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43 魔法
しおりを挟むコルネイユが火事の報を受けたのは、クレールとのレストランランチを終え、帰りの馬車に乗る直前だった。
家を脱走したカナリアが、ピピピピピピ、とコルネイユに告げた。
信号で暗号の鳴き声を聞き付けたコルネイユは、将官の権限で騎馬憲兵の馬を徴収した。
飛び乗った馬の上からクレールに手短な説明をし、よくよく言い聞かせた。
「貴女はこのまま馬車で伯爵邸へお戻りください」
「コルネイユ様、私も――」
「危険な現場に貴女をお連れする訳にはいきません」
「それならコルネイユ様だって」
「私は火事ごとき、どうという事もありませんよ。ワーロックですから」
クレールは惚けて、騎乗のコルネイユを仰いだ。
「では一つだけ、お約束ください」
「一つと言わず幾つでもどうぞ」
「必ず無傷で帰って来てください」
コルネイユは瞬き、笑んだ。
「お約束致します、私のクレール」
クレールは「きっとですよ」と念を押した。
愛らしい彼女にしっかりと頷いたコルネイユは、手綱を引いて大通りを駆けた。
車列が成す渋滞の合間をすり抜けて現場に到着すると、嘗て子爵邸だった建物の一階窓から炎が噴き出していた。
馬を降り、邸宅を前にしたコルネイユの背後に、先月から家を見張っていた部下二名が駆け寄った。
コルネイユは、背中で低く部下どもに告げた。
「まさか出火騒ぎとは――。貴方達は一体何をしていたんですか」
「面目ありません。例の男が邸から出てきた直後に一階で爆発が起こり」
「仕掛けられましたね」
「は。逃げた男は別部隊が追跡しています」
「行き先は港です。倉庫を突き止め、一網打尽にします」
「は。間もなく消防の連中が到着します。我らは港へ」
「いえ、ここは私が片付けます。貴方達は規制線を張り、民間人の野次馬を遠ざけてください」
三人同時に動き出した。
コルネイユの肩には、黄色い小鳥が載っていた。
子爵邸の敷地に踏み込んだコルネイユの肩から、カナリアが飛び立った。
ピピピピピ!
燃え盛るタウンハウスに黄色い弾丸が突入した。カナリアの魔法、スーパープラズマ・ソニックアタックだ。
勝手口のドアが壁ごと破壊されるや、大量の黒煙がぶわりと吐き出される。
間髪入れずカナリアは大きく開いたその横穴から、左右の足で鷲掴みにした二つの荷物を「ピー!」の掛け声と共に外に放り投げた。
裏の芝生に投げ出され、いや焼け出されたのは女子爵とその夫だった。コルネイユの部下達が「すげ」と唖然とし、そそくさと荷物の回収にあたった。煤まみれの夫妻は煙を吸ったようで意識がないが、脈も呼吸もあった。
カナリアがコルネイユの肩に戻って来た。コルネイユは鳥を横目にした。
「中は無人ですね?」
ピピピ、と肯定が返された。
コルネイユは「では」と片手を前に突き出し、魔法プラズマをチャージした。
「これを陸で使うのは初めてです」
海原と違い、対象物の多い陸地は距離感が格段に掴み易い。しくじる心配はない。
まずは狙った位置の上空にグリッドを出現させた。強烈なプラズマが発生し、煙も炎も勝手に吸い寄せられていく。
次にコルネイユは片手の全ての指を曲げた。動きに合わせてグリッドが湾曲し、球形にトランスフォームしながら網のように巨大な燃焼物を覆っていく。
コルネイユの魔法、スーパープラズマ・フレームワークの完成だ。海では海賊船の拿捕や魔物の駆除に役立つ。
強い魔法ほどオリジナリティが求められる。世界に一つだけの財産なのだ。コルネイユのワーロック化により王国の魔法保有数は大帝国を抜き、世界最多となった。
仕上げにコルネイユは曲げた指をぐっと閉じ、拳を握った。連動して縮小したプラズマの造形が内部を圧縮。酸素がなければ燃焼は起こらないのでまず炎が消え、炭化した家も押し潰され、岩の塊と化した。
わざわざ大袈裟に建物を覆ったのは、周辺家屋への二次被害対策に過ぎない。
「彼らでは、広範囲に及ぶ賠償責任など負えないでしょう」
今日全てを失った連中にせめてもの情けをかけ、被害を最小限に留めてやった。
「後は自分達でどうにかする事です」
門の方を見やったコルネイユに、カナリアも続いた。
ピピピ……と唸る声は「彼らの自業自得なんだよね」と言っているようだった。
正門前には、焼け出された家族と再会して泣き喚くアンリエットの姿があった。
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