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05 魔法があれば
しおりを挟む山荘の裏の林で中年男性の銃殺体が発見された。
憲兵の調べによると、被害者は金融関係の仕事をしていた。
「人呼んで、金貸しのロー、であります」
「被害者にふさわしい渾名ですミー……」
今冬、ローは一人用のロッジを予約してやって来た。
毎年大体同じメンツが山荘を訪れる、と管理人は話す。宿泊客同士は概ね顔見知りで、行けば誰かに会える。連れが無くても寂しくない。
年を遡って宿帳を捲ると、確かに同じ名前と出くわす。外国人も多い。四つの国に囲まれた連峰のスキー場とあって国際色豊かだ。
被害者ローもここでは外国人となる。
死因は失血死。凶器は猟銃と思われる。
第一発見者は管理人夫妻で、勝手口から裏に出た際、林の中でうつ伏せに倒れているローを見付けた。
白い雪景色の中、ローが自ら作った真っ赤な血溜まりは目立っていたと言う。
腹を撃たれた。銃創からして至近距離の一撃だ。
新雪で埋もれているものの遺体周辺の雪が荒れているのが判別出来る。格闘の痕跡か。銃撃から身を守ろうと被害者は抵抗した。
小柄なりに戦い、そして敗れた。
悲惨な林を検分した魔獣探偵は、検死をしてくれた地元の医師に話を聞いた。
とはいえ被害者は冷凍人間。死亡推定時刻は不明との事だった。
望み薄だが目撃情報から割り出すしかない。
魔獣探偵は、憲兵に更なる聞き込みを依頼した。
新たな情報を得た。
昨夜八時半ごろ、ナイトスキーでゲスト参加型のイベント「たいまつ滑走」が行われた。灯りを手にした上級スキーヤーが一列になって斜面を蛇行し、滑り下りるというものだ。
魔獣探偵が温泉に浸かっていた時間帯と被る。上級者の魔獣探偵に声がかからなかったのは温泉にいたからだろう。憲兵はスキー初心者なのでお呼びでない。
イベントにはローも参加していた。大勢が彼の滑走を観た。
そしてこれが、最期に目撃された生きたローの姿となった。
またイベント前、山荘のラウンジでブロンド女性と親し気に話すローの姿も目撃されている。
女性はこの山荘の利用者ではない、と管理人。「過去に見覚えはないです、多分」と少々歯切れ悪く証言した。
ここでないなら近隣ホテルか、別の山荘の宿泊客という事になる。スキー場の周辺は宿泊施設だらけだ。
ローの泊まっていたロッジは、パッと見異常無し。
たいまつ滑走の際に着用していた派手なウェアやゴーグル等は、ベッドに脱ぎ散らかされていた。発見時、遺体は軽装だった。キーはロッジの中で見付かった。
そうかああ! といきなり憲兵が声を上げた。
「犯人はブロンド娘でありますよ、魔獣探偵殿」
「……根拠は何ですミー?」
「二人はラウンジで再び会う約束をして一旦別れ、そして今朝方ロッジを訪ねたブロンド娘がロー氏をズガンと撃ったのであります」
「……遺体発見現場は林の中ですミー」
「あ、じゃあ遺体を運んだのであります」
「……林に呼び出した方が簡単ですミー」
「あ、じゃあ林でズガン」
「……早朝のズガンは目立ちますミー」
言った直後に、魔獣探偵は「きっと来る」と予測した。
予測通り、憲兵は来た。
「アバランチ(雪崩)コントロールでありますよ!」
斜面に砲を撃ち込み、人為的な衝撃波で雪崩を起こす作業の事だ。大雪崩の予防とパワーを弱めるのに効果がある。
魔獣探偵も夢現に砲撃音を聞いた。あれなら銃声を余裕で消せる。
「……妙ですよミー」
翌朝まで待って殺す、その意図が分からない。
なんで昨晩やらなかった。イベント前には小さな花火大会があった。丁度夕食時だったので魔獣探偵も山荘から眺めた。
憲兵は無邪気に言った。
「きっとたいまつ滑走までは生かしておきたかったのでありますよ」
「……それどんな犯人ですミー」
「スキー愛に溢れているのでありましょう!」
「…………」
魔獣探偵は、閉口した。
呆れた拍子に空腹を思い出した。
とりあえず朝食にしよう。それから地元憲兵隊と合流して――――
早朝。
遠くの汽笛を聞いて、エルサは目覚めた。
朝は静かだ。雪の朝なら特に、ズガンは目立つだろう。
起床から暫く、朝食を手にクライヴがロッジを訪ねた。
二人で食卓を囲み、パンやチーズに手を伸ばす。
今朝のコーヒーは途轍もなく美味しい。エルサは二度目の目覚めを果たした。
徐にクライヴが口を利いた。
「小説は読み終わったか」
「まだです」
「犯人は分かったか」
「まだです。でもブロンド女性は怪しいです」
「正解だ」
「答えを言わないでください。と言いますか閣下、お読みに?」
「戦時中は暇な時間が多かったからな」
待機とか移動とか。軍隊には忍耐強さが求められる。
「それで、お前の推理は?」
エルサは軽く嘆息した。
「分かりません。転移や変身の魔法があればいとも簡単なんでしょうけれど」
「最初に魔法は無いと記載されていては使えんな」
「現実世界でも同じですね」
転移も変身も無い所為で、エルサにはアリバイが無い。
「――違う。これ逆です。転移や変身があれば私の容疑は固まらなかった」
「まあそうだな」
素っ気なく告げたクライヴに、エルサはテーブル越しに詰め寄った。
「聖女エルサは魔法で私に変身している訳じゃない。なら粗がある筈です。百パーセント完璧な変装なんて不可能ですもの」
「そうなのか、聖女エルサ」
「私は目撃情報からクロ判定されたのですから――似顔絵を見せてください」
まるで読んでいたかのようにクライヴはさっとポケットから四つ折りの紙を取り出し、エルサに差し出した。
そそくさと紙を広げて、エルサはぎょっとした。
「え、えええ? これって、――びっくりするほど私じゃないですか」
「だから皆が口を揃えている。お前が犯人だと。そろそろ認めろ」
クライヴの冷めた目が、エルサの仰天を見詰めていた。
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