復縁不可の筈ですが、

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68 儀式




古代の姫、ナディアは大いなる魔法を構築した。

「――構築、って言葉はご立派過ぎるわ。だって今のハイテクの時代を知ってる私からすれば、すっごく幼稚な代物だもの」

古代では、世界もナディア本人も潤沢な魔力を擁し、制約も制限もなかった。当時メイジは世界でナディア一人だったと推定されている。魔法に至る文明レベルに達していたのが、中東周辺にしかなかったのだ。
恵まれた環境下でナディアは思うがままに魔法を振い、何でも出来た。海を割ったり竜巻を起こしたり自然をも自在に操れた。文字通り彼女が神だった。
彼女の魔法に小難しい数式だの理論だのは必要なかった。高度な学術など無い時代だ。――だからこそ返って現代の学者らには難解であった。
思い付きで良かった。神たるナディアはそれで許された。
ナディア曰く幼稚な魔法は、ジンと呼ばれる。

「あなた達もよく知る、ランプの精ってやつね。別にランプの中に封印とかされてないけど、そこは後世の誰かの創作なんでしょ」

実在するジンは地中深くで眠っている。
生命体ではない。星の誕生時に生じた高エナジー体で、意思も思考も持たない。
魔石の源とも言われている。かと言って鉱山の直下にはなく、地殻変動で動く地表とは不可視の脈で細く長く繋がっている。
「菌類のようですね」と例えたシャプレに、ナディアは肩を竦めた。

「科学には疎いの」
「お陰でキアラ様が苦労されていますよ」
「苦労は得意でしょ、真面目ちゃんは」

アベルの眉間に力が入る。その腕に載る仔豹は毛を逆立てたまま。
シャプレは一人と一匹の反感を一瞥し、ナディアに目を戻した。

「憑依の魔法とは、ジンによって実行されるワケですね」
「そう。私はあの子を呼び出す手法を定めただけ。後世で広まったのもそれだけでしょ?」
「はい。ジンの召喚自体は魔法より儀式と呼ぶべきですよね」
「そう。それっぽい儀式なの」

ジンの召喚装置は星型を刻んだ石のポッドと、ある鉱物で構成される。
その装置をホットスポットにセットすれば概ね準備は終わる。ホットスポットとはジンの脈が複雑に交差する一帯の事で、目には見えない。

「ただ、現象から予測は付くわね」

事故多発エリアと大体被る。ジンが「贄」を求めている。
贄を求める間、ジンは白っぽいドームを出現させる。氷河の麓には「嘗てなだらかな崖が人を喰っていた」という伝説がある。北西の海域にはその昔、濃霧が停滞していたと言う。いずれもドームと同じ現象と思われる。
とはいえジンには意思がない。
ナディアは言った。

「古い手法が五千年も続いている所為ね」

ナディアプロデュースのソーサリー(魔術)が未だ生きている。ジンはそれに準じているに過ぎない。
シャプレは唸った。

「ドームはジンが作り出した人間捕獲装置――ドーム型ではなく球形でしょうね。だから穴を掘っても出られない。そして捕獲装置が作動しているならジンは既に王都に来ている事になりますね」
「まあ物理的に来てるって言うのとは違うけど、いるはいるわね」
「だとすると、未だ生贄達を生かしている理由は何ですか」

「ああ」とナディアは双眸を細めた。

「きっとまだ誰も死んでないのよ」
「――ん?」
「だから、最初の一人が死ぬまでジンは生贄に手を出せないの。もち、ジンが食事にありつけない限り憑依の魔法も実行されないわ。今の状態は、ほら、貴女がさっきカッコよく言ってたあれよ」
「――アイドルタイム?」
「それそれ」
「なるほど。現在のフェーズは分かりました。それにしても王都がホットスポットだったとは驚き――待てよ」
「分かっちゃった?」
「王都は元はホットスポットではない? 人工的にそうなっただけで――」
「勘がいいわね。多分それで正解よ」

困惑する顔達を順繰りに見て、シャプレは告げた。

「パワープラントから日々送られて来るインフラです」

ジンはかなり大雑把らしい。エナジーが集中する大都市を「ホットスポットだ」と誤認し、ナディア考案の装置を感知し「これから憑依を行うのだな」と解釈した。そうやって王都にフォーカスしたジンは、報酬である贄を捕らえるドームを建造するに至った。
「でもこれ、本来の手順と違うのよね」とナディアが嘆息した。

「確かにジンに魔法を使わせるには生贄がごまんと要るけど、私がジンに与えたのは意義ある死よ。一般人の命なんて価値がないもの」
「意義ある死? 聖戦とか?」
「そう。遺跡の一帯って元はホットスポットで戦場なの。あの場所で勇猛な戦士達が私や国の為に戦って死んでいったのよ」

「本来は逆なのか」と壁際に立つエルマンが閃いた。

「戦死者の尊い犠牲で以てジンは召喚された。つまり食事を終えてから来た」
「そういう事。貴方、おカタくなったら急にイケてるじゃない」

ナディアを無視し、シャプレはエルマンに頷いて見せた。

「時代と場所が移り行き、手順があべこべになったのかもしれません。或いは元より前払い後払いはどちらでもよく、環境さえ揃っていれば文句はないのか」

ドーム建造を成せるジンは生贄確保に労しない。
ナディアの後出し情報によると、最初の生贄だけは必ず、戦死並みの死でなければならないらしい。それが食事トリガーになる。
不注意の事故死だの自殺だのに価値はない。他殺で、抗う姿勢――相当の頑張りが求められると言う。
シャプレは頭を捻った。

「では例えば、毒殺の類はナシですね?」
「抗えないからね、毒に」
「ですが平和な国で一方的な殺人を行うには暗殺しかありません。しかし暗殺では対象者が抗いようがない。こうしてドームを出現させている以上、クレマンソーは仕込みを終えている筈で……」

徐に「命懸けの戦いならば――」とアベルが口を開いた。

「医療現場で行われているのでは?」

シャプレは惚け、ナディアは「そうね」と納得した。

「最先端医療でも治せないような病を患った上で無念の死を遂げるのなら、戦死並みの死と言えるかも」

打てる手を打ち尽くし、とうとう力尽きる。
それは壮絶な死闘で間違いない。





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