人違いで連行された件

C t R

文字の大きさ
7 / 9

07 終わり

しおりを挟む



行商もとい聖女エルサの一味で自称「幹部」の男は証言した。

「戦争が始まって三ヶ月くらいして南西の港でエルサに会ったんだよ。外国の金持ち娘でさ、自分ちの船で入国したんだ。人道支援の為に来たって。船に物資いっぱい積んでて、港で配り始めたら地元民みんな大喜びさ」

その大喜びは数日程度で終わった。支援物資が尽きた。
人の波がさーっと引き、エルサは白けた。
しかも物資を求めて来た一人から「もう無いの? 使えないな」と罵られた。
当然、エルサは腹を立てた。

「感謝もしない、恩知らずの国民って言ってた。俺も地元民ながらそうだと思ったよ。折角エルサが遠路遥々来てくれたってのにさ」

いや、戦時下にある人々にあれこれ求めるのは違う。困窮したからこそ戦争に踏み切った経緯を忘れている。

「エルサは怒って帰り支度してたんだけど、全然知らない女からいきなり声を掛けられたらしいんだよ。お陰様で子供は元気になりましたって。意味が分からないよな」

恐らく、医療ボランティアの「エルサ」の事だ。

「そしたらエルサの奴、女が来た場所を聞き出してちょっと行って来るって言って仲間何人か連れて出掛けちまった。何日かして戻って来た時は、えらく機嫌が良さそうでさ。面白い人を見付けちゃったとか何とか」

聖女エルサが、医療ボランティアの「エルサ」を見付けた。

「なんか、聖女扱いされてる人がいるみたいだから私がなるわって言い出して。本当は私が聖女なのよって。てか俺は、最初からエルサが聖女だと思ってたけどな。美人で金持ちで高嶺の花だもんよ」

聖女の定義とは「美人で金持ちで高嶺の花」だっただろうか。

取り調べ室のクライヴは嘆息した。

幹部の男の証言をもとに聖女エルサの足取りを追っている。
医療ボランティアのエルサの不在証明は容易かった。つい先週「聖なる肉」は聖女から直接仕入れられていた。
男は聖女から「お金にして良いわよ」と餞別されたらしい。
不衛生極まりない魔物の肉は、簡単に入手出来る。人間同士の戦場は魔物の生息域と被る事も多かった。砲撃のとばっちりで死んだ個体を、侵攻中、クライヴも度々見かけた。

自称聖女エルサは、医療ボランティアのエルサになりたかったのだろう。
後々まで人々の記憶に残り、感謝される女性だ。物資のばら撒きで得られる一過性のものとは格が違う。
自分と同じ名で似た容姿の娘と知り、嫉妬した。称賛は許し難いと感じた。
だから聖女エルサは無茶な真似が出来た。医学の知識など要らない。

「しくじってもエルサの所為になるだけだしい?」

敗戦の色濃い国では何でも出来る。ちょっと羽目を外してやろうと考えた。恩知らずの国民どもに仕返しもしたかったのかもしれない。
そして、無差別大量傷害事件が発生した。



自称幹部の男は聖女エルサの信奉者で、肉の配布にしろ販売にしろ悪意で以て行っていない。「聖なる肉」も聖女エルサも本物と信じていた。成り済ましだか擦り付けだかにも関与していない。
信奉者は大した罪に問われない、とクライヴは予測した。

「しかし聖女エルサと、その同胞どもは違う」

最初の港での物資のばら撒き以降は、善意からの行動ではない。
愉快犯としか言いようがない。悪質だ。魔物の肉を安請け合いで「安全」と触れ回り、飢えた人々に振る舞った。
知識もスキルも無いのに外傷の手当てまでした。医療ボランティアのエルサを真似ての安易な行為に他ならない。しなくて良い事を敢えてした。自分達の愉悦の為に施した。

「愉快犯の一味を野放しには出来ん」

新たな逮捕状が出された、二日後。
北の海域で外国船籍のクルーザーが海軍艦に拿捕された。
聖女エルサとその同胞達は逮捕され、再び敗戦国に上陸する羽目になった。
とっとと国外逃亡したのは、指名手配をいち早く察知したからだ。しかし連中よりも海軍の動きが早かった為に、呆気なく捜査網に引っかかった。

