イエローバードと恋心

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35 冬季休暇

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十二月に入っても初雪はまだだった。

校内の空気は、徐々に浮足立ってきている。休暇期間に突入すれば王国最大級のイベントデーまであっという間だ。
去年デビューしたほとんどの令嬢達が、宮殿開催の年末ボールに参加する。二度目となる登城を控え、皆して胸を躍らせていた。

「ドレスは何色にされたんですの?」
「サーモンピンクですのよ」
「チャレンジしましたわねえ。私はまだジュエリーが決まらなくて……」
「ネックレスと一体型のドレスを仕立てたわたくしに死角はありませんことよ」
「賢い! 来年それやりますわ」
「ドレスメーカー泣かせの高等技術ですのでオーダー時はご注意くださいませ」

女子の話題はドレスアップに集中していた。
男子の話題はタキシード、ではない。

「うちみたいな騎士爵の家にも招待状が来たんだぜ。こんな事初めてだって親父がマジでビビってるし。俺もだけど」
「去年親父さんが勲章貰ったんだろ? その労いじゃね?」
「かなあ。なんか陸軍のお偉いさんとかも招待されてるらしいわ」
「軍事色強めの人選? おいおい。開戦します、って発表はやめてくれよ」
「こええ。フラグ立てんなし」

教室の後ろから二番目の席に座っていたクレールは、こっそりと苦笑を漏らした。

――軍事色強めだと心配になるよね。でも開戦宣言はないから安心して。

かくいうクレールも少しばかり緊張している。
登城は、王子の家庭教師たるコルネイユとカナリー氏の付き添いで何度も経験しているとはいえ、ボールはやはり特別な場所だ。
何と言っても今年は大一番がある。デビュタントボール以上に、振舞いには注意しなければならない。

提出物の締め切りが過ぎて、授業数は格段に減った。
年内の登校日は残りあと三日。
週末はもう冬季休暇だ。



冬季休暇、初日。
馬車で移動中だったアンリエットは何気なく車窓を見て、ぎょっとした。

「ちょ、停めて!」

壁を蹴って御者に命じ、車から飛び出す。同級生サラの実家が経営するインポートのセレクトショップを前にし、喚いた。

「はあああ?」

ショーウィンドウがカナリアまみれになっていた。
窓ガラスにはカナリアのダイカットシールが不規則に配置され、飛び交っているように見える。外国製のスーツを纏ったマネキンは、悉くカナリアデザインのネクタイやハンカチーフを付け、イエロー系の紳士ハットを被っている。
表の看板には「数量限定、南国コレクション誕生」とある。見覚えのあるカナリアは女教授の変なドレスと同じ柄だ。
アンリエットは怒りを募らせた。つまりサラは、クレールと組んだのだ。

――あのクソ女! 青い鳥を蹴って黄色い鳥とコラボするなんて許せないわ!

拳でガラスを叩く寸前で、ふと気付いた。

「いやバカでしょ、南国テーマのものを真冬に売るって。季節外れよ」

ふんっと鼻で笑ったアンリエットの背後で「おや」と声が発した。
金持ちそうな老夫婦が足を止め、ショーウィンドウを仰いでいる。
老人が婦人に言った。

「いつもと雰囲気が違うと思ったら、オリジナルの商品だってさ」
「綺麗な色だし可愛いわねえ。あなた、覗いて行きましょうよ」
「いやあ、こんな若々しいデザインは僕にはハードルが高いよ」
「バカンスルックなんですから、これくらい思い切ってて良いんですよ」
「そうだね。よし、トライしてみよう」

老夫婦がいそいそとガラス製のドアに向かう。
二人を見送り、アンリエットは惚けた。冬のバカンスを知らないアンリエットに、避寒地の為のルックの提案という発想は浮かばなかった。

「――な、なによ。知ってるわよ。あー、ムカつく」

一言抗議しなければ気が済まなかった。青い鳥の新商品は色々出しているのにイマイチ振るわず、むしゃくしゃしていた。
ドアに向かいかけた時、後ろから手首を掴まれた。
苛立ちごと振り返った先には、フィリップの無表情があった。

「ここで何してる、アンリエット」
「フィリップ様、見てよこれ。こいつら私の可愛い青い鳥じゃなくてこんなダサい黄色い鳥なんかで商品を作ってるのよ」
「どうでもいいよ、こんなもん」
「だ、だけどお」
「放っておきなよ。君は大一番を控える身なんだからトラブルはご法度だよ」

アンリエットは瞬き、パアッと笑みを閃かせた。

「そうよね。私にはボールで広告塔としての大事な役目があるのよね」
「そうそう。君みたいな貴族の美少女が着たドレスというのは必ず注目されるから言動は慎まないとね。ファッションアイコンとしての振舞いも大事だ。きっと来年はロイヤルブルーがトレンドカラーになるよ」
「ええー。注目とか困るうう」

アンリエットの機嫌はうなぎ登りだった。



アンリエットを自宅に帰した後、フィリップは大学に馬車を走らせた。
帰省ラッシュを迎えて以来学生が疎らな構内を歩き、研究棟に向かう。
人気のない通路の果てに着くと、特定のリズムでドアをノックした。
ロックが解除され、ドアの隙間に外国人の友人が顔を覗かせた。

「遅かったな、フィリップ」
「シッターしてた」
「子爵邸の子か。ご機嫌取っておかないとな、商品置かせてもらってるし。つかお前ってあの子と結婚する気あるのか?」
「すると思う。親は反対してない。僕としても都合は良いな」
「だな。で、店の方はどんな具合だ?」
「休みに入ってからの方が客足が落ちている」
「あの美大生のキャラに飽きたんだろうな。俺も三日で見飽きたわ。そもそもキャラものが嫌いだし」
「同じく」
「でもまあ、関係ねえわ」
「そうだな……」

外は木枯らしが吹いていた。

翌週にはボールが開かれる――。





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