心な信徒に過ぎなかった。その熱意の出所にもっと注目して欲しかったが、彼らとて日々の修行と祈りに忙しい。そして善良だ。支援の先に悪意が潜んでいるなどと深読みはしない。

ラファルは竜に乗って薄い雲の漂う夜空に向かった。
青竜の上で胡坐を掻いた中年男の背中が、沈みかけの半月を眺めていた。

竜同士は「やあ久しぶり」という顔を互いに向ける。
父子に再会の挨拶は無し。ラファルは前侯爵の後ろ姿に問うた。

「いつから怪しんでおられたのですか」
「お前と皇太子殿下の出撃が重なったあたりだ。それでなくとも聖女発見から二年と経たず第二皇子が襲われた。出来過ぎに思えた」
「功を焦るあまりの勇み足でしょう」

前侯爵、ラデロ・デラ・カダリーニャの青い短髪が上下した。
白髪混じりの無精髭と言い着古した軍服と言い、立派な世捨て人ルックである。

「それほどまでに連中は何を求めていたのやら」
「神をも凌駕する最強無双の戦闘兵器です。国家転覆などという大それた企みではなく童心に近いものを連中から感じ取りました」
「男子はいくつになっても戦争ごっこを好むものだ」

それに、とラファルは続けた。

「魔物は連中にとって幸運の女神でした」
「ああ。ひい爺さんの代で本家が魔物に食われて分家の連中が表舞台に立ったそうだな」

その日から新生ルペリ侯爵家の悪の系譜は始まったのだ。



自領に引き返すと告げたラファルに、父ラデロは「ん、そうか」と頷いただけだった。
共に来る気のない姿に、ラファルは念の為確認した。

「既にご存知かと思いますが、私の婚約者に挨拶は無しですか」

近ごろ流れ星が多い、と思っていた。青竜の高速飛行に違いない。父は度々帝国に戻っては偵察していた。知らないとは言わせない。
終始背を向けたままのラデロは「ん」と切り出した。

「私は世間から逃げ出したダメ人間だ。領民にも誰にも合わせる顔が無い。皇太子殿下に見付からねば、お前を待たずとんずらする気だった」
「ダメ人間を継続すると?」
「己に科している。なにせ私は、しくじった」

亡き母の事かとラファルは察し、口元を歪めた。

「……そうですか。私としてもダメ人間などとクレムを会わせたくはないので無理強いは致しません」
「何よりだ。しかし北部の娘さんは美しいな」
「顔を知っているとは」
「仲良く天体観測をしていたな」
「覗き見ですか」
「うむ。双眼鏡でお前の女性の好みをとくと観察していた」
「…………」

段々と妙な気がしてきた。思えば父と女性の話をした事など一度も無い。
なんとなく、父の言う「しくじった」ものを察した。
手綱を引き、竜の首を南に向ける。

「貴方と同じ事をクレムも言っていました。しくじった、と」
「その辺の事は少しだけ皇太子殿下から聞いた。よい娘さんだが、もっと楽に生きて欲しいな」
「私が楽をさせます。そして幸せにします」
「父でなく彼女に言え」
「はい。――では」

また、は付け足さず、ラファルと青竜はルペリ侯爵領から高速で離脱した。



三日間。クレムはベッドの上で過ごした。

寝込んでから四日目の午前、長い夢から覚めたクレムをモルガの泣き顔が出迎えた。

「クレム様ー、良かったー。ずっと魘されてましたよーうううー」

良い夢ばかりでは無かったからだろう。
のそりと上半身を起こしたクレムは、両腕でモルガを呼んだ。
クレムの胸に飛び付いて来たモルガは、おぎゃーあと泣き喚いた。おぎゃーあと彼女が泣くのは十一年ぶりに違いない。
やがてメイド達もやってきて、すっかり赤ん坊になってしまったモルガを「はいはいはい鼻と口拭いて」とあやしながら引き取っていった。
ベッドから出たクレムはまず隣接する浴室でシャワーを浴び、寝汗を流した。肌は蒸しタオルで度々拭いてもらっていたけれど髪がべっとべとだ。羽枕の内部で変な菌が繁殖してそうで恐い。
体と髪を拭き、念入りにケアする。両腕の痣は消えかけている。メイド達が早急に手当てをしてくれたお陰で悪化しなかった。ケアの間、メイド二人に左右から髪を乾かしてもらった。髪の水分を奪い過ぎない、指南した通りの完璧なドライヤーに満足する。
リネン混コットンの涼やかなノースリーブワンピースに着替え、ヘアメイクをさっと終える頃、メイド達と入れ替わるようにしてラファルがやって来た。

度々彼が見舞いに来てくれていたのには夢現にも気付いていた。
クレムもずっと眠っていた訳ではない。着替えや食事の際にふらふらと目を覚ましていた。
モルガが少しだけ耳打ちしてくれた。失踪中の前侯爵がルペリ侯爵領上空に現われたと言う。
ラファルの口からはまだ何も聞いていない。
ランチのお誘いに来てくれた彼に頷き、クレムは階下のテラス席へと向かった。

間もなく正午。クレムだけはブランチになる。二人のメニューは同じ。
気持ちのいい晴れた庭の景色を臨み、クレムとラファルは白い円卓を囲んだ。
クレムは久しぶりにナイフとフォークを使って食事をとる。
暫くは黙々と食べ、ひと息吐いたところでラファルに切り出した。

「ルペリ侯爵家の罪人達は?」

ラファルがきょとんとした顔を向けた。青竜に似ている。
気持ちは分かる。クレムの言い方が酷く冷たく思えたのだろう。
温かく言ってやるつもりは無い。クレムは続けた。

「帝都に移送されましたか? でも裁けませんよね。密かに処刑を?」

ラファルの切れ長な瞳が瞬き、次にすっと細くなった。

「お前、相当怒っているのだな」
「はい。彼らの事を、思い切り殴ってやりたい気持ちでいっぱいです」

何せ彼らは意図してソリアを死なせた。絶対に許す日は来ない。





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