仕事が出来れば、場所はどこでも

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18 捻くれ

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三日後。
ドラゴン城に王都の開業医が現れた。
アマンディーヌの寝室を訪れたルネは、再会の挨拶もそこそこに世界一と称される女性皮膚科医の診察を見守った。
アマンディーヌの袖を捲った彼女は「症状に見覚えがある」とルネを振り返った。

「ダニですね。南から取り寄せたと言うその外国産の植木鉢と一緒に輸入されたんでしょう」
「花木に付着していたんですね」
「ええ。本来、南原産のダニは辺境伯領のような寒冷地では越冬出来ません」
「でも鉢ごと室内に入れてもらえたから生き延びられた、と」
「そんなところでしょう。他の女性達に症状が出ていない事から、アマンディーヌ様は体質と、籠り切りの生活習慣と免疫力の低さが災いし症状悪化を招いたものと考えられます」

原因が判明し、件の花木は鉢ごと消毒される事になった。
アマンディーヌに新たな内服薬と軟膏を処方した医師は、ルネに言い足した。

「思ったより酷い症状じゃなくて安心しましたよ」
「侍医の方の処置と、やれるだけやっておいた事が功を奏したようです」

部屋から疑わしい鉢を出す事は勿論、入念な掃除で室内の清潔を保った。
アマンディーヌにしても足湯や軽い運動習慣をプラスして血流を良くし、食事も各種ビタミンやミネラルの多いメニューを増やして皮膚の再生を促した。
因みに、髪の大ダメージはダニとは直接関係が無かった。洗い方と乾かし方の問題に過ぎず、メイド達に少しやり方を変えてもらっただけでアマンディーヌの髪は艶を取り戻した。

「シャンプーは泡で地肌をしっかりと洗いましょう」
「トリートメントは地肌に付かないようにしましょう」
「タオルドライは念入りに、擦らず軽く叩いて行いましょう」
「ドライヤーは頭から離して毛先より根元を狙いましょう。――腕が疲れるからと下からガーッと熱風を当てないように。常に上から下、髪に対して垂直方向に軽く振るよう心掛けましょう」

大抵の場合、夜の乾かし方が間違っているから髪はうねり、所々がパヤパヤした挙句に翌朝のストレスを齎す。
メイド達は揃ってキューティクルへの理解が乏しかった。
ヘアケアアイテムの認識と使い方も曖昧で、ルネから昼用と夜用がある事を聞いて驚いていた。どうも「乾いた髪にも濡れた髪にも」使える製品の存在が彼女達を混乱させている。商品名はややこしいので成分チェックをお勧めしたい。

医師を見送る為、ルネはアマンディーヌの寝室を辞した。
これから隣国の学会に出ると言う彼女と揃ってエレベーターに乗り込み、一階へ向かう。
「思いの外近代的ですね」と笑った医師に笑い返した時、函が停止した。
鉄製の扉を開いて医師を先に降ろしたルネは、彼女の「わあお」という小さな歓声に振り向いた。
軍服を着崩した長身のシルエットがこちらに来るところだった。確かに彼の美貌は女子に「わあお」と言わしめる。
ルネは医師に「閣下です」と耳打ちしつつ彼女の横に並んだ。

「辺境伯閣下」

礼の後、女性医師を紹介する。予め許可は取ってあったので入城に問題はない。
アランは美貌の中で軽く眉根を寄せ、ルネと医師を流し見た。

「ご苦労でした」

素っ気ない声で労い、エレベーターに直進する。側近風の青年将校がさっと動いてアランの乗降を手引きした。
一礼で彼らを見送って、ルネは医師と顔を見合わせた。

「凄い迫力だったでしょう」
「ええ、凄い美男子。あの方がルネ様の旦那様になるんですね」
「マリアージュ・ブランを予定しています」
「別にいいのでは? あのお顔を毎朝見られるなら値千金です」
「お食事とか全部別々になると思います。彼のお母様ですら別々ですし」
「それは惜しい……」

立ち話の後、迎えの馬車の前で二人は別れた。



執務室に入るや、側近がアランに切り出した。

「婚約者様が王都のドクターとお知り合いとは幸運でしたね」
「過去に自分がかかった医者だと母に説明したようです。毒見が済んでいたから母も応じたのでしょう」
「患者になる前に彼女は仕事でドクターと関わられたとか」
「仕事は貴族の娘でしょう」
「王都ではライターをされていたとの事です」

アランは瞠目で側近を振り返った。

「ライター? 働いたら負けの貴族の娘が働いていたと言うんですか?」
「私も最近兄妹に聞いて知りました。驚きですよね。養女ゆえの自立心なのだそうですよ」

側近は軽く言うが、アランは新情報に酷く混乱した。
王都で何をしていたかなど調べさせなかった。ルネを寄越した張本人である王太子からも情報はなかった。彼もまたルネの職業を知らなかったか。

――逆か。知っていて寄越したのか?

戦場で聞いた王太子の声が脳裏を過ぎる。

「この私が誰かよい娘を見繕って進ぜよう」

見繕った結果、王太子はルネを選んだ。
彼はからかっている、面白がっているのだとアランはずっと思っていた。
腹立たしかった。真実拒絶の意思を示せば、国王はアランの求めに応じただろう。王太子と言えど国王には逆らえない。「残念」と肩を竦めて遊びを終えた筈だ。
しかし自分から婚約者を返品すればアランの負けになる。それも忌々しかった。
妻など誰でも同じなのだ。誰でも良いなら罪人でも構わない、と最近ではすっかり開き直りの境地に入っていた。
王太子はアランに相応しいと判断した上でルネを寄越していた。
ならばアランの認識は最初から違っていた事になる。

「……私は捻くれ過ぎていたのか」

ルネを見ようとも知ろうともしなかった。
独り言たアランに、側近は笑みだけを返した。





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