北の運河から王都に連行中だ、とクライヴに知らされると、エルサは頷いた。
それからあまり嬉しそうではない顔で「何よりです」と呟くように言った。

クライヴの一行は、山間の駐留地に留まっていた。
容疑者確保の報を受けたので明日には発つ。無論、連行ではない。医療ボランティアのエルサの故郷へ、彼女を送り届けるのが目的だ。
ランチの最中、エルサがぽつんと告げた。

「妙な形で、ボランティアの旅が終わってしまいました」

尤も、終わりは近かった。戦争は終わった。非常事態でなくばエルサの医療行為は認められない。
食卓越しにエルサを見て、クライヴは頷いた。

「あと数年待てば堂々と医師をやれるだろう」
「仰る通りです。焦る必要はありません。沢山勉強して必ずや本職のライセンスをゲットします」

また頷き、今更告げる。

「エルサ」
「はい?」
「悪かったな。誤認逮捕に付き合わせた」
「閣下はお仕事をされただけですよ。治安維持に憲兵組織は必要です」

また今更、クライヴは教えた。

「私自身は憲兵ではない」
「え? てっきり」
「代理対応だ。こちらに派遣されている人員には限りがあるのでな」

高位軍人は容易に動かせない。役職の掛け持ちはよくある。

「私もじき、帰国する」

静かに告げると、エルサは「そうですか」と苦笑のような顔をした。

クライヴは彼女の顔を見詰めた。
聖女より聖女な彼女の姿形を、網膜に焼き付けようと思った。



魔獣探偵ミーは、スキーを履いて帰路に就いた。
犯罪現場たる山荘を後にしている。
調べれば調べるほど被害者こと金貸しのローはゴミで、同情すべき要素がどこにも見当たらない。
国内外で手広く女性や子供に酷い事をしていた。だから恨まれていた。

「ミーはあくまで私立探偵ですミー。公僕じゃありませんのでミー」

しかも人じゃない。人の法や道理に疑問があれば従わない。
国の貴人達からも「君の正義で構わないよ」とお墨付きを貰っている。
それで今回、犯人をスルーする事にした。
犯人「ら」を。

「みんなもう国境越えてるでしょうねミー」

今の魔獣探偵と同じく、スキーで移動している筈だ。
国際色豊かな犯罪現場だったから犯行グループもまた多国籍だった。
各々散ってしまった。
追う憲兵隊らは相当骨が折れるだろう。





しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

「地味ブス」と捨てられた私、文化祭の大型スクリーンで王子様の裏の顔を全校生に配信します

スカッと文庫
恋愛
「お前みたいな地味女、引き立て役にもならないんだよ」 眼鏡にボサボサ頭の特待生・澪(みお)は、全校生徒が見守る中、恋人だった学園の王子・ハルトから冷酷に捨てられた。 隣には、可憐な微笑みを浮かべる転校生・エマ。 エマの自作自演により「いじめの犯人」という濡れ衣まで着せられ、学園中から蔑まれる澪。 しかし、彼女を嘲笑う者たちはまだ知らない。 彼女が眼鏡の奥に、誰もが平伏す「真実の美貌」と、学園さえも支配できる「最強の背景」を隠していることを――。 「……ねぇ、文化祭、最高のステージにしてあげる」 裏切りへのカウントダウンが今、始まる。 スクリーンの裏側を暴き、傲慢な王子と偽りのヒロインを奈落へ突き落とす、痛快・学園下剋上ファンタジー!

「妹の方が可愛い」と不倫夫に捨てられた私。どうぞ借金まみれの実家ごと引き取って。私が肩代わりしていた負債、すべてお二人に引き継いでおきました

唯崎りいち
恋愛
「お前より妹の方が可愛い」 不倫した夫は私を追い出し、略奪した妹と笑った。 どうぞ、その「可愛い妹」と地獄までお幸せに。 私が肩代わりしていた実家と店の多額の借金、すべてお二人に引き継いでおきましたから。 「財布」を失った元夫と、逃げ場を失った妹。 身の丈に合わない贅沢を望んだ寄生虫たちの、惨めな末路を特等席で眺めさせていただきます。

「やり直したい」と泣きつかれても困ります。不倫に溺れた三年間で私の心は死に絶えました〜捨てられた元妻、御曹司の傍らで元夫を静かに切り捨てる〜

唯崎りいち
恋愛
三年間の夫の不倫で心も生活も壊れた私。偶然出会ったレトルト食品に救われ、Webデザインで再出発。過去に縛られず、自分の人生を取り戻す静かな再生の物語。

公爵家の家政を10年回した私が出ていったら、3ヶ月で領地が破綻しました

歩人
ファンタジー
エレナは公爵家に嫁いで10年、夫は愛人に入れ込み、義母には「家政婦代わり」と 罵られた。だが領地の財務も、商会との交渉も、使用人の管理も、全部エレナが やっていた。ある日、義母から「あなたの代わりなんていくらでもいる」と言われ、 エレナは静かに離縁届を出した。「では、代わりの方にお任せください」 辺境の町で小さな商会を開いたエレナ。10年間の実務経験は伊達ではなかった。 商会はたちまち繁盛する。一方、エレナがいなくなった公爵家は3ヶ月で経営破綻。 元夫が「戻ってこい」と泣きつくが—— 「お断りです。あと、10年分の未払い給金を請求いたしますね」

「貧相な小娘」と罵った第一王子へ。番(つがい)は貴方ではなく、国王陛下(お父様)でした

しえろ あい
恋愛
「お父様、わたくし、あの方と目が合った瞬間、分かってしまったのです」 十六歳のデビュタントの夜、ルーセント侯爵令嬢フェリシアを待っていたのは、残酷な罵倒だった。第一王子カシウスは、可憐な白いドレスを纏った彼女を「貧相な小娘」と呼び、己の番(つがい)であることを真っ向から否定する。 会場に響く冷笑と、愛用の刺繍に込めた自信さえ打ち砕くような屈辱。しかし、絶望の淵に立たされた彼女を見つめていたのは、王子ではなく、圧倒的な威厳を放つ「ある男」だった。 魂を焦がすような熱い視線が重なり、静まり返る謁見の間。この出会いが、王室を揺るがす大事件の幕開けになるとは、まだ誰も知らない。自身の価値を否定された少女が、真実の愛によって世界で最も幸福な王妃へと駆け上がる、逆転溺愛ストーリー。 ※小説家になろう様にも投稿しています※

鈍感令嬢は分からない

yukiya
恋愛
 彼が好きな人と結婚したいようだから、私から別れを切り出したのに…どうしてこうなったんだっけ?

側妃の条件は「子を産んだら離縁」でしたが、陛下は私を離してくれません!

花瀬ゆらぎ
恋愛
「おまえには、国王陛下の側妃になってもらう」 婚約者と親友に裏切られ、傷心の伯爵令嬢イリア。 追い打ちをかけるように父から命じられたのは、若き国王フェイランの側妃になることだった。 しかし、王宮で待っていたのは、「世継ぎを産んだら離縁」という非情な条件。 夫となったフェイランは冷たく、侍女からは蔑まれ、王妃からは「用が済んだら去れ」と突き放される。 けれど、イリアは知ってしまう。 彼が兄の死と誤解に苦しみ、誰よりも孤独の中にいることを──。 「私は、陛下の幸せを願っております。だから……離縁してください」 フェイランを想い、身を引こうとしたイリア。 しかし、無関心だったはずの陛下が、イリアを強く抱きしめて……!? 「離縁する気か?  許さない。私の心を乱しておいて、逃げられると思うな」 凍てついた王の心を溶かしたのは、売られた側妃の純真な愛。 孤独な陛下に執着され、正妃へと昇り詰める逆転ラブロマンス! ※ 以下のタイトルにて、ベリーズカフェでも公開中。 【側妃の条件は「子を産んだら離縁」でしたが、陛下は私を離してくれません】

妹に命じられて辺境伯へ嫁いだら王都で魔王が復活しました(完)

みかん畑
恋愛
家族から才能がないと思われ、蔑まれていた姉が辺境で溺愛されたりするお話です。 2/21完結

処理中です...